白血球除去療法
潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜のびまん性の炎症をきたす疾患ですが、炎症を引き起こしている白血球は全身を循環している末梢血から補充されます。この白血球そのものを除去してしまえば大腸の炎症も治まるだろう、という考えのもとに試みられるようになったのが白血球除去療法です。肘の静脈から血液を採取し、体外循環経路の中で白血球除去フィルターにより白血球を除去し、反対側の肘静脈に返血するという作業を1時間継続し、1回の治療とします。
この治療を始めは週1回、緩解が導入できてからは月に1回施行していきます。従来の治療法と最も異なる点は、薬物を投与するわけではないので、副作用が出にくいということです。
ただし、治療効果は非常に大きな個人差があるようです。どのような患者さんで治療効果が高いのかを今後見極めていく必要があります。有効性が確認され厚生省から認可されると、保険診療として行われることになりますが、それまでの間は新規にこの治療を行うことはできません。
※ びまん性病巣が一ヶ所にとどまることなく、広範囲にわたり広がっていること。
※ 末梢血骨髄液に対する言葉で、血管を流れている血液をいう。
シクロスポリン
シクロスポリン(商品名:サンディミュン)は免疫抑制剤の一つですが、もともとはノルウェー南部の土壌から分離された菌の代謝産物として、抗生物質の開発中に発見されました。1976年に強い免疫抑制作用があることが発表され、1978年から腎移植に用いられるようになりました。
わが国でも1985年に承認されて以来、腎移植、骨髄移植をはじめとした各臓器移植の拒絶反応を抑える薬剤として使用されています。そして、膠原病などの自己免疫疾患においても治療応用の研究が進められています。
潰瘍性大腸炎に対して欧米を中心に臨床試験が進んでおり、ステロイドが効かない重い患者さんに対して有効であったという報告があります。しかし、シクロスポリンはその強力な作用の反面、腎障害などの副作用も知られており、また長期的な緩解維持効果については否定的な報告もあります。このため現在のところその適応はステロイドを含めた他の薬剤に無効な重症例の緩解導入療法に限られると考えられています。しかし手術を回避する新たな治療として今後注目されてくることでしょう。
SOD
腸粘膜に存在する白血球は、微生物を殺菌するために活性酸素と呼ばれる伝達物質を放出していますが、炎症性腸疾患などの慢性の炎症状態においては、活性酸素が過剰に生産され、正常組織をさらに障害する一因となっています。
人の体内にはこの活性酸素の働きを抑制するスーパーオキシドジスタムーゼ(SOD)という物質がありますが、大腸の中ではもともとこの物質の働きが鈍いことに加え、炎症性腸疾患の患者さんではさらに働きが低下していることが報告されています。このため、SOD製剤を静脈内投与することで、大腸内のSODを活性化し、炎症性腸疾患を治療す
る試みが行われています。
※活性酸素普通の酸素からできる反応性の高い分子で、酸化力が強く、体内で様々な化学反応を起こすといわれている。
手術療法
潰瘍性大腸炎多くは薬物療法でコントロールできる病気ですが、以下のようなケース
では外科的手術の対象となることがあります。
● 大量出血が見られる場合
● 中毒性巨大結腸症(大腸が腫上がり、毒素が全身に回ってしまうもの)
● 穿孔(大腸が破れること)
● 癌化またはその疑い
● 薬物療法などの内科的治療に反応しない重症例
● 副作用のためステロイドなどの薬剤が使用できない場合
手術の基本的な考え方としては、炎症の母地となる大腸粘膜をできるだけ取り除くことであり、大腸の全摘が基本となります。以前は人工肛門を設置する手術が行われていましたが、その後肛門を温存する手術が主流になり、現在では将来的な炎症の再燃の可能性を考えて、直腸も抜去する手術が主に選択されています。この手術は大腸切除後、小腸で便を貯めるための袋をつくって肛門につなぐ方法です。しかし、これらの術式はいうまでもなく、個々の患者さんで最も適したものが選択されています。
手術で大腸を切除する、これは確かに大変な治療ですし、その後も日常生活上の制限をある程度は強いられるかもしれません。しかし、こうした犠牲を払うことで、逆に家庭生活や、仕事、趣味、レジャーなどが自由にできるようになるなどメリットも大きいわけですから、たとえ手術をしなければならない状況に陥っても、決して悲観的になる必要はありません。