地上を追われた人類は海へ逃れるために人魚に進化した。そして、長い年月を経て人魚は再び地上へと戻ってきた。
文明の後退した片田舎の島々。そこにある村に住むエイジは人類最後の生き残り。次期村長であるエイジは花嫁選びを迫られる。候補は二人、期限は二週間。エイジが選ぶ花嫁は。
どうも詳しい経緯はよくわからないところがあるのですが、色々なブランドから人材が集まることによって作られたゲームであるようです。かつてのリューノスの「フォークソング」のように。
そうして作られる中でもさらに紆余曲折があったようで、当初はシナリオとして荒川工氏が参加していたようです。最終的には原作者ということになり、後任として鷹取兵馬氏が引き継いだ模様。
そして、そこにこそ本作を購入した理由が凝縮されています。個人的に最も好きな作品、「果てしなく青い、この空の下で…」を手がけた方なので。しかし、原作が別人ということで不安半分、期待半分の買い物ではありました。
DVDトールケースのこのゲーム、信じられないことに初回特典どころかマニュアルすらありません。今時、これはどうかと。GAIAのゲームじゃないんだから。
システムは移動場所選択型のアドベンチャー。ヒロインのいる場所が見た目にわかるタイプであるのですが、徹底的に無駄を省くためか、いわゆるハズレに当たる選択肢がありません。無意味なことは移動さえ出来ないんですね。割と珍しい仕様かも。
足回りは及第点スレスレ。メッセージスキップは文字が読める程度のスピード。ゲームの規模を考えれば問題ありませんが、速度自体はあまり早いとは言えません。また、選択肢を挟むとスキップが止まってしまうのは同じ文章を読む機会の多いゲームということを考えるとマイナス。
メッセージの巻き戻しはウインドウ単位で行います。かなりの量を戻れるようですが、ホイールマウスくらいしか手早く戻る方法はないので使い勝手はもう一歩。
カーソルを右上に持っていくと自動的に各種メニューが出現するのはなかなか便利でした。同様にカーソルを画面外に持っていくとメッセージウインドウが消失。個人的には良かったですが、キーボード派の人には微妙かも。
タイトル画面からコンフィグメニューに入れないのは明らかに設計ミス。まして上部ウインドウメニューがないゲームでは致命的。フルスクリーン派にとってゲームが始まってから画面サイズを変えるしかないのはあまり良いこととは思えませんでした。
シナリオは全体の構成が微妙。本作はメインヒロインバッドエンド、ヒロイン2〜4をクリアすることでヒロイン5及びメインヒロイントゥルーエンドへと進めるフラグ構成になっています。
それ自体は何の問題もないのですが、全体の流れというものが作られているために、ヒロイン2〜3のシナリオにおいてどこか不完全燃焼というか、問題を残したままのエンディングになってしまっています。
残されたシナリオで問題は補完されますが、あくまでそれはメインヒロインのシナリオ上での補完なのでヒロイン2〜3のシナリオとしては何も変わらないままなのでどうにもすっきりしません。
全てのシナリオをひとつの話として見ればいいんでしょうが、エロゲーとしては各ヒロイン単位の話も重要な訳で……。難しいところです。
日常会話は悪くないですが、主人公が何を言いだすかわからないところがありバランスが悪いです。性格がつかめない感じで。うがった見方をすれば主人公にわがまま風味の言動をさせることによってヒロインとの距離を計っているようにも。
主人公とヒロインが惹かれ合う過程はかなり弱め。それらしい描写はあるものの、あまり納得のいかないことも。特に雪花シナリオ。
所詮、推測するしかありませんが、中途でシナリオライターが変わったことによる影響が各所に出ているように思えてなりませんでした。基本設定、話の流れ、主人公のキャラ、いずれも荒川工氏が好きそうなものばかり。
CGは少ないインストール容量からは考えられないほど多くの枚数が用意されています。その数、実に100数十枚。どのゲームもこれほどあれば不満を感じることもないのですが。
その代わりなのか、立ちCGによる表現は抑え気味。あまり大きなポーズ変化はありません。
原画家さんが不得手であるのか足のラインがどうも歪んでいる感じです。下半身全体が枠の中に入っているとそれが目立ちます。特に雪花のカットに顕著。
音楽は才能あるメンバーが参加しているだけあって基本的には良い出来の曲ばかりなのですが、作品全体の調和という意味ではもうひとつ。少し我を張り過ぎているようにも聞こえます。
エンディングテーマとスタッフロールは最終2シナリオまでお預け。最後に流したいという理由はわかりますが、それまでの暫定エンド演出があまりにもあっさり風味であるので余韻を感じる暇もなし。個別エンドは後に用意されている訳ではないので、もう少し考えて欲しかったです。
ボイスはありません。
まとめ。名前負けしている作品。スタッフの陣容を見た時にもっと高いレベルの作品を期待する人が多いのではないでしょうか。比較対象が高いにしても、ちょっとどうかと。
お気に入り:詩緒
評点:60
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、雪花
彼女の態度が軟化した理由がどうにもよくわからないんですよね。ましてや軟化したイコール好きになるというような展開はちと理解不能。前世とか色々な要素はありますけど、それはあくまでエイジが知っているだけで雪花に対して何も反映していないような気がするのですが。彼女もそれを理解している訳でもありませんし。
まぁ、そんな批判的なことを書いてみてもラストの彼女の照れた表情はそれだけで負の感情を吹き飛ばすに充分なものなんですが。
2、九月
んー、どう考えてもキャラ的に母親たる三月さんの方が面白いんですよねー。シナリオ的もかなり厳しいですし、Hシーンは最もつけたようだし。誉めるポイントがほとんど見当たりません。展開もなんだかドラゴンボール的インフレ現象が起きているし、最後はお涙頂戴だしで……。
3、スカァハ
なんだか色々と裏設定がありそうなキャラですな。もしないなら無意味に装飾し過ぎという感じですが。
九月よりも彼女を花嫁に選びたいという人が多かったのではないでしょうか。体型的にもそれを後押ししているような気がしますよ。
4、小鮎
性格的にはなかなか面白いんですが、主人公も序盤で言っているように奥さんとしてはどうよ、ってなキャラクターですな。付き合うのには普段の状態でも落ち込んだ状態でも大変そう。そりゃ、いきなり花壇で裸で寝ていられたらねぇ。退いても不思議はありませんよ。
エンディングカットの方が髪型、服装ともに可愛らしく見えるのは成功なのか、失敗なのか微妙なところ。まぁ、常にあのカッコじゃ小鮎らしくないでしょうが(慣れた身にはギャップがいいでしょうけども)。
小鮎のシナリオは現実的なこと、精神的なこと、解決していないことがあまりにも多いような。雪花トゥルーエンドでまるで解決したように書かれていますが、あれじゃ誰しも納得しないのではないでしょうか。「YU−NO」みたいな2周目が必須ですよ、あれは。せっかくそういうことも出来る設定なんですから。OZとの会話シーンで選択肢を設けるとか。
5、小夜美
小鮎との対比としての存在というのはわかるんですが、それ以外になんのためにいるのやら、というのが悲しいところ。いっそHシーンなんてない方がまだ良かったのでは。
6、美由菜
メガネマッド。曲ウザイ。それだけ。
7、詩緒
キャラとしては最もゲーム的。それゆえに反応の数々が面白いです。まぁ、それも当然なんですよね。本筋に対する絡みを一切持たない彼女はまさに自由ですからね。どんなリアクションも展開も望むがまま。
しかし、シナリオはかなりおざなり。主人公自身が不思議なこともあるもんだ、で済ませてしまったぐらいですから。エンディングがかなり尻切れトンボなのもなんだかオマケのようです。
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