第一回講義 特殊霊魂はキョンシー退治のスペシャリスト?

 

 白塗りの化粧にドンブリ帽子、ブレイクダンスをしながらキョンシーと闘う特殊霊魂……。一般的に特殊霊魂は、キョンシーや悪霊退治のスペシャリストと思われがちだが、これはちょっと誤った認識である。

 そもそも特殊霊魂とは、どんなものなのか?特殊霊魂が最初に登場したのは映画1作目(ただし日本語版では「特別霊魂」、字幕版では「生霊」と呼ばれている)で、死んでしまった親方の霊魂と、少年達を会わせてあげるために、テンテンが観洛音(カンルーイン)の術を使った事が始まり。この術を施す事によって、一時的に黄泉(よみ)の国への扉を開き、同時に親方の霊魂を呼び寄せようとしたのだ。親方の霊と少年達が対面する場所は黄泉の国への扉の手前。顔に白いペイントをするのは、通常の姿が親方の霊には識別できないためと、死界の空気に触れずに済むという効果もあるようだ。で、テンテンが術を失敗したためか、親方の霊ではなく、黄泉の国への使者が迎えに来てしまう。あわてて少年達を呼び戻そうとするが、テンテンは呼び戻すためのお札を無くしてしまい、少年達は扉を越えて黄泉の国へ入っていってしまう。しかし死んでいない人間が黄泉の国へ入れるはずもなく、そんな時少年達は、あの世とこの世の境目に入ってしまう。そういういわば第三の世界に入った霊魂の事を特殊霊魂と呼ぶのだ。この第三の世界には神も悪魔も存在しない、何者にも支配されていないから、恐れるものは何もない。だからキョンシーなんて目でもないというわけ。恐いもの知らずほど恐いものはない。特殊霊魂の強さの秘密はここにある。
 この「何者にも支配されないからキョンシーにも勝てる」というのがポイントで、別にキョンシーのみに対して攻撃を加えるわけではない。敵と味方の区別はなく、普通の人間や身内に害を加える事もしばしばある(映画1作目では保安官に、2作目ではスイカ頭に対して攻撃している)。だから、特殊霊魂を使ってキョンシーを退治するというのは、毒を以て毒を制するようなもので、本来は大博打に近く、ひょっとすればキョンシーと一緒になって人間を襲い始める危険性だってはらんでいるのだ。また恐いモノなしとは言っても、必ずしもキョンシーより強いとは限らないから、特殊霊魂になる少年達も大きなリスクを背負う事になる。
 金おじいさんが、映画1作目で勝手に術を使った少年達とテンテンに対し「天に背く行為だ」と激高したり、2作目でテンテン救出のために特殊霊魂になりたいと懇願して来た少年達に「あまりにも危険すぎる」と渋っていたのはそのような理由があるからなのだ。

 ところが、『来来!キョンシーズ』あたりから、この特殊霊魂の扱いがだいぶ変わって来る。
 第6話で、凶暴キョンシーと最後の対決をする金おじいさん達。凶暴キョンシーに歯が立たないと見るや、金おじいさんはキリモミしながらやぐらの上に飛び乗る。そしてポーズを決めて一喝「特殊霊魂じゃぁ!」。テンテンと金おじさんが素早く術を施すと、スイカ頭とトンボの前方にボンッと白い煙がたち登り、二人は特殊霊魂に早変わり……。
 まるで特撮ヒーローものの変身シーンのように格好良いシーンだ。しかし、映画では特殊霊魂になるためには、かなり大がかりで面倒くさい法術を行わなければならなかったのに、テレビシリーズでは、何故かこのようにえらく簡略化されている。最終回などもっとすごい。金おじいさんが銀色の玉のようなモノを投げると、少年達の前で爆発が起こり、特殊霊魂に変身……たったのこれだけ。しかも特殊霊魂から通常の姿に戻すためには、映画1、2作目によれば、「還魂」のお札を燃やさなければならないはずなのだが、このTVシリーズの最終回では、やはり玉を爆発させるだけで普通の姿に戻っている。


通常の姿に戻すためには「還魂」のお札が必要。

 それからもう一つ、映画4作目で金おじいさんが鈴を鳴らして特殊霊魂を操るシーンがあるのだが、これも妙である。特殊霊魂は「何者にも支配されない」はずだからだ。コウモリ道士やムササビ道士などによって悪の“手先”にされている「闇の特殊霊魂」も、「何者にも支配されない」という意味ではやはりおかしい。それ以前に、そもそも善も悪もない世界にいるから「特殊霊魂」なわけであって、「闇」もへったくれもないと思うのだが…。

 なぜ『幽幻道士2』以前と『来来!キョンシーズ』以後とで、こうも特殊霊魂の扱いが違うのだろうか?また金おじいさん自身が「天に反する術」とまで言い切った法術を、こんなに軽々と使っているのも、腑に落ちない。

 想像するに、『来来!』以後の特殊霊魂は、金おじいさん達(悪の道士も含む)が独自の研究によって編み出した、いわば「疑似特殊霊魂」なのではないだろうか?前述した通り、正規の特殊霊魂は確かに強いが、キョンシーのみを攻撃するとは限らない上、制御が効かないという、いわば諸刃の剣である。そこで、これらの欠点を排除した上で「特殊霊魂に近い状態」を作り出す方法を考案したと思われるのだ。変身させるための法術があまりにも違いすぎるのは、映画で使われていた観洛音の術とは別モノだからなのだろう。
 しかし、これによる弊害も生じてくる。何度も言うが、特殊霊魂の強さの秘密は「何者にも支配されない」ところなわけで、誰かに操られている特殊霊魂など、その強さも半減してしまうだろう。そう言えば『来来!』以後の特殊霊魂は、はっきり言って大した仕事をしていない(下表を参照)。キョンシー退治の手助けをする程度だし、勝ち目がないと見て金おじいさんに引っ込められてしまう事まである。闇の特殊霊魂も大して強くないし。
 すなわち、野生の獣と、飼い慣らされた番犬の違いと言えるだろう。個人的には、制御性を得た代わりに強さを失った疑似特殊霊魂よりも、初期の頃に登場した、ギラギラとした闘争本能ムキ出しの真性特殊霊魂のほうがカッコいいと思うのだが、諸君はいかがだろうか?(^^;;

特殊霊魂の主な活躍(闇の特殊霊魂を除く)

登場した作品名

果たした役割

幽幻道士

親方を殺したキョンシーを完膚なきまでに叩きのめす。
4人で力を合わせて発射したビームで親方キョンシーに完勝。

幽幻道士2

3人で親方キョンシーの体を引きちぎり撃破。

来来!キョンシーズ6話

金おじいさんらのサポートとしてキョンシーの体をおさえる。

来来!キョンシーズ10話

闇の特殊霊魂に3人がかりで挑むが歯が立たず。

幽幻道士4

ザコキョンシー軍団を一時的に退治するも、すぐに復活される。
魔王にはまるで相手にならず。

・次回講義 「ベビーキョンシーの謎」