248   Floralia(ザウス)
 
 入学初年度は橘洋介(変更不可)にとって平穏だった。無事、進級を果たした洋介の前に現れたのは幼なじみにして姉代わりだった麻生鈴音。幼いころのいじめっ子のイメージそのままに成人したような鈴音は、父に頼まれたとただそれだけで強引に同居を決めてしまう。平穏はあっさりと崩れた。
 ため息を堪えきれない洋介をさらに唖然とさせたのは鈴音が担任教師の肩書を持っていたこと。さらには同僚の女教師二人を一緒に住まわせるという。果たして色香に惑わされることなく、好きな彼女に対する一途な想いを貫けるのか。
 
 XUSEの純米ブランド第一弾ということですが、ブランドコンセプトがよくわからないんで今後どういった作品が出るのか全く不透明。まぁ、字面から判断するに純愛系のゲームってことでしょうかね。
 
 原画のまさはる氏の描く絵は以前から好きだったんですけど、どうもジャンル的に合わないなーって感じだったのでこれまでは回避していました。XUSE作品には手を出したことがなかった、というのもその一因。そんで購入しやすいジャンルが現れたところで買うことを決意。
 
 私のところでは問題ありませんでしたが、環境によってサウンド関係に不具合が発生することがあるようです。さくさくと落としてあてておきましょう。
 
 初回特典(かな?)はオリジナルサウンドトラックが付属してます。ただ、こういう特典は音楽にかなり自信のあるメーカーが特典物に選ぶというのが私のイメージなのですが、それにしては……。まぁ、偏見でしょうかね。
 
 システムは一風、変わってます。土台となるのはいつものアドベンチャースタイルなんですが、プロローグが終了する際にプレイヤーは好きなヒロインの選択を迫られます。これによってシナリオが分岐。一度選んだら最初からやり直さない限り、異なるヒロインのシナリオには進めません。「みずいろ」以上に親切でわかりやすい人生フラグです。
 なお、主人公の想い人は3人で、それぞれに対となる女教師がいます。想い人のシナリオを終えると女教師シナリオにも進めるように。
 足回りは標準以上を実現。メッセージスキップはかなりのスピードでなかなかに快適です。
 メッセージの巻き戻しはかなり戻れます。別画面が用意されているので読みやすいです。ボイスの再生が出来れば文句はなかったんですけど。演技が全体的に良いゲームなので欲しかったですね。
 CGモードはやや不思議な仕様。部分変化のあるCGはサムネイル画面で1枚目or2枚目のどちらかを選択してからCGを表示するという変わったもの。どのみち選んだあとはクリックの度に1枚目と2枚目が入れ替わるのであまり意味はないと思うのですが……。
 
 このゲームは見方によって評価がずいぶんと変わってくると思われます。すなわち、純愛vs誘惑というアオリ文句を読んでどういったゲームだと思うか、です。
 トラビュランスやジックスのゲームのように倫理観に欠けたエロ重視のお手軽系ゲームか、それともkeyほどとは言わないもののシナリオ重視の純愛系ゲームか。
 スタッフの意図通りのゲームに仕上がったのか、私にはわかりかねますが今作品はなんとも半端な中間地点に着地している印象を受けました。つまり、前者と見れば予想外に作り込まれた楽しめる要素を持ったゲームですが、後者と見た場合にはシナリオの描写が圧倒的に足りず、不満を覚えずにはいられません。
 シナリオはわりと珍しいことに地の文が三人称で書かれています。といっても一人称に限りなく近い三人称なので慣れるまではやや戸惑うかもしれません。
 三人称で書かれているのは恐らく、主人公のいない場所でのヒロインの様子を描写するためだと思われます(小説と同様の手法)。が、状況描写がそれほど必要でないゲームでは一人称で充分、ましてや視点変更もある訳ですから、実際には主人公やヒロインの行動、思考に対するツッコミの手段が主な役割なのかもしれません。例えば、「快楽に逆らえない洋介であった」というような。
 上述したように主人公は最初からヒロインに(精神的に)攻略されています。しかし、それはヒロインも同様。好きな相手を選択した直後にヒロインの動機が文字通りのボイス付きで語られます。いかにして惚れたのか、と。
 そうです。今作ではスタート地点で両者が好きになる過程は終了しているのです。告白をしていないだけで両想い同然。しかも全員。なかなか貴重なゲームではないかと思います。
 そんな訳で、大した展開も用意できないのか、シナリオはかなり短め。ついでに言えばゲーム内期間も。また、最初に好きな相手を選択して分岐するといっても、「みずいろ」のようにそれぞれが独立した文章で構成されている訳ではありません。軸となるシナリオはあくまで6人ぶん全て共通です。例えば電話がかかってくるまでは共通文章だが、電話の相手だけが異なり、通話終了と同時にまた共通文章に戻るといったような、継ぎ接ぎされた構成。
 女教師(誘惑組)のシナリオに至っては純愛組のシナリオを下敷きにしているので非常に不自然。好きな相手のシナリオでいつの間にか、その好きな相手が女教師にすり変わっているのですから、それも当然なんですが。さらに分量も少なくまさにおまけ程度。このあたりが最も中途半端かと。
 欠点ばかり指摘してきたので良いところも。
 今作のシナリオの特筆すべきは主人公がきちんとヒロインの魅力に気がつくこと。相手のどんなところがどのように好き(可愛い)かというのが過不足なく書かれているので、初めから好き同士でも面白く読むことが出来ます。後述しますが、ヒロインの反応が実に良く相乗効果を上げていますので。
 主人公が園芸部所属というのもこれまでとは目先が変わっていて、それなりに新鮮。シナリオにもある程度、反映されてましたし。ただ、ヒロインをすぐに花に例えるのは(今置かれている事態も含めて)賛否別れそうですが。
 
 CGは作品に沿った柔らかな塗りのものが用意されています。同じまさはる氏の原画作品と区別しているのは好印象。
 立ちCGはほとんど変化がない代わりにフェイスウインドウが獅子奮迅の働きぶり。ディフォルメされたヒロインの多種多様な反応が描かれた様子がたいへん可愛いです。ギャグ漫画や二昔前の少女漫画的とでも言いましょうか。また、このウインドウ内と立ちCGの衣装が状況に応じて制服、私服、体操服、裸と、しっかり変化します。小さなことのようですが、こういうのは雰囲気作りに大きな役割を果たしています。おかげで某ゲームのように服を着たまま風呂に入る、なんてお間抜けな事態は起こりません。
 エロに関しては微妙。というのもHシーンの多くは誘惑組である女教師’sに集中しているのでそちらが気に入っていないと不満を感じる人が多いのではないかと。なにより充分なシナリオ描写があるのはHシーンの少ない純愛組ですから。
 
 音楽は良いものもあれば悪いものもある、というバランスに欠けた仕上がり。単体で聞くにはやや厳しいかもしれません。曲調はどうもDOS時代を彷彿とさせるものが多かったような気がします。
 ボーカル曲はI’veのお馬鹿系2曲(「恋愛CHU!」及び「Ripple〜ブルーシールへようこそっ〜」主題歌)を思わせる曲ですが、どうも馬鹿に徹しきれておらず、必要以上にツライものになってしまったような微妙な仕上がり。
 ボイスは新人、ベテランともに実力派が揃っています。誰一人としてわずかな不安も感じさせることなく、キャラに応じた演技をしっかりとこなしているかと。
  
 まとめ。お手軽系ラブコメ作品。過度の期待をしなければ充分、楽しめるのではないかと。エロもシナリオも。
 シナリオライターの実力は充分なので次は長編シナリオが読んでみたいところ。
 お気に入り:白瀬憂、三ノ宮由佳里
 評点:68 
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレはないんじゃないかと。
 
 
 
 
 
 
 
 1、麻生鈴音
 うーん。やっぱり印象薄いなぁ。詩乃とキャラが被っているというか、鈴音をパワーアップしたのが詩乃ですからねぇ。通常イベントがないに等しいというのもかなりツライものが。
 
 2、槙いずみ
 他の2名に比べれば差別化は図られていると思いますが、それだけに動機の弱さが一層、引き立ちます。主人公の父のキャラが描かれていないというもっともな理由もありますが、それ以上にそんな動機でこんなことするかぁ? というのが正直な感想。
 教え子(娘さん)に好かれているという設定もシナリオが薄くてはむなしいばかり。
 
 3、櫻井詩乃
 誘惑組の中では最もましな理由付けがされているでしょうか。プレイヤー的には失望することしきり、という気がしないでもないですが。
 基本的に家やHシーンでほとんどメガネをかけていないのが好印象。ノー モア メガネな身としては非常に大事なことです。
 
 4、白瀬憂
 両手をぶんぶんと上下に振り回すカットや目を回すカットがなんとも愛らしいです。外見がいわゆる学園のアイドル風なのでドジぶりも効果倍増。
 主人公を誘うことに成功すると遠くから歓声が上がるという素敵クラスぶりが良いです。
 口癖が有名なたい焼き窃盗犯のようですが、名前との洒落になっているぶんだけこちらの方が強力か。実際、倒れたりしますし。
 
 5、三ノ宮由佳里
 完璧を期するゆえか、逆に主人公の前では必要以上に狼狽する様子がナイス。他の生徒にはあまり好かれていない様子もうまく表現できていると思います。
 血の気が引いたカットや目を点にして何かを止めようとするカットがなんとも可愛いです。
 好きになる動機としては弱いような気がしないでもないですが、描写そのものは一番良かったのではないかと思います。
 
 6、加賀御文
 正直に言うと最初は名字が加賀御(かがみ)で、名前が文(あや)だと勘違いしてました。いえ、今でもそちらの方がいいんじゃないかと思っていますが。
 カット的には3人の中では一番弱いかなぁ。やはりギャップが感じられるキャラの方が強いですね。
 モロに少女漫画的な展開ですが、そこが逆に良かったのではないかと。
 感嘆すべきは御文役の北都南さんの演技。幅広さを持った演技を遺憾なく発揮してます。本編中と数年後のエピローグで明らかに成長が感じられるのがすごいです。


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