133   水夏〜DVD版〜(サーカス)
 
 名は体を表すかのような、いつまでも豊かな自然を失わない常盤村。かつてその村に住んでいた少年稲葉宏(変更可能)は青年期を迎えて懐かしき故郷に帰ってきた。
 それと時同じくして黒猫のぬいぐるみを抱いた銀髪の少女が村に訪れる。二人が出会うとき、常盤村では少し変わった、いつもとは異なる夏が始まった。
 
 サーカス第四弾。前作「インファンタリア」からの流れもあって、更なる進化を期待して購入しました。個人的には初のオリジナルDVDタイトルだったりします。
 
 DVD初回版はアレンジサントラCD、描き下ろしカレンダー、アルキメデスTシャツ付き。通常版はマウスパッド付き。初回版はTシャツのために箱が大きかったりします。マニュアルによるとアレンジCDはゲームCDの代わりに使用可能とのことですが、一体どうやって使うのかわかりません。ゲームCDがなければ起動してくれませんし、ゲーム中にも差し替えは出来ない仕様なんですよね(コンフィグも無反応)。
 
 システムは第一章から第三章までがビジュアルノベル形式、プロローグ及び第四章がオーソドックスなアドベンチャースタイルになっています。区別されている理由は視点変更にあるようで、第一章から第三章にはそれがあり、第四章にはありません。
 各章には異なる主人公が用意されています。全て同じ時間軸で展開する物語です。各章の選択肢の中には後の章に影響を与えるものもあります。
 足回りは微妙です。一見、至れり尽くせりのようですが、今一つポイントがズレているような部分が散見されます。
 ビジュアルノベルパートとアドベンチャーパートでシステムが微妙に異なることもそのひとつです。
 メッセージ巻き戻しもあまり意味がありません。ビジュアルノベルパートではただでさえ「シナリオ情報」をコンフィグでオンにしなければ使えないというのに、シーンが変わるとその前に戻れなくなってしまうからです。選択肢でも同様です。個人的には有効に使えた試しがありません。
 メッセージスキップも装備されていますが、コントロールキーを押しっぱなしでなければ効果が持続しませんし、キャラクターや背景の切り替え速度が変わらないので非常に遅いです。初めからコンフィグをいじっておけば実用にはどうにか耐えるラインかと。
 コンフィグはプレイ環境を整えるもの、という作り手の意識は感じられるのですが、どうも首を傾げることが多いように感じました。それほど必要とは思えない部分にばかり気をつかっているような(フォントの透過など)。
 
 シナリオは基本的にオムニバスとなっています。各章の物語は独立していて、継続されるタイプではありません。関連性が皆無な訳でもありませんが。
 第一章から第三章までは視点変更が頻繁に起こるので慣れるまでは大変かもしれません(第二章はそれほどありませんが)。特に第一章は時間(時代)まで変化するので要注意です。
 今作は一見、キャラクター重視のゲームでありながら、実際にはシナリオ重視のゲームになっています。そのため、時折キャラクターとシナリオの間で齟齬が生じていることがあります。
 簡単に言えばキャラクターの特徴がシナリオに関係しないケースが多いのですね。どうも単なる特徴付けにしては浮いている印象があるというか。特に第一章ではその傾向が強いように感じました。
 ただし、第二章は例外。ここだけはキャラクターとシナリオがうまく融合していて、全体のなかでも妙に存在感があります。
 
 CGは前作よりもかなりレベルが上がっています。夏に相応しい明るい色調のものが多く用意されているかと。
 キャラクターは非常に魅力的に描かれていますが、それに比べて背景はやや寂しい印象を受けます。もう少し、こだわりある背景にして欲しかったです。全体の調和として見るとどうしても劣ってしまっているんですよね。
 立ちCGはキャラによって少し差があるように感じました。例えば第一章ヒロインは動作、表情共に鈍いですが、第二章ヒロインは実に多彩に動作、表情を変化させている、という感じで。
 
 音楽は出しゃばり過ぎず、かといって地味過ぎず、かなり絶妙なさじ加減が達成されているように思います。今作のように読ませるゲームにはもってこいの曲作りかと。中でもいわゆるベタなシーンで使われる曲がそれぞれ秀逸な仕上がりです。
 アレンジサントラが付属されているのも実に納得できます。
 オープニングテーマとエンディングテーマの歌詞が同じというのは珍しいかもしれませんね(曲は異なりますが)。
 ボイスは今回もメインとなるヒロインのみ。レベルの高い物語を構築する上で、男性キャラに声がないのはどうにも痛いです。今回は前作以上に強くそう感じました。
 声優さんのレベルは相変わらず高いです。特に鳥居花音さんの演技はすでに芸術の域かと。それだけに無音の方々は惜しまれます。
 
 まとめ。読み返すとずいぶん厳しいことを書いていますが、このゲームの場合はかなり気にいったがゆえ、です。正直、不満な点はありますがそれ以上に長所が光っていたと思います。
 個人的にわかりやすい薦め方をするならば、「とらハ2」の椎名ゆうひが好きな方は買うべきです(断言)。もちろん、全く同じではありませんが、それぐらい魅力的ということです。私は第二章だけで元はとったと言い切れます。
 お気に入り:すでに書いた気もしますが白河さやか、若林美絵
 評点:71
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、水瀬伊月
 オタクで巫女さんというのはアイデア的には面白いかもしれませんが、実際にはどちらの要素も中途半端でうまく消化されていないのが残念。ストーリーとの関連がないに等しいのもツライかと。
 そもそも彼女が未経験の巫女の業務をしながら主人公を待つというあたりに無理が生じているように思います。
 シナリオ的には伊月、小夜のどちらが気に入っていても報われないラストなのが厳しいです。
 
2、風間彰
 怖過ぎ。どうしてだか全四章中、主人公の中では彼にだけCGが存在している。視点変更という意味では二章にだってあるはずなのに。
 目と目がどう見ても離れ過ぎているんですよね。ムッとした顔はさらに怖さ倍増。
 
3、白河さやか
 なんとも素敵な先輩。うまく表現しにくいですが、普通にヘンなんですよね。怪しい語尾や口癖がある訳でなく、思考そのものが常人は異なっているというか。
 感情がストレートに顔に出る様子は実に魅力的。特にちょっと怒った顔は反則的な可愛らしさ。
 もう少し勉強するパートがあっても良かったのではないかと。お馬鹿さんぶりがなかなか微笑ましいので。
 蒼司くんの妹ともっと戦うシーンが見たかった。電話越しの会話だけではもの足りません。
 
4、若林美絵
 出番の少なさとボイスのないことが本当に悔やまれるキャラ。先輩との掛け合いは何気にいい感じなのでもう少し見たかったかなぁ、と。
 根の暗そうな兄を持って苦労していそう。だからああいった気持ちのいい性格になったのかもしれませんが。
 
5、上代蒼司
 CGは出てこないのでわかりませんが、見かけで判断すると痛い目にあうタイプでしょうか。実は結構、怖いところも持っていたのですね。
 でもまぁ、結局先輩を殺すことは出来なかったでしょうね。彼に妹を泣かせることが出来るとも思えませんし。その妹のCGがないのは実に残念(ボイスも)。
 
6、柾木茜
 声優さんには本当にお気の毒さまとしか言いようがありません。どのような台本かはわかりませんが、到底納得出来るハズもないでしょう。ラストまでまともな伏線がないからどう見たって豹変したようにしか見えないよなぁ。
 透子のことがどうしてそれほどまでに好きなのかわからないのでどうにも。兄のことを嫌いなのかどうかもよくわからないし。
 
7、京谷透子
 茜ほどではありませんが、何を考えているのかわからず。そもそも過去の出会いからして三人の関係が不明。どうして初めて茜と良和が会うシーンで透子がいるのか。なぜ彼女はそれほどまで依存症なのか、そしてその相手が良和なのか。ちょっとわからないことが多過ぎますね。
 
8、柾木良和
 全章中、最も存在感無し。役割的にも主人公ではないような? ていうかこの章の主人公は茜でしょうね。
 
9、名無しの少女
 えー、なんというか声優さんのイメージからキャラを作ったのではないか、そんな疑惑を持ちたくなるキャラ。個人的にはロリでなければねぇ、という感じ。
 彼女の姿が見える理由も少し弱いなぁ。うっかりしていると気づきそこねるくらい弱いです。
 アルキメデスの方が存在感大きいのもなんとも。タイトルの意味はなんだか残念。もっと感心するような理由かと思っていただけに。
 
10、七条華子
 野球観戦が好きという設定はナイス。それを千夏の正体発覚とかに使ってくれればさらに高ポイントだったのですが。
 下戸なようですが、個人的には一緒に酒でも飲むと楽しそうです。
 
11、稲葉ちとせ
 第四章はどう見てもダブルヒロインなのでちとせに声がないのは明らかなマイナス。表情とかも少ないように思えます。
 可愛い妹なんでイベントCGももっとあると良かったのですが。会話もお嬢に比べて少ないのが不満。
 
 全体を通しての不満は各章の関連性の低さ。一見、関係のない話が実は根底で繋がっていて第四章でそれが明かされるというのを期待していただけにどうも不完全燃焼な気がします。こういう作りならせめて各章のアフターストーリーぐらいあっても良かったのではないかと思います。
   


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