それは突然の悲劇だった。なに不自由なく暮らしていた春日野悠(変更不可)は交通事故によって一度に両親を失ってしまう。引き取りや援助を申し出る親類から逃げるように悠は双子の妹、穹を連れて田舎へとやって来た。そこは幼少の頃に長期休暇の間すごした祖父母の住んでいた場所。穏やかな暮らしを望んでたった二人で住み始めるが……。
昨年末から不名誉な話題を振りまいたCUFFSの姉妹ブランドとして誕生したSphere。その第1弾は橋本タカシ氏、鈴平ひろ氏の豪華二枚原画家を擁して企画された田舎暮らしの物語。
購入動機は原画買い。シナリオライターが以前とは名前を変えたという話を雑誌で読んで期待度は控えめになりました。
初回特典はヨスガノソライメージCD。予約キャンペーン特典はビジュアルアートコレクション。
ジャンルはオーソドックスなアドベンチャー。
足回りはデビュー作らしい仕上がり。メッセージスキップは既読未読を判別して十分に速いですが、本作は共通ルートが短いのでそれほど使う機会がありません。
バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがそれほど戻ることはできません。ロード直後でも使用可能です。
シナリオは未完成かとおぼしき箇所が散見されます。シナリオ中に伏線と感じるような思わせぶりな記述が複数あり、これが見事なまでに物語に絡んできません。エンディングを迎えるのに必要ではないのに妙に印象に残るような書き方をしているのでどうにも消化不良に感じやすいです。当初のプロットでは舞台である奥小染にもっと絡んだ物語だったのではないでしょうか。
テキストは全体的に不安定で田舎暮らしや主人公の境遇など設定通りに描写できていないシーンがあちこちに見受けられます。あるヒロインの二人称がルートによって異なるなんてこともありました。また、日常会話もパターン性が強く、良くない意味で予測の範疇に収まってしまうことが多いです。
惹かれあう過程はルートによって差がありますが、きっちり書かれているものがないという意味では同じ。大抵はあってもヒロイン側のみで主人公は不在気味、苦しさを感じることが多いです。
Hシーンは各ヒロイン3回が基本。1人だけ水増しされている方がいます。エロ度は可もなく不可もなくというところ。シーン開始時にはあからさまな作為を感じるケースが多いです。また、告白→即Hが多いという難も。
CGはさすがの一言。本作最大の売りは伊達ではない仕上がりです。美しいCG群を堪能するだけでも出費のある程度は取り返せると思います。特に橋本タカシ氏は描く度に技量を上げており感心させられます。また、背景が人物に負けることのない出来であることも忘れてはいけません。ただ、非常に残念なことですがイベントCGは差分抜きで79枚とかなり控えめです。2人でこれではさすがにちょっと食い足りないものがあります。
立ちCGはイベントCG同様に非常に力が入っています。鑑賞モードが実装されるのも納得のカット群が用意されています。ただ、田舎という舞台やそれに沿った塗りに対して鈴平ひろ氏の立ちCGはやや浮いているものも。特に渚一葉の怒った表情には違和感を感じました。恐らく、本作ではSD寄りの表現が似合わないからだと思います。
Hシーンは純愛系にしてはそこそこ頑張っている程度。とあるヒロインにおいて使い回しがあったのが残念でした。
音楽は田舎をイメージさせる曲が中心です。ただ、そうでない曲もあり、その外れ方が大きく足並みが揃わないようにも感じられました。
ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方は安定していて問題ありませんが、サブキャラの方が味があったように思います。
まとめ。典型的な原画先行作品。客を呼べるCGに客を呼べるシナリオがつくというのは、やはりなかなかお目にかかれません。本作もブランド的にはデビュー作とはいえ、製作陣はデビューではないのでもうちょっと頑張って欲しいところ。
お気に入り:天女目瑛、倉永梢
評点:60
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、天女目瑛
キャラは悪くない、というか肝心の深みはチラ見せだけして、あとは全力でスルーという方向性でたまげました。主題としても恋愛としても、それでどうするのかと興味深く思っていただけにかなーり拍子抜けです。結局、笑顔が壊れたり、できなくなったりしなかったものなぁ。
シナリオは本当はもっと色々あったのではないですかねぇ。禊の湖から見える昔の神社とか、唐突にセミが鳴き止んだこととか。
愛称の「にょめ」の語源はなんなんでしょうねぇ。
2、依媛奈緒
メガネはどーでもいい、という私の基本スタンスを揺るがすことなく、むしろ固めてくれるようなキャラとシナリオです。売りに乏しいわりに減点要素だけは全力で投げつけてくるあたりがなぁ。穹に糾弾されるシーンが盛り上がらないのが最も頂けませんて。秘密をぶっちゃけてしまうと後は「で?」となるだけってのはシーン構成の甘さゆえデスヨ。
神様と似た名字なのも本当に意味ないしねぇ。
3、渚一葉
彼女一人に限った話ではありませんが、テキストで表現されるキャラが完全に絵に負けてしまっています。「え、その程度のなの?」と予想との落差に思わず言ってしまいそうになりました。一葉で言うなら最初がかたくななのにあっさりと陥落してしまうあたりがねぇ。実際、主人公は「いつの間にか」という感覚で、好意を寄せられることに戸惑っていましたからねぇ。
怖いのは主人公と別れようとした一葉に瑛が何も言わないことですな。その理由が幾つか思いつきますが、そのほとんどが例の笑顔に起因する、薄ら寒くなるものなだけにね。
4、乃木坂初佳
個人的にサラリーマンメイドと呼んでました。駄目社員メイド版というのがピッタリ。
もうちょっと「年若い恋人」というところに葛藤する姿が見たかったですね。せっかくのギャグ要員なのですから。苦悩して管を巻いて、瑛にバッサリ斬られて、穹に蔑まれて、やひろに止めを刺されて、とおいしいシチュエーションが幾らでも出てきそうなのに。
過去の恋人のあたりは本人も言っているように理解不能。その全てがどうしてそうなるのかわからない。というか、いかなる理由があるにせよ人を振ったりできる立場なのかしら、と。やひろに道路で正座させられて懇々と説教というのを期待していました。や、それぐらいされないとわからないでしょ、このひと。
5、春日野穹
誰に対しても簡単にデレてしまうので実にものたりませんでした。刃物は持ち出さないまでも各シナリオのヒロインと抜き差しならぬバトルをして欲しかった。そんな簡単に主人公の相手として認められてもなぁ。
6、倉永梢
もはや気の毒になってしまうくらいにフラグが立っています。もう一体、何本ですか!? というくらいに。きっと電流が体に流れるくらいの一目惚れだったんでしょうねぇ。御愁傷様です。相手は見る目のない唐変木でした。SDカットとかで頭に旗(フラグの意)でも立っていて欲しかったなぁ。
ところで、完全に委員長として覚えていたので「倉永」と他にキャラに呼ばれると素で誰だかわかりませんでした。大阪@「あずまんが大王」なみに本名とか忘れていましたよ。
7、伊福部やひろ
声優が一色ヒカルさんということでえーと、もちろんフィクションなんですよね? とか余計なことを考えてしまいます。なんか色々と微妙さを醸しだすキャスティングです。というか、誰にでもあることみたいに語られてもなぁ。それで数少ないイベントCGを消費されても。ブログの撮影シーンなんかも何の意味があるのかなぁ、と。
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