126   終末少女幻想アリスマチック(キャラメルBOX)
 
 丸目蔵人(変更不可)は剣術だけが取り柄の田舎の一学生にすぎない。そんな彼が都心に作られた新東雲学園に招聘された。訳もわからずやって来た蔵人はさらに荒唐無稽な話を聞かされる。
 散花蝕−ペトレーション−
 それは世界を破滅へ導く怪現象。なんとこれを回避するために蔵人たち武芸者の力が必要だというのだ。果たして終末の行く末は。
 
 キャラメルBOXの最新作は珍しく原画家を変えての意欲作。個人的に初キャラメルBOXなのでこわごわと手を出したという感じです。
 初回特典はキャラメルパッケージ仕様、カラーピクチャーレーベル、アリスマチック設定資料集。
 
 ジャンルは特に変わったところのないアドベンチャー。カルタシステムなんてタロットカードを集める要素がありますが、フラグを視覚化したようなものでジャンル的には特別なことはありません。具体的には特定のカードがないと進めないルートやエンディングがあったりという按配。
 他にもモーションノベルシステムなんてのを搭載しています。これは立ちCG時の演出効果のことを指しているようです。大層な名称をつけているわりには特に目に留まる表現はなかったように思います。他ブランドの作品と特に差はないように感じました。
 足回りはそれなりに。メッセージスキップは既読未読を判別してほどほどのスピード。選択肢間が長いこともあって相対的にはかなり遅く感じますし、実際に時間も無視できない程度にはかかります。なおスキップ作動中は解除しないとセーブ&ロードができません。
 バックログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがほんの少ししか戻ることはできません。個人的にはバックログ画面を出すとボイスがキャンセルされてしまうことが残念でした。
 
 ゲームは章単位で構成されています。ルートによって長さも変化。章の区切りには次回予告演出が用意されています。章ごとのオープニング及びエンディング演出はありません。
 シナリオは色々と中途半端です。大きすぎる風呂敷を用意したが、その中に収める品物は予想以上に小さくなってしまったという印象。世界レベルの話でありながら舞台がとても狭く登場人物も少ないです。それが設定に厚みを感じさせない一番の要因になっています。いわゆる味方側に登場人物が集中していて、敵側のそれがほとんどいません。必然的に各ルートの当該ヒロイン以外の扱いを雑にせざるを得なくなっています。まさしく敵がいない弊害です。ヒロインに思い入れを持つことが前提のエロゲーにおいて、これはあまり賢い選択とは言えないのではないでしょうか。
 シナリオの展開にゆとりがないのももったいない点。共通ルート以外では必要最低限のイベントでシナリオが進行していくために各シナリオがかなり似通ってしまっています。小イベントの中身も差別化ができていないので周回を重ねるごとにマンネリの傾向が出てきやすいです。せっかくクライマックスの展開に差異を生んでもこれでは効果が半減してしまうのではないでしょうか。
 本作は基本的に周回を重ねることで少しずつ謎を明らかにしていくタイプのゲームです。プレイヤーのモチベーションを高く保つためにも興味を引かれる謎の設定は重要になります。もちろん、それをどうやって明かすかも大事なポイント。衝撃を受けるか、感心するか、深い満足を得られるか、カタルシスを感じられるか。作り手のセンスとプランが問われるところです。しかし、本作はそれがイマイチ。どうにも奮いません。
 キャラクターはメイン、サブともに個性豊かでしっかりとキャラが立っています。中にはメインを食いかねないほど無駄に魅力的なサブキャラも。そんな面々が織りなす日常の掛け合いは楽しくほどよく笑わせてくれます。
 互いに惹かれ合う過程は刀伎直冬芽を除くとあってないようなもの。説得力は選択肢を選んだ際の好感度上昇の数値表示でカバーという感じです。なにせ、テキスト中に主人公しかいなければモテるに決まっている、という意味のセルフツッコミがあるくらいですから。ただ、冬芽シナリオに限っては非常に丁寧に書かれています。
 戦闘描写は非常にあっさり。文章量自体がコンパクトで熱い駆け引きや燃える描写なんてものとは無縁です。結着が唐突についてしまうことが多く、キャラクターの強さがなかなか感じられません。少なくとも戦闘シーンを目当てに購入するのは厳しいかと思います。
 Hシーンは各ヒロイン1〜2回程度。物語に無理なくどうにか入れたという感じなのでエロ度という意味での期待は禁物です。それでも、もったいつけたヒロインのHシーンが少ないのは切なくなります。テキストではハートマークが乱舞。他に比べて異彩を放っていると言っていいでしょう。
 
 CGは本作独自の魅力を出すことに成功しています。従来と異なる原画家を起用することで新しいイメージを打ち出すこともできたのではないでしょうか。
 戦闘演出はこれに関する素材自体が少なくワンパターンな印象がありました。もうちょっと飽きさせないための工夫も必要なのではないかと。直立した状態の足のカットを傾けて使用して「蹴り」としているのも気になるところです。
 立ちCGはポーズ変化は少なく、多彩な表情や表現で勝負しています。キャラの魅力を感じるには十分です。
 イベントCGはクオリティも申し分なく枚数の方も100枚近くとなかなか。ただ、一部のCGにはわざわざこれが必要なのかなぁ、と思うものも。個人的には設定資料集の中の一部のカット(特に冬芽)の方がより可愛かったりするのは微妙なところでした。
 
 音楽は戦闘のある作品としては意外なことに静かにしっとりと聞かせてくれる曲が多いです。ゲームから離れて聞いても十分に楽しめるのではないでしょうか。
 ボイスは少しばかり変わった仕様になってます。主人公を除いた全員は男性も含めてフルボイスなのですが、なぜか主人公だけはパートボイスです。傾向も決まっていて戦闘描写があるところに絞って収録されています。なぜこんなことになったのでしょうか。無音の間にイメージができてしまって喋り始めると違和感を感じることが多かったです。
 その他のメンバーは演技も問題なく安心して聞くことができます。
 
 まとめ。企画発案から完成までの短さを痛感してしまう作品。露骨に色々なところから影響を受けていて、一旦かみ砕いてからの再構成が上手くできていない感じです。設定を十全に活かすためにはもっとボリュームが必要だったように思います。
 お気に入り:刀伎直冬芽、觀興寺六花
 評点:70
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、月瀬小夜音
 「私の恋は世界を救う」、なんてキャッチコピーがあるくらいですから、てっきりメインヒロインかと思っていたのですが、蓋を開けてみればどうもそんな感じではありません。伊織先輩や冬芽の方がずっと特別扱いされているように見えます。
 設定が特殊なんてのはほぼ全員に当てはまるので意外とアピールポイントに苦労しているようにも感じられます。いつでもドレス姿くらいしか特徴がないとは言いすぎか。
 小夜音の場合、アンバランスさが肝かとは思うのですが、それが行き過ぎて嘘くさいレベルにまで到達してしまっているのがなんとももったいない点。長所はもちろんのこと、短所まで都合よく見えてきてしまうのですな。個人的にはラフィール@「星界の紋章」から良いところを抽出してしまった後というイメージ。
 点の目にバッテンの口とか可愛いんですけどね。男女の機微どころか女同士のことさえよくわからない。それでどうやってスパイの棟梁を務めるのでしょうか。
 ドレスに重りを仕込んでいるのは亀仙流を思い出してしまってかなり萎えました。単に脱ぐだけでも戦闘力は飛躍的に上がると思うけどなぁ。なにしろドレスなんか着て戦っている訳ですから。
 スパイ稼業に関しては実のところ、別にいらなかったのでは? とか思わないでもないです。物語に有効な形で寄与しているとはあまり思えないんですよね。圭だけで十分なのでは。
 
2、觀興寺六花
 手袋のネタは感情移入のさせ方がもう一歩でした。六花以外には理解しにくいという描写であったように思います。なくなった途端にいきなり大切だったんだ、とかいう書き方が良くないのではないでしょうか。事前にさりげなく手袋のアピールがあればもっと違ったと思います。いつも軽い六花が手袋をつける時は妙に静かにシリアスになるとか。
 シナリオはシューティングゲームばかりしていたような。他にあまり建設的なイベントがなかったようにも。浴衣がファイナルウェポンというのもちと寂しいです。それにお祭りイベントはほとんど全員にあったしねぇ。
 六花は日常の掛け合いの方がずっと面白かったです。酷いこと言ってしまうと恋人になるよりも妹または友人であった方がずっと楽しめるんですよね。
 散々いじられた胸ネタですが、実際にはそんなに小さくは見えないですよねぇ。スリーサイズなどの情報がないのでよくわかりませんけど、CGからすると標準サイズは優にあるように見えますよ。
 それにしても「ブリザードアクセル」のヒロインといい、六花というのは片づけられない人の名前なんでしょうかね。
 
3、中条白衣、黒衣
 取りあえずどうしても思ってしまうことは人材不足という言葉。設定も、見た目も、武器も、趣味も、テキストも、戦績も、何もかもが強そうに見えない。色々なヒロインを揃える、というエロゲーの基本以外に彼女らを登用した理由がわかりません。誰と戦っても不利というあたりが泣けます。
 キャラとしては黒衣があまりにも典型的すぎてそのままでは全く他人と絡めない、というあたりが違う意味で面白かったです。2章になるといきなり態度が軟化していますしね。それまでだとテキストにもあった通り、まず白衣と絡ませないと登場さえさせられなかったですから。
 シナリオは「To Heart2」の姫百合姉妹シナリオとかなり同じというのが経験者としてはツライところ。しかも、どちらかというと向こうの方が出来がいいのがまた……。キャラ的にも向こうに軍配が上がりそうで。クマ吉やイルファもいるしねぇ。
 
4、疋田伊織
 とても意外な真打ちキャラ。ヒロイン陣を見回した時にまさか先輩がこうして優遇されているとどれだけの人が思ったでしょうか。しかも、親父さんの設定とはまるで関係ないあたり相当に意表をついてます。
 しかし、どこまでいっても意外性の人なんですよねぇ。最初は確かに一見すると……、ですが終わらせてみると中身でも意外というイメージは覆せない。性格的にも同様。ホント、なぜ先輩に冬芽と対の役割が与えられたのかよくわかりません。
 他シナリオでの扱いの低さもそうしたイメージを強めてしまっています。六花シナリオなんかでもそんな感じ。なんか足手まといっぽくも見えてしまうんですよね。
 
5、伊集院観影
 なんかバランスがおかしいですよね、この人。科学者として優秀で屈指の剣術家というのはどうなんですかねぇ。これ以上ないほど食い合わせの悪い2つの道のような気がしますけど。
 序盤のエロ要員。別にいらないデスヨ?
 
6、上泉信綱
 どう考えても便利すぎ。実力的にも存在的にも。ジョーカーキャラってのはよっぽど工夫しないと面白くないです。
 
7、小鳥遊圭
 信綱ほどではないもののかなり便利なキャラ。というか狂言回しだよね。観影先生が基本として驚き役なので圭がそういうのを務めるしかないという。
 
8、刀伎直冬芽
 堂々のメインヒロイン。先輩がそうは見えないという、あまりと言えばあまりな理由からでもありますが。
 ただ、もったいつけたわりにはオーラスとか呼ぶほどの特別さはありません。クリア順制御がかかってますけど、最初からクリアできてもそれほど問題ないように思います。ひかりの問題を処理すればいいだけ。というか、なぜ第2プロローグから始まるシナリオは小ひかりの存在を消してしまったのかよくわからない。4人分のシナリオで同じパターンを踏襲しておいて、そこからマンネリ回避というのも考えにくいですし。なにより手紙は変わらず出現するのだからプレイヤーはまだしも、登場人物にとってはエピローグとか訳わからないですよねぇ。あんなにソフィアーと親しくするシーンがありましたっけ? そもそもこのフラグ立てだと小ひかり=ソフィアーとも繋がらないですよねぇ。なにせ思い出にしかでてこないのだから。
 冬芽は剣術家でないだけに目立つ出番は限られていますが、そのわりに存在感は随分と大きいです。六花に負けていないくらい。驚いたり、焦ったりする表情は実に可愛らしく普通に和みます。同じ表情でこれほど効果があるのはなかなか珍しいのではないでしょうか。
 図書館の一緒にお昼寝するシーンがお気に入り。こういう何気ないイベントって本作には貴重ですよねぇ。たいていは本筋と何らかの形で繋がっているものが多いですから。六花のゲームにしたって。
 ただ、ラストは強引というかなんというか。そこまでしなければ復活させられないなら、最初から100%死亡というルールにしなければ良かったのに。そう思わずにいられません。個人的には目は見えないままでも良かったかなぁ。その後で特に治癒したことを有効活用するシーンがある訳でもないし、盲目でも幸せになれると冬芽は本編中でも言っていたのですから。なにより目が見えるようになったら慌てふためく機会が明らかに減ってしまうではないですか(そんな理由か)。
 
9、仁保逸美
 我ながら深読みのしすぎですが、冬芽シナリオではどんな目に遭ってしまうのかとドキドキものでした。舞台に関係ないところでは唯一、立ちCGを持っているサブキャラですからてっきり何かあるものだとばかり。水着屋の店員には用意されていなかったですからねぇ。
 まぁ、それと単なるサブキャラにしてはデザイン的に個性がありすぎなんですよ。ただ、良いキャラというだけでなく冬芽がへこみそうになるのを救ってくれたりもしますし。ストレーニアンになるのが逸美さんでなくて本当に良かったですよ。
 見た目的にもそれは言えて、よく六花が爆発しないなー、というくらいの素敵な自己主張。よもやそれを示唆する具体的なエピソードまで出るとは思いもせず。声優にしても、白衣より逸美の方をまきいずみさんは生き生きと演じていたように感じられたくらいで(キャラゆえかも知れませんが)。
 ファンディスクで逸美さんのサービスシーンとかあったらさすがに笑いますね。


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