W. A. Mathieu



William Allaudin Mathieu
Available Light
(邦題『自然光』)
(Windham Hill,1987)




モダン・ジャズのスタン・ケントン・バンドへの曲提供、イスラム
神秘主義スーフィズムの合唱団への参加、民族音楽学者といった経
歴を持つ作曲家/ピアニストのアローディン・マシュー(日本盤ラ
イナーノーツによる)のピアノ音楽は、浅学の筆者にはこれらのキャ
リアがどのように反映したものなのか、専門的に見て取ることがで
きずにいる。既製の言葉を近似値としてあてはめようとするなら、
「印象主義」「ジャズ」の辺りだろうか。それでもマシューの音楽
は、そういったレディ・メイドな言葉からすり抜けていくかのよう
な軽さと自在さとを持ったリズムと旋律から、成り立っている。

彼の音楽の流れを生み出す動機としては、シングル・トーンのパル
スが特徴的である。左手、そして時に右手に移動することもある音
楽の推進力としての単音の繰り返しがリズムを刻み、縦割りでは捉
え切れない微妙なズレが生じる瞬間に、マシューからしか聞き取れ
ない響きが現れる。ドビュッシーのピアノ曲集『版画』(1905年)
の第1曲「塔」に聴かれるリズムの一瞬のズレはガムランを模した
ものだったけれど、それに幾分近い感触がある音の集合である。

ジャズ的に聴くなら、スウィングではなく、ビートの迷いや、ため
らいのような何かがある。刻まれるビートは多くの場合、ペダルに
よって引き伸ばされているためにタイトさは少なめだけれど、代わ
りに与えられる豊かな残響はビートを多彩に色づける。また、リズ
ムの姿が前面に押し出されないだけに内在するそれを奥から聴き取
ろうとしたくなる面白さをもたらしている(いくつかの曲での多重
録音を駆使した多層のポリリズムは非常に美しく織り上げられてい
る)。

どの曲もどこか言い足りない、完結を嫌うかのような意味深い中断
によって曲が閉じられる印象があるけれど、これが後を引く。もう
一度聴かなければつかめない何かを求めて、また取り出すアルバム。

カテゴライズが難しいために、ウィンダム・ヒルというブランドに
よって、責任を持ってリリースされた好例。良いけれど売りにくい
音楽が集まるから、よいレーベルになったというお話。


1999-2000 shige@S.A.S.

・h o m e・ ・Windham Hill・