135   水平線まで何マイル?−Deep Blue Sky&Pure White Wings−(ABHAR)
 
 まったり活動を主目的とする宇宙科学会は窮地に立たされていた。その活動内容がゆえに執行委員会に目をつけられ最後通牒まで突きつけられてしまったのだ。会を存続させるには真っ当な活動で結果を出すしかない。しかし、真面目に青春しては本来の目的からして本末転倒である。会を救うに乗り気になれない平山空太(変更不可)であったが会長はモーターグライダーの大会に出ると息巻いた。果たして宇宙科学会の運命は。
 
 ABHARのデビュー作は意欲的な企画のアドベンチャー。Tシャツコンテストやミニゲームなど近年では珍しいほどイベントにも力が入っているように感じました。
 購入動機はやはり企画に惹かれるものを感じて。あとは原画もたいそう気に入ったので。
 初回特典は豪華ゲストイラスト冊子。予約キャンペーン特典はUchihama Trekker。
 
 やや大きめの修正ファイルが出ています。鑑賞モードの手直しや誤字脱字の修正に演出強化というあたり。あてなくともクリアには問題なさそうです。ただ、私の環境では選択肢後のスキップ継続機能が作動しません。音楽が止まることもありました。
 
 ジャンルは基本的にいつものアドベンチャー。画面配置がやや変わっています。画面の左半分に立ちCGを表示して(常に一人だけ)、右半分をメッセージウインドウにして表示。右下はフェイスウウインドウのように使われています。立ちCGのキャラと対話するイメージです。
 足回りはやや不足感が目立ちます。メッセージスキップは既読未読を判別して高速。
 バックログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。ロード直後には使用できませんがかなり戻ることができます。
 上述したように選択肢後のスキップ継続機能が動きません。また、クイックセーブ&ロードが未搭載。これは予想以上に不便でした。
 テキスト中に出現する赤い文字をクリックすると用語解説機能が起動します。便利ではありますが、表示された文字とリンクされた項目が違って戸惑うことも(内容的には被っていたりする)。この中ではホイールマウスが反応しません。
 
 シナリオは結果よりも過程を重視するタイプ。具体的にはモーターグライダーの学内予選会、本大会とも描写はほとんどありません。あくまで大会に向けた活動内容がメインです。知らないとかなり肩透かしに感じやすいかと。過程を重視と書きましたが、残念なことに過程ならば内容が充実しているという意味ではありません。大会描写に比べれば、という話です。
 作品中のイベントスケジュールは各シナリオで基本的に同じです。そのせいもあってか各ヒロインごとのシナリオにおける差別化がとても弱いです。5本中3本は全く同じパターンを踏襲しているので段々と飽きてきます。また、その中においてもキャラクターの心情描写の扱いがとても軽いです。伏線の働きも小さく、納得できるイベント構成ができているとは言い難いです。大会に挑む物語としてもヒロインとの物語としても中途半端。
 日常の掛け合いは専門用語を含めてなかなか楽しく読ませてくれます。ヒロインのキャラが立っているので特別でない会話でも十分に楽しめます。教官というキャラやSDカットによる「○○講座」というものの存在から「トップ○ねらえ」のオマージュを激しく感じます。好きな人は楽しめるかも知れません。
 テキストは曖昧な扱いが目につきます。主人公のセリフがそれなのですが、「」で括っているものだけでなく、地の文がセリフ扱いとなってヒロインと会話することが頻繁に起こっていました。顔色を読み取られているのか、しっかりしたセリフなのかわかりにくいです。なぜこのような文章にしたのでしょう。
 Hシーンは各ヒロイン1回ずつ。その配置されている場所もエンディング直前やエピローグだったりしてどこか困っているように見える面も。1回しかないので寂しいのはもちろんですが、初めての内容に無理を感じることもありました。
 
 CGは作品の売りとするに十分すぎる仕上がりです。立ちCGは特に素晴らしく表情、ポーズに衣装と驚くほど多彩でヒロインたちを魅力的に見せてくれます。中でも白目のカットは出色の出来です。ただ、Hシーンはもちろんですが、通常のイベントCGにも衣装がそれほど反映されていないのが残念。
 背景も世界観の醸成にしっかりと貢献しています。枚数は20枚ながらそうとは感じさせない存在感があります。
 Hシーンは意外とエロ度が高めです。それだけに1回しかないことがとても悔やまれるのですが。
 
 音楽は田舎を思わせる素朴な曲が多く揃っています。もちろん、題材が題材なので例外に当たる曲もありますが。特定のシナリオでしか聞けない曲もあり、周回を重ねた後で新鮮な感覚を与えてくれます。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。キャラクターの見た目を裏切ることのないキャスティングがされていると思います。演技のレベルも高く実に聞き応えがあります。
 
 まとめ。デビュー作に割りとありがちな作品。CGに力の入った作品ほどシナリオが弱いのはもはや真理でしょうか、というほどに。企画の内容が高い期待を呼びやすいものであったのは止むを得ないところでしょうか。
 それでも、期待するだけの素材を持ったチームだと思うので2作目以降の進歩を見守る価値はありそう。脚本のレベルアップを望みたいところです。
 お気に入り:名香野陽向、津屋崎湖景
 評点:60
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、宮前朋夏
 なんかあんまり演技が合いませんでした。どうも実態には自信がないんですけど、個人的にはあまり上手な演技には聞こえなくて一人だけ半分くらいしかボイスを聞いていません。
 ショートカットにしてしまうというのは思い切った判断ながらそれを行うのが他のヒロインのシナリオというあたりなんだかもったいないような気も。障害を克服して吹っ切れた朋夏が、という方が効果的なように思えます。立ちCGまで用意しているんだから。
 幼なじみとしてのスペックの低さというか描写の不十分さがここでももったいなさを生んでいます。限定的に「結婚の約束をした」@湖景シナリオと明かしたりするのもなんか後出しジャンケンのようでどうも。互いの家のことを全く書かないと幼なじみキャラってのは一気に難易度が増しますね。
 
2、名香野陽向
 本来、厳しい人なのに責任感の強さとお人好しな面のために貧乏くじを引いてしまうあたりが魅力的です。自身の能力に無自覚で誉められ慣れていないゆえに、ちょっと称賛されただけで真っ赤になってうろたえまくりというところも可愛くていい感じ。先輩であるところがまた威力を増しています。
 それだけにシナリオの方がもったいない(本作の評価は本当にこう表現したくなることが多い)。もうちょっと丁寧に描写する術をこのライターさんは学んだ方がいいですね。要点を書きたい、書いてしまいたいという意識が強すぎるのかも。
 陽向先輩の寝姿はちぃとヤバすぎです。テキストの表記とは異なりますが、CGを見る限りではTシャツが首までまくれているような?
 
3、津屋崎湖景
 なんか意外なのは個別ルートに入って頭を撫でるシーンが一切なかったことですかね。てっきりその意味合いが変わってくるのかな、と思っていただけにそもないとは全く予想外。
 いただけないのは好きになった理由がゲームが始まる前にあるという点。土壇場で後出しジャンケン(こう評したくなることも多い)のように明かすのもマイナス。
 記憶喪失に至ってはもうなんというか悲しくなってしまうほどの超展開。これにかこつけて幾つもの課題を消化するというのもちょっと情けない。
 「ロリコンさんなんですか?」と聞かれたならばあらゆる熱情もさめてしまいそうです。
 
4、古賀沙夜子
 色々と唖然とさせられることが多い方です。勝利至上主義のような姿勢を見せながら、大会参加前にはまったり部活動だったり、参加を決めた後も基本は遊んでいるようにしか見えなかったり。少なくとも彼女が結果への努力や執念を見せてくれたことはなかったように思います。天才型の人間っぽく見えても結局は努力の人だしなんか言動と行動が合わないよねぇ。
 大会後の行動も浅はか以前の問題。自分の勝手な思いからみんなを巻き込んでおいて、望む結果が得られなかったらはいさようなら、ってどんな人間ですか。
 空が嫌いなんて設定も最終盤になって初めて出てきたものだし、それを基本線にして色々語られてもねぇ。まして本当は勘違いでした、なんて言われてもプレイヤーは完全に置いてきぼりですよ。
 「〜するといいと思うよ〜」には聞き飽きました。ちょっとくどすぎたのではないでしょうか。
 
5、花見麻里矢
 せっかくゼロからのスタートという間柄だったのにそれを活かしきれなかった感じがもったいない。ライターの出した結論が大会が終わっても恋仲に至らない、というあたり切ない。もうちょっとがんばりましょう、という感じ。
 エンディングがちょっとおかしいような気も。第1回大会から1年後に飛行機が完成してロシアに飛び立つって一体どうしたらそんなことが可能なのか。


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