かつて今村正樹(変更不可)は前だけ見ている少年だった。学校で苛められることがあってもまっすぐに遠い空の向こうを見ていた。ある事故が起きるまでは。
その直後に転校した正樹は成長して故郷に帰ってきた。
旧友との再会。だが、過ぎ去りし日々は高く厚い壁となって正樹を阻んでいた。全てはあの日に起因するのだ。果たして正樹はどのような学生生活を送るのだろうか。
D.O.の10周年記念作品として制作されたゲーム。何を思ったか野村義男氏を音楽スタッフとして起用。そのことが関係あるのかないのか、1年近くも発売が延期されました。
他にもCDの初回版はマニュアルが箱の中に入らないという欠陥がありました(スリーブに重ねてしまうことは可能)。どうも10周年の名に相応しくない出来事が色々と。
いつもならここで購入動機は……、とくるところですが、今作品は友人から借りたものなのでそういった理由はなし。私は借り物にはゲーム感想を書かない方針だったのですが、どうしてもと依頼されたので書くことにしました。本人は積んでたんですけどね。
たいしたことはないですけど、環境によってムービーが再生されない、音楽が鳴らないなどの症状が起きるようです。修整ファイルが公開されているので当てておきましょう。
システムはオーソドックスなアドベンチャースタイル。ヒロインの居場所を選んで、文章中の選択肢で選んで個別ルートに分岐とお馴染み過ぎるほどお馴染みのシステム。もうわざわざ書きたくないくらいですが、書かないことにはわかりませんので記述。
足回りはかなり使い勝手が悪いです。少なくとも10周年記念作品の名を関するゲームとは思えません。
右クリックでメッセージウインドウが消えるのは普通です。しかし、元に戻すのにメニューから「ウインドウを表示させる」を選ばなくてはいけないのは普通ではありません。異常といってもいい操作方法です。なぜそんなことを要求されるのか実に不思議です。最初は元に戻し方がわからずバグかと思ったくらいですから。
メッセージスキップはあまり早くはありません。それだけならいいのですが、○月○週と日付表示される度に停止するので非常に厄介です。加えて後述する音楽の切り換えの悪さがスキップ時にも残っているのでさらに速度が落ちています。
スキップ機能は高速で送るためにあると思うのですが、設計者の考えは違うのでしょうか。不思議でなりません。
メッセージの巻き戻しは右クリックメニューから対応。私はなぜかコンプリートするまでそれに気がつきませんでした(駄目過ぎ)。
CG鑑賞なども含めて全体的に動作が重いです。これは恐らく意図的ではないかと思いますが、快適とはほど遠いスピードかと。
シナリオは妙にばらつきがあるように思います。分量もそうですが、そのレベルにおいてもハッキリと差があるかと。
今作の特徴のひとつに日常会話が豊富であることが挙げられます。センスも良く程々に笑わせてくれるので作品の中でも大事な役割を果たしているかと。
しかし、システムとも絡んだ問題があります。
今作は基本的に1週間に1度、ヒロインの居場所を選ぶという形でイベントが発生します(目当てのヒロインがいない時もあります)。そして、イベントが終わったら再び仕切り直しという形で次の週に進みます。その際には必ず○月○週と画面に大きく表示され、クリックしないことには先に進みません。これがゲーム内時間で少なくとも4月から12月下旬まで繰り返されるのでクリック回数もかなりのものになります。
この仕様によってテンポが悪くなっているように感じます。加えてイベントは日常会話だけがほとんどなので連続性がなくプレイヤー側は集中力が切れやすく、会話も印象に残りにくいと無用に損をしているように見えます。
また移動先選択で目当てのヒロインがいないのにその前後でイベントが自動発生したりとどうにもちぐはぐです。こういうケースは区別する意味でも共通イベントなら話もわかるのですが、発生するのは個別イベントですからねぇ。いったいどういう意図でイベントを配置しているのか理解に苦しみます。そもそも移動先選択システムの意味はどこに? という疑問も出てきますし。
ヒロイン単位のシナリオ構成にも疑問があります。ヒロインによってシナリオ最大の障害(山場)が主人公のトラウマ克服にあたるか、ヒロインの苦境がそれにあたるかの違いです。
これは日常会話を縦軸ととらえた場合の横軸で、物語を牽引する原動力です。これがしっかりしていなければ、どれほどセンスの良い日常会話もほとんど無意味と化してしまいます。
問題は方法というよりレベルかと。横軸が主人公のトラウマ克服の場合、ただでさえシナリオが似通ったものになりやすい上、序盤は情報が伏せられているので本筋に触れることがありません。日常会話のみを垂れ流すような展開では次第にだれてきてしまいます。
横軸がしっかりしているのは藤原佳多奈と真田恭子のシナリオ。この二つは他のシナリオよりも抜きん出てレベルが高いです。また、この二つのシナリオは登場人物も多く、ヒロイン以外との会話もたいへん充実しています。分量も多く、その差は同じゲームとは思えないほどです。
ただ気になるのはこの二つに加えて相馬蘭子のシナリオでは宇宙飛行士になるという主人公の夢がどうでもよい扱いになっているところ。あちらを立てればこちらが立たず、ということなんでしょうか。
この事実から言えることは主人公の夢がなんであっても問題ないという冷徹な事実。必然性のなさはちょっと悲しいです。
前述したように今作のゲーム内期間はおよそ4月から12月です。これだけの期間が用意されたのは修学旅行や体育祭といった日付に関連したイベントを書くためだと思われるのですが、それがどうにも効果を上げていません。ヒロインごとに発生するイベントにいっさい変化がないということもありますが、密度の薄さとそのヒロインらしさがあまり感じられないのが厳しいかと。
ヒロインのほぼ全てが顔見知りでありながらほとんど会話が発生せず、相互に影響しあうことがないのはもったいないように思います。せっかくの設定が無駄といいますか。
CGは通常のイベントCGが妙に少ないです。Hシーンの半分以下というのは原画家がエロ漫画家の師走の翁氏であることが関係しているのでしょうか。
立ちCGとイベントCGとのバランスも妙です。立ちCGが4頭身に対し、イベントCGが6頭身以上なのでかなりの違和感を感じます。ヒロインの立ちCGの顔がやけに丸いのも気になりました。表情も立ちCGがコミカルな傾向でイベントCGがリアルな傾向にあるのでなおのこと違和感が。
移動先選択シーンでヒロインのSDカットが用意されているのですが、これがどうにも可愛くないものが多いです。中には怖いものさえあります。もう少しなんとかならなかったんでしょうか。
音楽はスタッフのせいか、曲ごとに差があるように感じます。ですが、レベルはけして低くはなく、単体でも聞けるものに仕上がっています。
ボーカルは2曲。オープニングとエンディングでかなり雰囲気が異なる曲作りがされているかと。
システムに絡んだ点ですが、シーンによる曲の切り換えが遅いです。いくらCD−DAといっても。ゲームが一瞬、硬直してから曲が変わるのであからさまに不自然です。
まとめ。延期されていた間の迷走が見えるような作品。プロデューサーがいないと言われれば納得してしまいそうなほど、全体的なまとまりを欠いています。皮肉にも二つのシナリオのレベルが非常に高いがゆえに残りのシナリオの問題点が気になってしまいます。10周年記念作品の名には相応しくない完成度かと。
お気に入り:真田恭子、藤原佳多奈(必然的に)
評点:60
どうにも気が乗らないのでキャラ別感想はなしってことで。
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