夏休み前のある日、鳩羽一樹(変更不可)はともに暮らすかけがえのない少女、野乃崎明穂に告白した。彼女もそれを受け入れ、訪れるはずだった記憶に残る夏休み。ところが、風邪をこじらせた明穂はあっけなくこの世を去ってしまう。
新学期が始まっても歴然とした事実を受け入れられず茫洋と日々を暮らす一樹。そんな彼を見かねたように彼女は帰って来た。幽霊となって。
ぱれっとの新作はlightの「Dear My Friend」を手がけたスタッフによる移籍第1弾。新しい血を加えたことでどう変わるか、そこに注目して購入。もちろん、くすくす氏の原画買いという面もあります。
初回特典は特になし。ただし、ぱれっと恒例のサントラが今回は店舗予約特典になってます。店舗にとってもメーカーにとっても予約特典が重要なのはわかりますが、サントラのようなアイテムは後から手に入れられないというのはかなり辛いのでもう少し考えて欲しかったところ。
システムは従来通りのアドベンチャースタイル。ただ、章仕立てになっていて、章が終わる毎に次回予告演出が用意されています。ボイスのみですが本編の枠をやや逸脱した予告内容はなかなか。ただし、作品のオチとなる最終章前は個別ルートだからか、あるいはシリアスだからか予告はありません。
章が始まる前にはセーブ/ロード画面が用意されています。便利といえば便利ですが、どうせなら章ごとの表紙のような扱いにしてタイトルや専用のCGをいれたり、再開にも便利なように次回予告も自由に見られると良かったのではないかと。現状だとほとんど意味はないです。もともとセーブ/ロードに制限はない上、スキップもここで止まってしまいますし。
足回りはかなり脆弱な仕様で組まれています。メッセージスキップは既読未読を判別こそしますが、そのスピードは致命的なまでに遅いです。立ちCGが次々に変わる時などまるでオートモードのよう。章仕立てのせいもあって2周目以降はほとんど変化のない共通ルートをフラグ立てのためだけに通過せねばならずかなり面倒に感じます。1時間とか普通にかかるので暇潰し道具必須です。「次の選択肢へ」機能を用意するとか、スキップ時は演出をカットするとかもう少しどうにかならなかったのでしょうか。
バックログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスリピートも可能ですが戻れる量はごくわずか。ミスクリック用くらいに考えた方が無難です。地味にスクロールバーをドラッグできないのも不便と言えばまぁ不便。
シナリオはメインヒロイン野乃崎明穂に始まり野乃崎明穂に終わります。名実共に。誰のシナリオであっても彼女の死は固定であり、幽霊となった明穂と話すことで物語は進みます。よって野乃崎明穂に対する心象が本作の評価を決定づけると言っても過言ではありません。そんな役割ゆえか彼女は大物とか凄いとかおよそヒロイン的とは言い難い素養の方が強く印象に残ります。それ以外ももちろんあるんですが。
幽霊ものというと大きく分けて明るいか暗いかに分かれますが、本作はどちらかというと後者にあたります。幽霊となった明穂が見えるのは主人公たちだけという設定なので必然的にシリアス方向に流れやすいです。それを幽霊たる明穂が躍動することで盛りあげているといった感さえあります。
ヒロインは4人、名前のあるサブキャラを含めても10人に満たないキャラクター構成なので世界観は極めて狭いです。基本的に学園と自宅を往復するだけのイベント構成もそれを補強しています。
日常的な掛け合いはヒロインたちの個性を十分に生かしたものでその様子は微笑ましく楽しめますが、幽霊であるヒロインとの別れを常に感じさせられての日常なので笑えることはそれほどありません。ただ、その日々は非常に濃厚です。特に再会から2週間ぐらいは驚くほど毎日色々なことが起こります。息つく暇もないくらいに。
惹かれ合う過程はかなり希薄。というのも4人のうち3人までは最初から主人公のことが好きなので。一方で主人公はメインヒロインと相思相愛の状態から始まっていてそれ以外のヒロインへの心変わりする理由に乏しく、かなり苦しさを感じました。というか個別シナリオ前にヒロインはもちろん、サブキャラに名前のないキャラまで事実上の攻略状態にある純愛ゲームというのはどうなのかと。
本作は視点変更がわりと頻繁に起こります。それによってヒロインの心理をより深く書くことができていますがやや使いすぎな気も。サブキャラにまでそれほど意味があるとは思えない使い方を複数しているのを見るとくどく感じてしまいます。それと一部のヒロインにやたらと偏って用意されているように見えるのは気になるところ。
ヒロインとの切ない再会と別れを描いた本作ですが、ところどころ説明もなく唐突な行動を起こすことがあり違和感を感じることもありました。不可解でも構いませんが動機の提示くらいは欲しいところです。全体としては良い出来であるだけに特異点のように目立って見えました。比べて良いものかわかりませんが、「Dear My Friend」と比べると細かい心情描写など丁寧さに欠けるように感じます。
Hシーンは各ヒロイン3回ずつ。しかし、寸止めだったり、除霊だったり、欲求不満解消だったり、他人のお手伝いだったりすることがあるので微妙な面も。本来的な意味では1回か2回くらいと考えておいた方が無難かと。
CGは絵買いに応える見事なクオリティを誇っています。CG集として見てもかなり満足できるのではないでしょうか。
特筆すべきは立ちCG。焦ったり、怒ったり、むくれたり、笑ったり、泣いたりという表情とそれに則したポーズ、さらにはハートマーク、青筋を浮かべる、目に炎を宿す、音符に冷や汗などの表現が驚くほど多彩です。また、ぱれっと発となったことで後ろ姿もスタンダードに。普段見ることのないヒロインたちの後ろ姿は新鮮です。使い方やカット割りもうまく違和感を感じさせません。加えて夏から秋へ衣替えもしてくれます。サービス満点。CGとしてもイベントCGに負けない仕上がりでヒロインが勢揃いするとまるでイベントCGのように見えるほど。
総じて掛け合いを盛りあげる原動力になっているかと。
もちろん効果的に差し込まれるイベントCGも見ほれるほどの可愛らしさと美しさ。ただ、差分抜きで70枚というのはファンとしては少ないと感じてしまいます。立ちCGに力を割き過ぎたように見えてしまうのは残念。数の少なさを感じにくいのが救いでしょうか。
音楽はオーケストラ調で統一されています。シリアスな場面では非常に高い効果を持ちますが、コミカルなシーンでは曲調ゆえに控えめに感じられるのは難しいところ。しかし、ボーカル曲は使いどころと内容が絶妙でその破壊力はいっそ卑怯なほど。サントラの特典がありがたいです。
ボイスは主人公を除いてフルボイス。キャラの個性に合致したキャスティングにセンスを感じます。声優の演技によってよりキャラを確立できているかと。
まとめ。とにかく野乃崎明穂ありきな作品。シナリオの項で書いたように彼女が全ての鍵を握っています。粗もあるのですが、魅力というパワーで押し切った印象です。もう少し心情描写に丁寧さと説得力があれば名作も夢ではなかっただけにもったいなくも。次なる作品が楽しみです。
お気に入り:野乃崎明穂
評点:75
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、湊川珠美
シナリオ的な失敗は拝み屋の仕事のことをしっかりと書いていないことですか。嫌ならば別段やらずとも良い。そのように見えるよう書いてしまったのが4章を初めとした様々なシーンの苦しさに繋がっています。仕事に対する正統性が希薄なので人情論(?)に反論できないというどこか情けない展開を産んでしまっているのですね。嫌でもやらなくてはならない、でも感情はやりたくない。そうした葛藤をもっとうまく書けていれば対立の構図に意味も生まれて盛り上がったと思うのですが。
キャラとしてはわかりやすい両極端の反応が可愛らしく良い感じ。ただ、つばさ好きの人からするとどうなのかなー、という気がしないでもないです。よく考えるとヒロイン同士のキスシーンに貴重なイベントCGの1枚を割いているのはえらいことのような。
すっごく個人的なことを書くとプレイ中ずっと神咲薫@とらハ2のシナリオとキャラが頭にあって、常に比較するような状態だったのでちと駄目でした。心情描写もそうだけど、感情移入を誘うには設定を語らなすぎだよなぁ。土台がわからないから同情もできない。や、改めて思うに薫のシナリオってそんなに文章量ないのにすごいなー。状況が自然体で表現できているってのは大事です。
2、香坂彩乃
ザ・サブキャラってな人。そういう認識だっただけにシナリオを望む人の声を聞いてちとびっくり。いかにもサブですよー、って感じの描写しかなかったような気がするだけに。まぁ、あのまとわりつきぶりはシナリオがないにしては目障りなくらいでしたが。
3、野乃崎つばさ
見事なまでの汚れ役。単独ならまだしも明穂という姉がいるのが痛みを倍加しています。まぁ、それだけにあの姉を持つ苦労は説得力がありますけど。
どういう訳だかヒロインの負の感情ってやつを一人で独占しているんですよね。設定からすると千早の方がより激しそうなのに。個人的にはやはり妹属性がない人間なので辛かったです。特に明穂を気に入ってしまってはねぇ。フォローも難しく。それでもお皿を割るシーンは印象的で良かったです。なぜ自分一人で相手をしなくてはならないのか、そんな千早の心の声が聞こえてくるようでした。
つばさは夏の私服がエロいだけにそれを有効に活用しない展開に悲しくなりました。まさかこんな形で衣替えが仇になろうとは(正直にぶっちゃけすぎです)。
4、千早
クリア後のタイトル画面の扱いを見ると裏ヒロインってことなのかしら。「パルフェ」でいうなら風見由飛に対する夏海里伽子のようなものでしょうか。
焦点は彼女を許せるかどうか、ってことなんでしょうけど、当の本人が許している以上、私としては追求する気にもなれず。もし、どんな形でも明穂が生存するルートがあれば話は違ったかもしれませんけど。それに逆上って考えると主人公にも悪いところがあるような気がするし。いくら知らないといっても昔の女の前で新しい女に告白するのはねぇ。思い出してしまうと言い訳もできず。明穂への好意を否定できないどころか肯定するのみなだけに余計に。
どーでもいいですが、あの丈でノーパンはちょっとどうかと思います。というか回りが何か言おうよ。
5、野乃崎明穂
彼女こそがこのゲームの全てといっても過言ではありません。一見した単純な魅力もさることながら器の大きさで他のヒロインを大きく引き離しています。実のところ、どうして好きになってくれたのか、私が主人公ならば考え込んでしまうと思います。あまり書かれていないけど頭脳明晰、スポーツ万能、料理も完璧、であるし。
恨みを抱きやすい幽霊となってから千早を迷うことなくサラッと許したり、 自分の存在を否定した妹を他愛もなく受け入れたりと凄すぎます。自分の命を狙った珠美も全く問題なし、としているものなぁ。真面目に考えるなら明穂の態度は死んだ後の2ヶ月があったからではないかなぁ、と。誰にも気付いてもらえない絶望と孤独の日々。全てを諦めても不思議ではないでしょう。それでも壊れることなく存在を続けていられたのは明穂のもともとの強さゆえでしょうけど、さらにそれが鍛えられた結果ではないかと。だから主人公のそばにいることには強い執着をみせるけど、それ以外は言ってみれば寛容になれる、と。
シナリオは明穂よりも主人公の心理の変遷が奇妙で残念な感じ。花火以降にもっとズバリこのままじゃ駄目なんだ、ってな描写を入れれば良かったのになぁ。なんか思いつきを行動に移しているだけにしか見えなかったですよ。
エンディングの2人はとても怪しかったです。にこにこ笑いながら手をつないで歩いて職務質問されそう。また、隠すことなく素直に応えそうな2人で怖いです。待ったと思っているのは2人とも同じそうだからなぁ。しかし、せめてヘアバンドくらいはしてなくても良かったのでは? 何もそこまで引き継がんでも。個人的には麦わら帽子はつばさシナリオでなく、ここで使えば良かったのではないかと。ベタですけど、これをきっかけに再会すれば自然な展開になりますし。
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