3   穢翼のユースティア(オーガスト)
 
 そこは残された人類にとっての希望の地なのか、それとも緩慢なる死を迎えるのを待つだけの地獄なのか。明確な答えを持つ者は誰もいない。大崩落と呼ばれる悲劇。羽つきと呼ばれる存在。先に待ち受けるものは何なのか。
 
 オーガストのおよそ3年ぶりの完全新作は大きく趣を変えてのシリアスなアドベンチャー。果たして萌えゲーはもう卒業なんでしょうか。
 購入動機は一応、原画買いでありブランド買い。
 初回特典は設定資料集「穢翼クロニクル」。予約キャンペーン特典は穢翼マテリアルCD−ROMとポータブルカレンダー。追加で色紙などもあったりします。
 
 ジャンルは変わることなくアドベンチャー。
 足回りはいつものオーガストらしいです。見た目のデザインを含めて、一見するととても配慮が効いていて良さそうですが、使ってみると物足りない箇所があります。
 メッセージスキップは既読未読を判別して高速ですが、選択肢間が非常に長いため、相対的にはすごく遅く感じます。使用機会もそれなりに多いため「次の選択肢へ」機能が欲しいです。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが、それほど戻ることはできません。前作から備わったクイックジャンプ機能(バックログ内ならば任意の場所にいつでも戻れる)は引き続き搭載されていますが、如何せん戻れる量が少ないため活躍の場が少ないです。ロード直後でも使用できます。
 
 シナリオは一本道にほど近い構成になっています。明確に線引きされている訳ではありませんが、本作は章仕立てになっていて、1章が共通シナリオで2章から順にヒロインがクローズアップされていきます。ここで章の当該ヒロインのフラグを立てればメインストーリーから外れて個別シナリオへと入る作りです。そうでない場合は次の章へ。これを各章で繰り返すことでゲームが進行します。
 この構成の問題点は各シナリオの分量はもちろん、話の密度にとても開きがあること。最終章まで行かない場合、真相が伏せられたままなので率直に言って打ち切りのように終わってしまいます。それが好きなヒロインとなるとやや釈然としない読後感が残るやもしれません。また、全体を見れば一本道なのはすでに触れましたが、各章でキャラクターの出番が非常に偏っていてバランスがいいとは言えません。
 逆に良い点は章ごとの展開や舞台をすっぱりと変えていること。飽きにくい作りになっていると感じられます。けれども、一方でそのために話作りに強引さを感じるケースが散見されます。決まった筋書きに向かって邁進しすぎていると言いますか。物語自体に納得感が薄いです。説得力が足りていません。
 ハードな世界観という触れ込みですが、それはオーガストにしては、という注釈がつきます。グロ描写はないに等しく、そもそも甘いとか温いとか表現したくなるような描写が基本です。この部分にはあまり期待しない方がいいでしょう。
 日常の掛け合いは世界観のこともあって潤い不足です。もちろん、笑いなどありません。
 惹かれあう過程には苦しいものがあります。ないこともないヒロインもいますが、全体的に出会った時点での初期好感度が予想外なほどとても高いためにあまり恋愛らしさを感じにくいです。
 Hシーンは各ヒロイン4回程度。ただし、物語に組み込まれているのは1〜2回で残りはおまけシナリオとして用意されています。2人で1人という扱いのヒロインも。中にはシチュエーション自体が本編では不可能というものもあります。尺は全体的に短めでエロ度はそれほどでもありません。
 
 CGは相変わらずクオリティが高いです。特に世界観を担う背景と立ちCGは抜群の出来と言っていいと思います。長丁場のアドベンチャーに十分に耐えうる美しさです。しかし、それに比べてしまうとイベントCGは安定感を欠いています。キャラによって差がありますが、中にはあまり同一人物に見えないものも。原画家の得意不得意が出ているように感じられました。
 立ちCG、背景とも今回も鑑賞モードに登録されます。出来が良いだけにとても嬉しい仕様です。
 
 音楽は作風に合わせて飛躍的にレベルアップしたように感じられます。もしかしたら、本作でも最も向上した要素かもしれません。迫力ある旋律は聞き応え十分。背景とともに世界観をしっかりと支えています。ただ時折、シーンに合致しない大げさすぎるような選曲がありました。
 ボイスは主人公を含めてほぼフルボイス。ただし、Hシーンにはありません。演技はメイン級には問題ないものの、一部のサブにはもうひとつ合っていない配役もありました。
 
 まとめ。発展途上の作品。正直に言って作風を変えるにはまだ早かったように思います。萌えゲーからシフトしたことで得たものよりも失ったものの方が多いように感じました。おまけシナリオの内容が皮肉っぽく見えてしまうのもなんだか象徴的です。次回作はどうなるでしょう。
 お気に入り:リシア、ラヴィリア
 評点:60
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、フィオネ
 聞き込みの際のかたくなな態度がいい感じでした。主人公も無理なく力になれているのが良かったです。ただ、CGがどんどん幼くなっていくのが気になってしょうがなかったです。
 
2、エリス
 とにかく読んでいて疲れました。筋書き優先でストレスの溜まるシーンの連続。なのにあっさりと形勢逆転でどうにも腑に落ちない。
 エリスの地雷女っぷりは激しく、当時を知らないプレイヤーにはホント面倒くさい。そのくせ、風錆との抗争と同じく納得感なく結着するものだから困りもの。ややメガネであることも個人的にマイナス。
 
3、コレット
 このあたりから展開そのものに対する都合の良さが目につくようになってきます。牢獄での生活から聖女との同居とチェスの毎日。落差がありすぎです。それにしても単調な日々でした。
 個別シナリオでコレットさんはいい感じだったのですが、ティアシナリオで復活したあたりがどうも、ね。描写がなかったですけど、彼女は詐欺師同然だよね。国民も国もどうでもいいんだから。果たしてそのあたりをジークがわかっていたかどうか。
 
4、ラヴィリア
 序盤の時点ではまさかヒロインであるとは思いませんでした。章の開始時点でもあれがラヴィリアであることはわかりましたが、それでもまさか、でした。そのために1人あたりの素材が減ったこと以外は良かったです。望外に魅力的なヒロインでした。コレットとの3Pがあったのも評価高いです。
 
5、リシア
 成り上がりもここに極まれり。幼女キラーの主人公は王女さまでさえもあっさり虜にしてしまいます。まぁ、それにしてもよくぞここまで牢獄出が的確に役に立つことよ。リシアが良いキャラであることにかなり救われてますなー。Hシーンのないおまけが良い感じでした。
 
6、ティア
 彼女に罪はないんですけどねー。エリスシナリオと同じく構造的な不幸。悲観的な状況の連続で努力はことごとく無駄に終わるのに最後に奇跡一発で大逆転。でも、ヒロインは消滅。色々と虚しいです。おまけシナリオはさらに。
 主人公の問題は何か主題と噛み合っていなかった印象です。どちらかと言うと主人公ではなく脇役にひっそりと用意されたエピソードという感じ。


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