「とらいあんぐるハート」シリーズの都築真紀氏が贈る新しいゲームの形態。「桜待坂」という土地を舞台にしたオムニバスストーリーでストーリーごとにかするくらいの関連性を持たせているようです。今後の予定は不明ですが、今作には2本の毛色の異なるストーリーが入っています。
購入動機はやはり都築真紀作品だから、でしょうか。「とらハ1」以来のまともな原画担当という点も大きな魅力でした。あとは露と消えた「A10」という企画も無関係ではありません。その分の期待も多少は込められています。
初回特典はサウンドステージゼロとパッケージ。サントラの名前がこれからのCDの展開をまざまざと語っています。ゲーム本体はDVDトールケースに封入。恐らく通常版はこのまま売るのではないかと。バーコードもついてますし。
ivory(ジャニス)と言えばいつものお約束、修整ファイルのご案内の時間です。しかし、一部の期待を裏切るようですが、今回の修整内容はいたっておとなしめ。別段、あてずともクリアすることはできました。ただ私の場合はインストールしてあるにも係わらず、修整プログラムが認識してくれなかったのであてることが叶わなかったのですけど。
システムは色々と意欲的な試みがされています。
シナリオ「フレンズto Sweets」のヒロインの名前及び愛称を設定可能。主人公はどちらのシナリオも変更可能で3人全てデフォルトネームも用意されています。デフォルトネームであっても名前に対するボイスのフォローはありません。
なかなか勇気のいるシステムだなぁ、と思いましたがよく考えてみると(登場人物の少ないシナリオでは特に)ヒロインの名前を一番呼ぶのは主人公なので予想より違和感は少なかったです。また、自分で名付けたヒロインに魅力を感じられると思った以上に嬉しかったです。ちょっと意外なくらいに。かなり個人的な感想を書くなら脳内音源で名前を補うのも結構、楽しかったです。
もうひとつのウリ(?)、ふにぷにシステムは「さわれるH」という触れ込み。かつてあったようでなかった、と書かれていますが、これは早い話が昔のエルフやシルキーズなどに代表されるアイコンによるHシーンとほとんど同じ。部分アニメーションも含め、目新しいものは感じませんでした。ただ、2回目以降のプレイにおいてスキップ可能なのは良い配慮かと。
ゲームを進めるのはいつものアドベンチャースタイル。しかし、メッセージウインドウや日付表示などシナリオの雰囲気に則したものがそれぞれに用意されています。
足回りは安心するほどいつものivory仕様。すなわち安定度を欠いています。メッセージスキップは一応、既読未読を判別するもののシーンの切り替わりや選択肢後によく止まります。特に選択肢後は止まらないことが正式仕様なのでは? と思うくらいたまにしか継続スキップしてくれません。
バックログは2種類を用意。ログボタンによる巻き戻しは別画面にて行います。ボイスのリピート再生可能、ホイールマウスにも対応していてそれなりに逆上れます。
ホイールによる開始のログはまさしく逆戻し。立ちCGと背景だけではなくイベントCGも再現してくれます。ボイスは自動再生。当然のことながら少ししか戻ることはできません。
安定度を欠いているのは確かながら着実な進歩もしているので、もう少し真面目にバグ取りをして欲しいところです。
シナリオは個別に。まずは「フレンズto Sweets」。
ちょっと変わったヒロインとの甘々な通い同棲ライフ。これで全てを言い表しているといっても過言ではありません。主人公とヒロインが互いを理解していくことに主眼が置かれています。よって筋書きらしい筋書きは特にありません。
テキストとしては「とらハ」シリーズが懐かしくなるような都築氏独特のリズムは健在。今回は2人とも料理が不得手という設定なのでシリーズファンにはやけに新鮮に映りました。
Hシーンは1人なのでさすがに豊富です。しかし、設定が物語的にもキャラクター的にもごくごく普通というか、現実に近いところで落着しているのでゲームらしいシチュエーションはクリア後のオマケにしかありません。あとヒロインの親友キャラのHシーンは別段いらなかったのではないかと(というかHシーンと呼ぶのもアレですし)。
「花鳥楓月」。
こちらは「フレンズto Sweets」とは打って変わった和風の雰囲気で統一されています。その統一ぶりは徹底されていて主人公の職業や住まいまで和そのもの。それが高じてか、なぜか悪夢の中で緊縛Hシーンが展開されます。一般の調教ゲームと違うところはそれがあくまで精神の失調から来る夢でしかないということ。
昼と夜が180度違うというのはこの手の作品によくあることですが、本作は夢であるため、その落差に全くと言っていいほど意味がありません。有り体に言えばなぜ緊縛なのか、に対する答えがないんですね。シナリオ的にもやはり意味がないのでどうにも苦しさが漂っている感じ。
中編でありながらヒロインが3人(男も1人)も用意されているんですが、これがあまりにも微妙。シナリオが完全に1本道でただヒロインが変わるだけなので周回プレイが段々とツラくなってきます。キャラが立っているのが救いですが、逆に言えばかなりもったいないと感じました。
テキストは「フレンズto Sweets」同様に安定しています。やはり氏の書くヒロインとの多人数同居ものは日々の様子だけで純粋に楽しいです。同一の状況に対するヒロイン毎の反応の違いにうまさを感じさせられます。
桜待坂という舞台に関しては背景も含めてもう一歩、地味というかアピールが足りていない印象を受けました。どこにでもある街を目指したのかも知れませんが、名物的な特別な場所がないのでは記憶に残りにくくとも仕方ないのかも。
CGは柔らかい都築真紀氏の持ち味が損なわれることなくしっかりと塗られています。2本のシナリオで陰と陽、和と洋が区別されていて好対照の魅力を引き出しているかと。その分だけやや背景は難しかったのかも知れません。少し味気なく感じました。
立ちCGはイベントCGに負けない魅力を放っています。潤いある会話に華を添えてくれているかと。ただ、サブキャラはどうにもレベルが違いすぎて正直、見ていられません。
音楽は前に出すぎず後ろに下がりすぎず、良い意味でBGMに徹しているように感じました。主題歌は両シナリオで対極の方向を打ち出していますが、反面その他の曲はイメージ的にも似通っていたと思います。基本はキャライメージの曲なので。ギャグ調の曲だとか片方にしか存在しないノリは別にして。
ボイスはかなり頑張ってます。メンバー的にも高名な方が揃っているんですが、設定に応じた演技はまさに見事。中でも「フレンズto Sweets」のヒロインの朗らかな、ほわっとしたような声は真面目に名付けた人ほど嬉しく感じられるのではないでしょうか。
まとめ。捉えどころのない1本。これからどう飛躍していくのか、それともしぼんでしまうのか、正直わからない感じがします。これ1本で考えるならばボリュームが万全でないのはやはりもったいないと強く感じました。通常の1本として製作していればもっと良いものに仕上がってあろうことは容易に想像できるので。
ファンとしては自由な発想で世界を広げていってもらえれば、と。
お気に入り:桜井竜胆(ウチのヒロインさんの名前)、藤間羽依、鴻村志乃
評点:65
以下はキャラ別感想。親バカ要注意。
1、桜井竜胆
デフォルトネームがあると知らなかったということもありますが、かなり真面目に考えてつけました。名字の方は舞台名から引っ張ってこようと最初から考えていたのですんなりでしたが名前の方は、ね。結局は桜繋がりで花の名前をつけようということでこうなりましたが。愛称は「りん」で悩んだのは主人公のように敬称をつけるかどうか。最終的にはつけませんでしたが、ヒロインが愛称を名乗ったりするのでつけない方が正解だったかな、と今では思っています。
相手のわからないをわかっていくシナリオはそれだけで面白かったです。プレイ中に感じていた小さな違和感も終盤できちんと解消されたので不満らしい不満はほとんどありません。
声優の鷹月さくらさんの熱演は親バカ的な感情をさらに高めてくれます。彼女の語尾「〜なんじゃよ〜」にファー様@モテモテ王国を思い出しながらプレイしていたのはここだけの秘密です。
2、仲居瀬奈
良キャラであるのは確かなんですが、所詮サブキャラの悲しさですか。「くっ、この馬鹿ップルが」という感じのツッコミ要員ですからねぇ。でも好きですけど。
3、久和島楓華
取りあえず彼女は中○生なんですか? というのが一番気になる疑問。中・高・大のエスカレーター式の学校に入ったばかりと言われてはね。あのちっこさですし。
もうひとつ気になるのはその学校。あの制服を見る限り、もしかして仁村知佳@「とらハ2」と同じなんでしょうか。ベストを脱げば確かにあんな感じになりそうです。車で送り迎えするお嬢さま学校というあたりも同じですし。
結局、夢の中でしか手を出せないのは大きな不満。一体、何のためのヒロインなのかと。それならいっそ最初から本当の妹にしといてください。
4、藤間羽依
ある意味で男の夢を凝縮したような方ですな〜。愛人兼家政婦で殺人事件を目撃したいと思っている大物。もっと色々なイベントが見たかったなーと最も思わせてくれました。
私は声優のことはそれほど知らないですけど、もしかして春野かえるというのは鳥居花音さんの別名義なんですかね。非常に声が似ているような。もし別人なら只事でない似っぷりです。
5、鴻村志乃
経歴や職業が面白いですな。こういったキャラはエロゲーに珍しいのでそれだけで貴重な感じ。しかし、それもイベントに乏しい本作では悲しいです。CGには特に反映されないので。
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