苦しい受験勉強を経て生川大学入試当日を迎えた主人公、西村広明(変更可能)。入試会場へ向かう電車の中で一人、入学式前に一人、さらに式で一人と誰も知らぬ土地で幸先よく友人を増やしていく。
そして始まる待望の大学生活。生川ネットワークと呼ばれるシステムの実験都市で、主人公は誰と出会い、どんな体験をするのでしょうか。
久しぶりに、発売されて一段落してから買ったソフトです。最初は完全に敬遠コースだったんですが、なんとなく気になり始めて「PUSH!!」の体験版をプレイして、ほどなく購入に走りました。
その最大の理由はキャラクターデザインのテーマが普通である、ということ。一言のキーワードで言い表せるようなキャラクターにしない。悪くいえば地味、良くいえば深みのある、そんなデザインに惹かれました。
はっきり言ってこのジャンルにおける見た目は「超」がつくほど重要です。カクテルのこの選択は冒険と言われればまだマシ、時代に逆行していると言われても仕方のないものです。
私としては「だからこそ」なんですが、一般層にはややきつかったかもしれません。しかし、それだけに慣れてくるとゲーム全体に漂う普通の雰囲気は味わい深いものとなってきます。
記念特典としてカクテルヒストリーなるブックレットがついています。懐かしむ以外に使い道はありません。せっかくのヒストリーも旧作のコメントを出来るスタッフがほとんどいないので、あまり意味が感じられないのが残念です。
今作の恋編は前編なので期間は2年間。大学生活の前半は恋人が出来るまでの物語と言っても過言ではないでしょう。
システムはこのゲームの最大の売りといってもいいかと思います。
自動的に過ぎていく時間の中で、パラメーターによって主人公の行動指針を配分します(勉学に力をいれる、睡眠を多く取る等)。その設定した数値に応じてイベントが発生していきます。
主人公がすることは情報、アイテムを集め、それを活用してヒロインをデートに誘うこと。スタイルとしては「下級生」にやや似ていますが、街を自分で散策しないこととデートに誘うには情報(話題)が必要なことが大きく違います。
相手の好みを推測して話題をふる、というこのシステムが妙に楽しかったりします。現実的な嬉しさに近いものがありますね。
大学生活をシミュレートするために作られたシステムですが、プレイヤーに少々の手間を強いることでうまく再現しています。面倒に感じるギリギリのところでうまく調整されているかと思います。これで繰り返しプレイにいくらかの配慮があれば文句はなかったのですが。
ゲーム的な部分では調整がもう一歩のように感じました。話題が山のようにある時とそうでない時の差が激し過ぎるんですね。RPGのようにもう少しバランスに気を使って欲しかったところ。後編ではぜひともお願いしたいものです。
足回りはカクテルにしてはやや鈍いかもしれません。
メッセージの早送りはあまり早くなく、またその反応も鈍いです。おまけにクリックしても止まらない時まであります。
週に一回しかセーブが出来ないのはそのシステムゆえとはいえ、賛否両論ありそうですし、セーブ箇所も少ないですね。
ボイス、音楽、SEのボリュームを個別にいじれないのも大手らしくありません。
シナリオは他のゲームとは少し異なっています。大学生活を体験する今作では継続するストーリーはないに等しいです。
きわめて普通の恋愛(未満?)が書かれているので、いわゆる個別シナリオがほとんどありません。これが前編であることも関係していると思われます。
テキストは普通さ加減がうまく表現されていて、世界観の構築に一役買っています。
それにしても恋人が出来るまで約2年ですからね。業界最強の奥手ゲームと呼んでも構わないのではないでしょうか。
CGは前述した通り、普通に重点を置いた丁寧なCGが数多く用意されています。
時折、挿入されるデフォルメCGがいいアクセントになっています。
スタッフ曰く、特別な仕種をしていないが全て異なる、という数多くの立ちCGは見事の一言。確かな実力が感じられます。
プレイ時間の大半を画面上で占める重要性がよく分かっていますね。
音楽は状況に応じて鳴らすという仕様。しかし、これには激しく疑問を感じました。ゲーム中に鳴っている時間より鳴っていない時間のほうが遥かに長いんですよ。その間隔の長さは無音ゲームかと勘違いしそうなほど。もう少し考えて欲しかったですね。
ボイスはフルボイス。使い回しのセリフまで全て収録されています。このあたりはさすがにカクテルソフトですね。
メンツはカクテルおなじみの方々が担当しています。そのレベルの高さはさすがといったところ。特に各キャラとも、苦手なプレゼントを渡されて、困った時の戸惑う演技が秀逸です。
オープニングとエンディングにはボーカル付き。ゲームの雰囲気に合わせた年齢層高めの曲に仕上がっています。
個人的にはオープニングはいま一歩ですが、エンディングは後編にも繋がるなかなか良い曲に感じました。
まとめ。久々にカクテルのチャレンジ意欲を感じました。時間をかけて作っただけのことはあります。後編にも期待が持てる出来。
見た目の地味さだけでプレイしないのはもったいないです。これで繰り返しプレイにもっとフォローがあれば、なお良かったかと。
お気に入り:氷室微
評点:75
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意(前編でもそれなりにあるのです)。
1、斉藤倫子
唯一、秘密らしい秘密を持つヒロイン。そのおかげで彼女本人のイベントが少なくなってしまっているのはまさに本末転倒。しかもどうしてかデートのリアクションまで少なくなっている。これではちょっと、ねぇ。
「普通」にとろくさいところはなかなかに好感が持てます。パソコン関係のイベントは○。
水族館のサメフェアイベントは必聴。いくら食い物でもあるとはいえ、サメにうっとりする危険な姿が見られます。この一点のみで私は彼女が結構、好きです。
しかし、告白のないHイベントは明らかにマイナスでしょう。いくらこのゲームの男女関係の距離感が曖昧だからとはいえ。
2、氷室微
本人にまるで自覚のない美人というのは実に良いです。わりと罪作りな言動をする方なんですが、そこがまた良かったりします。
(途中までは)側にいられればそれでよかった、という彼女の告白には頷かされるものがありました。このへん、キャラメイクがうまいです。
他キャラとは違ってデートのリアクションが実に豊富。全キャラ中、最大のセリフ量は伊達ではありません。他のキャラに比べてデートに誘うのが楽しいです。
玲奈との関わりも実に効果的。倫子の件もそうですが、ストーリー的に得な性格をしていますよね。
正確にどちらのイベントなのかはわかりませんが、2回生の夏、海で濡れながら主人公を待つイベントがお気に入り。微という人間を端的に表したイベントですね。
彼氏彼女になった後に街で会ったときのセリフがギュー。他のキャラにこんなセリフないんですけど。
3、ティナ・ハミルトン
本筋に対して重要なんだか、そうでないんだかよく分からないキャラ。
ジンデルレポート関連のせいで、精神的にはひたすら耐えなければいけないのがどうも。
ラストまでたどり着いても、主人公は果たして本当にティナの恋人なのか少し不安に思いました。後編が少し怖いです。
4、三好育
年下ではあるが妹系キャラでないところに好感が持てます。媚びることなくずけずけと物を言うあたりは心地良いです。
びっくり箱のようなキャラなので、イベントはとにかく印象的なものが多い。定番ですが、包帯を巻くイベントがお気に入り。
スライダーが最も効果的に使われているのもポイント高し。もう少し、こういうのがあると良かったですが。
立ちCGは育が最も変化に富んでいて良い出来。特に冬服。
ある意味、後編では最も期待しているキャラ。どういう感じで成長していくのかが楽しみです。
5、佐伯玲奈
鬼門。伏魔殿。一体、何回チャレンジしたことか。しかも、未だに解けていない。
演技は絶妙。キャラの特徴を最大限に引き出す力量には感服します。
デートの誘い時に一旦、断ってから全力で強引に承諾してくるあたりはナイス。何度、聞いても笑ってしまいます。
実は庶民派金持ちという妙なセールスポイントを持っていたりして、個人的にはスマッシュヒットな感じ。微のライバルとしての力は充分にあるかと。これで解ければねぇ(泣)。
という訳で、最終的な評価は保留。
6、島津一葉
どこかズレてるお嬢さま。それにしても果てしなく似ていない兄妹です。性格もあまり似ていないし、ホントに同じ家で育ったんですかね?
主人公の部屋にお茶を点てに来たイベントは度肝を抜かれました。着物よりもその敷物に。育も簡単に通すなっての。知らない人が見たら、どう考えても不審だよなぁ。
スタンドかペルソナのようなボディーガード付きによりHはなし。なにか納得いきませんが、この分は後編で取り返せることを期待しています(イベント数も)。
性格にはあまりそぐわない(と思われる)、マユ太なところが妙に気に入っています。
7、持田祥子
本作におけるギャグ担当。少なくとも私はそう思っています。こいつのシナリオに進んだときの主人公の変貌ぶりは笑いを誘わずにはいられません。どう見ても別人ですって。祥子自身も玲奈の先輩モードとでは同じ人間には見えません。人には裏表があるという好例? それにしても変なカップルだなぁ。
なんか、文章量がそのままキャラへの愛に直結してるように思います。
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