切り詰められた素材とその変容 1953年生まれ。ロサンジェルスを中心に活動。日本滞在の経験があり、その間集められた音素材を用いた作品『Kamiya Bar』がリリースされている。音楽製作は主にマッキントッシュを使用し、サンプラー、シーケンスソフトなどによるカットアップ作品が多い。 いわゆるコラージュ音楽には、一曲の中に様々な音素材や音楽の断片が盛り込まれたものが多いが、それらは制作者が素材に用いたレコードの多様性を示すことはできても、結局のところ個人的な記憶や思い入れ、制作者の描いた物語性に大きく依存した、他者から見ればカオスの域を出ないものもある。その点、カール・ストーンの音楽が音楽としての自律性(音楽それ自体としての流れ)と一つの曲に特徴的な統一された音色を持ち得て、何より聴いていて気持ちがいいのは、それはごく少ない素材の慎重な選択と吟味によるのだろう。選ばれた少ない材料から引き出されるグラデーション、あるいは突然の鮮やかな変化に耳を奪われ、新鮮な時間感覚をもたらす。多くの素材を用意し、複雑に構築できることも音楽家としての資質のひとつではあるけれど、少ない音素材を音楽へと昇華させることの難しさはつい忘れがちである。 例えば"Hop Ken"*ではムソルグスキー『展覧会の絵』のオーケストラ編曲版(本来はピアノ曲。ラヴェルによるオケ版のほうが有名)が音源として使われているが、冒頭の聴き慣れた「プロムナード」のメロディがいきなり途中でカットされ、繰り返されるうちにさらに細かな断片へと切り刻まれていく。しばらくするとリズムが突然変化して、ここまで聴き進むともう、どこのサンプリングなのか推側することをあきらめてしまうが、よく聴くと切り離されてはいるがまだ「プロムナード」の旋律なのであって、カットアップの処理はきわめて有機的で熟慮されていることがわかる。そして曲の終わりでは元ネタでも終曲である「キエフの大門」が原曲からは想像しえなかった鮮やかなビートへと組み替えられる。 *"Four Pieces"に収録。 サンプリング/カットアップから生じる複雑だけれど滞ることのないビートが、カール・ストーンの音楽の大きな特質だ。微妙な変化を伴いながらの(ループ1回ずつわずかに持続時間を引き伸ばすなど)素材の加工によって有機的な音楽の時間的つながりを引き出す彼の音楽は、シンプルなループ・パターンから得られる身体感覚とはまた別種のグルーヴ、濃密さがにじみ出る。電子楽器による音楽が非人間的な無機性の音楽をストレートに意味するなどと、だれも言わなくなった現在、それでもなお、やはり彼の表現する音には最新の感触を発見することができるのだ。それはデジタル技術が行き着くほどにアナログへと近づくという、現在のテクノロジーに共通して見い出されるあの方向性である。 |