3人目は白鳥水羽。
最初のプレイでうっかり警察に連絡してしまったので、すげぇ首を捻ってプレイしてました。これでどうやって水羽と恋に陥るのやら、とか思っていたら4章が終了してしまって呆然。セーブしてから慌てて過去データをロードして水羽シナリオへ進みました。そしたら、本道でもやっぱりどうやって恋に落ちるのか、というあたりはまるで変わらなかったという。
ここから惹かれあう過程が描かれるのかと思いきや早とちりもいいところで、描かれたのはなぜ恋に落ちなければならないのか、という主人公の自問自答でした。さながら不幸自慢選手権の様相を呈してきたことに思わず苦笑を避けられず。
人並み外れて不幸な生い立ちの主人公には、それを全て受け止める果てのない優しさか、あるいは負けず劣らずの不幸な生い立ちが必要なんですな。そう、言うならば不幸力とでも呼ぶべきものが。「不幸力たったの5か! ゴミめっ!!」なんて勢いで水羽不要論をその義理の姉ユキに説く主人公はすげぇな、と思いました。
この後、謎展開を起こしてシナリオは数年が経過。残りは全編エピローグ風味で進行しました。花音シナリオでダイジェストっぽいと書きましたが、こちらは「ぽい」どころではなく、まさにダイジェストそのもの。結局、主人公がなぜ不幸力の足らない水羽を自ら受け入れたのかわかりませんでした。その他に関しても適度に作中時間をコントロールして書きたいところだけ書いているのでどうにも伝わりにくかったように思います。ただ、水羽シナリオよりも先に4章を終わらせていたことはユキの心情など理解を助けてくれました。って完全に怪我の功名ですけど。
ラストはメインシナリオである宇佐美ハル。先程のところに戻ってプレイを継続。
なんとも溜め息もののシナリオでした。以前の日記で私は別段、釘を刺しておいた気は毛頭なかったのですが、まさかそれを本気でやってくるとは思いませんでしたよ。ミステリーとしてはやはり駄目でしたね。5章だったか6章だったかに至るまでお兄さん登場していないんですけど。そりゃ、魔王としては何度も出ていますが兄・恭平としては一度も出ていません。ミステリーの鉄則からすれば間違いなくアウトです。「しおんの王」の犯人は新キャラで大丈夫だし、「デスノート」はキラの正体が第2部なってから登場するキャラでも問題ないということに。
これ程の後出しジャンケンが許されるのならエテ吉さんを魔王にすることも可能だし、「実はバスで焼死したのは私の生き別れの双子の弟だったのだよ、ふはは」なんて超展開でもオッケーになってしまいます。子供が3人と書かれてはいなかったと思いますし、書かれていたなら修正すればいいことです。
数々の伏線がプレイヤーを混乱させる意味しか持っていないあたりにも悲しくなります。
主人公が激しい頭痛に襲われて意識不明になった後や、眠った後に魔王が活発に動きだすのはただの偶然。2章のアイスアリーナで主人公のケータイと繋がらなくなってから魔王が詰めの動きを見せるのも偶然。主人公を監視している訳でもないのに魔王がしばしば近くにいるのも偶然。主人公に人格障害の疑いがあってたまに言動が魔王っぽくなるのも偶然。堀部にお前が魔王だろう、と言われて動じないのも偶然。
とまぁ、ちょっと挙げるだけでも酷い有り様です。もちろん、ここから連鎖するようにそれまで機能していたはずの伏線が一気に崩壊していきます。
主人公と魔王が別人ということは個別シナリオに入った時に魔王が活動しなくなる理由が消滅してしまう。他の理由を探すのはあまりに苦しいです。
水羽が2年も片思い中の相手をあっさり見間違える? いかに夜中とはいえ、いや夜中だからこそ不仲の相手に対して確信もなく話しかけるのは不自然。さらに付け加えるなら傭兵生活をしてきた魔王と頭脳労働専門の主人公の体格が同じであるはずがないです。背丈が同じ程度であるならなおのこと差は歴然のはず。水羽はそんなことにも気付かないのでしょうか。
魔王の罪を主人公に着せる、という点についてもかなり怪しい。そんなことを考えているくせに主人公の普段の動静などは全く調べていない(だからこそ2人の行動が要所で計ったようにリンクするのがおかしい)。うまくいけばもうけもの、その程度の企みであるとは魔王の言動からは思えませんでしたが。
ハルにしても酷い。自分の章になると主人公を全く疑っていない、信用していると言いだす。それまでの章ではこれ以上ないほど疑っていたというのに。もしあれが照れ隠しだというのなら救い難い嫌がらせですよ。そもそも、コンサート会場で相対しているのだからその事実だけで主人公は容疑から外れるように思えるけれど。当時の渡航歴や健康診断の身長などを調べればあっさり判明するのでは。当時の魔王は青年、主人公は幼女にしか見えないハルとほぼ同年(というか、これも最後になっていきなり20歳とか言い出した)。
物語として見た時にも魔王の正体が判明する時に勇者が全く推理をしないというのも情けない。なんのための推理キャラか。それしか取り柄がないというのに。バイオリンなんて結局オマケでしかない。
主人公も主人公で母を狂人になるまで追い込んだ張本人である権三を自分を守った疑いがあるというだけで神格化。真偽はともかく、あれ以外に主人公を守る方法がないとは思えないあたりがどうにも。続け様に撃ち殺される可能性の方が高いように感じられます。そもそもそれくらい緊張感のないボンクラだから助けなければならないのだし。主人公が助かったのは結果オーライ。主人公ではない魔王が取り乱すのも不自然。ヤクザがただ一発の銃撃で狙撃ポイントが正確にわかるってどんなエージェントぶりよ。
ハルの件にしてもビルの屋上のやりとりを思い出したら、もう俺の女、ってどんな手の平の返しぶりですか。人格障害で代わりに恨んでいた記憶が欠損しているのでは、とか疑うくらいの変わりようです。親の罪が子には及ばない、なんてのは理屈ではとうにわかっている。感情が納得しない、そんなやりとりをどうまとめるかだったのに。
街の占拠の顛末にしても何かおかしいような。ハルにバスの移動先を推理させたのは策略だ、とか言っていましたが魔王はビルからの墜落を確認していたし、なによりその後に無事に姿を見せた時には驚いていた。ゴンドラに宙釣りでバスの行き先を推理してメールで伝えるけど本人は落下して死ぬだろう、って目論見があまりにもおかしいのでは?
2人が逃亡する時も魔王は焦っていたし、見失ってから仲間に連絡していた。あれが策略であるというなら魔王はモノローグで嘘をついていたことになる。
これら全てを肯定してもパニックと化した群衆の中からなんの理由もなく即座に魔王を発見できるというあたりが、ねぇ。それどころかあっさり追いつけるというあたりがまた……。そんな自由に移動可能なら魔王だって楽々逃げられるでしょうに。
最終章にしても魔王と主人公、ハルはやっぱりすれ違っている感じ。主人公は魔王の狙いを殺人犯に仕立て上げることだ、と断じていたけれど魔王は自分の跡継ぎを作ろうとしていたのではないかなぁ。ただの殺人犯ではなく第二の魔王になってくれねば意味は薄いような。まさにハルはその寸前だった訳だし。
とくに意地悪にならずともこれくらいは出てきてしまう。検証など始めればこの倍では済まないでしょう。記憶頼りでもまだまだ穴はありました。
作品というものは作者と読者のある種の信頼関係によって成り立っていると思います。大きくは日本語の読解ができるというところから小さくは各種設定の構築や伏線が届くかどうかまで。キャッチボールのように相手の投げたポールを捕れるかどうか。本作はそれができなかったように思います。ミスリードを誘うというのも信頼関係を築いた上で行うから驚くのだし、意味があるのです。シナリオライターに才能がないとは思えないだけにとても残念でした。
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