William Ackerman
ジョージ・ウィンストンと並んで、ウィリアム・アッカーマンの音楽からもミ
ニマリズムと反復が聞こえてくる。例えばメロディ・ラインを他の楽器に任せ
バックを地味に務める時の彼のギターはミニマル的パターンを基調としていて、
その伴奏には多くの場合、即興性をあえて持ち込まない。単調なバッキングに
流麗な旋律を乗せるという一種の「反復音楽」(繰り返しを音楽の推進力とす
るという意味で)がアッカーマンの音楽の中核をなしていると言える。この形
を含む次の3つのスタイルに大別される作品の組み合わせが、『パッセージ』
(1981年)以来続くアルバムの構成である。
・自身は伴奏に徹する、デュオからトリオ程度までの小編成アンサンブル曲
・即興性が加わる反復音型を展開させるソロ曲
・より自由なフォルムを持つソロ曲
William Ackerman
Passage
(Windham Hill,1981)WD-1014
4枚目のアルバム。前作「チャイルドフッド・アンド・メモリー」
で一部バンジョーやフルートが登場した他にはギターソロのみによ
るそれまでのレコーディングだったが、ここではデュオが多い。ス
ティール弦ギターの硬質な響きとのアンサンブルは、フリーフォー
ムにも近いダロール・アンガーの即興的ヴァイオリン、アッカーマ
ンによるリフの中間部でソロを取るチェロ、牧歌的イメージで捉え
られることの多いイングリッシュ・ホルンの意外にも抑制された旋
律、そしてやはり感情表現ではなく響きの冷涼さが美質となるあの
ジョージ・ウィンストンのピアノとの4曲に及ぶ。1981年とい
う早い時期にデジタル録音を試みたことと、それぞれの楽器の音色
の再現との関係についてアッカーマンがジャケット裏に寄せた文章
で触れている通り、それまでのアルバムよりもはるかに透明な空間
が繊細に記録されている。
残りの4曲はソロで、シンプルな反復音型がバッキングを担当する
時以上によく練られ、特定の音高が強調されたりしながら、背景と
思われたものがいつしか旋律それ自体となって浮かび上がるという、
とてもアッカーマンらしいスタイルをたっぷり聴くことができる。
William Ackerman
Past Light
(Windham Hill,1983)WD-1028
『パッセージ』に引き続いて、本作もクラシックで言う室内楽的編
成の曲が多い。コード楽器としてのギターではなく、コードを踏ま
えた上でのミニマル的パターンである。ここへメロディ楽器が乗り、
歌う。旋律は十分にフォーク/ジャズ/クラシック的であったりす
るのだが、背景に連綿と流れるアッカーマンのギターは実にクール
である。リリコンやヴァイオリン、オーボエなど息の長い楽器との
デュオではミニマリスティックに、ギター・ソロでは音数が少ない
だけに余韻の美しい非−ミニマル的で自在なフォルムを持つ散文風
の曲を、という使い分けがなされている。「デュオ曲は合作」と謙
遜することの多いアッカーマンだが、メロディ作家としての魅力も
尽きない。以後一貫して現われる彼のアンサンブルへの傾倒は、ギ
タリストであると同時に、一般にギターの語法とは別のところにあ
る息の長い旋律や、旋律的に演奏するために求められる減衰しない
管・弦楽器というものへの興味によるのかもしれない。
「シノプシス1」ではその旋律性は後退して、複数のギターが多重
録音によってミニマル・パターンを組み合わせて厚みを出している。
マーク・アイシャムのシンセサイザーとエフェクトを効かせたリリ
コンとの音色の組み合わせも妙なる、ウィンダム・ヒルには異色で
実験的な1曲。「シノプシス2」でのピアノ、オーボエとのトリオ
演奏では類似したリフがどうアレンジされているか、聴き較べてみ
たい。なお「ガーデン」での弦楽四重奏を担当しているのはあのク
ロノス・カルテット。
William Ackerman
Conferring with the Moon
(Windham Hill,1986) WD-1050
アッカーマンのリフ。背景の伴奏としては淡々としたものではある。
しかし独奏曲ではどうだろう。次第に厚みを増し、そして消えてい
く過程で、ある音が強調され、耳は星座を結ぶように強い音をつな
ぐ。こうして聴き手はいつしかシンプルな中に作品としての自足性
を見つけだす。十分に魅力的なパターンがそのように繰り返される
時、それは俳句のようにただひとつのことを語る充足した音楽にな
る。
例えば「improv 2」がそんな音楽のひとつで、冒頭に現われるモ
ティーフが繰り返されながら次第にクレシェンドし、時折差し挟ま
れるエピソード風の耳新しいフレーズが素晴しい中断(つまりそれ
は、音楽的沈黙)をもたらす。
夜の空気感がみずみずしく伝わる深い響き(ジャケットそのままの
蒼色をしている)と、リリコンやヴァイオリン、ホルンといった
「叙情系楽器」による旋律美とによって、トータルなイメージづく
りの点で最も成功したアルバムである。音楽は一日のある時刻や月
の浮かぶ風景という環境への印象に奉仕するかのように、一歩下がっ
た遠い位置から聞こえてくる。このつつしみ深い音楽は、灯りを消
して月の光を差し込ませる部屋に、やはりとても似つかわしく、漂っ
て見える。
1999-2000 shige@S.A.S.
・h o m e・
・Windham Hill・