162   W.L.O世界恋愛機構〜未来のために、いま恋をしよう。〜(あかべぇそふとつぅ)
 
 近未来。世界は少子化の危機に喘いでいた。種の存続を危ぶむほどに。
 W.L.O世界恋愛機構は黒田祐樹(変更不可)の遺伝子に目をつけた。延いてはその子種で世界を救うために。この日から恋愛お節介大作戦が決行されたのだ。果たして、祐樹が選ぶ相手とは。
 
 あかべぇそふとつぅの新作は真面目なお題目とはあまり関係のないアドベンチャー。
 購入動機は各所での評価が興味を引くものであったので。
 初回特典はW.L.O Special LOVE Book。
 
 修正ファイルが出ています。問題なく快適にプレイするために必ずあてましょう。なお、適用後も誤字はかなり残っています。
 
 ジャンルは特に変わったところのないアドベンチャー。
 足回りはかなり心許ないです。メッセージスキップは既読未読を判別してそれなりのスピード。ただし、画面切り替えなどの演出がほとんど高速化してくれません。また、選択肢間が比較的長いので相対的にかなり遅く感じます。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが、ほどほどしか戻れない上にロード直後は使えません。
 ワイドモニターに対応した縦横比の固定機能が用意されていますが、画面両端の黒いエリアではクリックが効きません。
 ゲーム中、特定のメッセージやメールにおいてクリックが反応せず、ボイスの終端まで強制的に聞かされるという事態がしばしば発生します。バグというよりそういう仕様なのでしょうが、長セリフなどで起きると困ります。
 タイトル演出をスキップすることができません。数秒とはいえ毎回待たされるのはどうかと思います。たかが数秒されど数秒。
 
 シナリオは複数ライター制を採用しているのかと思うほどルートによってばらつきがあります。ボリューム、質ともにいっそ面白いほど差があってライターの入れ込み具合の差なのか、はたまた大人の事情というやつなのか、思わず妄想を逞しくしてしまいそうになります。
 真実はともかく、ヒロイン6人中2人は拍子抜けするほど短いです。基本構成が2人で1ルートを共有しながら途中分岐していくスタイルなので、長いシナリオの方を先に終えてしまうと特にそう感じやすいでしょう。反面、長いシナリオはボリューム十分で長すぎるほど長いです。ライターの気合が入り過ぎて若干、空回りしているようにすら感じられることも。
 話数形式を採用しています。次回予告はありますが、オープニング&エンディング演出はありません。各話のボリュームはまちまちで後半に行くほど短くなる傾向があります。
 本作は長所と短所が非常に明確です。
 前者はキャラクター描写。ヒロインだけでなく数多いサブキャラクターたちも見事なまでにキャラが立っています。おかげでサブには見えないなんてキャラも。ポジションというものがしっかりしているので掛け合いは魅力十分。ただ読んで(聞いて)いるだけで楽しめることも。ヒロインはそんな中でも埋没することなく存分に輝きを放っています。「ヒロイン」の役割は伊達ではないとばかりに。立ちCG込みでのヒロインの表現には製作陣の愛情を感じます。
 後者はそれぞれの物語。馬鹿馬鹿しいほどの設定に対して繰り広げられる筋書きが驚くほどおとなしいです。恋愛描写も含めてですが、基本がシリアスなのかギャグなのかどうもはっきりせず、どっちつかずに陥っている感があります。二律背反に苦しんでいるような面さえ見受けられました。
 惹かれ合う過程はW.L.Oの設定が足を引っ張り気味。恋愛をサポートする組織の支援を受けながら自然な恋愛、「気がついたら好き」を目指しているのでどうしても各所で齟齬が生じてしまいます。しかも、主人公にとって建前上のターゲットが存在しているために(そのターゲット以外のシナリオに進むと)よりややこしいことになってしまう構造的な矛盾。実際、心理描写では意図的に特定のヒロインを無視しているとしか思えないことも。そこを越えてしまえばいちゃいちゃ描写は濃厚すぎて売りになるほどなのでもったいなく感じます。
 Hシーンは各ヒロイン5〜6回。中にはひとつとしてカウントしていいものか、微妙な内容のものも含まれます。尺は全体的に見れば長めですが、シーン毎にまちまちというのが実際のところ。
 誤字脱字はとても多いです。正直、見苦しいレベルに到達しているのが残念。
 
 CGはイベントCGよりも立ちCGがひどく目立っている印象。イベントCGがHシーンに集中しているのと一部のCGを使い回す機会が多いこともありますが、立ちCG自体が表現豊かで大きな存在感を持っていることが最大の理由です。微妙な表情の変化から心の機微を上手に演出できています。
 エロ度は純愛系にしてはかなり高め。シチュエーション込みで盛り上げ上手に感じますが、ヒロイン描写が良いだけにどれだけそのヒロインを気に入っているかどうかが色々と左右しそうです。
 
 音楽は多数の曲が用意されていますが、良くも悪くも似た曲が多いように感じました。状況に応じた曲は用意されていましたが果たしてこれほど必要なのか、とも。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。各キャラのイメージを優先したようなキャスティングは見事と言っていいかと思います。ほとんどのキャラは他の配役が想像しにくいほどはまっています。中でもアリサ・クレイン・フェミルナ役の海原エレナさんの演技は記憶に残るものでした。
 
 まとめ。飛び道具の強力さ、こだわりの落差に驚く作品。多くの欠点を帳消しにするヒロイン描写といちゃいちゃ描写は稀有なものがあります。それだけに短いシナリオはどういうことなのか。すごく不思議です。体力切れ?
 メイド3人娘を攻略不可であるのは悪い夢としか思えません。
 お気に入り:久坂愛奈、アリサ・クレイン・フェミルナ、沖田恵、花崎雪絵、ソラリス・エニモワ
 評点:70
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、久坂愛奈
 これは良い幼なじみ……、とは少し言い難かったですね。キャラとしてはとても気に入ったのですが、幼なじみとしては中学時代のこともあってもう一歩も二歩も足りないように感じました。
 シナリオ上、仕方ないとはいえ幼なじみらしさが少ないかな、と。恋仲になった後もそれらしさを満喫できたとは言えませんでした。当人たち以外の両家の描写があれほどありながら、ほとんど2人絡みのイベントがなかったのも残念。恋仲になる前に久坂家に夕食に誘われて断ったイベントはその顛末も含めて良かったのでもっとあればなぁ、と。こういったこっぱずかしいイベントがあってこそ幼なじみ設定も生きると思います。積み重ねた歴史を語ってこそ、ではないでしょうか。
 おせっかい体質は数々の表情を含めて良かったとは思います。けれど、これも個別の個性でやっぱり幼なじみとはあんまり関係ない。まぁ、これってケースによってはとんでもない空気の読めない体質になってしまう可能性がある……、っていうか依那、優梨子ルートではまさにそんな感じでした。この設定の方が幼なじみよりもプッシュされている感じでしたね。そもそも幼なじみであることをほとんど知られていないあたりにも問題があるような。
 わだかまりが解決してしまえば即恋仲コースというのはちょっと解せない感じでありました。なんか当人たちばかりが理解していてプレイヤーは若干、置いてきぼりだったような。単純な筋書きとしてもW.L.Oのお役立ち度を示すためにも、もうちょっとしっかりした契機があった方が良かったように思います。滝田くんのことを含めてそれまでの苦労がなんだか無駄に近く感じられてしまったのが残念でした。
 
2、アリサ・クレイン・フェミルナ
 アリサは何と言っても声優の海原エレナさんの熱演が光っていたと思います。終盤、かなりダレてくるまでアリサの声は全て聞いていました。まぁ、緊張感を引き締めてくれる声ということもありますけど。
 キャラとしてはかなり魅力的ではあるんですけど、それを伝えるシナリオがあまりにも長い。最初からのプロットがこのままであるならちょっと問題だと思います。焦点がブレたまま延々と続ける様はさすがにちょっとついていくだけでも大変でした。雪絵、ソラリス組の掛け合いさえ辛くなってくるほど。それでいてN.O.Aに疑問を感じるパートがないというのも……。
 恋仲になるあたりがアリサが低調になっていた、という点がなんとなくすっきりしないポイント。好きになるのはそれとは関係ないとわかっていてもなんだか。
 クラスの団結を示すイベントはベタながらも効果的だったと思います。アリサの経歴が経歴だけにそれが持つ意味も大きかったのではないでしょうか。
 
3、サラサ・クレイン・フェミルナ
 最初のHシーンはなんだか意味不明風味でありました。このシナリオに限りませんけど、本作って口に出さない方が尊いみたいなところがあるんですよね。それだけならまだしも、そうでない方は駄目みたいな論理展開をするから押しつけがましさも強くなってしまう。無駄に損している気がします。
 サラサはあのしゃれでは済まない騙しが問題。あんなことをしてしまうこと自体が彼女の抱える問題を如実に浮き彫りにしています。しかも、仕組んだ理由は「その程度で?」と思わせるものでした。真摯に生きるつもりがあるならやっていいことと悪いことがあるのはわかりそうなものですが。結末も説得力があったというよりも泥仕合でごまかしてしまったような感じでなおさら疑問符がつくばかり。目的が正当であるなら(本人が思っているだけですが)どんな手段を用いても構わないのでしょうか。
 病気の実情が不明であるだけにW.L.Oで働き始めるあたりはまるでついていけず。何が起こっているのか、とすら思いましたよ。
 
4、五百倉蛍
 なにゆえヒロインなのか本気で不思議だったヒト。ヒロインであるとプレイ前に知っていながら、ゲームを進めていてちっともそうは思えませんでした。やはりメガネは苦手です。
 で、なんでこの人はこんな年齢から働いているのでせうか。
 
5、依那
 こちらも久坂、フェミルナ姉妹ルートに入っている頃はヒロインだとは全く信じられませんでした。存在感がとっても薄い。メガネを信仰しているので必然的にイメージが悪くなり……。
 おまけシナリオが入っている割にはシナリオ的に優遇されているようにはとても思えませんでした。
 
6、早川優梨子
 鼻血と妄想が売りの全てと言っても過言ではないという時点ですでに厳しい。本人よりもまわりにいるキャラの方が魅力的だったり。
 
7、姫里紗枝
 なんともノリのいい素晴らしい教師。けして自分の担任で進路指導して欲しいとは思いませんが、それ以外は誇ってもいい能力値を持っていると思いますよ。こんな担任なら生涯、忘れがたい学生生活を送れること間違いなし。良くも悪くも。
 
8、帝崎楓
 見た目、性格、生い立ち、声優etc。どこをどう見ても優梨子よりもヒロインに相応しい人材。立ちCGの喜怒哀楽なんてホントに魅力的なのになぁ。依那と3人で並んでいると彼女にシナリオがないとか到底、信じられませんよ。
 
9、沖田恵
 メイドリーダー格。欠点は蛍をえこひいきすることぐらい、というように色々と完成度が高い。便利なポジションということもありますが、それを差し引いても魅力を感じやすいです。おまけに中途半端に伏線とか張ってあって未消化だしねぇ。学園祭期間中の夜に徘徊した時の独り言の意味はどういうことなんですか、と。
 
10、花崎雪絵
 作品中、最強のプロポーションを誇りながら非攻略対象。責任者は出てくるべきだと思います。
 最も楽しいお姉さんで完全に息抜き担当。それでいて思いやりもバッチリという称賛すべきお人。これに比べたら他の欠点なんて些細なことですよ。本当ですよ?
 ソラリスとのコンビがなかなかどうして面白い。デコボココンビと呼んではお互いに不本意に感じそうですが。
 
11、折原捺
 普段の感情のこもらぬ声と予告時の情感あふれる声とのギャップが実に楽しい。皮肉屋だけれど中身は妥当なので恨めない。
 そして、こちらも伏線っぽいものが放置。育ちに何かあるようですが、まさか捺も依那と同じってことはないよね?
 雪絵さんに何かを感じるほど胸は小さいようには見えないんですけどね。恵さんとは違って。
 
12、ソラリス・エニモワ
 安玖深音さんの演技が新鮮。こんな役所もお任せなんだなぁ、と感心しながら聞き惚れていました。メインからサブまで可愛い系から凛々しい系まで自由自在。それでいて演技そのものは大きく変わってはいないのが強みなのかも。
 やはり雪絵さんとの漫才に尽きます。冗長なシナリオ中盤では2人の会話が本当にオアシスのように感じられました。
 メイド3人娘とは違って不思議とヒロインだったらな〜、とは思いませんでした。


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