16   AYAKASHI(クロスネット)
 
 かつて正義感の強い少年であった久坂悠(変更不可)。しかし、2年前に幼なじみを亡くして以来そうした姿は失われていた。それも無理のない話で、およそ惨殺されたと表現して間違いない、幼なじみの死の現場に居合わせたはずなのに悠はそのことを全く覚えていないのだ。そのために警察や近所からも疑われた。失意の底にあった悠を救ったのはもう一人の幼なじみ薬師寺陽愛であった。
 ようやく傷が癒えたかという頃、2年前と同じものが再び動き出す。悠を待ち受ける運命とは。
 
 クロスネット2年ぶりの新作は大作の香り漂うアドベンチャー。その気合のほどは予約特典の60ページを越える設定資料集からも窺えます。
 購入動機は企画意図に期待して、でしょうか。個人的に「DEEPVOICE」以来のクロスネット作品だったので「メイプルカラー」の成功もあって嫌なイメージを払拭したい、というやや身勝手な理由もありました。
 初回特典は特になし。中にトールケースが入っていたのでもしかしたらパッケージが初回特典かも(トールケースにバーコードはなかったですが)。
 
 システムはオーソドックスなアドベンチャー。特別に変わったところはありません。ただ、演出が非常に強化されていますのでスペックに余裕がないとかなりツライです。私の場合は速度重視にしないと盛り上がる局面の度に止まってしまってどうにもなりませんでした。推奨環境程度では不十分ではないかと思います。
 足回りは「DEEPVOICE」の時とは比べ物になりません。世間的には当たり前かもしれませんが、個人的には驚くべき進歩に映ります。
 メッセージスキップは既読未読を判別してほどほどのスピード。演出のため、というのがありありとわかるので環境によってはかなり速いのかも。それでもウインドウモードにしても変わりないのは不思議ですが。メッセージウインドウに機能が一切付加されておらず、スキップにしても必ず右クリックが必要なのは不便なところです。
 バックログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能になってます。ただ、戻れる量がそれほど多くないこととシーン切り替えでログがリセットされることがあるのは残念。
 ストーリーチャートと呼ばれる機能があってこれがなかなか便利です。一度通過していればそのエピソードからの開始が可能で、どこでエピソードが分岐するかもわかるようになっています。つまりルート分岐に関するフラグはそのエピソードだけで完結しているのですね。これは再プレイ時にかなり時間の節約になります。贅沢を言うならエンディング回想もできると良かったのではないかと。
 
 シナリオは全20話。これは1話から20話まであるのではなく、全エピソードを含めて20話ということ。1ルートは最大7話構成。各話にはオープニング及びエンディング演出が用意されています。
 強力なグラフィックに比べてシナリオは明らかに見劣りします。その演出によほど自信があるのか、本当のところはわかりませんがテキスト描写を控えているようにも見えました。戦闘描写においては特に顕著で演出の勢い重視、殺陣や展開はいい加減で筋書きというものが見えません。「猿でもわかる漫画教室」の表現を借りるなら嫌ボーンばかり。各エピソードの展開に工夫がないので終盤に進めば進むほど、周回を重ねるほどに飽きやすさが加速されていくのが悲しいところ。
 日常会話はノリも良く、シリアスな場面との緩急の差もうまく出せていると思います。日常の象徴のような花井のり子の存在がいいアクセントになっているかと(スタッフはメインに絡ませたかったようですが)。
 互いに惹かれ合う過程はほとんどありません。なぜならヒロインは様々な理由でほぼ全員、最初から主人公に好意を寄せているので。主人公の方もそれに反応するくらい。唯一の例外たるヒロインはなかなかうまく表現できています。
 先にストーリーありきなのか世界観にはかなりの粗が見られます。そのストーリーも良くも悪くも少年漫画的でツッコミを受け付けるだけの懐の深さはありません。極端に言えば考えたら負け、です。
 Hシーンは複数回ながらいずれも一極集中。物語から明らかに分離していて、ストーリー作りを半分放棄しているように見えて悲しいです。
 
 CGにはかなりの手間暇かかっているのが感じられます。アニメを思わせる贅沢なカット割り、豊富な素材と入れ込みぶりをまざまざと、文字通り見せつけられます。完成まで時間がかかったのも頷けるクオリティで間違いなく本作一番の売りとなる要素かと。
 立ちCGは衣装こそ少なめですが、表情とポーズはかなり多く用意されています。展開に応じた分だけ、と表現してよいほどなのでかなり見応えがあります。ヒロインの可愛らしさはイベントCGにも引けをとりません。
 イベントCGはやはりアヤカシが強く印象に残ります。アニメも使われていて存在感はかなり大きいです。デザイン的にもオリジナリティがあって新しいアヤカシが出るだけで楽しかったりも。
 Hシーンも同様に力が入ってます。純愛系にしてはかなりのエロ度です。しかし、あまり必要とは思えないサブキャラに無理して用意しているのはどうかと思います。メインヒロインたちにしても他の要素ほど豊富ではないだけにもったいなく感じてしまいます。
 
 音楽は現代劇の中に和風要素を盛り込む、この条件を満たした曲作りができているのではないかと。特に戦闘の曲は疾走感もあって耳に馴染みやすいです。正直に言えば曲の出来にもテキストの不足をフォローする効果が出ていると思います。
 ボイスは主人公以外フルボイス。声優陣は有名どころが揃っていてキャスト一覧を見るだけで期待が高まるほど。男性キャラも演技レベルにおいて負けていません。それだけに本作への評価によって聞こえ方に大きな開きがあったりするのですが。
 
 まとめ。デコレーションゲーム。CGに時間とお金をかけるとどういうゲームになるか、といういい見本。シナリオが抜けて名作と呼ばれる作品が生まれることはありません。しかし、CG、音楽には確かな実力を感じるので次回作には大きな期待を寄せたいところです。初めからシナリオには程々の期待しかしなければ楽しめるのではないかと。  
 お気に入り:夏原織江、真田アンズ、夜明エイム
 評点:60
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、夜明エイム
 結局、アヤカシを2体使えることは制限があるようで全然ないんだよねぇ。それによる弊害なんて一切ないし。実際、何度限界と言われ、その先へ当たり前のように突き進んだことか。本作最強は間違いなくエイムだと思います。
 エイムが顔を赤くする姿は例外なく可愛いです。シーン回想で登録して欲しいくらいの可愛らしさ。しかし、主人公がもう一歩その愛らしさに気付けていないのがもどかしい。
 Hシーンも繋ぎとか、一夜限りとか、そういうところを考えなければ良い出来だったと思います。まー、羞恥プレイがとても似合いそうなキャラなんできっと出るであろうファンディスク(さしずめタイトルは「AYAKASHI H」ですか?)に期待したいところです。
 
2、薬師寺陽愛
 う〜ん。彼女に罪はないんですが、いかんせんシナリオがねぇ。ヤタガラスの特性が特性だけに最後までろくに出番もなければ、1本に繋がった流れも期待できないというのは苦しすぎます。オチも一番あっけないですしねぇ。つーか、言ってはいけないのかもしれないけど本人、アヤカシともに主人公が格好良くないというのが重くのしかかっている気が。
 陽愛はコインランドリーのカット(差分含む)が一番エロいと思います。あの角度は色々と反則でしょ。
 
3、パム・ウェルヌ・アサクラ
 シナリオ的には一番見せてくれます。チビの扱いはどうかと思いますが、パムの成長物語は本作一番の見所ではないでしょうか。特にアキノと対峙するシーンは素晴らしいのひとこと。いっそのことパムにアキノを翻意させれば良かったと思います。それぐらいの説得力を持ち合わせていたのではないかと。
 その反面というわけでもないのでしょうが、Hシーンは割を食ってしまっている感があります。定期的にHシーンを入れる、エロゲーのお題目のために使われてしまったようです。後ろにも用意されていますが、当然のように素材は減らされてますからね。
 
4、夏原織江
 詰まるところ牧原和泉のキャラ、ということなんでしょうけど、もともと知り合いではないところから始めた効果か、暴走する様が大変いい感じです。半ば以上ギャグに使われているとはいえ、キッパリした告白シーンも好印象。
 水族館デートのイベントCGが相当の効果を上げています。構図はもちろんのこと2人の表情も本作で屈指の出来で珠玉のCGに仕上がっているかと。
 
5、真田アンズ
 絶対血がつながってないよ、とか思う妹さん。出番が少ないながらとても良い役割を果たしています。個人的には黒い服のままでいて欲しかったなぁ〜、と。Hシーンは正直いりません。
 
6、彼とかアキノとか
 主人公側のキャラクターに比べて著しく魅力に欠けている印象。もう少しなんとかして欲しかったところです。


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