日傘ひとつ分の世界

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「先刻の人、凄かったね」
 高校の図書委員で出会い友達付きあい状態で二年半、折角漕ぎ着けた初デートをぶち壊す様な強烈な光景に動揺していた杉浦航は、騒動を起こしていた男女が店から立ち去って数秒後にようやく引き攣った笑顔を正面に坐っている少女に向けた。
「え…、う、うん……」
 耳まで真っ赤に染めて俯いている水原真琴はまだショックから抜け切らないのか、動揺を隠せない震えた声でちいさく答えたが、航の言葉に積極的に応じる様子はない。
『恨むよ、あの人達……!』
 動揺から抜け出せていないのは航も同じだった。学生街のありふれた喫茶店で女性が突然大声でいやらしい小説を朗読し始めるという事件は誰も予想出来ないだろう。しかも欲求不満そうな中年主婦の下世話な猥談ならまだしも、半ば自暴自棄な調子で淫語の大声を張り上げたのは航達といくつも変わらないであろううら若き女性だった。
 何かのゲリラ撮影だろうかと考えつつアイスカフェラテに手を伸ばし、そして航はちらりと真琴を盗み見る。
 誰もが目を奪われるだろう先刻の女性は女優かモデルの卵だったのだろうかかなり人目を引く美人だったが、真琴もそう劣るものではない。いや、真琴は方向性が違うだろう。一輪で目立つ大輪の花の様な先刻の女性と違い、真琴は花束の中のかすみ草を思わせる 強烈には存在感を訴えないタイプである。だがいるといないとでは空気が違う。この暑い盛に涼しい開放的な服でなく、華奢な刺繍とカットが襟と袖に施された白い木綿のブラウスと黒いスカートに白い日傘姿…そんな時代遅れな姿が妙に懐かしく、そして眩しい。私服姿の真琴を初めて見た時、その可憐な風情に見蕩れて一瞬声をかけるのを躊躇ってしまう、そんな少女である。
 今日は一緒に参考書を買ってお茶を飲むだけで十分だと考えていた航は、先刻の女性が大声で喚き散らした淫語の数々によってスイッチを入れられてしまった性的な衝動を持て余してしまう。高校三年生。それなりにアダルトビデオや青年雑誌を手にする事はあっても生で淫語を聞いた事などない。――そして目の前には二年半もの間密かに思いを寄せている相手がいるのだから、それが結びつかない筈がなかった。
 男女が騒動を起こしている間は凍りついて見守っていた客席は徐々に緊張した空気がほぐれ、初々しい高校生男女を除いて他の客も店員も何事もなかったかの様な空気を取り戻しつつある。
「少し移動しようか」
 この場にいるといつまでも先刻の余韻から抜け出せずにそのまま初デートが終わってしまうであろう予感に、航は炎天下の屋外を指した。日傘持参の真琴と並んでも日傘の分だけ距離が空いてしまうのだが、それでもぎくしゃくとしたまま取り残されるよりは初デートらしいだろう。
「うん」
 小さく頷いた真琴の薄紅色に染まった頬と、薄いブラウス越しにかすかに透けるブラジャーに、密かに隆起したままの航の下腹部がどくんと脈打った。

 大きな葉を茂らせたプラタナスの並木の所々に留まっている蝉の声が車や人の喧騒を掻き消す様な、圧倒的な音に支配された大通りは、逆に音が大き過ぎる為なのかまるで映画の一シーンを見ている様な隔絶感を航に与える。前夜の大雨の名残など感じさせない熱いアスファルトの上で揺らぐ陽炎が遠くまで続く車の渋滞光景を歪ませる。喫茶店を出てすぐに滲み始めた汗が頬を伝うまで時間はそうかからなかった。
「……。映画か何かの撮影だったのかな?」
 不意に漏れた真琴の声に、航は日傘をゆっくりと回しつつ歩いている真琴を見る。日傘の中は直射日光下よりは涼しいのか、真琴の頬には汗はさして浮かんでいない。
「そうじゃないかな。女の人も女優さんみたいな感じだったし」
 外を歩けばおさまるかと考えていた下腹部の疼きが一向に改善されない航はそう考えながら先刻の光景を思い浮かべ、そして相手の女性がやや心配になってくる。撮影ならよいのだが、もしあれが本当に悪い相手に唆された行動ならば今頃はそういった場所に連れ込まれて酷い目にあっているのかもしれない。だが大人同士の悪戯や撮影だとすれば航が口を出す話ではないだろう。
 と、日傘を回すのを止めた真琴がやや軽蔑した様な顔で自分を見ている事に航は気づく。
「杉浦君、ああいう感じの人が好みなんだ」
「ち、違う。確かに美人だけど、お付き合いしたいとかそういうのじゃない」デート中に他の女性を誉める禁忌を侵してしまったのに気づき、航は慌てて両手を振る。「――それに、今、可愛い子が目の前にいるのに他の人に見蕩れる余裕なんてない」
 デートとお互いに明言していない状態で言っていいのか判らないまま弁解する航をじっと直視した後、ちいさく息を漏らしてから真琴が日傘を畳んだ。
「杉浦君、ちょっとタラシっぽいと思う。今の言葉」

 日傘を畳んだ分だけ距離が近くなった航と真琴は緊張が解け、いつもの図書室と同じ様に話を弾ませながら中央線御茶ノ水駅前を通り抜け、神田明神へと歩を進めた。学生は夏休みであっても一般的にはまだ平日の為なのかかなり閑散とした中の参拝の後、お守りを買おうとして二人は考え込む。
「平将門命に大己貴命に少彦名命だもんね」
「将門公は判るけどあとの二柱は?」
「判りやすく言えば大黒様と夷様。厄除けと家内安全と商売繁盛…うぅ…学業成就がないのね」
「勝守がそうなのかな?」
 受験生らしいお守りが見当たらず困惑していると、しばし口元に指を当てていた真琴がオレンジ色のお守りを購入した。遅れてとりあえず外れのなさそうな勝守を買い、先に進んでいた真琴に追いついた航は思ったよりも広い境内を歩きながら少し機嫌よさげにしている横顔を見る。
「結局何のお守り買った?」
「縁結び御守護」
 悪戯っぽく言う真琴に航はやや斜め上の木々を見上げつつその意図をいくつか考えてみるが、どれが正解なのかが判らない。
 学生街の喧騒から離れ大通りからも遠い境内は蝉時雨だけが世界を占め、二人の足音さえ掻き消されそうだった。少し前を歩く真琴の漆黒の髪が時折吹く風にさらりと揺れ、日傘がない為かかるく汗ばんだ肌が日差しを弾き、眩しい。袖から伸びる華奢な腕はあまり鍛えていない航の手でも折れそうな程細く、白い肌に淡く透ける血色が柔らかで瑞々しい桃を思わせる。――まだ熟れていない硬さの残る、だが甘い桃を想像し、航の鼓動が一度大きく鳴った。卑猥な想像になってしまうのは、先刻の喫茶店での騒動のせいだろう。
 境内を出た小道が先刻御茶ノ水駅から来た道とは違うのに気づき左右を見回してみるが、駅への目印になる様な看板の類が見つかない。とりあえず大通りを目指す事に決めてから二人は迷い出た小道のすぐ近くにあった公園のベンチに腰を下ろした。
「日傘させば?」
「杉浦君だけ炎天下じゃ気の毒でしょ」
「じゃあ相合い傘でもする?」
 冗談で口にした言葉に疑いもなく、真琴が仕舞っていた日傘を取り出して差した。携帯用日傘は小さな女性用のものであり二人が入るにはかなり無理があり、かなり身体を寄せなければ二人の頭はその影に入らないだろう。躊躇う航に、真琴が少し身体を寄せてきた。
 ふわりと漂う甘い香りがジャスミンだと判ったのは航の家の庭にそれが植えてあるおかげだった。実際の花の匂いと若干違うのは真琴自身の汗の匂いが混ざっているからなのだろうか、甘いだけでなくどこか甘酸っぱく、そして性的な匂いが航の鼻をくすぐる。
 神田明神のすぐ裏手辺りに位置するであろう小さな公園は、学生街からは中央線と神田川を挟んで逆にあり、敷地面積の限界に挑戦した様な都心特有の手狭な雑居ビルとマンションばかり立ち並ぶの奥まった場所にある。ファミリー向けとは言い難い街並みは恐らくはベッドタウン並に昼夜の人口密度は変わるだろうし、確か神田明神のある辺りは航の記憶によると大通りに囲まれている場所だった。殆どのマンションは表通りにエントランスがあるのだから住人はそちらに出るだろうし、わざわざ小道に入ってくる通行人などいないだろう。実際、公園に航達が付いてからは誰も見かけない。まるで蝉時雨と共に世界から切り抜かれた様に、誰もいない。
「……。男の子って、ああいう人が好き?」
 不意に肩が触れそうな至近距離で不意に問いかけてきた真琴に、航は視界の隅の雑草に意識を集中させた。油断をすれば真琴の身体を意識し過ぎてまた燻り始めてきたものが一気に再燃してしまいそうだった。
 黒いスカートも制服のものと異なり柔らかで下に隠れる少女の腿の線を、ブラウスは白いブラジャーの繊細なレース地を浮かび上がらせる。制服姿ではあまり感じられなかった清純派の少女の無防備な肢体は航には刺激が強過ぎた。
「ああいうって、顔とか?」
「う……ううん…、あの……あれ…、そういった本とか読んだり…あんな場所で言っちゃう事……」
 歯切れ悪く言う真琴は喫茶店と同じく視線を目の前の地面に向け、耳まで赤く染まっている。まるで真琴自身が朗読をしてしまった様な緊張具合に、それを盗み見た航の喉がごくりと動く。焼ける様な暑さの中で、すぐ近くにいる真琴の体温が急に伝わってきた気がした。汗ばんだ柔らかな桃の肌と、ブラウスの中でかすかに揺れる乳房の隆起、そして甘い匂い。
「撮影とか趣味とか、そういうのなんじゃないかな。別に変じゃないよ。実際にそういう事しないと人類絶滅するし」
「いきなり壮大」
 くすっと笑って航を見ようとし、真琴が慌てて視線を元に戻す。航のすぐ隣に腰を下ろす少女のブラウスの胸元のボタンとボタンの間が撓み、その小さな隙間から胸元が見えた。繊細なレースのカップに包まれた肌の綺麗さに思わず見蕩れてしまった航に、真琴が気付き慌てて胸元を隠す。
「えっち」
「……。水原だって喫茶店で興奮してた癖に」
「な……!」
 誤魔化す様に言い返した航の言葉に真琴が大きな瞳を更に大きく見開いて唇を震わせる。予想外の反応に一瞬驚いた後、航の中に込みあがってきたのは意地の悪い感覚だった。
「ふぅん男ならまだしも女でも興奮するんだ? 女はああいうのは毛嫌いすると思ってたけど…水原は違った?」
 折角の初デートで相手を辱める言葉を口にするとは思いも寄らなかったし、今も航自身自分の発言が信じられないのだが、一度表に出てしまった悪戯心は坂道を転がる様に勢いを加速させてしまう。ぎゅっと皺がつきそうなくらいに強くブラウスの胸元を握り締める真琴の姿がとてもか弱く簡単に手折れてしまいそうに見え、それが逆に完全に勃起状態にある航のものを更に猛らせる。
「水原は、言ってみたい?ああいう言葉。ああいう場所で」
「――ゃ……」
 嫌われたくない相手なのに、今ここで虐めないと男として認めて貰えそうにない感覚が航の行動をエスカレートさせる。気付かれない様にまた生唾を飲み、そしてゆっくりと手をベンチと真琴の間の空間に滑り込ませ、黒いスカートの上から腰を撫でる。
 びくんと真琴の身体が震え、そしてその大きな瞳が潤んでいるのが航の目に映った。
 小柄な真琴の腰は航の想像よりも柔らかい。喪服を思わせる深く落ち着いた黒のスカートの手触りは滑らかで、下着のわずかな段差や質感まで伝わってくる。初心者である為に急いた動きをしてしまいそうになるのを堪えていくと逆に酷く執拗で焦らした動きになるのも気付かず、航はゆっくりと同い年の少女の腰の感触を手のひらと指で確かめ続けた。
 ベンチの背もたれから数センチだけ空けていた華奢な身体がいつの間にか撓り、小刻みに震え浅い呼吸をせわしなく繰り返している。日傘の小さな影が地面で前後左右に揺れ、懸命に身体を縮こまらせている真琴の瞳がぼんやりとしたものに変わっていた。ベンチに腰かけたままの姿勢では腰を撫でてもその範囲はとても狭く、そして淫らな行為としては物足りない場所だった。
 そっと日傘の軸を前に傾けさせ、顔と上半身が上と前方から隠れる角度になおし、航はそっと真琴の唇に自分の唇を重ねた。初めてのキスに焦る気持ちを抑え、何度も触れさせる女の子の唇は柔らかく、しっとりとしている。呼吸も忘れ、何度も唇を重ねていく間に、触れる時間が長くなり、そしてそっと唇を動かす様になっていく…と、不意に真琴の唇からかすかに声が漏れた。
「ぁ……ん……」
 子猫の様な声は呼吸を忘れてしまった自分への不満とも、無許可でキスをした航への可愛らしい苦情ともとれるものだったが、重ねたままだった唇が相手の方から擦られる甘美な感触に、航は更に没頭してしまう。やはり真琴も不慣れなのか、鼻と顎を擦りつけあうぎこちない唇同士の触れあいが、徐々に熱を帯びていく。
 恐るおそる差し出した舌で耳朶よりも柔らかな唇を舐め上げた瞬間、真琴の身体がぶるっとはっきり震え上がり、そしてしばしの緊張の後、ゆるゆると溶けていく。一度舐めてしまうとエスカレートしてしまうのは簡単だった。真琴の柔らかな唇をじっくりと舐め回した次は、舌を唇の内側へと進めていく。柔らかだった唇だがその内側は粘膜と呼ぶに相応しいぬめぬめと濡れた場所であり、そして綺麗な白い歯は対照的に硬い。喫茶店で真琴が注文していたアイスメープルロイヤルミルクティの味のする口内は、飲み物の味だけとは思えないくらいに甘く、淫らだった。
 朝にはただ参考書を買ってお茶を飲むくらいで大成功に思えた初デートが、気づけば街中の公園の片隅で好きな少女といやらしいキスに溺れているのが航には信じられなかった。だが、頭の奥がどくんどくんと脈打つたびに、航の下半身のそれはたまらない閉塞感に暴れたがる。
 もしもこのキスが妄想でここが自室ならば形振り構わず自慰を始めて真琴で何度も抜いてしまうだろう。いや、実際真琴との妄想で抜いた回数は恐らく百回は越えている。妄想の中の真琴はいつも怖じ気づいていて、潤んだ瞳で航を見上げ、そして陵辱されていた。現実はそんな簡単なものではないと悟っていたが、それに近い現実が今目の前にある。
 ぎこちなく、だが徐々に呼吸を繰り返すタイミングを憶えながら、航は片手を真琴の胸元へと伸ばした。
「――っ……!」
 蝉時雨の中、耳をすませば遠くに自動車のエンジン音や布団を叩く音やテレビの音が聞こえてくる。やはり一応は生活圏の中の小さな公園でいつ誰が来るか判らない。いや、今隠しているつもりの二人だが周囲の雑居ビルやマンションからは簡単に見下ろす事が出来るだろう。ベンチの日傘の影で何をしているのか。想像するのは容易だろう。
 胸元でブラウスを握り締めている真琴の手の緊張はまだ解けず、両腕で乳房を庇い続けている状態に、諦めた航の手は下へと降りていく。びくびくと身体を震わせ時折首を弱く振りながら、口内を舌で舐め回されている真琴はそれ以上の抵抗をしない。小鼻から漏れる息はたまらなく嗜虐心を煽る甘えと怯えを含んでおり、妄想の中のか弱い少女と完全に一致していた。臆病な動きで航の舌を避けていた舌をまさぐり、舐め回すと真琴の体温が一気に上昇した気がする。
 日傘の外で、真琴の綺麗に磨かれた可愛らしいデザインの黒い革靴が小刻みに震え、蟻が近くで行進する雑草混じりの土の上でぎこちない動きでくねり、突っ張る動きを繰り返す。不慣れに舌を絡めあう少女の喉がこくんと動く。唾液の糸を互いの間に引かせつつわずかに唇を離した航を真琴がぼんやりと見つめ、そして本能的に唾液を嚥下してしまったのが恥ずかしいのか視線を逸らす。
「こんな所で……」
 そう言いかけ、真琴は口篭る。
 小道を歩いていた途中で更に奥まった場所にラブホテルらしき看板があるのを航は見ており、恐らく真琴も気付いていたであろう。それを意識しないでいるのは無理だった。だが高校生でラブホテルに積極的な興味を持つのは流石に抵抗がある。
 だが、今ではそれが考慮の範囲内にある気がした。
 しかし、公園のベンチならばキスと悪戯で済むかもしれないが、ラブホテルに入れば男女として一線を越えるのは確かだろう。
 妄想の中でかなりの回数真琴を陵辱している航にはそれがありえる事であっても、真琴にとっては予想外かもしれない。この小柄な少女が今は流されていても一線を越えるとなると引いてしまう事はあり得る。折角二年半よい関係であったのを一時の衝動で壊すのは避けたい所だった。
「帰ろうか」
「……。もうちょっとだけ……キス、して」
 かろうじて理性で何とか口にした提案に、うっとりと頬を染めたままの真琴が小声で答え、そして胸の上にあった手を解き日傘の柄を両手で持ち…無防備な姿で航へと顔を少しだけ突き出した。

 直径七十センチ前後だろうか、折り畳みの日傘で隠れる世界は小さいがささやかな秘め事を隠すには十分な気がした。
 先刻と異なりわずかに航へ身体を傾けている真琴の全身はすっかり汗にまみれていた。しなやかな黒髪はうなじや首筋に貼りつき、航の慎重な愛撫のひとつひとつに敏感に反応し、ちいさな声を漏らしそうになっては堪える風情が堪らなく男心を刺激する。日傘を持つだけの華奢な肢体は航の思う侭の愛撫を許し、そして不慣れな者同士の貪欲なキスを繰り返す頭から居心地悪そうに擦り合わせられている膝までを日傘が隠していた。
 七十センチ程から外に出る動きは躊躇われ、航は体勢は正面を向いたまま片手だけで真琴の乳房を弄ぶが、逆手になる為その動きは自由とは言いがたい。
「……。杉浦君……」
 やや舌足らずな声でちいさく呼ぶ真琴の声に、眩暈さえしてくる。今日の朝はこんな声を生で聞けるとは思いも寄らなかった甘えた声音は、頼まれれば夏休みの課題だろうが何だろうがすべて引き受けてしまいたくなるだろう天使の声だった。何より、マンションと雑居ビルに囲まれた公園の一画で淫らな行為をしている怯えがひしひしと伝わってくる初々しさが堪らない。
 航はもっと大胆に愛撫したいと考えており、そして真琴ももっとエスカレートして欲しいとねだっているのがはっきりと伝わってくる。
「傘、落とさないで」
 航の言葉にちいさく頷く真琴に、航は身体の向きを変え、華奢な肩に手を回す。
 キスはしてもまだ手を繋いでもいない少女の肢体を抱き寄せつつ、航は片手をそっと乳房に当てる。グラビアモデルなどとは比べ物にならない、航の手にすっぽりと収まる乳房の感触は想像よりも張りが強く、だがゆっくりと弧を描かせると柔らかに手の動きに従い、マシュマロを連想させた。ちらりと盗み見る真琴の表情は求めていた愛撫への悦びよりも気恥ずかしさの方が強いのか、怒られた子猫の様に縮こまりながら浅い呼吸を繰り返して震えている。
 ずっと真琴が握り締めていたブラウスの胸元には皺がはっきりと寄っていて汗を吸っていた。だが今は既に真琴の服全体が汗に濡れている状態である。時折風が吹く中、日傘の中は真琴の汗とジャスミンの匂いが篭っていた。
「いい?」
「きいちゃ…いや……」
 更にエスカレートさせる前の質問に潤みきった瞳で喘ぎつつ答える真琴に、航は呼吸が荒くなるのを懸命に抑える。こういった時は自分が焦っては真琴に恐怖感を与えかねないし、腕の中にある壊れ物の様な華奢で柔らかな身体の扱いに不慣れな自覚が航自身にあった。妄想ではこの乳房を目茶苦茶に揉みしだき乳首に歯をたててはみても、実際に触れてみると頼りなさで不安にさえなってくる…一番不安なのは、真琴に快楽を与えられるかだった。爪を立てるのも噛むのも叩くのも好きな人は堪らないかもしれないが、不慣れな真琴にとっては上級者向け過ぎるかもしれず、そして航自身が力加減を掴んでいない。そうなると自然と航の手は触れるか触れないかの柔らかな愛撫を繰り返す事になる。
 ボタンとボタンの合間に指先を潜り込ませそっと柔肌を撫でつつ、胸元のボタンをいくつか外すと日傘の中で真琴の胸が露になった。日焼けしていない肌は執拗な愛撫に汗ばみ薄桃色に染まっており、レースとリボンの施された純白のブラジャーとの組み合わせは可憐そのものといった光景である。乳房もCカップ程度だろうか、巨乳自慢のグラビアアイドルと比べればやはり見劣りするものの、その膨らみは華奢な肢体には十分な大きさだった。
 ぶるっと身を大きく震わせ、真琴がキスを求めてくる。恥ずかしくて堪らない時にキスを求めてくる癖があるらしい。
 肩を抱き寄せた体勢のまま、唇を重ねるとおずおずと真琴の舌が航の唇を舐め上げた。
航と比べまだ積極性が足りない真琴だが、その舌と唇を愉しむとどうしてもフェラチオを意識しだしてしまう。キスすら満足に出来ない相手に何を妄想しているのかと思うものの、妄想の中では真琴にありとあらゆる事を試してしまっている状態だからつい連想してしまうのは仕方ないだろう。小さな舌で唇を舐められ、可愛らしく拙く動くそれで性器を舐められるのを想像し、真琴の肩を抱く航の手に思わず力が篭る。
 何度もブラジャーの上から優しく撫でていた手が胸の谷間にあるフロントホックへ伸び、そして弄りだす。
「ぁ……だめ…、それ……んむ…っ……んんっ!」
 弄るのも初めての構造を指先で慎重に確認し、止めようとする真琴の舌を舐めまわして言葉を封じている間に小さな音をたててホックが外れた。ホックが外れた途端にふわりと緩んだブラジャーのカップを指で払い直接柔らかな乳房を手に収めると、しっとりとした手触りの中央に硬く擦れる突起の感触があり、そっと弧を描くとそれは手のひらの中でくにゅりと押される形で転がる。口の中の声と、全身の震えを考えるまでもなく、昂ぶっている真琴の乳首は硬くしこっていた。男の豆粒の様な乳首と違い、ゲーム機の樹脂製ボタンやノートパソコンのトラックポイントを連想させる存在をはっきり主張している。悲鳴か苦情か判らない声を漏らそうとする唇をやや無理矢理塞いだまま盗み見る航の目に、サーモンピンクとさくらんぼの中間辺りの甘そうな艶やかな色に染まっている乳輪と乳首が映った。
 初心者の胸は乱暴に扱うと痛がるという嘘か真か判らない話を思い出し、更にゆっくりと繊細に乳首と乳房を愛撫する航に、真琴の全身が妖しくくねる。喘ぎ声を聞きたい衝動に駆られるが流石にそれも躊躇われ、そして周囲の環境を考えて諦めた。
 指でそっと包む様に乳首を摘まみ、キスを中断した航に真琴が今にも泣きだしそうな顔のまま肩で呼吸を繰り返す。
「ゃぁ……っ…はずかしいの……そこ…いじっちゃいや……」
 蝉時雨の中、熱に浮かされた様なかすかな声で真琴は訴えるが、その声は濡れきっていて抑制力の欠片もない。
 密集する雑居ビルとマンションに囲まれた暑い公園にふわりと風が吹き抜け、日傘の中にも一瞬の涼しさを運んできたが、それすら刺激になってしまうのかびくりと華奢な肢体が震える。
「俺の事エッチ扱いしたけど、水沢も相当エッチだね」
「……、杉浦くんがこんないやらしいさわり方するなんて、おもわなかった」
「いやらしいって、こう?」
 乳首を摘まんだ親指と人差し指をゆっくりと前後に動かすと真琴の肢体が大きく跳ねた。
 必死に声を堪える風情の少女に、航は指の中の乳首をそっと捏ね回し、引き、少しだけ力を加えてみる。まるで神経に直接触れられた様に真琴が震え、日傘が揺れた。艶やかな色の乳首が指の間でくにくにと形を変える光景に見蕩れかけてしまう航は、ふと背を丸め、乳首に舌を滑らせる。
「ひ……ぁ!」
 汗の為か最初は塩辛いものの、何度も舐めると塩味を感じなくなってくる。ぷるんと弾む乳房を片手でそっと揉みながら舌で前後左右に乳首を捏ね回し、唇で優しく挟む航の鼻孔いっぱいに甘酸っぱい匂いが満ちる。ジャスミンの匂いだと判る以外にも感じる別の匂いがやや濃くなっている気がした航の意識は、可憐な乳房と乳首を弄びつつも、自然とその下へと向いていく。
 日傘に隠れる形で軽く向き合い肩を抱く姿勢から、胸に顔を埋める状態に移行した航の手は既に真琴の肩より落ちてウエストの辺りを抱いている。その手が脇の下をくぐり乳首を舐めている乳房をたぷたぷと愛撫し……、
 空いた手が、スカートのファスナーへと伸びた。
 片手で日傘の柄を持ち、片手を口元に当てて懸命に声を殺す真琴の身体が、ファスナーを下ろす音に凍りつく。
「やだ……それだめ…っ……すぎうらく…んっ……ぁ……あんっ…それ…だめ……っ」
 小さく首を何度も振るが抵抗する真琴の仕草はそれ以外は身悶えに近く、そして下ろしたファスナーの間からスカートの中へと潜り込ませる航の手を止める動きはなかった。
 指とも腕とも違う乳首の堪らない感触に後ろ髪を引かれつつ口を離し、航は再び真琴へ顔を寄せる。何の為のキスなのか判っているのか長い睫毛を震わせる少女の瞳は怯えと陶酔に濡れ、心細げに見つめ何度か唇が揺れたが言葉が出てこない様だった。
 真琴がそっと瞳を閉じた。
 蝉時雨の支配する街中の公園のベンチの、日傘が隠す小さな空間で、両乳房を露にさせられた少女の全身から甘酸っぱい匂いが漂う。航の腕の中の華奢な肢体は緊張し震えていたがその重みは殆ど預けられた状態だった。許しているのか拒んでいるのか判りにくいが、キスを待っている事実がすべてを物語っている。
 ゆっくりと真琴に確認する様に航はそのちいさな唇を舐める。最初は優しく、そして繰り返すたびにその舌は真琴の同意を淫らだと思い知らせる様に卑猥さを増していく。かすかに開いている唇の間から甘く上擦った真琴の声がこぼれ、そして航の舌が唇の内側の粘膜を舐り上げる。
 思ったより薄くしなやかなスカートの中に潜り込んだ手は、ブラウスの裾を手繰り上げつつ真琴の下腹部へと進んでいく。炎天下で汗を掻いた為だけでは納得出来ない程、スカートの中は蒸れて熱を帯びていた。ブラウスの裾を越え、濡れた肌の上を指が滑った瞬間、真琴の全身がはっきりと跳ね上がり懸命に抑えようとして失敗したらしい甘い声が漏れる。
 男子の下腹部とはあまりにも異なる薄く柔らかく滑らかな肌に感動すら覚える航は、五本の指で出来るだけ優しく肌を撫で回す。
 真琴の身体中を舐め回したい衝動。汗がなくなれば味はしないのは乳首で判っていたが、真琴の身体の存在を頭の芯まで染み込ませる様な甘酸っぱい匂いを嗅いでいると熟れはじめの桃の印象は増していく一方だった。キスと乳首への愛撫を続けながら、意識は真琴の下腹部に集中していく。キスや乳房への興味も当然あるが、健全な高校三年生男子の貪欲な好奇心はそれ以上の行為を許した少女の淫らな部分をすべて暴きたい衝動に捕われていた。
 筋肉も脂肪も薄い臍下の腹部を撫で続け、そして当然の様に手は下へ滑っていく。
 男性用下着とは明らかに材質が異なる伸縮性のある薄い素材の上からそっと指を動かすと、平坦な感触が唐突に荒れたものに変わる。レースなどとは違う、それは真琴の下腹部の柔毛の茂みだった。水泳帽の上から頭に触る感触に近いが、それよりも薄い下着は柔毛の一本一本の凹凸まで指に伝えてくる。真琴の声が、気恥ずかしそうな嗚咽に変わっていた。
 豊かでさらりとしている真琴の髪と比べ、豊かさは同じだが柔毛はやはり縮れており、性器の辺りの毛は男女で大差はないのかもしれないと考えつつ淫らな茂みを撫でていた航の指が、不意にぬちゅりと粘液に滑った。
「……」
 愛液が溢れる膣口はもっと下にあると流石に判っている航の動きが一瞬固まり、しばし呼吸を忘れる。そして遅れて脇の下から回して指で乳首を撫でていた腕に少しだけ力を入れ、あまりにも恥ずかしかったのかいつの間にか震えて泣きじゃくっていた真琴の身体を抱きしめている力を強くする。
 恥ずかしい思いをさせてしまった罪悪感と、キスすらぎこちない初々しい真琴がこうも濡れている意外さと素直な感動で言葉にならない。
 このまま進めてしまう前に、腕の中の泣きじゃくる少女をどうにかして慰めたくなり、そっと航は唇を離す。唾液の糸がいくつも伸び、そして大粒の涙をこぼす真琴の真っ赤に染まった顔を見つめ、更にどんな言葉をかければいいのかが判らなくなり、とにかく強く抱きしめたい衝動に駆られつつ、至近距離にある泣き顔すら可憐なのは反則だと頭の中で考える。
「……。えーっと……」
 下着の上にまで愛液が沁み出し粘液まみれになっている指を動かしたい衝動に駆られつつ、航は懸命に言葉を捜す。生徒手帳のポケットに仕込んでいる虎の子の一万円があればラブホテルに入れるななどと脱線してしまう思考が空回りする中、何とか軌道修正する航が何かを言おうとしているのが伝わったのか、涙をこぼしたままくすんと啜った真琴がかすかに首を傾ける。
 木漏れ日に似た日傘の縁取りのレースから漏れる細かな日差しが泣き顔の真琴に注ぎ、薄桃色に染まった顔や首や胸を濡らす汗と涙が清楚な顔立ちの少女を飾る宝石の様に光を弾く。
 真琴の甘酸っぱい匂いと柔らかさと熱さと可憐さにしばし時間を忘れかけた航は、ようやく口にすべき言葉を見つけ出した。
「えーっと…その……今更かもしれないけど…、君が好きです」

FIN
第三稿200908110012

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