44   桜花センゴク!〜信長ちゃんの恋して野望!?〜(ApRicoT)
 
 戦国武将の生まれ変わりが集められる戰国学園。そこでは日々、前世の記憶を持った転生武将たちが我こそは天下を治めんと覇を競い合っていた。明智光秀(変更不可)は記憶の戻らぬままに転校してきてしまう。果たして、それは文字通り正しいのか、それとも間違いなのか。
 
 ApRicoTの新作はとっても企画意図がわかりやすい転生プラス姫武将ものアドベンチャー。
 購入動機はブランド買い。最近は失速気味なので少し心配していました。
 初回特典は特になし。予約キャンペーン特典は桜花センゴク!小冊子。
 
 ジャンルはごく普通のアドベンチャー。企画内容からすると何かしらのゲーム性とかありそうですけどありません。どうももったいなく感じてしまいます。
 足回りは相変わらず進歩がありません。メッセージスキップは既読未読を判別してくれますが、立ちCG表示など演出があまり高速化されません。加えて選択肢間が非常に長いため暇潰し道具が必須です。後述する理由でも。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがほとんど戻れない上、シーン切り替えや章が終わることでログがリセットされてしまうのでなかなか活用できません。ロード直後にもやっぱり使用不可。
 選択肢ではメッセージウインドウが表示されないためクイックセーブ&ロードが使えないのも不便です。
 コンフィグ画面の中にタグ分けでセーブ&ロード及びゲームの終了が混在しているのでかなり使いにくいです。セーブ&ロードは間違えて実行しやすく、ゲーム終了は余計なクリックがかかりやすいです。
 ワイドモニターの場合、フルスクリーンにすると画面両サイドに黒いエリアができ、そこではマウスが反応してくれません。とても困ります。
 おまけのSSSの戦国ショートは開放条件がなんともわかりにくいです。マニュアルには一切の記述がなく、ゲーム中で正しい選択肢を選ばなければなりません。間違えてもクリアは可能であるためすごくわかりにくいです。
 諸々の点は是非とも改善して欲しいです。
 
 シナリオは2010年2本目としては驚くほど好転しています。
 物語は話数形式で全11話。純粋な共通シナリオが5話までで6〜7話は「甲」と「乙」の2ルートに分かれる準共通シナリオです。8〜10話は個別シナリオで11話はエピローグ扱いのおまけシナリオとなっています。各話はある程度、同じボリュームになっていますが個別になるとそれぞれで大きく差があります。
 転生武将の設定は意外と面白く、前世の記憶を持ちながらそれに対するとらえ方はキャラクターによってそれぞれでポジションや反応が興味深いです。例えば木ノ下藤吉郎ちゃんは今度こそ殿である織田信長ちゃんに最後まで仕えたいのですが、石田三成ちゃんにとって藤吉郎ちゃんは太閤様で自分が盛り立てたい人である、というように各キャラによってスタンスが異なります。
 また、史実の出来事を色々な形でパロディ化して扱っているのでそれなり以上に日本史が好きな人にはニヤリとできる場面が随所に見られます。
 以上を踏まえた形で行われる日常の掛け合いはノリも良く実に賑やかです。笑わせてくれる面も各所にありました。戦国時代的な面と現代的な面の混ざり加減が自然に楽しさに繋がっています。
 シナリオの方も本作の歴史解釈(=世界観)を踏まえた上で無茶苦茶な弾けっぷりから思わずしんみりするようなシーンまで多彩な展開が用意されています。ルートによって質量ともに差が見られるのは玉にきずですが全体的なクオリティは高いです。
 惹かれあう過程はほとんどのヒロインで強引か無謀な感じ。唯一、あると言っていいのは毛利輝元ちゃんのシナリオくらいでしょうか。それと戦国要素が第一義であるせいかいちゃいちゃする様子はあまりありません。
 Hシーンは各ヒロイン3回ずつ。本編に含まれているのは1回だけであり残る2回はエピローグである11話。しかも、2人を除くと本編最後に滑り込みで追加したような有り様。もっと工夫が欲しいです。内容の方もエロ度、シチュエーションともにおとなし目で転生武将という属性に負けてしまっている感じを受けます。
 
 CGはApRicoTでは珍しい(初めて?)3人以上のメイン原画家を採用しています。塗りなどもそれぞれ異なりますが違和感はなくしっかりと調和しています。まぁ、立ちCG以外で一画面に同居するケースがほとんどないせいもしれませんが。
 立ちCGは実に多彩でイベントCGに負けないほどしっかりとヒロインの魅力を打ち出しています。カット数も非常に多く立ちCG鑑賞モードがないのが悔やまれるほど。一方で戦闘に関する素材は驚くほど少なく物足りなさを感じやすいです。
 SDカットは主に笑いのためにありますが、なぜかカット毎に出来不出来の差が大きいように見えます。画面密度も含めてですが、良い出来は本当に文章が一切いらないくらいノリが良く優れているのですが、一方でそうでないものは別人が描いているのではないかと思うほど。ネタの違いにしてもちょっと差がありすぎるような。
 背景カットは舞台が狭い割には明らかに少なめで、ヒロインとのデート時などに展開を含めて大きな影響を与えているように見えます。
 Hシーンは多人数原画家のせいかはわかりませんが、ApRicoTにしてはあまりエロさが感じられません。どこか抑え目にしているようにも見えるくらい。普通の純愛系作品と比べれば標準ぐらいにはエロいです。
 
 音楽は戦国を意識させてくれるような曲から、戦国なのに!? と思わせてくれる曲まで実にバラエティ豊か。それでいて曲数はそれほど多くはなく、メインとして使われる曲の力強さを感じます。ただ、曲名はあまりにもやる気を感じなくて泣けてきますが。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。題材が題材なだけにとても多くの声優が参加していますがみなしっかりとした演技で安心して聞くことができます。中でも上杉謙信ちゃん役の高橋まりあさんのやり過ぎなくらいの演技は敢闘賞を与えてあげたいです。
 
 まとめ。ApRicoTの気合を感じた作品。おお、やっぱりこれぐらいの実力は持っているんだよ、ここは。そう思うに相応しい仕上がりだと思います。9ヶ月でこれを作ったのは称賛に値するかと。次回作も期待したいです。
 お気に入り:上杉謙信ちゃん、毛利輝元ちゃん、吉川元春ちゃん、小早川隆景ちゃん、毘沙門天さま
 評点:75
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、明智光秀
 正体が帰蝶、濃姫というのはなかなかうまかったと思います。おかげで他のヒロインルート進んだ場合も組み合わせにあまり違和感を感じることがありませんでした。ただ、描写としてはおかしく感じることもちらほらと。特に上杉謙信ちゃんルートでは鉄砲の名手としての面が出ていたような。濃姫にそんな説がありましたっけ?
 
2、織田信長ちゃん
 他のヒロインたちに比べてパワー不足の感は否めません。ひたすらワンパターンを繰り返すだけなので早々に飽きてしまう。その態度にウンザリするというのは主人公が明智光秀(本当は違うけど)という観点からすればある意味リアルなのかもしれません。
 
3、木ノ下藤吉郎ちゃん
 猿でもあり太閤さまでもあるという転生武将の設定は面白いな、と感じさせてくれました。石田三成ちゃんとの関係性も良かったです。見た目の軽さに比べて先の先まで見ている点もらしい感じがよく出ています。信長にもこれくらいキャラ作りを割り振ってもらえればねぇ。エロゲー好きなんてキャラまで付けられていますよ。主人公や石田三成ちゃんに布教するところが良かったです。
 
4、伊達政宗ちゃん
 どうも歴史通りに他の武将たちとは接点が少なく蚊帳の外といった感じです。明智光秀を慕うところにも特に理由はないしなぁ。片倉小十郎との絡みももったいつけたわりに効果が薄くてがっかり度高いです。真相に近いキャラなのに謙信ちゃんシナリオと比べて驚くほど盛り上がらないのも問題。
 
5、武田信玄ちゃん
 再会した幼なじみは暴走族(チャリ)の総長だった!? というのがもうひとつ外しているような気がしないでもないです。こういう時にありがちな手下たちに露見するかどうかドキドキ、という展開が一切ないあたりどうかと。
 謙信ちゃんとの絡みではやはり光るものがありますが、題材が野球というところが微妙です。方向性が違うのはいいんですけど、どうも盛り上がるものがありません。
 
6、毛利輝元ちゃん
 実質、3姉妹シナリオです。ヒロイン勢の中では唯一と言っていいほど惹かれあう過程が描かれています。デート時も4人ということで信玄ちゃんシナリオとは別の意味で本作らしくない描写があります。そこからの急転直下っぷりもなかなかでまさに見どころ満載。一時的に輝元ちゃんが退場しても妹たちがいれば何ら問題はなく、それどころかいないからこその緊張感さえ生まれます。終盤の方はなんだか小早川隆景ちゃんシナリオみたいになってましたけどそれもまた良しな感じです。宮本武蔵ちゃんも最もキャラが出ていたのではないでしょうか。
 
7、上杉謙信ちゃん
 何と言っても笑いは毘沙門天使にお任せ! です。ほとんど描かれることはありませんが、天が与えた試練に悶え苦しむ謙信ちゃんを見ていると越後の民や臣下の気持ちがわかるような気がしてきます。ああ、こうして目覚めていくのかしら。
 戯言はともかく、苦難の中で気付かされる真実にほろりと来ます。しかし、あの状況では素直に喜ぶ暇もありませんな。むしろ、生きているのが不思議なほどの窮地の連続でしたよ。
 「敵にパフェを奢る」に代表される信玄ちゃんとの関係性が素敵。最も安定して面白い掛け合いが見られる組み合わせでした。それだけにエピローグにあまり活かされないのは残念。


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