客観的に見て小此木正也(変更不可)は不幸だった。父親は人格破綻者で母親には幼い時に出て行かれた。学生でありながら汗水流して得た対価は全てろくでなしにむしりとられた。ヤクザに取り立てを受ける生活が常態化。学園には満足に通えなくなり、遂には諸悪の根源が借金を押しつけて蒸発した。
何もかも失ったのか、そんな時に目に入ったのは怪しい黒服の集団に取り囲まれたひとりの少女。正也は自暴自棄になることもなく一歩を踏み出した。果たして救い出された末に少女は言った。
「ごぎげんよう。−突然だけど、あなた、女子校へ入学してみない?」
MOONSTONEの新作は1年間の女子校生活を描いたアドベンチャー。
購入動機は一応ブランド買いですが、起動ディスクなどのシステムの仕様変更や内容面からかなり怪しくなってました。
初回特典は特になし。予約キャンペーン特典はオリジナルサウンドトラック。
ジャンルはいつも通りのアドベンチャー。
足回りは進歩がありません。本作はプレイ期間が1年間と長いため同じシステムでは印象が悪くなってしまいます。メッセージスキップは既読未読を判別して平均的なスピード。選択肢間が長いので相対的により遅く感じます。暇潰し用具があった方がいいでしょう。
バックログは別画面とウインドウの2種類が用意されています。ホイールマウスに対応(後者が起動)、ボイスのリピート再生も可能ですがそれほど戻ることはできません。ロード直後にも使用できません。
とても残念なことに本作は「妹ぱらだいす!」同様に時限式の起動ディスクが採用されています。1週間ほどというおよそ忘れた頃に来るので、箱ごとどこかにしまい込んでいるとたいへんです。近くに置いておきましょう。
シナリオは全26話。16話から本格的に個別シナリオへの分岐が始まります。ひとえにこれがネックです。ここまでは共通シナリオということで言わばヒロイン全員分の見せ場があるだけでなく、サブキャラにも焦点が当たっていて、とても賑やかです。ところが、個別に入ると当該ヒロイン以外の出番やイベントは激減し、ぐっと寂しくなってしまいます。学園生活が終盤に向けて盛り上がりに欠ける傾向があるのは問題ではないでしょうか。
波はあるものの、掛け合いは多人数が基本でほどほどに盛り上がります。ただし、他愛のない会話が少なく、行事に即した事務的な内容が多く広がりがあまりありません。よって会話から日常を組み立てるということが不足しがちです。全員が寮住まいでありながら生活感が薄いのはけして無関係ではないと思います。ヒロインの趣味などがまるで出て来ないあたりからもそれが窺えるかと。
ヒロインのキャラは立っていてしっかりと魅力が伝わってきます。やりとりににやにやできるような場面も多数用意されています。しかし、本作はシナリオと設定が全体的に暗く窮屈で朗らかなヒロインたちと喧嘩している感があります。全体的な雰囲気にも影響を与えていてとてももったいないです。物語自体もヒロインの魅力を伸ばす方向にありません。オチのためにかなり無理のある展開が目立ちます。
惹かれあう過程はあまりありません。主人公がハイスペックで意識しないうちに好感度の大半を稼いでしまっているので、緊張感が不足気味です。恋愛描写と呼ばれる頃には半ば出来レース化してしまっています。
本作は驚くほどエピローグの描写が弱いです。有終の美とはとても言えず、余韻を感じることもできません。そのわりには4シナリオとも同じ内容の会話が用意されていてすごく疑問を感じました。
Hシーンは各ヒロイン平等に5回ずつ。全26話の終盤に集中しているため、ラストの方はHシーンの合間にシナリオをこなしているような印象さえあります。尺はやや短めくらいでエロ度はそれほど高くはありません。衣装の活用度ももうひとつというところです。
CGは長いプレイ時間に比べると少し物足りないように感じます。枚数だけならそこそこ用意されていますが、どうにも実感できるだけの効力不足といったところ。立ちCGの衣替えなどもありますが、テキストを含めてその事実を上手に活用しきれていません。宝の持ち腐れに近いです。シナリオの項でも触れましたが、共通の方が賑やかできっちりと用意されているように感じます。また一部にイベント、立ちCGともクオリティ不足と感じるカットが見受けられました。
音楽はいつものMOONSTONEらしく、主題歌やエンディングテーマは元気がいいのですが、それ以外の曲は全体的に主張が弱くおとなしめです。個人的に最も耳に残ったのが各話の終了時に流れる曲だったというあたり一端を示していると思います。
ボイスは主人公のほか名前のないキャラには用意されていません。北御門綾佳役の吉川華生さんの演技にはややクセがあり賛否を分けそうですが、それ以外には取り立てて問題はありません。
まとめ。不器用さを感じる力作。シナリオとキャラ性の両立はとても難しいですが、それにしてもここまでうまくいかない作品も珍しいように感じます。舞台に暗いイメージがあると後味はなかなか良くなりません。ただ、基本は悪くないのでこの路線を進むのなら期待したいです。
お気に入り:瓏仙院理瀬、北御門律子、上宮城瑠璃子
評点:65
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、瓏仙院理瀬
さすがに作品を引っ張るヒロインだけあってなかなか魅力的です。独占欲が強く、見境のないヤキモチ焼きというのがプラスに感じられればかなり良いヒロインとなるのではないでしょうか。発展的と称されるだけあって実に能動的に動いてくれます。もし主人公であったならとても頼もしかったことでしょう。
母親の件は全体的に簡単に済ませすぎかなー。最後に和解するためにかなり無理のある展開となっています。校長もそうですけど、何をされても反感以上は抱かずにひたすらに許すことだけを求められる。主人公、理瀬、律子あたりはほとんど聖人のようですよ。
本作って諸悪の根源みたいな人が3人ほどいるんですよね。まさにこいつらさえいなければというレベル。どんだけ人生を平穏に過ごせたことか。しかし、3人とも肉親なんですよねー。ヴァンセンヌという舞台とも結びついていてどうにも暗い雰囲気を形成してしまっています。せっかく1年間とプレイ期間が長いだけにもったいないです。
2、北御門律子
ライバル組織の会頭ということで旨みのあるポジション性をうまく引き出しています。このみが半ば代弁者に近い役割を果たしているのも面白いです。もちろん、100%なんてことはないですけど。もったいないのは律子自身の心情の変化をそれほど描いていないこと。いつの間にかそうなっていて戸惑う、ということで押し通してしまったのが残念。
シナリオでは婚約者の存在がそのまま瑠璃子と被っているのがちょっと問題です。ほとんど変わらない展開をもう一度、見せられてもねぇ。
本作はシナリオゲー的要素が萌えゲー的要素と衝突してしまっているのがとても痛いです。おかげでヒロインよりもそれ以外のキャラの方が印象に残ってしまいやすいという難点を抱えてしまっています。律子にも可愛い点はたくさんあるんですけどねぇ。自爆して照れるところとか、鏡の前でファッションショー&百面相するところとか。
なにゆえチアリーディングの衣装でのHシーンがないのでしょう。心底、不思議に思いました。
3、北御門綾佳
ヴァンセンヌの乙女らしからぬヒロイン。それだけで十分すぎるほど不利だというのに、やる気のない姿や真面目になれない気性などヒロインとしての駄目要素満載。シナリオ的にも最も盛り上がりに欠け、脇役っぷりが半端ないです(好きな人には申し訳ない)。本人も似たようなことを言っているほど。そもそも上級生というだけで本作の設定には他人事っぽいですし。エンディングにもなんとなくそれが表れています。
誘拐事件の帰り道、天井裏をさまよった手でケーキを食わされるのはどうかと思います。どこかで手を洗ったんですか?
4、鷺澤千帆
逐一、主人公の行動を監査している様子が怖いです。自分の言動は省みず主人公が裏切ったかどうかだけで全てを決するおそろしいヒト。そもそも小学生に対して裏切り者とか言いだす感性はちょっとついていけません。ましてや、それが幼なじみだなんて。もうちょっと優しくしてください。
出来レース状態の三角関係もなんだかなぁ。決められないと言いながら考慮もされない理瀬がさすがに気の毒でした。
5、上宮城瑠璃子
彼女がヒロインでないのはどう考えてもバグとしか思えません。ヒロインたちと比べても勝るとも劣らずなのになぁ。プールイベントの11話、一生ゲームイベントの14話、なぜ瑠璃子さんの選択肢がないのでしょう。話の流れからしたって不自然でしょうに。主人公が魅力を感じていないのならまだわかりますけど、そんなこともないし。
婚約者から守った展開とかどう考えてもフラグ立ちまくっているでしょうに。納得がいきませんて。ファンディスク商法ってのはわかりますけど、それにしたって瑠璃子さんはアピールしすぎです。どう見てもサブの存在感を越えています。
|