映像コンテンツ収益モデルの未来
(Ver.1.1)
2008/1/31
・2008/2/26 一部改定
とるじいや
仮 説:
『「映画」「TVドラマ」「ゲーム(の一部)」は“映像コンテンツ”として流通し、その収益(⇒これを見越した製作費)の多くを企業の広告費で賄う時代が来る』
キーワード:
『フジTVはGyaoになる』『映画はTVドラマになる』『映像コンテンツの収益極大化のため権利集中管理が必要になる』
<1> 今起こりつつある変化
1. 映画はTVドラマと同じである
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映画は能動的、TVドラマは受動的。でもそれだけの違い
u
映画もTVドラマも『映像コンテンツ』
u
『映像コンテンツ』の視聴“ウィンドウ”が増えていく
そもそも、映画とTVドラマの違いは何でしょうか? スクリーンとTV画面という視聴形態の違い以外によく言われることは、前者は視覚に訴える等、より “行間を読む”作品が多いのに対し、後者は多くの部分が“台詞で説明され”ているということです。これはテレビが家庭で何かをしながら見るメディアであるのに対し、映画がスクリーン前に座って集中して見るものだから、ということで、テレビは“受動的メディア”、映画はそれより“能動的メディア”だと言われたりします。
しかし、それはたとえばゲームと映画、あるいはゲームとTVドラマとの違いに比べ、ほとんど差異の無い、程度の問題だといえます。テレビで見るからTVドラマ、映画館で見るから映画、という視聴形態以上に、二者を区別するものは無いかもしれません。
ブロードバンド環境が浸透しインターネットを介した『映像コンテンツ』視聴の“ウィンドウ”は増えていきます。同様に携帯電話等モバイルキャリアの受信機能向上によって『映像コンテンツ』視聴“ウィンドウ”は広がります。結局詰まるところ、視聴する媒体が違うだけで、映画はTVドラマであり、TVドラマは映画であり、同じ『映像コンテンツ』であると括ることが適切だと思われます。
2. フジテレビはGyaoと同じである
u
テレビとインターネット配信は制度的違いほど技術的な違いはない
u
流通経路が増えることで『映像コンテンツ』の商品価値が増大する
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適正な収益基盤が整えば放送と通信の垣根はそう遠く無いタイミングで瓦解する
テレビとインターネット配信の違いは何でしょうか? これはもちろん、放送と通信、という違いになります。
同じ『映像コンテンツ』を視聴者に届ける、という目的でも、テレビ(やケーブルテレビ)とインターネット配信では著作権法上、大幅な違いがあります。『映像コンテンツ』を提供する際、視聴者の要求に関係なく同一内容を送信するのが「放送」「有線放送」(テレビ、ケーブルテレビ)、視聴者から要望あった際にそれに応じる形で送信されるのが「自動公衆送信」(インターネット配信)、と切り分けがされています。
しかし、インターネットを通して視聴者の要求に関係なく同一内容を送信するIPマルチキャスト放送が、2011年の地上波デジタル放送(地デジ)全面施行に伴う難視聴地域対策として「有線放送」として認められ、地上波番組の再送信が行われることになっています。
今までインターネット配信は放送ではないため、たとえばソフトバンクのブロードバンドケーブルテレビ(IPマルチキャスト放送)のBBTVが地上波番組を再送信する場合、著作者隣接権の許諾といった処理が必要になるといった重い課題がありました。平成18年12月の『著作権法の一部を改正する法律』の成立により、いわば“特例”として有線放送と認められることになったことで(著作者隣接権処理の替わりに補償金制度を導入)地上波番組をインターネットを介した“放送”で視聴することが可能になります。
実はIPマルチキャスト放送とGyaoのようなインターネット動画配信とは違いがあります。Gyaoはマルチキャストとは違い特定の相手にデータを送るユニキャスト放送なので、放送ではなくやはり通信の範疇に入れられています。ですからもしGyaoで地上波番組を流そうと思うと著作者隣接権の処理の必要があります。
とは言え、ユーザー側からすればマルチキャスト放送とインターネット配信の違いはセットトップボックスを介してインターネットに接続するか、モデムやルーターを通して直接接続するかの違い程度と言えます。つまり、法的・制度的な違いほど技術的な違いは無いことになります。
『映像コンテンツ』を軸に考えると、フジTVもGyaoも『映像コンテンツ』という商品の一つの流通業者として捉えることができます。
ブロードバンド環境の浸透によりインターネットはメディアとしても広告媒体としても価値が上がり(後述)、相対的にマス媒体であるテレビの地位が低下しつつあります。今まで『映像コンテンツ』の流通ではほぼ寡占業種だったテレビ局がインターネット関連のメディアにそのシェアを奪われる傾向であることは間違いの無い流れだと思われます。
そもそも、放送と通信の融合を阻んでいる最大の要因は強大な産業競争力を持つ放送メディアのテレビ局側が、特に放送と通信の融合によって根底から経営基盤が揺るがされることが懸念される地方放送局を守ろうという保守的体制によるものだという声があります。しかし、趨勢にあがらう事で既得権益を守ることと、新たなビジネスチャンスで期待しうる収益とを比較して、十分な経済合理性があれば、放送と通信の垣根はそう遠くないタイミングで瓦解していくのではないかと思われます。
というのも、テレビ局は単に流通業者ではなく『映像コンテンツ』という商品の巨大ホルダーでもあります。流通業者の増加によって『映像コンテンツ』の商品価値が相対的に上昇してくる、と言われています。
コンテンツホルダーに適正な分配を提供できる環境が整えば、優良コンテンツを大量に保有するテレビ局が保有資産を有効活用する方向に舵を切るであろう事は十分に予測されます。それにともない著作権法の抜本的改正など大きな変革があるものと予想されます。
3. テレビとパソコンの融合
u
パソコン=デジタルテレビ+ホームサーバー
u
視聴者の視聴行動の変化
放送と通信の融合、というと、既にハード面でも興りつつあります。2007年9月からテレビポータルサービス株式会社が運営するアクトビラ(acTVila)というブロードバンド接続対応のデジタルテレビ向けに情報コンテンツや動画コンテンツを有料配信するポータルサービスを開始しています。テレビポータルサービス社の株主は松下、ソニー、東芝といった大手電気機器メーカーです。
アクトビラのポータルサイトにはショッピング(楽天市場)や株式情報(ジョインベスト証券)などのサービスが掲載されています。
デジタルテレビをホームサーバーに繋げると(ストリーミング配信の動画以外は)番組を大量に保存し、視聴したいときに視聴することが可能です。
つまり、既にデジタルテレビはパソコンと同じ、しかもより高性能な機能を持ったことになります(パソコンのモニターとハードディスク=デジタルテレビとホームサーバー)。パソコンをインターネットにつないで情報検索やインターネットショッピングにしか使っていない人にとってはパソコンは不要になります。
テレビ番組とインターネットのサイトが同じ画面になると、『映像コンテンツ』視聴者の行動変化が予測されます。多くのユーザーはTVドラマを見ながら、一旦画面を止め、その中で気になったことを情報検索したり、関連グッズのショッピングを楽しみます。ホームサーバーによるリアルタイム映像の大量保存により、これらをストレス無く楽しむことができます。
つまり『映像コンテンツ』を軸に、メディアミックス的な楽しみ方がテレビを通して可能になるわけです。
4. 韓国は日本より数段先を行っている
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韓国では2008年春からIPマルチキャストでの地上波番組の全国同時再放送が始まる
u
韓国では『映像コンテンツ』のメディアミックス的視聴・嗜好が進んでいる
u
日本もすぐに韓国と同様なサービスが始まる可能性がある
実は韓国は日本より数年先を行っており、すでに2008年4月からIPマルチキャスト放送(一般的に「IPTV」と呼称)による地上波番組の全国同時再送信が実施されることが決まっています。韓国の場合も放送と通信は法的に別の取り扱いだったのですが、特別法が規程され「IPTV」は放送でも通信でもない別物だ、として取り扱い、結果、放送と通信が融合される、という流れであるようです(その結果、既存の地方局やケーブルテレビ業者が淘汰されるのでは、という憶測が一部に流れています)。
元々、韓国では地上波テレビ局が積極的に番組のインターネット配信に取り組んでいた、という経緯があります。地上波放送のすぐあとにタシボギと呼ばれるVOD ネット配信がされ、一般に定着していました。
また、テレビ局が独自の動画共有サイトやSNS的機能を持ったサイトを作り、そこで著作権がクリアされたTVドラマを素材として提供し、そこに視聴者がコメント等を自由に加工するユーザー参加型のサービスも定着しています。今まではパソコンを通して『映像コンテンツ』のメディアミックス的利用がなされてきたわけです。
元々『映像コンテンツ』のメディアミックス的使用に慣れた韓国では「IPTV」の定着も早いと思われます。
このように『映像コンテンツ』のブロードバンド環境での“利用”においては韓国に遅れを取っていると思われる日本ですが、すでにブロードバンド世帯普及率は韓国を抜いて日本は世界第一位です。韓国で行われているサービスが日本で根付くのに、そう長い時間はかからないと思われます。
5. モバイルキャリアの発達と映像コンテンツ
u
携帯電話が『映像コンテンツ』の最初の“ウィンドウ”に?
u
携帯電話は情報デバイス全体の王様に?
日本では、特に若年齢層に携帯電話の普及率が高く携帯サービスへの親和性も高いようで、ある大学の入学願書の約6割強が携帯電話を通して請求された、という話があります。
携帯電話に限らず、ブロードバンド対応の様々なモバイルキャリアが発売されており、その取得動機として『映像コンテンツ』視聴を上げる割合は低くありません。
とはいえ、モバイルキャリアの中で最も『映像コンテンツ』に絡むサービスの質的・量的拡大が見込めるキャリアは、メール機能、画像・動画撮影機能を内包し、日本の一つの“文化”を形作った携帯電話でしょう。
すでに携帯電話でも動画ドラマが楽しめる環境が整いつつあります。ワンセグでテレビ番組を視聴できるようになっていますし、動画配信番組も間口が広がっています。携帯電話はさすがに画面の制約があるため、ストレスにならない5分程度のショートドラマがジャンルとして勃興しつつあるようです。こういったドラマは携帯親和性が高い若年層に人気化してきているようです。
また、もし仮に画面ストレスの問題が解消できれば、“いつでも何処でも”視聴可能な携帯電話を『映像コンテンツ』の最初の“ウィンドウ”にして、より詳しい内容をテレビ(3. のとおり、現在のパソコンの代替)で、といった視聴行動が取られるのではないか、と予測する人もいるようです。
そもそもこの考え方の裏には、『映像コンテンツ』視聴以前に『情報』取得の最初の“ウィンドウ”がテレビではなく携帯電話となり、携帯電話は固定・モバイルを問わず情報デバイス全体の王様になるという見方があります。
6. 映像コンテンツの新しい楽しみ方『マッシュアップ』
u
動画共有サイトの『マッシュアップ』は『映像コンテンツ』の新しい消費形態
u
新しいビジネスチャンスの到来 〜YouTubeの戦略〜
更に、『映像コンテンツ』を軸にして捉えると、新しい“ウィンドウ”が育ちつつあります。それが動画共有サイトで、YouTubeやニコニコ動画がこれに当たります。今までは『映像コンテンツ』の“消費”形態は「視聴」つまり、見て楽しむことしかありませんでした。しかし、動画共有サイトでは新しい“消費”の仕方が生まれています。
それが『マッシュアップ』と言われる行動です。たとえば、YouTubeでは2007年に「Star War
Kid」という一連の動画が人気化しました。初めにある素人投稿者がスターウォーズを真似てモップを振り回している映像が投稿され、その後、別の人がその画像にライトセーバーのような画像を追加し、更に別の人が効果音やバックミュージックを追加して、といった“共有”の連鎖がなされました。
これは単純に素人の投稿のケースですが、『映像コンテンツ』の保有者に利益還元される収益モデルさえ確立すれば、後述のとおり広告収入がこの動画共有の『マッシュアップ』も一つの収益機会の“ウィンドウ”に成り得ます。
YouTubeを買収したGoogleは、2007年8月にYouTubeの投稿動画上にFlashアニメーションで作られたビデオの下に透けるように表示される広告フォーマットを開発しました。
更に同年10月に不正投稿(コピー)防止ツールのシステム開発を行った、と報道されました。大まかな仕組みは、まずコンテンツホルダーがYouTubeに保有コンテンツを事前に提供しマスターファイル化し、YouTubeの全ての新規投稿について、アップロード時にマスターファイルと突合せを行い、類似性が高い投稿をチェックできる、というものです。
更に、コンテンツホルダーはマスターとなるコンテンツを提供する際、そのコンテンツに類似する投稿を“無料許諾する”か“削除する”か、あるいは“広告を付加して投稿することを許諾する”かを選択でき、“広告・・・”の場合は、その広告収入をYouTubeとシェアすることができる、という、コンテンツホルダーに収益をもたらしうる非常に画期的な内容でした。
発表以降、アメリカを始めとするコンテンツホルダーがYouTubeと共同でこのシステムの信頼性をテストしてきました。日本では唯一、角川グループがそのテストに参加し、結果、両者は角川が持つコンテンツのYoutTube上の投稿動画活用について正式な提携を交わすこととなりました(2008年1月28日 日経新聞)。
全然別の話ですが、インドネシアに農作物を食い荒らすため“害虫”指定をされているある蛾の種類があります。最近の研究で、この蛾の作る繭は水に溶かすとアンチエイジング効果がある、ということで、化粧品の原料などとして俄然注目されています。
この蛾のように、コンテンツホルダーから“害虫”と目されていたYouTube(あるいはそれを初めとする動画共有サイト)は、一転、コンテンツホルダーにとって新たな収益源になる可能性があります。
<2> 検索が入り口になるという【仮説】
前章の最後に、YouTubeの新戦略について紹介しました。彼ら(YouTube、Google)が導き出したモデルは“広告”収入からのコンテンツホルダーへの収益分配、というモデルでした。実は、これは現在の巨大メディアであるテレビ局に近いビジネスモデルといえます。たとえばある映画をテレビで放送する場合、テレビ局はコンテンツホルダー(製作委員会など)に放送使用料を支払います。その源泉はテレビ局収入の大半を占める企業からの広告料です。同様にYouTubeで映画の動画共有投稿を許諾する場合、YouTubeはコンテンツホルダーに、企業から受け取った広告料からその対価を支払うわけです(テレビ局の場合は自身がコンテンツホルダーという立場でもあります)。
ブロードバンド時代に入り、放送と通信の垣根がなくなりつつあり、今、『映像コンテンツ』の市場は混沌としているように思われますが、これから『映像コンテンツ』はこの“広告モデル”によって拡大していくのではないか? と考えます。
1. テレビのマス媒体としてのパワーと限界
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地上波テレビのマス媒体としての威力は凄まじいが、そう遠くない将来下降する
u
企業はテレビCM離れをおこす
現在、地上波テレビは企業の広告費の大半を受け取っています。現在、日本の広告市場が約6兆円、テレビにはそのうち約2兆円が入っているそうです。ほとんどの家庭にテレビがあり、ほとんどの国民がテレビを視聴できる環境にある現在、マス媒体としての地上波テレビの影響力は計り知れません。正確なデータは無いですが、世界の中でもここまで地上波テレビの影響が大きい国は日本以外にそうは無いと思います。広告効果を考えると、テレビCMに企業からお金が集まるのも無理はありません。
しかし、企業一部にはテレビの広告効果測定に疑問を持つ声もあるようです。
そもそも、テレビの広告効果は「視聴率」という数字によって測定されます。しかし、この数字は任意に(と言われています)サンプル抽出された家庭の世帯ベースでの平均視聴率に過ぎません。
また、単に視聴したというだけで広告主の提供する商品やサービスを購入する、という保証も無いですし、実際に買ったかどうかの検証もできません。
更に、ホームサーバーや大容量HDD付きのテレビでは、多くにCMスキップ機能が搭載されています。この場合、折角高い金を掛けて取得したTVドラマの時間帯に流れる、高い金を払って制作したCMが、視聴者に届かないことになってしまいます。
前述のとおり、時代の趨勢はデジタルテレビ+ホームサーバーの方向へと向かっています。そう遠くない将来、企業スポンサーがテレビCM離れを起こす、というのもあながち的外れな予測ではない、と思います。
2. インターネットと広告との親和性
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インターネットは“リーチ力”も“ターゲットセグメント力”も備えた有用な広告媒体
一方、インターネットは、実は広告と非常に親和性がある媒体であると言えます。
広告の効果は一般的に“リーチ力”“ターゲットセグメント力”に分かれて説明されます。例えばある企業が同社のある商品の販売増加を目的として広告を打つと仮定します。“リーチ力”はその広告の購買対象に対する影響力の大きさを言います。“ターゲットセグメント力”は広告が購買対象にいかにピンポイントに届くか、いわば広告効果の力を言います(図1)。
図1:既存媒体の広告とネット広告の力
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媒体 |
リーチ力 |
ターゲット セグメント力 |
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テレビ |
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ネット(PC/携帯電話) |
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ラジオ |
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新聞 |
|||||
雑誌 |
|||||
|
|||||
ダイレクトメール |
一般的なメディアは“リーチ力”が大きければ“ターゲットセグメント力”小さくなり、“ターゲットセグメント力”が大きければ“リーチ力”は小さくなります。例えばビール会社が打つ地上波テレビでのテレビCMは、多くの視聴者が見る機会を提供している反面、本来は見せる必要が無い20歳未満の層にも届いてしまっており、“リーチ力”は大きいが“ターゲットセグメント力”は小さい、と言うわけです。
しかし、インターネット(通信回線によって繋がっていると言う点で携帯電話なども同種)、はすでに相当利用者数があり“リーチ力”もある一方、個人のIPアドレスを特定できる(図2)抜群の“ターゲットセグメント力”があります。
図2:ネット広告の仕組み 〜大きなターゲットセグメント力〜
こういったことから、スポンサーとなる企業はインターネットを広告媒体としてかなり有用なものと考えつつあります。
3. インターネット広告の種類
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インターネット広告の種類は拡大している
u
今後、パソコンと同じようなサービスがモバイルキャリアにも浸透していく可能性がある
一口にインターネット広告といっても、すでに様々なタイプの広告があります。以前はホームページ上に固定されるバナー広告くらいしかありませんでしたが、今では動画タイプのものや、閲覧者の検索した文言に近い広告をリスト化する検索連動型や訪れたサイトの履歴を見て関連する広告をリスト化する行動ターゲティング型などのリスティング広告など、その種類は拡大しています。
表1:ネット広告の基本分類
【出展:(株)シード・プランニング『2006年版インターネット広告の市場動向調査』より】
名称 |
端末 |
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ウェブ広告 |
パソコン |
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テキスト広告 |
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バナー広告 |
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リッチメディア広告(エキスパンド、インタースエイシャル、フローティング広告など) |
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タイアップ広告 |
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インターネットCM(動画広告) |
パソコン/★携帯電話 |
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メール広告 |
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メールマガジン型広告 |
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DM型広告 〜オプインメール広告 |
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DM型広告 〜ターゲティングメール広告 |
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リスティング広告 |
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検索連動型 |
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コンテンツ連動型 |
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★行動ターゲティング型 |
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★位置情報連動型 |
携帯電話 |
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★音声情報連動型 |
ネット電話 |
|
アフィリエイトプログラム |
パソコン |
|
モバイル広告 |
携帯電話 |
|
|
ピクチャー型 |
|
コンテンツ型 |
||
メール型 |
||
サーチワード型 |
※ ★印は筆者が追記したもの
なお、上記(表1)ではモバイル広告を1ジャンルとして捉えています(出展元の分類のまま)が、これはキャリアの違いによるもので、質的分類とは性格が若干異なります。例えばインターネットCM(動画広告)は機能向上によって携帯電話上でも展開されてくると思われます。
更に、インターネット広告の技術は日進月歩です。Google出身の技術者3名が「ウーヤラ」(カリフォルニア州マウンテンビュー市)という会社を立ち上げました。この会社は画像認識技術を使った動画・広告サービスを現在開発中です。このサービスはシステムが映像の一部を自動識別して関連する広告などを表示する手法で、例えば映画の予告編に登場するスポーツカーをクリックすると、車種の説明とともに自動車メーカーの広告を表示するサービスなどが展開できる(2007/12/12付 日本経済新聞記事より)というものです。
4. 検索が入り口になる
u
“ウィンドウ”の増加で「メジャー映画」にニーズ
u
“検索”を入り口に「マイナー映画」にもニーズ
u
企業が広告をうつ価値を認めるに十分な“ターゲットセグメント力”
この章の始めに、『映像コンテンツ』は“広告モデル”によって拡大するのではないか? と書きました。これをもう少し具体的に説明します。
この仮説のロジックは以下のような流れになります。
@
ブロードバンド環境の発達により“ウィンドウ”が増えるため各“ウィンドウ”で元々訴求力を持つ『映像コンテンツ』の使用が増える
A
『映像コンテンツ』の視聴機会が増え『映像コンテンツ』の内外での広告利用が増加する
(例)「メジャー映画」の広告的価値が増大する
⇒Gyaoのような広告モデルの番組提供
⇒インターネットCMや「ウーヤラ」の画像認識動画・広告
B
インターネット検索/広告(行動ターゲティング型など)により視聴者の『映像コンテンツ』へのリーチが容易くなる
(例)「マイナー映画」も広告的価値が増大する
⇒劇場が絶対的1st“ウィンドウ”だったマイナーな「映画」にもリーチ可能に
⇒「マイナー映画」でも訴求力を持ち、結果、広告的価値が増大する
⇒この場合、いわゆる「放映権」(コンテンツホルダーの収入)は定額制でなく、当該検索結果に応じて上下する、という料金形態も考えられる
上記Bにあるとおり、検索などの技術によって今まで見向きもされなかったような「映画」なども日の目を見ることが考えられます。これは近年よく言われる“ウェブ2.0”的な発想ですが“ロングテール”と呼ばれるニッチな視聴者ニーズをインターネット検索やインターネット広告が喚起することになるであろうことは容易く創造できると思います。
前述のとおり、インターネットは“ターゲットセグメント力”の強いメディアです。ターゲットセグメントにあった「映画」などの『映像コンテンツ』に親和性の高い商品を持つ企業が、それら『映像コンテンツ』を利用した広告をうつニーズは十分にあります。『映像コンテンツ』の内容が多種多様であればあるほど、細分化した企業ニーズに応えられる、という面もあるでしょう。
5. AIDMAからAISAS(c)電通へ
u
消費行動の起点に「検索」が
u
消費行動は“シェア”する
u
『マッシュアップ』は“共有”のプロセス?
最近、マーケティング理論の世界で、インターネットの出現により、消費者の購買行動が変化している、という仮説が展開されています。(株)電通が提唱している『AISAS(アイザス)』という考え方です(電通はこの言葉の商標登録をしています)。
1920年代にアメリカのローランド・ホールという人が、消費行動は『AIDMA』という段階を経て行われる、という仮説を提唱しました。
1. Attention (注意)
2. Interest (関心)
3. Desire (欲求)
4. Memory (記憶)
5. Action (購買)
この仮説を元に、特に2.Interest(関心)を喚起し、4.Memory(記憶)に残すために“マス媒体”による広告で認知度を高めよう、とするのが近代的な広告の位置づけでした。
しかし、インターネットの普及に従い、『AIDMA』の理論だけでは消費行動が説明できなくなります。そこで、新たな仮説として電通が提唱するのが『AISAS』です。
1. Attention (注意)
2. Interest (関心)
3. Search (検索)
4. Action (購買)
5. Share (共有)
つまり、人々はテレビCMなどを見て興味を持ったら、自主的に検索して(あるいはリスティング広告などで勝手に“検索されて”)情報を集めた上で納得して購買行動を起こす。更に、その効果検証をブログやSNSなどで5.Shree(共有)する、ということです。
これは『映像コンテンツ』の消費行動においても当てはまると思います。例えば、個人的には『映像コンテンツ』の『マッシュアップ』は、この5.Share(共有)の一環ではないか、と思います。
6. 映画のビジネスモデルの変化予測@ 〜「勝利の方程式」からの開放〜
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今の映画界は「勝利の方程式」に従った映画しか当たらない
u
検索・リスティング広告は劇場に変わる1st“ウィンドウ”になる
「4.検索が入り口になる」で、「マイナー映画」も“広告モデル”によって拡大するのではないか? と書きました。これにより、映画の製作・流通にどういった変化があるか考えてみたいと思います。
今の映画界では映画がヒットするための“ヒットの方程式”と呼ばれているものがあります。これは概ね以下のとおりです。
@
製作委員会方式で、メンバーにテレビ局と配給大手3社(東宝、松竹、東映。ただし、特に東宝)が参加している
A
原作があり認知されている
B
メジャーなキャストが出演している
映画は現在、1次利用としての劇場、2次利用としてのビデオグラム・TV放映等を主要収入としています(マーチャンダイズ化や海外でのリメイク化などケースバイケースで発生する収入などもある)。
そして、通常、2次利用マーケットは1次利用マーケットである劇場での成績により決まってきます。これは所謂「ショウウィンドウ型」収益構造といい、劇場というショウウィンドウ(1stウィンドウ)で華やかな展示がされなければ後の流通過程での収入確保は覚束ないことを指します。
劇場は大手配給会社により寡占化しています。今、日本で年間400本以上の映画が製作されていますが、いわゆる供給過多の状態です。大手配給会社はショウウィンドウを押さえ主要流通ルートを確保している以上、当たる確率の高い映画を配給したいと思います。この結果が“ヒットの方程式”であると言えます。
前々項「4.検索が入り口になる」の仮説Bは、言葉を変えると、今までの「劇場」ではなく「検索(やリスティング広告)」が1st“ウィンドウ”になることによって視聴者に直接リーチする、ということです。
7. 映画のビジネスモデルの変化予測A 〜収益極大化のための『権利集中管理』〜
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“ウィンドウ”の増加により予期しない収益機会が増大する
u
権利の集中管理が有効に?
現在、映画でよく使用されている「製作委員会方式」では製作委員会自体が著作権の保有者になり、著作権を各参加者が持分に応じて分有する、という形になっています。
製作委員会の参加者は映画配給会社やテレビ局、DVD販売会社などになるケースが多く、参加者の各々が何がしかの窓口業者になり、窓口での収入と製作委員会の持分に応じた収益分配を取得します。
あらかじめ取り決めた収益機会はいいのですが、例えば急遽、新しい“ウィンドウ”に販売する、といったケースでは、参加者の意見の取りまとめに時間がかかったり、そもそも決定プロセスが曖昧だったりします。「製作委員会方式」の一般的な『共同事業契約書』では、想定されている収益機会については担当企業や分配についてのルールが明記されていますが、“想定されていない”ものについては「全員で別途協議する」といった規定になっていることが多いようです。この辺りの運用の拙さが製作委員会方式の最大の問題点であるという批判をよく聞きます。
今後、“ウィンドウ”が増えることで、今まで予想もしていなかった収益機会が増大するでしょう。その結果、それらの収益機会をいかに有効活用するか、というニーズがより高まってきます。
『映像コンテンツ』の収益機会を最大限に獲得するためには“想定外の収益機会を含め、あらゆる収益機会を全て拾っておく”のが理想だと思われます。そのためには権利の束である契約の体系化は前提条件だといえるでしょう。
更に『映像コンテンツ』を効果的に利用促進するためには“鳥の目線”を持った俯瞰・統合的管理が必要で、例えば著作権を1つの機関に集約し、集中管理する、といった形態が有効なのではないでしょうか。
図3:「映画」における収益機会の変化予測
(現状)
(将来)
表2:“ウィンドウ”=流通ルートの多様化と収益源による分類
8. 映画のビジネスモデルの変化予測B 〜パッケージビジネスの弱体化〜
u
DVDの販売本数は減少する
u
『映像コンテンツ』販売は“薄利多売”を心がける
“ウィンドウ”が増えてコンテンツホルダーにはいいこと尽くめであるように思われますが、逆に大きく収益が落ち込むと思われるのがDVD等のパッケージビジネスです。
検索を掛ければ見たい映画がどこかの“ウィンドウ”で視聴可能であれば、わざわざDVDを購入する必要はなくなります。
経済的合理性から、DVDなどは特に収集意欲の強いマニアックな層以外は購入されなくなると思われます。パッケージビジネスはパッケージ(入れ物、トレーラーなど)を作る分、単価も上がり利ざやも大きいのですが、収入は低減していかざるを得ないと思います。
今、アニメ業界はパッケージでのセールスが主要収入源となっており、そのために“ウィンドウ”としてテレビを使っています。つまり、テレビ放送に際してテレビ局からコンテンツ使用料を徴収するどころか、認知度を獲得してDVDセールスするために、逆にテレビ局に料金を払っているのが現状です。こういったビジネスモデルはそう遠くない将来、見直しが必要になるかもしれません。
パッケージという大きな収益の柱を失うものの、他に様々な“ウィンドウ”が期待できるため、“薄利多売”ではないですが、利益率よりも“量”の勝負が必要になるのではないでしょうか。
9. ハードウェア企業のジレンマ 〜コンテンツホルダー側が儲かる時代〜
u
iPodを売ったやり方は通用しなくなる?
アップルはiPodを発売した当時、そのセールスを増やすためにiTunesでの楽曲配信価格を大きく引き下げて売りました。その結果、iPodは携帯音楽視聴機の中で格段のシェアを獲得しました。ソニーのネットワーク・ウォークマンの販売が不調だったのは、販売当時、同グループのソニー・ミュージックの設定価格がiTunesより高かったことも関係しているかもしれません。このように、コンテンツの価格はそれを視聴するハードウェア企業の提供する価格が標準値になるケースが多いと思われます。
今後、多くのハードウェア企業が色々な『映像コンテンツ』提供用キャリア/デバイスを販売することになると思います。
しかし、今後もアップルが取ったような戦略が可能になるかは難しいところです。
例えばあるハードウェア企業が新しいデバイスを販売するためにある映画をディスカウント価格で有料配信する、とします。一方、今後は様々な“ウィンドウ”で『映像コンテンツ』が視聴可能になるわけで、自分が見たい映画がどの“ウィンドウ”で見れるかは検索によって一発で探せます。もし動画共有サイトでその映画に企業広告が載ったものが無料で見れる、という場合、価格競争力上、ハードウェア企業が提供する方の映画は選択されないことになります。
あるいは、そのデバイスでしか提供できない“ユニークな”映画だったとすると、逆にその映画を見るためにそのデバイスを買おう、という人は相対的に少なくなります。
結局、アップルがiPodで採ったようなハードウェアを売るためにコンテンツを確保する、という方法は、成立しなくなる可能性があるわけです。
つまり、収益機会はデバイスを提供する側ではなく、あくまでもコンテンツホルダー側にある、と言えます。
10. 素人の収益機会とクリエイティブ・コモンズ
u
素人がコンテンツで稼げる時代がきた?
u
クリエイティブ・コモンズの活用
前述(<1> 6. 映像コンテンツの新しい楽しみ方『マッシュアップ』)のYouTubeでの動画広告の話のように、広告収入をバックにコンテンツホルダーが動画共有サイトで収入を得る環境が整いつつあります。
更にいえば、ハリウッドの映画スタジオのような大手コンテンツホルダーだけでなく、一般の素人さんが作った作品にも広告収入を得るチャンスがあります。
2006年に、アメリカの動画共有サイトRivverでは、“Mentos+αの実験”という素人が投稿してきた動画に企業広告を載せ(動画画面上への広告掲載ではなかったが)、広告料の一部を投稿者に分配しています。
こういった動きは、日本でもすぐに始まるでしょう。まさに、一億総クリエイター時代の幕開けです。とはいえ、素人作品で企業が広告価値を見出せるコンテンツなどほんの一握りでしょう。ほとんどの人は見返りを期待せずただ“見せたい・聞かせたい”という動機で制作・投稿するのだと思います。
今、「クリエイティブ・コモンズ」というプロジェクトが浸透しつつあります。これは簡単に言うと、動画、絵画、文章などをインターネットに掲載する際、“勝手に使っても改変してもいい”とか“使う場合は金をとる”とか、意思表示をして掲載する、というものです。その意思表示の方法を“クリエイティブ・コモンズ・ライセンス”の表示によって行います。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスでは以下の4項目についてそれぞれ選択します。
・
表示(Attribution) =その作品の利用に関しての著作者の表示を求める
・
非営利(Noncommercial) =非営利目的に限ってその作品の利用を認める
・
改変禁止(改変の禁止)(No Derivative Works) =その作品をそのままの形でのみ利用を認める
・
継承(同様に共有)(Share Alike) =その作品につけられたライセンスを継承することを求める
例えば“非営利”で掲載していた作品が人気になり、大手企業が広告に使用したい、ということになった場合、料金交渉に入る、といった方法がすんなりできると期待されます。
<3> 『映像コンテンツ』ではなくて「映画」
今まで、特にブロードバンド環境の発達から、「映画」など『映像コンテンツ』ビジネスが大きく変わる、と言った説明をしてきました。
最後に、これまでの流れと非常に矛盾するのですが、『映像コンテンツ』は決して『映像コンテンツ』という商品有りきで作成されるものではないと思います。説明上『映像コンテンツ』と言うまとめ方をしていますが、例えば「映画」は「映画」であり、それは一つの“作品”です。作品を作る以上、そこには明確に作り手の意思が入ります。“ターゲットセグメント”的な広告ニーズが有るから、ターゲットに沿った作品を作り手の意思も介さずに作ろう、というのは、本末転倒であると言えます。そういう作り方は認めても、最終的には作者の意思が入っていなければ作品としての魅力も無く、そういう作品はそもそも広告的価値は認められないものになると思います。
いかに「映画」などの『映像コンテンツ』を取り巻く環境が変わろうが、結局は作り手が“良いもの”を作る、と言う前提は今も昔も変わらないのだ、と考えます。
<参考資料>
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『ネット広告がテレビCMを越える日』 山崎秀夫・兼本謙任(マイコミ新書)
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D.A.Consortium社ホームページ『ネット広告講座「基礎編」』(http://www.dac.co.jp/net/index.asp)
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『2006年版インターネット広告の市場動向調査』(株)シード・プランニング