193   Trample on ”Schatten!!”〜かげふみのうた〜(TAIL WIND)
 
 平穏は一瞬で崩れさる。ビルの屋上から飛び降りてきた金髪の少女を受け止めてしまったために姫萩愛作(変更不可)は非日常の世界と関わり合うことを余儀なくされる。
 人々を襲うシャッテンの思惑は。ゼルクレイダーとなった戦いの果てに待つものとは。愛作よ、影装せよっっっ!!!
 
 TAIL WINDの新作は従来のイメージを一変するかのようなヒーローものアドベンチャー。
 購入動機は企画に興味を持ったのとPCエンジェル掲載のインタビューを読んで。
 初回特典は特になし。予約キャンペーン特典はアンソロジーブック。
 
 ジャンル自体はごく普通のアドベンチャー。ただし、マルチサイトビジュアル(以下MSV)が搭載されていてメッセージウインドウの右上をクリックすることで、いつでも通過した好きな場所へと行くことが可能です。その際も主人公だけでなく、他のキャラクターの視点から見たシナリオが用意されています。中にはお遊び感のあるIF設定のシナリオも用意されています。
 足回りはMSVのせいかもう一歩よろしくありません。メッセージスキップは既読未読を判別して平均程度のスピード。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがそれほど戻ることはできません。ロード直後は使用不可。クイックセーブ&ロードはありません。
 
 シナリオはボリューム不足。20時間を待たずにオールクリアできてしまうのでMSVというせっかくのシステムに対して物足りなさを感じてしまいます。また、このボリュームで個別シナリオが5本という事実から察せられるようにそれぞれの中身は薄いです。
 ヒーローものとして熱さが売りでもあるようですが、全体的に上滑り気味です。普段の蓄積がないままに要所になると唐突に熱く語りだすため、勢いでおおよそ流す、くらいの心構えでないとついていけない可能性があります。ちょっとドラマが軽いです。主人公を始めとしてキャラクターたちの多くは常に情緒不安定のようで安定した人格を感じさせません。屈折した状態から復調すると憑き物が落ちたように豹変して違和感を感じることも。
 ギャグネタはキャラクターたちが特撮、アニメオタクなので臆面もなくストレートに披露してきます。ニヤリとできるかどうかは多分に相性にかかっているのではないかと。
 戦闘シーンはCG、SE、ボーカルなど演出に頼っているように感じられます。数字で敵の強さを語ってしまう、必殺技、超必殺技、新しい変身といったものが全ていつの間にかできるようになっている、緊迫感が感じられないなどテキストによる描写が弱いです。中でも設定として、気の持ちようで戦闘力は大きく変化する、としてしまったのはより強くご都合主義を感じさせて得策ではないように思いました。プレイヤーからドキドキする余地を奪ってしまったような。
 惹かれ合う過程はボリュームのところで少し触れたように分量が乏しく、突然といった感じで強引さが目立ちます。絆と呼ぶものについても同様で知らぬ間に素早く育っていました。
 MSVによる主人公以外の視点描写は補足程度でそれほど大きな意味は持ちません。
 HシーンはIFシナリオも含めればそれなりにバリエーション豊かです。ただ、絶対数はそれほどでもないですし、尺は短めで導入もいきなり感が強いので難しい面も。
 
 CGは本作の要と言ってよく非常に重要な役割をこなしています。世界観の構築という意味において多大な貢献を果たしており、格好良さや迫力といったものは大半がここに集約しているといっても過言ではありません。
 立ちCGは衣装以外に変化なく、フェイスウインドウのみで表情を表現しています。良いものとそうでないものに少しばかりばらつきがあるように感じられました。
 背景CGだけは素材の中で例外というしかないちょっと残念な仕上がりです。
 Hシーンは珍しいことに(ほぼ)全裸と半脱ぎを選ぶことができます。シーンの中身自体が変わる訳ではないので要注意。エロ度はシチュエーションによって開きがあります。
 
 音楽は使用場面に応じて強弱のつけられた曲がしっかりと用意されているように感じました。ただ、自信があるせいかボーカルを筆頭に同じパターンで繰り返し使われているのが少し気になりました。
 SEは戦闘などの目立つ音は問題なく作られているのですが、反面、車のドアを閉める音や人が走る音などはあまりそれらしく聞こえず完成度が低いように感じます。
 ボイスは主人公を含めて主要キャラ限定。つまり、ないキャラクターは重要ではないとわかってしまう切ない仕様です。演技の方は特に問題なく。
 
 まとめ。劣化「Only You〜世紀末のジュリエットたち〜」な作品。チャレンジ精神は買いたいですが、影響を受けたものを自らの内で消化して再構築する、というレベルに至っていないように思います。コストパフォーマンス的にもちょっと。細かいところが気にならず勢いだけで十分に楽しめる人ならば問題ないかと。
 お気に入り:万寿
 評点:60
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、姫萩愛作
 首尾一貫しないヒト。言ったことや誓ったことをすぐに忘れてうじうじするのが得意。空気が読めないのでヒーローショーの主役アクターは仕事だから、所詮、本物じゃないからとか言ってしまう。
 
2、キザイア・緋乃神
 えーと、オープニングでプリンセスドレス(のようなもの?)を着ていて変身後になくなってしまったのはなぜ? 影を借りるという行為もよくわからないのですが。
 クローンな彼女を愛作の前で殺すことに何の意味があったんでしょうか。あの後、しばらく変身できなくなったことを考えても明らかにマイナス効果を生んでいるような。
 アニメ特撮大好きな上、コンシューマーゲームも上級クラス、博士と呼ばれる活動実績、武術も達人級(?)、シロフクロウブリーダーとどんな時間の使い方をしているのか果てしなく謎。
 
3、恩田芹果
 特撮オタクの割にはそれらしい行動はヒーローショーのMCくらいでなんだかアンバランス。子供と特撮の話題で盛り上がれるのにスイッチが入った時にしかそれらしい言動がないのも不思議。
 剣に銃に天使の翼と器用貧乏まっしぐら。
 
4、恩田舜二
 何でも見透かしているキャラ。話していると愛作は必ず誘導されたり、説得されたりしている。ご丁寧に片方の選択肢を潰してから。
 
5、璃国拓斗
 最後のシーンになってから刀の名前をどうにか全部出すところが萌え。
 
6、璃国美衣奈
 地味な営業妨害が得意技。でも、エンディングはパン屋というフェイント。
 で、どうしてシャッテンを感知できるのですか?
 
7、万寿
 回転する姿がラブリー。
 
8、シュレミール
 要するにタイガージョーのリスペクトキャラ。正体の変化球ぶりまで同じ。ゼルクレイダーの設定って望まぬ自分の姿とかだったような。借りることがどうのって記述がありましたけど、それなら借りた相手は誰なのよ、と。


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