2008-9年末年始『第一夜・柴色』(『誘惑〜Induction〜』より)

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 夜勤明けの昼前に横になり、目が覚めるともう四時を回っていた。いや、わずか四時間と考えるべきだろうか。
 寝室の遮光カーテンの間から差し込む陽の光は柴色…純粋な光の色ではなくくすんだ茶色かかった灰色。冬の色だった。
 この寝室の主はまだ眠っている。ここ数日の仕事が忙しいのだろう、無防備に横たわる寝顔は疲れたもので、だがそれを見慣れ始めた少女にはささやかな安堵の色が読み取れた。
 起こさない様にそっと腕枕から抜け出し、少女は一糸纏わぬ素肌の上に柔らかなローブを纏う。白いローブの映える淡い桜色の肌には毎日求められ続けている濃厚な交わりの痕が無数に残り、ベッドから抜け出て立ち上がった瞬間に膣内からとろりと溢れた熱い精液の感触に華奢な肢体に震えがはしる。疲れていてもなお激しく求められる感じてはならない歓喜と睡眠時間を奪ってしまう罪悪感に、いつも少女は戸惑う。
 ぬるりと内腿を精液が伝っていく感触に震えつつゆっくりと寝室を横切り、少女は遮光カーテンに手をかけその隙間を閉ざそうとした。
「――今は、何時だ?」
「四時過ぎです、まだお休みになって下さい」
 不快そうではなく、純粋な問いかけの声に少女はカーテンを閉める。かすかな陽光が遮られ、わずかなシルエットのみになった寝室で男が身体を起こす気配が動く。
「いや…もういい」
「でも……」
「カーテンを開けろ」
 一度起きてしまえば疲れていてももう眠らない男の生活を知っている少女は、わずかに顔を曇らせつつ再びカーテンに手を伸ばす。開けば完全に男の眠りを妨げてしまう、それを恐れ、だが一度口にした言葉を男が変える事がないのも知っている少女はやや落胆に力を失いつつカーテンを開く。
 しゃっと小気味良い音を立てて開くカーテンに、寝室を鈍い柴色の光が満たす。
「申し訳ありません、起こしてしまって」
「十分に寝た」
 振り向いた視界の中でやや物憂げに寝乱れた髪を掻き上げる男の姿に、少女の顔が赤く染まる。引き締まった身体、広い肩幅、首筋から腕へのしなやかな筋肉の線、女とは異なるどこか直線的な胸板から腰…成熟した大人の男の身体を見慣れる事が出来ず、少女は俯く。そんな少女のいつまでも不慣れな様子に、苦笑する様に男がかすかに鼻で笑う。
「来い」
「……。はい……」
 ベッドのシーツの中で裸の上半身を起こしている男に呼ばれ、その後に何が続くかは身体で教えこまれきっている少女の胸で心臓が早鐘を打つ。数時間前にも抱かれていても、慣れる事など出来そうにない緊張と羞恥に、視線を上げられないまま少女は男の待つベッドへと進む。
 淡い、ほとんど白に近い淡いグレーのシーツの皺が大きなベッドの上で乱れた模様を作っている。レースのカーテン越しの鈍い柴色の光に照らされた寝室は、柔らかな素材で作られた鳥の巣を思わせた。エアコンで適度に温められている空気の為かもしれない。窓を背にする少女の陰すら淡く、褪せた柔らかな光に溶けている。
 少女の華奢な手首を男が掴み、そして引き寄せた。
 一瞬で強引に腕の中へ搦め取られた少女の唇を男の唇が奪い、深く重なる。漆黒の長い髪ごと華奢な背中を抱く腕に、少女の力が抜け、求められるままの体勢へと肢体が崩れていく。呼吸さえ奪い貪る唇に少女の長い睫毛が震え、そして陶酔にほんのりと目尻に朱がさし、黒目がちな大きな瞳が陶酔に潤む。
「お疲れなのに……だめ……」
 やがて少女に呼吸を整えさせる様にわずかに離れた唇に、甘い唾液の糸が垂れる。心底男に休んで欲しいと願うものの、たった1度の口づけだけで男に快楽を教え込まれている少女の身体は疼きを持て余してしまう。
 もう日没も近い浅い角度から差し込む冬の陽光の中、男の手が少女の纏うローブのベルトに伸び、するりと解く。困惑と羞恥に揺れる潤んだ瞳で男を見つめつつ、駄目と小声で哀願する少女の唇をまた男の唇が塞ぎ、口内を舌で蹂躙されながら、男の手が柔肌を弄ぶ範囲が拡がるたびにローブの合わせが徐々に開かれる。かすかにくねる細腰がシーツの皺の輪の模様を作り、そして少女の身体から落ちていく白いローブがそれを隠す。
 まだ明るい寝室での淫らな行いに弱く首を振る少女の唇と首筋を男の唇が往復し、淡い桜色の肌に新たな痕をつけ、少女の腰の下で眠る前の行為で注がれた精液と少女自身の愛液が薄いグレーのシーツに染みをつくり、そして布と粘膜の間に糸が伸びる。徐々にベッドに倒されていく少女の行き場のない桜貝の爪がシーツを掻く。

 やがて、挿入されただけで達してしまった少女を労る様に、男の指が涙と唾液と汗に濡れた頬を柔らかく撫でた。
 天井の淡い柴色を背に、男がかすかに笑う。――冷笑に似た、穏やかな笑み。
 乱れた呼吸を繰り返しながら少女は思う。
 やはり、この部屋は、優しく包み込む巣の様だと。

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