Paul Dresher
Paul Dresher
Dark Blue Circumstance
(NEW ALBION,1993)NA053CD
ポスト・ミニマルと呼ばれる世代がある。ミニマル的と呼ばれる自
己の語法を開拓してきた作曲家たちを聴いて、一定の客観的距離を
置いてそれらから何かを選択する。オリジナル以後の現在という時
代の空気とこれまでの蓄積を自由に楽しむ活動をしている世代に属
する作曲家たち。
そして第一世代と言われるライヒらが精力的に新作を発表し続けて
いることによって、新鮮な影響力となっている、あるいは相互に影
響し合っていることが、現在のミニマルの面白さの源泉だ。
1951年生まれのポール・ドレシャーはそんな世代の一人だ。どれ
だけ自在に自身の音楽を操っているか、このアルバムがその姿をはっ
きりと示している。
「ヴァイオリン、ピアノ、パーカッションのための」トリオで演奏
される"Double Ikat"は非常にクラシカルな感触を持ちながら、さ
まざまなミニマル・パターンが並置されていく。それは一聴して分
かる規則性ではない、自由な音楽的発想の連なりだ。
「ソロ・エレクトリック・ギターのための」"Dark Blue Circums-
tance"。これはサンプリング/カットアップ作品で、楽器から想像
するとおりもちろんポップだ。この曲はテープループとライヴ演奏
を組み合わせたライヴ・エレクトロニクス作品で、即座に思い起こ
すのはライヒの「エレクトリック・カウンターポイント」である。
しかしライヒの作品が持つパルスの規則的な波ではなく、長いフレー
ズを持ったまるっきりロックなソロが入り込んでくる柔軟性を持っ
ている。
「室内七重奏のための」"Channels Passing"では、ひとつのフレー
ズを作る音を複数の楽器で分担する「ホケット」の技法と、徐々に
音を引き伸ばしていき響きの厚みを増していくという、これもミニ
マル・ミュージックによく現れる手法が組み合わせられている。
「3人のヴォーカルと6つの楽器のための」"Night Songs"では器
楽アンサンブルの点描的な演奏と、言葉を分解して再構成するとい
うテクストの扱いが、聞えてくる響きと言葉の意味の両方で、サン
プリング的発想を根底に持っていることにつながっていそうだ。
各作品が全体として大きな振幅を持った対照を見せているという、
その自在さを聴くことが、ミニマル・ミュージックの現在を知るひ
とつの鍵になるという好例のディスクである。
・h o m e・
・minimal・