構図印について
作品を仕上げたら、印を押す・・・というのはお話ししました。
さて、それでは作品が出来上がったら、どんな印をどう押したらいいのでしょうか。
落款印には「証明印」や「斎堂館閣印」を「構図印」として用いる方法があります。
構図というのはもちろん絵の構図です。西洋絵画ですと「黄金率」なんかが基本になりますが、日本画でも「黄金率」を主張される方もいらっしゃいますが、「余白の美」という非常にアンバランスでいて、ぎりぎりのところでバランスをとっている緊張感のあるバランス美というのは「黄金率」では説明できない気がします。では何で説明すればいいかというと、この日本独特のアンシンメトリーなバランス美というのを説明するのに最適なのが生け花の基本型なんです。
生け花の基本はいろいろな流派がありますけれど大体において「真」「行」「草」(「真」「副」「体」などいろいろいい方が若干かわりますが)という3点を結ぶ構図を空間に描き出します。
わたしは草月流の師範でもあるんですが、このバランスを頭に入れて描くと日本独特のアンシンメトリーな緊張感が画面に現れてとても良い効果をうみだします。またそこに「陰陽」のバランスなども加わってきます。水墨画の画面はまさに「白と黒」。「陰陽」に通じる小宇宙です。山水画などでは「気脈」の思想なども加わってきますが(ああ・・言い出したら止められなくなるぅ〜)
ここでは印についてなのでくわしい構図の取り方はまた別の機会にしますが、具体的にどんな風に「構図印」をつかうか実際の絵をつかって説明しましょう。(^^)
1.ここに印を押していない作品があります。菜の花を描いていて全体にやわらかな印象です。
ただ悪く言えば焦点が定まらないというか、うすぼんやりした印象も与えてしまいます。(陰陽でいうと「陰」の印象が強いので「陽」(強い色のもの)を補ってあげます)
さて、ここに印を押すのですが、「朱文」の印では全体が希薄なのでその希薄さをおぎなうには今一つ力がありません。ここでは朱の色が印象的な「白文」の印を使う事にします。
2.画面右下に押して観ました。初心者の方はだいたいここに押したがります。まあ無難な位置な気がするんでしょう。しかしこれでは絵の足元(菜の花の茎の部分)がなんだか締まりがありませんね。
3.左下に押してみました。今度は画面のなかの左側の菜の花がやや、右の花に比べて下に下がって描かれているために構図全体が左下に片寄ってしまうような印象になってしまいました。相変わらず菜の花の足の部分の散漫さも解消されていません。
4.さて、ではこれではどうでしょう。思い切って右の菜の花にかぶさるように、しかも画面のより中心に近い位置に落款を押してみました。こうすることで赤い落款印がひとつの視線の焦点(ポイント)となって菜の花の足元もこの印のおかげで気にならなくなったように思えませんか?全体に引き締まったかんじがします。
このように水墨画の場合、落款印までが絵の一部であり、逆に最後に「落款印」や画賛、作者の落款(サイン)を書き込む余地が無いほど、絵だけで埋め尽くされてしまうようなのは、水墨画としてはあまりよいものとは言えないのです。このように絵の一部としてバランスを最後に整える印のことを「構図印」といいます。
落款印の使い方の一部を紹介してみました。