ファミーユ。それは半年前まで住宅街でひっそりと営業していた欧風喫茶店。しかしながら、今は休業中でその建物さえない。そんな時、関係者の一人である高村仁(変更不可)のもとにブリックモール出店の依頼が舞い込む。
ブリックモールとはヨーロッパの街並みをモチーフにしたショッピングモール。これを追い風と感じた仁は落ち込む義姉のために出店を決意する。どうにかこうにか開店を迎えたファミーユに思いもよらぬ難題がのしかかる。ファミーユの真向かいにあのキュリオがやってきたのである。
ファミーユはキュリオに勝てない。なぜならファミーユはキュリオの二番煎じなのだから……。
2年の歳月を経て帰ってきた「ショコラ」の続編、ではあるのですが「brew」が示すように純粋な続編ではなく同じ世界の異なる場所での物語、という感じです。
同じスタッフが集結ということでシナリオライターは自動的に丸戸史明氏。となれば仮に他の要素が全て好みでなくとも購入するは必定。早い話がライター買いです。
気のせいでなければ発売前の誌上の動きがかなり鈍かったような。評価された作品の続編としては驚くほど、どこの雑誌でもページを割いて紹介していませんでした。提供された素材が少なかったんですかね。
初回特典は丸戸史明書き下ろしショートストーリ小冊子にサウンドトラック。前者はゲームより以前のことを書いた内容で一応はネタバレなし。ただし、どのヒロインに比重が置かれているかがわかってしまいますが。後者はI’veボーカル曲もフルコーラスで収録されてます。個人的にここまで嬉しく感じる特典はちょっといつ以来か思い出せないくらい。最近、サウンドトラックは商売が基本ですからね。
どうしても必要という内容ではありませんが修整ファイルが出ています。邪魔になるものでもないので充てておきましょう。
システムは「ショコラ」からかなり改良されました。基本がオーソドックスなアドベンチャーであることは変わりませんが、不評だった店長お仕事システムはなくなり、純粋な場所移動システムになりました。選択はすなわちイベントに直結していて選んでも何もなしということはありません。他作品ならば当たり前のこれが「ショコラ」経験者には妙に嬉しかったり。
場所移動選択の画面も見やすくより親切に。ヒロインがいる場所がわかるのはもちろんですが、周回を進めていくとイベントの内容や発生及びエンディング条件が記載されていきます。ただ明日香とかすりは少し見分けにくいのが難。
また、イベントシートなるものが用意されていて、こちらはイベントの流れがわかる一覧表。やはり徐々にイベント内容や各種条件が埋まっていって周回プレイが楽になっていきます。なかなか便利なこのイベントシート。個人的にはこれを使ってのイベントの回想機能があると嬉しかったです。
エンディングは今回もノーマル、トゥルーの二段構成ですが「ショコラ」の時とは異なり、ノーマル専用のCGなどはなくバッドに近い扱い。ノーマルを見なければトゥルーを見られない、ということもないようです。
足回りも相当な進歩が見られます。メッセージスキップは既読未読を判別するようになり非常に高速(文字が全く表示されないことも)。
バックログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。戻れる量は1シーン程度とそれほどでもありませんが、ロード直後にも使用可能なのはなかなか便利。
「ショコラ」に引き続いてキャラクターごとのテキストカラーが設定されています。もちろん自分で好きなように変更可能。ただ、テキストのレベルが高いがゆえにもう一歩ありがたみは感じられないのですが。この機能はイベントシートにも反映されていて、むしろこちらの方が見やすく効果を実感します。
コンフィグの設定内容は多岐に渡っていて設計者の気配りが感じられます。「Ripple〜ブルーシールへようこそっ〜」のシステムがここまでになったと考えると感無量です。願わくば今後もこれが続くことを。
戯画といえば要起動ディスクという時代はどうやら終わったようです。DVDであった「ショコラ〜maid cafe curio”Re−order”〜」だけでなくCDである本作もメディアレス起動が可能になってます。
シナリオは既に書いたように続編色は薄めです。本作からプレイしても戸惑うことはまずありません。「ショコラ」経験者へのファンサービスも控えめで未経験者は気付かない可能性が高そう。と言ってもサービスは何も「ショコラ」だけとは限らないのですけど。
テキストは相変わらずの流れるような日常会話が心地よいです。キャラクターが高いレベルで立っているので特別な会話でなくとも楽しく、ただひたすらに読み進めたくなる魅力を持っています。
笑いに関してもゲーム内で完結する、元ネタを必要としない会話で勝負しているケースが多いのは好印象。ファミーユの空気とでもいうようものがテキスト上でしっかりと表現できています。
シナリオレベルは全体的に向上。中でも夏海里伽子のシナリオは適度な伏線の張り方とミスリードさえ誘うその効果の活用が素晴らしく本気で感心しました。丸戸史明氏は一つ上の階梯に上がったのかも。
「ショコラ」の課題であったヒロイン毎のシナリオ格差はかなり解消されました。あからさまにハズレっぽいヒロインはいなくなりましたが、それでもシナリオ毎に差は見えていて少しもったいない感じを受けます。最高得点が上がったがゆえの贅沢な悩みでしょうか。
Hシーンは各キャラ横並びに3回ずつ。純愛ゲームにしてはエロ度にかなりの頑張りが見られます。状況を有効に活用、もしくはかなり強引に用意したコスプレHも用意されています。このあたり、脱がせ方を含めどこか中途半端であった「ショコラ」の反省が活かされているのではないかと。
CGはHシーン用に偏重気味。最近の傾向でもありますが、総枚数をあまり増やせないので通常イベントCGを削ってその分をHシーン用に回しているのでクリア後にCG鑑賞を見るとかなり寂しい印象を受けます。立ちCGによる日常会話の楽しさゆえにプレイ中は気付きにくいのは果たして良いのか悪いのか。エロ度は稼げていますが、ヒロインの個性という面で通常イベントCGが減るのは微妙なところ。
立ちCGはポーズ、表情ともにかなり多彩に用意。見ているだけで楽しい喜怒哀楽のカットがキャラクターの掛け合いを引き立てています。ただ、イベントCGにも言えることですが、角度によるのか絵柄が安定しないことがあるのが玉にきず。
音楽は全体的におとなしめのしっとりと落ち着いた曲調のものが多く用意されています。恐らくはファミーユで実際に流れているような、そんなイメージからの作曲ではないかと。サントラを用意するのも納得の聞き応えある曲が揃っています。
ボイスは主人公以外フルボイス。イメージ優先のキャスティングがなされている感じを受けました。演技はキャラの個性を各声優さんが存分に引き出していて掛け合いの魅力を高めています。そんな中で夏海里伽子役の声優さんは普段は申し分ない演技なのですが、Hシーンに入ると途端に拙くなってしまうのがもったいないところ。
まとめ。丸戸史明氏の集大成的な作品。戯画カフェものと言い換えても構いません。次の作品への更なる飛躍の可能性を感じる一作でした。トータルバランスの高さもかなりの域に達しています。未経験者も経験者も丸戸史明ファンも楽しめる間口の広さも魅力です。個人的には今の時点で今年の3本指はまず間違いない予感があります。
お気に入り:夏海里伽子、雪乃明日香、涼波かすり
評点:95
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、風美由飛
彼女こそがファミーユの売りという面を持っていると思うのですけど、どうも苦手。つい現実的にとらえてしまってどうも。歌を歌うのも自分があの場にいたらと考えるとちっとも嬉しくなくて。自分の注文が終わった後も他の客のオーダーでさんざん聞かされる訳だから。本とか読めませんよ。
仕事中の呼び捨ても接客商売に身を置いているせいもあってかなり不快。里伽子と全くの同意見なんで。でも、深夜にあのアカペラを聞かせられたらグラッと来る気持ちもわかります。他のペケ要素を流そうと考えても無理ないです。
「いきなり配置転換」のイベントの意味にエンディング後まで気付かなかったのは私です。中盤以降はそんなイベントがあったこと自体をすっかり忘れていたので。思い出してから考えてようやく気付いたという体たらく。
シナリオはわかるようなわからないような。なにせ天才のすることですから、弾けるようになるのも弾けなくなるのも契機なんてなんでもいい気がしてしまうんですよねぇ。まず最初に弾けなくなった理由がよくわからないし。
里伽子の「何がおかしいのよ」と恵麻の「いいわけないでしょ」を引き出した彼女は間違いなく天才だと思います。嫌がらせの。
2、花鳥玲愛
彼女は果たしてツンデレキャラと評して良いのかしらとしばらく悩みました。なんだかんだと最も好感度が低かった出会いの時点さえ実はそんなに嫌われていない感じですし。まぁ、それはともかくこういったキャラは個人的にAfterが重要です。凛々しさだとか堅苦しさだとかが消え去ってしまうとどうにも悲しくなってしまうので。その点、玲愛は二重丸です。同僚からすればやっていられないでしょうけど。ノーマルエンドのジュリエット玲愛とかいい感じです。
シナリオとしてみると由飛シナリオの方が男らしく格好良いのは致し方ないことでしょうか。諦め悪く食い下がる姿もよく見えてしまうんですよねぇ。
それでも主人公がセリフを間違えてしまうのはお約束とはいえ良かったです。本番に強い感じで(違)。個人的にはライバル店のチーフと恋仲というのが非常にツボだったりするんで微妙といえば微妙なんですが。
ラストは予想外で恐れ入りましたな感じ。さすがは黒幕。最も敵に回していけない存在ですな。
それにしても本店は冬でも半袖ミニのデイタイム制服なんですねぇ。
3、杉澤恵麻
里伽子シナリオを通過しているかどうかで彼女のセリフやモノローグの聞こえ方が全く違うのは面白かったです。主人公よりも里伽子のスタンスをわかっているようで実は主人公同様、全然わかっていないという。里伽子からすれば恵麻のセリフはどれだけ誠実なものでも左手ある限り空々しくしか聞こえないでしょうから。エンディングの姿は奇跡といっても過言ではない状態であることを2人とも知らないという滑稽さ。そういう意味で恵麻はちと不憫。
しかし、23で若くない宣告をする主人公はかなりの鬼ですな。
4、雪乃明日香
ファミーユから最も離れた展開の、本作にとっては結果的に異色シナリオ。クリスマス前までが充実している代わりにそれ以降はエピローグと大差ないというのは好きなキャラであるだけに残念。
気になったのはエンディングで駆け足で書かれていた親に発覚したとか、そういう内容。由飛シナリオにもちょっとありましたけど、もしかして最初のプロットが実現していないのでは、とか思ったり。どう考えてもシナリオ量に差があるし。素材(立ちCG)とか時間不足?
5、涼波かすり
シナリオのテーマと障害の絡ませ方、扱い方が非常に巧かったと思います。展開も在り来りとはほど遠く、まさかまさかの「V.G.NEO」の曲とSEには度肝を抜かれました。そして大笑い。戯画以外ではちょっとお目にかかれない粋な演出は見事です。
日常のお笑い担当でありながら、内面は繊細であまり強くないというあたりのギャップが良い感じ。
6、夏海里伽子
最強真打ちなスーパーエグゼクティブウェイトレス。滅多に見せない照れた表情が震えるほど可愛いです。
シナリオの仕掛けにはかなり驚かされました。伏線の張り方も勘の鋭い人なら気づけそうなレベルでまとめてあって感心。私はコンタクトのことを不審に思ったくらいで他は全く気付きませんでした。立ちCGまで伏線というのはちょっと考えつきませんよ。
他シナリオで他のヒロインと主人公をまとめようとする姿にはかなり泣けるものがあります。どうにもならない状況を無理矢理にも納得させるために動いているだろうなぁ、と。
里伽子との出会いに「Ripple」ネタを持ってくるとはかなり意外でした。ホント、目立たないファンサービスが多いなぁ。
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