Harold Budd
Pavilion of Dreams

(Editions EG,1978)






この浮遊感は?


"The Serpent"と"Abandoned Cities"の2枚をカップリングして再発されたCDに掲載されているバッドのディスコグラフィには"Harold Budd"(Advance,1971)というアルバムの記述がある。この、氏名タイトルがいかにもデビュー盤的なディスク、現在聴くことができるのだろうか。そのリストの次に載っているのが、この『パヴィリオン・オヴ・ドリームズ』だ。現在筆者が知る最も初期の作品がこれ。女声、エレクトリック・ピアノ、サックス、鉄琴によるどこまでも静的な室内楽、いやそう呼ぶにはあまりにも不定形のゆらめき。1978年、ブライアン・イーノによる「オブスキュア」シリーズの最終作。


点描的な瞬間のきらめきと長い減衰時間を併せ持つエレクトリック・ピアノという楽器。グロッケンシュピールが点で、サックスが引き伸ばされた旋律線によって、この新しくも懐古な楽器の二つの性格を強調する。エレクトリック・ピアノと言えば、ほぼ同時代にチック・コリアは『リターン・トゥ・フォーエヴァー』でこの楽器を弾いている。ジャズのため、あるいは「フュージョン」の楽器として。こんなふうに楽器は、歴史的文脈によって固有のジャンルに収まるものが多いものだ。しかしバッドはエレピに匿名的な響きを見い出したのだった。こんな鳴らし方もある。あるジャンルらしさを演出するための楽器ではなく、立ち上がりが鋭く、柔らかく減衰するこの不思議な響きを、まったく自在に裸の、白紙の音として鳴らしてしまうのだ。

長いフレーズと鐘のように鳴らされる金属的な響きが持続する時間。リリースからおよそ20年後の現在、つまり「アンビエント」がここまで頻繁に使われることになる今聴いても、アプリオリなもの、すでに用意されていたアンビエント・ディスクだったと思いたくなる。そんな「結果としての」アンビエント・ミュージックは、このアルバムから始まったのだった。




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