2017梅雨時リハビリ『愛情表現B面』

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 見つめている。
 美弥は一週間前に強姦されていた。塾帰りの途中にある市民公園は大きく、それを迂回すればただでさえ遅い帰宅が更に遅くなる…昼間ジョギングルートとして喜ばれている自然豊かな遊歩道は、夜遅くになると街路もまばらで足元すら見えない鬱蒼とした森の様な場所に変わり、恐がりな美弥は足早に立ち去る事すら出来ずに小声で歌いながら歩を進め、そして茂みに引きずり込まれた。
 悲鳴を上げる事も出来ずに竦む美弥はただ一度だけ逃げ出しかけ、頬を殴られた瞬間に心が折れた。喧嘩らしい真似など一度もした事のない美弥は暴力への耐性がなく、泣きじゃくる美弥に目隠しを施された後は、執拗な凌辱が延々と続いた。
 明るい住宅街の小道を、その人は歩いている。
 美弥は処女だった。異性とつきあった事などなく、どちらかと言えば本を読んで大人しくしている方が好きな地味な美弥だが、憧れる異性は存在する。幼馴染の正木は美弥が話し掛けられる数少ない異性であり、近所でも評判の憧れの対象だった。
 目隠しの闇の中、美弥の唇を貪りながら大きな手が荒々しくセーラー服の胸元を引き千切りブラジャーを毟り取る。正常な服装で帰る事が出来ないのだと恐慌状態の思考の隅で美弥の一部が客観的に分析をする間も、服は無惨に剥ぎ取られ、恐らくぼろ切れを絡ませた状態で美弥の乳房は男の手に揉まれ、噛まれ、そしていつしか草の上で美弥は男に貫かれた。このまま殺されるのだろうか。激しく揺さぶられ身体の中心を熱く硬い擂り粉木で抉られる様な激痛の中、美弥の涙を吸った目隠しが熱い。人並みの幸せには当然憧れていた。出来れば好きな人とありふれた家庭を築きたかった。弱く泣き咽ぶ自分の声と、凌辱者の荒い息遣いの中、拷問の様な荒々しく激しい抽挿は膣奥を勢いよく突き上げるものへと変わり、やがて美弥を穿ち逃さない意志を感じさせる密着の果てに、どぷりどぷりと夥しい量の精液が処女を奪われた美弥の膣奥で弾けた。
 穏やかな笑顔で近所の住人に挨拶をする人を、見つめる。
 一度の射精では凌辱は終わらなかった。穢された衝撃と身体中の痛みに啜り泣く美弥の身体を転がした男は獣の体位で再び貫き、そして腰を抱えたまま執拗に、永遠に続くのではないかと思える程執拗に、じっくりと、速度を変え、角度を変え、美弥に男を刻み込み続けていく。血と精液の臭いと草木の濃密な匂いに美弥と男の汗の臭いが混ざり、草の茎を握り締める美弥の華奢な身体が男の抽挿に揺さぶられ……。
 不意にそれがあった。
 背後から犯されている最中、男の手が美弥の乳房をゆっくりと揉みしだいた。それまでもぬめぬめと舐め回されたりもしていたが、その動きは優しく撫でているかの様で、深々と貫かれ密着する体位でのそれが、美弥に小さな罅を入れた。まるで睦み合う男女の様な、愛しい女を撫でる様な、一撫では一度きりの錯覚であればよかったが、その後、荒々しい凌辱に混ざりつつも確かに繰り返され、その度に美弥を戸惑わせ罅を大きくさせていく。これが憧れの人であればよかったのに。現実逃避の思考が優しげな愛撫の度に過ぎり、やがて犯され続ける中、激しい凌辱の中、優しげな愛撫は嵐の中の一瞬の安息へと変わっていく。
 あの闇の後の記憶は曖昧だった。夜明け頃の薄明かりの中、鞄を手に歩いていた脚の間がぐちょぐちょと濡れていたり乾いていたりの不快な感触がした気がする。薄青の風景の中、脚が重くて、ぼろ切れを絡ませただけの肌を湿った風が這う。遠くで、犬の鳴き声。見上げる、窓。
 正木さんならいいのに。何度目の射精の後だろうか、片足を相手の肩の辺りまで高く抱えられた体位で犯される美弥の身体が突き上げの度にがくんがくんと揺れる。辺りを憚らずぐちょぐちょと鳴り響く粘液質な音の中、美弥の荒い呼吸が男の呼吸と溶け、唇が貪られる。蛞蝓を連想していた舌が唇が憧れの人のものならばどれだけよかったか。少しでも逃避したい精神が現実と妄想をすり替え、曖昧にさせていく。じゅるっと唾液を啜られる悍ましさが気恥ずかしさへと、男の手の気配を感じる度に優しい愛撫を期待し、やがて、ゆっくりとした抽挿にすら優しさを探し出す。
 人の口に戸は立てられない。あれから美弥の部屋の窓を見上げ気の毒そうに小声で話す住人の姿が現れた。雨戸も殆ど閉めたまま閉じ篭もる美弥はその姿を居間の窓などから何度か見ただけだが、しかし何度も見かけたのならばその何倍もあっておかしくはなかった。
 無言のまま、脅迫の一言もないまま、美弥の身体は男を刻み込まれていった。ただの激痛がじわりじわりと変質していく…鰓が膣肉を掻き分けながら引き戻される痛みにぞわりと妖しい何かが混ざり美弥の息を詰まらせ、膣口まで引き戻された猛々しい肉の凶器がゆっくりとゆっくりと送り込まれる充足に美弥は震える息を肺の奥から溢れさせる。優しげな抽挿だけではない、しかし穏やかだが卑猥な音を茂みに満たし時間をたっぷりとかける抽挿は美弥を労っている錯覚を招き、美弥の罅は隅々まで広がっていく。震える唇が憧れの人の名前の形に動き、美弥は優しい愛撫を待ち焦がれ首を緩く振り、汗塗れの華奢な身体をくねらせた。
 病院と警察には行けなかった。泣き崩れ寝込む母親と、悲痛に堪える父親に、どうすればよいのだろう。誰が、何が、救ってくれるのだろう。土と傷で汚れた革鞄から美弥はゆっくりとナイフを取り出す。小さな天窓から差し込む明かりの中の綺麗な、とても綺麗な刃。
 愛しい異性との間ならばどれだけ恥ずかしく、そして幸福だろう。美弥は男に絡め取られたまま絶頂を覚えた。小声で何度も怯えを口走る度に唇を奪われ子犬を宥め賺す様な一時の後は膣肉の疼きと牡肉への一体感を一段階押し上げられ、やがて、美弥は甘い嬌声を堪えながら牡を締め付け牝へと変わる。ぼろ切れを絡ませたまま仰け反り、仰のく美弥の意識の中で、憧れの人はただ一人の異性として、初めての絶頂の余韻の中、羞恥と混乱に震える美弥の奥で射精をする。好き。昔から好き。異性として好き。だから、これは、悪夢ではない……。
 時計の音が大きく聞こえる室内で美弥はそっと腹部を撫でる。美弥の生理はかなり安定していて狂う事はまずない。あれからたった一週間…だがあの夜は、所謂危険日だった。この貧弱な腹部の中に指先にも満たない小さな生命が宿っているかもしれない。だが、不思議な程精神は凪いでいた。あれは凌辱だけではなかったから。薄闇の中、美弥は静かに微笑む。
 優しげな絶頂の後、美弥は溺れた。愛しい人の与える快楽に出来るだけ応えようとし、射精後の性器を舐め回させられた時すら懸命に応え、再び貫かれた体位は地面に座った男の腰に乗せられるもので、結合の補助をさせられた時は小さく首を振っても最後は指を添えて迎え入れていった。目隠しを解いて貰いたい、そんな甘い夢が過ぎる度に美弥は壊れていく。この人は正木でなくてはならない。他の誰であってもならない。現実から逃げる様に腰を振る美弥は、徐々に優しげな行為が牡と牝の本格的な激しい情交へと逸脱していく状態でも相手を愛しい男だと認識し、いつしか荒々しい結合と凌辱にすら激しく求められる密かな悦びを見出していった。

 やがて夜は明ける。
 ゆらゆらと陽炎が立ち上る住宅街で、美弥はその男を見つけた。
 ゆっくりとその男の背中を追い、見つめ続け、翳りのない穏やかな笑みを浮かべて住人と話す男を見つめ、そして美弥は砕けた。あの夜の表情はどの様なものだったのだろう、幼い頃から知っている住人女性へ向ける笑みが美弥を否定する。穏やかな世界の住人であり曇りなどない、凌辱など知らない、穢れのない、人。自分を抱き締め絡め取り犯し抜いてあらゆる淫らな行為を教え込み、男と女として愛し合った特別な人でなくてはいけない。知らない。自分はこの人があの時にどう呼び、微笑み、愛するのかその姿を見ていない。特別なただ一人の人だから、知らないなどあり得ない。
 絶叫が住宅街をつんざき、美弥はナイフを手に走る。どんと愛しい人の身体に当たると同時に、ナイフを持つ手の指の付け根に激痛が生じたが気にしないまま、熱いアスファルトの上を二人の身体がもつれて転がった。背中に深々と刺さったナイフを抜き、美弥は男を見つめる。女性的とは違う整った異性の顔立ちとしっかりとした首筋、馬乗りになった身体は逞しく、美弥はあの夜との境界線を失う。指の付け根が切れているのも構わず、ナイフを男に突き立てる。否定しないで、頷いて、私を見つめて。貴方は私のただ一人の特別な人。美弥の全てを知っている人。真っ赤な血が飛び散り、世界のどこかで誰かが悲鳴を上げている。風が熱くて光が眩しい。何度もなんどもナイフを突き立てていると、自分が逆にこの人を犯している様な気持ちになり、美弥はうっとりとしつつ気恥ずかしさに笑みを浮かべる。あの夜以外にもこんな場所もあるんですね、素敵。一緒だから、世界が綺麗に見える。大切な人の口から真っ赤な血が溢れる。熱いですか?貴方と私だけの秘密、精液、とても熱かったです…好きです、ずっとずっと好きです、こんなに好きだって気付いてなかった。あの夜が世界の全てを変えてくれたんです。何て幸せなんでしょう。馬乗りになるのは恥ずかしいけれど、貴方が私を見上げてくれるここは天国。
 ほら、貴方が微笑んでくれている。

END
FAF2017062131

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