『誘惑〜Induction〜改訂版 STAGE-5』

表TOP 裏TOP 裏NOV BBS 4<5>6

 ひらりひらりと目の前で舞う蝶。
 風に流され視界から消え、気付くとまた視界の隅で舞う。
 疎ましさと、美しさに手を伸ばし
 握り潰したい、衝動。

 酷く無力で無防備な肢体が腕の中でくねる。
 やっと相手が全裸な上に勃起状態の物を押し付けられていると気付いたのか、戸惑いと羞恥の反応ではなく明らかに少女が怯えた瞬間、男の血が滾る。包帯で隠した黒目がちな大きな瞳に浮かぶ涙を見たい衝動に、守崎がその瞳を隠す布に唇を押し付け軽く吸うと、温かな涙の味が口内にじわりと沁みてきた。
 男の想像以上に少女は淫らな身体をしていた。
 まだ揉みしだかれ慣れていない豊かな乳房は形よく柔らかく瑞々しい張りもあり、乳輪と乳首の大きさも淡い鴇色も適度でやや過敏過ぎる傾向はあるものの、健全に男を誘うものがある。だがそれが華奢で儚げな肢体と美貌と組み合わさった瞬間に、嗜虐心や支配欲と言った牡の劣情を激しく煽る淫蕩で被虐的なものへと一変する。陵辱に抵抗のない男ならば犯したいと誰もが思うであろう、清楚が故に淫猥に男を唆す淫らな身体だった。
 上気し桜色から桃色に染まる柔肌は泡にまみれ、腰までの豊かな黒髪が黒い蛇か縄の様に幾筋も絡み付き悩ましいコントラストを強調する。
 貧弱と捉えずに済む絶妙な細さのたおやかな腰は男性器の激しい突き上げを受け止める事は出来るだろうが、骨盤が華奢で無理強いの印象がなかなか消えそうにない。それなのに、掴むのに足る肉付きはある。牡の器官を全て挿入すれば外から撫でてそれを確認出来そうな薄い腹部、きゅっと締まった可憐な尻肉は掴んで揺さぶり手で打ちたくなるものだった。
 そんな身体の十七歳の少女が震えながら、時折男を呼ぶ。男を招く声ではない。不安と羞恥と怯えで混乱しきった中、どうすればいいのか判らないのであろう戸惑った弱く細い美しい声音で、鳴き、そして時折、呼ぶ。
 少女が快楽を恥じらい隠そうとしているのは乱れ方と震えと硬直と濡れで男には全て伝わってくる。性感は豊かで同等かそれ以上に羞恥心が強い…つまり快楽を溜めれば溜めるだけより一層恥じらい、そして深い絶頂に溺れさせられてしまうであろう被虐的性質の娘。
 堪えきれずに鳴く声が悲痛で、甘い。
 片方の腿に乗せた下腹部のぬるつきは腰の動きを良くさせ、そして珍しい事に男の先端からの先走りの汁も美しい肌にぬろぬろと絡み付いていた。精液は多いが先走りはあまり溢れさせない男は、自分が興奮している事実に気付く。
 処女を相手にした事は少なくはない。成熟した女としての魅力ならば少女の及ぶ所でない美女ならば、すぐに連絡すれば簡単に脚を開きに来る関係の相手は常時複数確保している。だがこうも先走りを漏らす事は少ない。
 執拗に宥める様に指先で優しく捏ね回し続けているクリトリスのせいで、少女の腰は蜂蜜をぶちまけた様な処女にあるまじき蕩け方をしている。流石に関係者に見つかれば危ないと判っていても尚、執拗に狂わせていく愉しみが長時間焦らす手を弛めさせなかった。
 内腿と下腹部の丘がゆるゆるとくねり男の腿を擦る。もう自慰すらよく判っていない少女には戻れない牝の疼きと切なさに全身でよがり鳴きたいであろうに、未だに少女はその快楽を恥じている。ここまで蕩けてしまえばもう男の物で貫いても馴染ませるのは難しくはない。だが、それはしないと男は決めていた。
 鳴き顔が見たい。羞恥に啜り泣く顔が見たい。舌を舐め回し続けた後の放心した顔が見たい。
 ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が篭もるユニットバスは女の匂いと二人分の熱量で温かく蒸れていた。激しい情交の時との違いは精液臭の有無だけだったが、守崎の知る女子高生の中でも少女の汗の匂いは酸味が薄く甘い花の様な匂いに近い。だが化粧を嗜む成人女性ともまた異なる。
 完成品と言う言葉が脳裏を過ぎった。
 十七歳としての羞恥心も淫らさも可憐さも、何もかもがその年齢に於いての完成品と呼んでもいいだろう。この行為が少女に与える傷すらより際どく磨き上げる要素に思えてくる。ならば誰でも磨けるのか?その当然あるべき可能性を、男は瞬時に否定する。自分が世界で一番少女を上手く磨けるなどとは考えていないが、それは納品されたばかりの愛車を見ず知らずの人間に貸せるかという問いに似ている。
 片手で腰を操り片手でクリトリスを弄んでいられるのは少女の両手首がシャワーヘッドの裏で拘束され上半身を支えている為だが、それには思わぬ副産物もあった。頭より高い位置で手首を重ねると自然と腋の下を晒す状態になる。入院患者で個室などで脱毛処理を施す人間は皆無ではないが、療養中と諦めて最低限の身嗜みを放棄する人間も少なくない。そう言っても今度は毎日の化粧となると病棟という場所は許されない。その辺りの折り合いでその人間の常識や品性が見えてくる。
 少女の腋の下は綺麗なものだった。
 永久脱毛を施す年齢でもないのだから処理が必要な筈だが、ボディソープを垂らしただけのハンカチ一枚で洗った時もこうして目の前で眺めても剃刀跡も生えかけている様子もない。下腹部の柔毛は範囲が狭いものの印象的な豊かな漆黒の髪と同じで密生しているのだから、腋の下だけ都合よく生えていないとはならないだろう。となればやはりギプスのせいで晩秋でも長袖を諦めたネグリジェにあわせて、隠れて処理はしているのだろう。人一倍羞恥心が強い少女の身体を遠慮なく注視出来るのは目隠しの副産物だった。

 唇を噛んで堪える事を許されていない少女は、薄く唇を開いて何か言いたげに言葉を紡ぎかける事が多い。そして男に短く命令されるまま、従順に舌を差し出す。
 くちゅと舌を絡める水音に白い身体が微かに震える。一応応じる様な動きは見せるもののいやらしく舌を絡ませるレベルには到底及ばない、だが舌が重なった瞬間、腿に当たる下腹部が淫らに締まる動きが上下動で男に伝わってきた。
 犯したい衝動が低温火傷の様なもどかしさでじりじりと尾てい骨の辺りから背中へと這い昇っていく。何ら問題もなくこの少女は堕とせるであろうし、処女を奪ったからと責任云々と言い出す性分とも思えない…敢えて気にすれば避妊の問題だろうか?相手にとって遊びの結果の妊娠であっても堕胎を選びそうにない古臭い気質に思える。かと言って認知を強要しそうにもない楽そうでいて重く面倒そうな女。そういった女で遊ぶ間に上手く切り捨てられる様に仕向けるのも慣れている。
 どくりと身体がざわめく。
 犯したくない?そんな筈がない。獲物と決めた女をベッドに連れ込み満足するまでのゲームの中でも恐らくこの少女は極上だ。極上だからこそ時間をかけて攻略する…少しもおかしくない話だが、時折不愉快な感覚がこみ上げてくる。
 クリトリスを撫で回し舌先を舐りながら、迂闊な娘だと男は罵る。
 氏素性もろくに知らない男相手に弄ばれる迂闊な娘。それはただの表面的な言葉責めでなく本心であるが故に言葉を放つ度に苛立ちが募っていく。求める男もおらず行きずりの男に身体を許している少女が男の言葉に啜り泣く。――その啜り泣く風情すら清楚可憐で、正体不明の憤りに男の指が華奢な尻肉にキツく食い込んでいった。
 たまらなく甘美な時を満喫すると同時に何かが乖離していく。温かな身体を抱えながら憶える違和感。いつもこうなる。誰が相手でもこうなる。愉しみながら冷えていく。いや、実際はいつも存在している『それ』を特に実感するのが女との交わりの時間なのかもしれない。
 華奢な身体を抱き寄せる。
 胸板で豊かな乳房の形が歪み、下腹部の脇に男性器が挟まれ、細い腰がしなるが密着度がやや悪いのは乳房の豊かさが肢体の華奢さに見合っていない為だろう。シャンプーとボディソープの花の匂いよりも甘く感じる唾液を味わいながら男は少女の舌を舐り回す。拙く喘ぐ声が細く頼りない。全裸同士で抱き締められている事が恥ずかしいのか、微かに身をくねらせかけてはぴくりと震えて縮込まろうとする度に腿の付け根近くで柔らかな丘と内腿の肉がくにゅくにゅと怪しげに蠢く。
 棚に置いていたボディソープの小瓶から直接少女の胸元に液体を流した後、男はゆっくりと少女の身体を揺り動かす。寄せて潰れた胸の谷間から緩やかにとボディソープが塗り広げられぬるぬると肌が絡み合う中、少女が切なげな吐息を漏らした。華奢な腰を両手で抱えて上下させる動きは抽挿時そのままのものだが、男のモノは少女の薄い腹部を撫で回すだけでしかない。
 この状態でも少女は自分を信じていると言うのか、それともただ万年筆をその場で返さなかっただけの些細な過ちで男に身を委ねてしまうのか。同じ様に少し揺さぶりをかけるだけでこの身体を差し出すのか。遊びで弄んでいると自覚していても何故か苛立ちが募る。
 ぞくりと腰の底から袋を撫で男性器の先端へともどかしいざわめきが伝わっていく。
 犯して何が悪い。
 不意に魔が差した男は少女の腰を上へと抱え上げ、数センチのズレを直線上に整える。正面へと直した腰ではにちゃりと傘が粘膜の谷間を撫で上げ、上端の突起の辺りから膣口を擦り窄まりを通り腰と腰が密着する。たおやかな肢体は肉付きが薄い様でいて柔らかに男の傘や幹を受け止め熱くぬかるんでいた。
 シャワーヘッドに掛けさせていた少女の両手首が外れたのか、ぐったりとしていた華奢な両腕が男の頭に乗り、そのまま頭を抱え込む形で男の項へと落ちていく。
 男の首に腕を回す体勢になった少女から戸惑いの声が漏れ、触れまいとするかの様に極力大きな輪を作ろうとする華奢な腕が男の頭部からわずかに離れる。密着から、髪を掠める程度の距離へと。腰は男と女の距離でありながら、しかし腕は重なる事を拒んでいた。
 至近距離にある少女の唇が震え、包帯の上端から覗く細い優美な眉は羞恥や困惑ではない形に歪む。

「ぃや……っ」
 細く微かな拒絶の言葉が聞こえた。

 それが失望なのか興醒めなのか、男には判断が付かなかった。仕事の呼び出しや大した事のない携帯電話の着信や些細な一言や挙動など、情交の最中に不意に意欲が殺がれる事はある。例えば射精直前などでの中断は些か不快ではあっても名残惜しさを覚える事はない、肉欲の処理などリセットされてしまえば心残すものではない。
 乱暴にならない最低限の丁寧さで身体を解く男の腕から少女の身体が力なくぺたりと床に落ちる。
 シャワーヘッドの角度を変え、少女のギプスを濡らさない事だけを意識して男は熱い湯を浴び始めた。まだ漲ったままの性器を無視し、身体に付いたボディソープを洗い流す間も男の視線が少女に注がれる事はない。
 甘い匂いを押し流す様な強い熱い湯に肌に打たれながら息を付く…その肺の奥に冷えたものが蟠る。小さな氷か冷えた硝子の破片がそこにある様な、微妙な違和感が胸郭の底で呼吸の度に揺らぐ。
 レバーを戻し湯の流れを止めた男はついでに洗ったハンカチで大雑把に身体を拭い、まだ湿っている身体で布が濡れるのも構わず服を着込み、浴室を出る。
 消灯時間を過ぎれば一度は看護婦の巡回があり、その時に室内の照明を落とす筈なのだがまだ病室内は明るいままだった。入口の室内照明スイッチを切り、男は病院内用携帯電話をポケットから取り出し指が憶えている院内短縮番号を押すと相手の応答も待たずに着信記録だけ残して即座に切る。
 憤りに近い肉欲の衝動がふつふつと滾り、見慣れている病棟の廊下が酷く窮屈に見えた。ナースセンターの正面に位置しており人目に付くエレベーターを避けて階段を下りながら、男は少女の目隠しの包帯も両手首を縛るネクタイも解かずに出た事を思い出すが、引き返さずにそのまま歩き続ける。壁に掛けたシャワーヘッドに吊られ身動きの取れない状態でなくただ手首を前で合わせただけな上、拘束用具ですらなくネクタイで縛っただけなのだから歯で噛んで引けばどうにか解けるだろう。
 万年筆に続いてネクタイを忘れる失態に呆れながら、返却されるのを待つつもりにも取りに戻るつもりにもならない。元から物に執着する性質ではない上にロッカーには着替えが揃っている。
 昼と打って変わって人気のない職員用通路を歩いた男は診察室の扉についているカードリーダーにIDカードを通して入室した。診察時間内には時間が作れず夜勤中などに診断書等を作成する事も多く勤務時間外の使用も大目に見られているが、医師は基本的に勤務時間外に仕事を持ち越さない主義だった。しかし今は何かの作業が有り難い。多くの診察室を常勤非常勤構わず大勢で交互に使用している内科とは異なり担当医が少ないお陰もあって、この診察室はほぼ守崎の専用になっており気兼ねがいらないのもよかった。
 流石に喫煙までは出来ないものの湿った服のまま椅子に深く腰掛けた男は濡れた髪を掻き上げて端末の起動を待つ。仕事に集中する前の切り替え用に自販機でコーヒーか何かを買ってくればよかったかもしれない。ぎしっと椅子の背もたれが鳴る程力を掛け、照明を入れていないままの診察室の天井を見上げる。扉を開いたままのスタッフ通路は中庭に面しており、通路の窓のブラインド越しに薄く射し込んでくる外灯と月明かりと起動中のディスプレイの灯だけしかない診察室は薄暗がりに近いが、男はそれが嫌いではなかった。酷く静かで、大通りの車の音もほぼ聞こえない。
 コーヒーがなければ煙草でもよかったが、流石に診察室での喫煙は躊躇われた。無意識に手にしかけていた煙草を咥えかけた瞬間、口の中に残る甘い感覚に気付き、そして火を点けないまま煙草を咥える。
 ふと、目隠しと拘束は自力で解けるだろうがあの少女は自分の許しがあるまでそのままの姿で居かねない気がした…いや立ち去った事は音で判っても戻るのを待っていてもおかしくはない。
 一言言っておくべきだったかを考えかけ、男は眉間に皺を寄せる。馬鹿な犬相手でもあるまいし何でも指示しなければいけないなど面倒にも程がある。
 端末が起動したのを見て男は椅子に座り直す。他科と比べれば不人気な整形外科であっても仕事は少なくはない。患者のカルテを呼び出す間に男の思考は様々な事項から音のない底へと沈んでいき、キーを叩き始める頃には脳裏から少女の面影は消え去っていた。

「守崎先生、お疲れ様」
 文章作成が一段落付いた頃、コーヒーの入った紙コップを手に看護婦が診察室に入ってきた。夜勤の休憩時間と言う事は既に日付が変わってから随分と過ぎている筈で、作業に集中していた男は軽く肩をほぐしながら紙コップを受け取る。
「ネクタイどうなさいました?」
「忘れた」
 コーヒーを飲みながら一言二言他愛もない会話を交わした後、女がするりとナース服を脱ぎながら男へのしかかり唇を重ねてきた。
 白衣の上からでも判る見事なプロポーションに纏っている下着は、色こそ表に出にくいチャコールグレイだったが総レースの揃いのセットは卑猥としか言い様のない透かし具合で乳輪も陰毛も見せつけていた。蜂の様にくびれたウエストを抱き寄せながら舌を絡める男の鼻を甘い香りがくすぐり、わずかに眉を顰ませる。嗅ぎ覚えのある百合の香りは病院の出入り業者が置いていった試供品のせいだろうか…同じ香料の筈なのだがどこか違う。香水でも個人の体臭で匂いに変化は出るのだが、何かが男の腹の底でぐつりと煮えた。
 診察台の上に女の身体を押し倒し、男の手でも余る豊かな乳房を掴み揉みしだきレースの上から乳首を噛む。この病院に勤め始めてから頻繁に抱き続けて慣れている看護婦の身体が何を好むのか熟知している男の指が抓る。指の腹で掴むのではなく爪と爪で摘まむ様に軽く、むっちりと熟れた薄い脂肪と吸い付く様な張りのある肌が離れた瞬間爪同士が打ち付け硬い音を鳴らす程鋭く、短い間隔で線を描いて抓っていると、大輪の薔薇を思わせる気の強そうな美貌が徐々に獣の様に変わっていく。痛みを咎め挑み問いつめてきそうな瞳は薄暗がりの中きらめき、整った顔に、淫らに張り出した乳房の間に汗が浮かぶ。
 唇を擦り付けるねっとりとしたキスの合間に牝の獣に似た呻き声が零れ、看護婦らしく短く爪を摘んでいる手が男の頭を掻き抱きYシャツの背を撫で回す。
「どちらで服を濡らしてきたのかしら」
 挑む様な視線と淫猥な笑みが酷く億劫で男は豊かな乳房に顔を埋めて歯を立てた。滑らかな白い肌。豊かな乳房。甘い花の香り。汗の味。今まで抱いてきた女の中では一番の身体であるにも関わらず、どこか苛立つ。不快感のままに歯を立て、乳房を荒々しく揉みしだく。
 ピンで纏めていた髪が解け、緩やかに波打つ赤みがかった焦げ茶の髪が胸まで流れてきて男の顔を撫でる。激しい愛撫の邪魔にならぬ様に華奢な指が髪を掻き上げ、男のシャツのボタンを外していく。欧米のグラビア雑誌のモデルに近い日本人離れしたプロポーションに相応しい淫らで扇情的な仕草は自分の価値を知り尽くしている自信に満ちていた。
 心得た指遣いで愛撫してくる指に落ち着きを取り戻していた下腹部が滾っていくのを感じながら、同時に酷く億劫な感覚に思考が鈍化していく。先刻切り上げたせいか射精への身体の欲求は高まりやすくはあったものの、気持ちがぴくりとも動かない。まだ仕事の続きが気になるのかと言えばそうでもない。日勤後の深夜で疲れはないと言えば嘘になるが一番に家に戻って熟睡したいとならないのは何故だろう、集中が解けてみれば酷く億劫で、そして何かずれを感じる。
 診察台から降り膝を着いた女がねっとりと傘の先端を舐め上げた。傘の付け根の辺りに吸い付いて舌先で鰓の段差を繰り返し舐りながら、顔を見上げてくる女に男は柔らかに波打つ髪ごと女の頭を撫で、ゆっくりと前後させる。いつも通りのいやらしい舌遣いに腰がぞくりとざわめき血液が集中していくのが判る。
 堪らなく退屈な感覚に、男は女の身体を引き起こして職員用通路の窓際のカウンターに手を着かせた。いくつかの診察室を挟み患者待合と平行に延びる職員用通路はその突き当たりで診療科受付に面していて、一般通路から遮る物はない。誰かが通れば遠目でもそのまま見えてしまう場所である。
「駄目、こんな場所」
 そう言いつつ腰をくねらせる女を無視し総レースの下着を端に寄せて男は既に潤みきっている膣内に指を押し込む。ぬちゃぬちゃと卑猥な音を深夜の通路に篭もらせながら男は指を曲げたまま膣内を擦り上げ、白い肩を噛んだ。
 甘い百合の香りに埋もれる様な感覚だが、花の種類で匂いが異なる様な違いが男の目を冷めたものにさせる。甘い匂いに飽きたのかもしれない。

 全裸のままカウンターでぐったりと柱に背を預けている女が汗にまみれた指先で紅潮した顔にかかっている精液を掬う。
 飽きるまで射精した心地よい疲れに煙草で一服したい欲求を覚え、机の上に置いていた煙草を火を点けないまま咥える男に女がくすくすと笑う声が聞こえてきた。
 服を整えながら振り向く男を上目遣いで見ながら女は指に絡む白い粘液を舐め上げた。
「何をそんなに考えてらっしゃるの?」
「――考えている?」
 問いの意味が判らず聞き返す男に、女の顔が僅かに歪む。
「ずっと上の空でいらしたくせに」

 職員用区域のシャワーを浴び、予備で置いていた一式に着替えた男はクリーニング用の袋に湿った服を放り込み、旧館へと向かった。
 入院患者ならばクリーニング袋を看護婦に預ければいいだけなのだが、職員はナースステーションか旧館地下のクリーニング店まで持って行かなければならない。夜明け前にふらりとナースステーションに立ち寄り詮索されるのが面倒な守崎はクリーニング店の受付ポストに袋を放り込み、エレベータに乗り、ふと思いついて屋上のボタンを押す。
 しばらく咥えたままだった煙草は既に捨てたものの、まだ一服はしていない。
 起床時間の六時までは施錠が原則となっている屋上だが、警備員の数の限度もあり時間前から見回りついでに開放されているのはやむを得ないだろう。ましてや旧館の屋上は入ってすぐに物干しが並んでいて到底入院患者が立ち寄る場所には見えなかった。
 予想通り鍵の開いている扉を開け、男は屋上に出た。
 静まりかえった市街地の遠くを走る新聞配達の物らしいバイクやトラックの走行音だけが微かな風に乗って聞こえてくる。晩秋は日の出も遅くまだ空には星が瞬いていて東の空も薄明の兆しすらない。適温に調節されている病院内から一歩踏み出すと、じわりと染みる冷気が露出している肌を引き締めた。空の物干し場を通り抜け、歩きながら煙草に火を点けようとした男は微かに聞こえた音に足を止めた。
 遠くの雑音に掻き消されてしまいそうな、細い微かな啜り泣き。
 病院内では人の泣く姿を見てしまう事態は多い。一番多いのは注射を嫌がる子供の号泣。臨終の場、安堵、悲観、感激…充実感で臨む時もあれば無力感で臨む場合もある。最善を尽くした後に医者として出来る事は少ない、簡単に言ってしまえば泣かれる事に慣れている。患者の訴えを聞き善処するのも仕事だった。
 手にしていたライターと咥えていた煙草を戻しながら男は耳を澄ます。細い、女の声だった。こんな場所ですら抑えて泣くのか、建物の陰まで近づいてもその声は細い。誰が泣いているのか、何を泣いているのか、何故こんな場所にいるのか、男の眉間に僅かに皺が寄る。
 建物の陰から一歩踏み出した男に、ベンチの隅でうなだれていた華奢な姿がびくりと跳ねる。
 離れた場所の新館のいくつかの照明と夜明け前の眼下の乏しい街灯り程度しかない屋上の片隅で、大きな瞳から頬へと伝う幾筋もの涙が微かに光った。最初誰かが現れた事への驚きに瞳を見開いていた少女が医師を認め視線を逸らせ、指の背で涙を拭う。
「失礼…しました……っ」
 慌てて立ち上がろうとするがその動きはまだ鈍く危うい。僅かによろめく少女を男は反射的に抱き留めていた。腕の中に簡単に収まってしまう華奢な肢体と夜間でドライヤーが使えなかったせいかやや生乾きで冷えた絹糸の髪、病室で見た物とはまた異なる優雅な白いネグリジェと肩から落ちていく見覚えのある枯葉色のカーディガン。
 抱き留めた手に伝わる体温は表面は冷え切っていたが、芯には熱が篭もっていた。
「あ……。ありがとうございます……もう平気で……」
「何故こんな場所にいる」
 抱き留めた少女の反応の硬さはユニットバスでの行為の為だろうか、泣く程嫌だったのだろうかと考えた瞬間、じわりと暴力的な衝動が男の中で首を擡げる。抱き起こしたまま夜の冷気から庇う様に包む身体は、産まれたばかりの鳥の雛の様に震えていた。
「ネクタイを……」
 続けて言い掛け、少女の言葉が止まる。
 見た限りネクタイを持っている様には見えないが、あの後自分を捜したと言う事なのだろうか。それならば確かに喫煙していたこのベンチを訪れてもおかしくはないが、泣く程怯えているのならばわざわざ探して隠れて泣いている理由が判らない。
「あの、あの……病室に戻ります」
 冷え切った身体の頼りなさに抱え直そうとした男の動きに、泣きじゃくるのを堪えようとしたまま少女が首を振る。その口調は僅かに記憶の中のものと異なり明確に一線を引こうとしているのを感じ、男をささやかに苛立たせた。
 新しい玩具だろうか。不意に男は少女への不可解な感覚に思い当たる。買ったばかりの読み切っていない小説があれば読み慣れた本への興味はどうしても薄れるのと同じで、堕としていない女がいれば面白いのに決まっている。先刻まで抱いていた看護婦の憎らしげな顔を思い出しかけるが、割り切った間柄もあって罪悪感は沸いてこない。
「何故泣いていた」
「……」
 腕の中で震える身体を抱き締めたままの問いの答えをしばし待つものの、まだ泣き止めずにしゃくりあげる少女に男はしびれを切らし強引にコートの内側に細い肢体を抱え直す。黒いコートの胸板の辺りで驚いた様に男を見上げる少女の瞳からやがて大粒の涙が零れ落ちた。
「先程の方が、悲しまれます」
 咎めているとするには悲しげな口調で言い、再び少女は視線を逸らす。そのまま後ずさろうとするものの男が抱き締める力に敵わず軽くよろめく少女に、男は視線を注いだまま一瞬何を言われているのか判らずにいた。浴室内での行為以前の話なのか、それとも看護婦との行為を少女が見てしまったのか。浴室での拒絶の直前までは特にそれといった様子がなかったのを考えれば後者なのだろうが、それならば浴室で急に拒絶された理由が判らない。だがとりあえず看護婦を恋人か何かだと思い込んだのに間違いはないだろう。そこで一時の玩具にされた憤りではなく思いこみの恋人への配慮に泣く辺りがお人好しとしか言い様がない。
「覗き見か。いい趣味だな」
 その言葉に腕の中でびくっと大きく身体が強張った。確かに見られてもおかしくない場での性交であり、目撃しても警備員に通報するでもなく咎めるでもない少女には感謝はすれど男から咎める筋合いではない。
 微かな夜風に吹かれ続けていた華奢な身体の冷たさに細い腰に回していた腕に力を込めて更に引き寄せる男に、足が爪先立ちになったのか少女が頼りなくよろめく。胸板の下で圧し潰される乳房の豊かな弾力と腕の中の手折れそうな肢体のちぐはぐさがぞくりと男の劣情を刺激する。先刻吐き出すだけ吐き出した牡の鬱憤と性質の異なる精神的な嗜虐の欲望。看護婦への申し訳なさに泣いていたらしき大きな瞳は気まずげに逸らされては何かを訴えかけようとしているのか男に向けられ、そしてまた逸らされる。
「どこまで見ていた?」
「……」
 腕の中で息を詰まらせる少女の顎に指を添え、顔を上げさせる。びくりと身を震わせる少女のおぼつかない足の間に片足を割り込ませ更に引き寄せると、ユニットバスでの体勢に近くなり夜目にもはっきりと少女の顔が羞恥と困惑に泣き出しそうなものになった。
「それ…は……、その……」恥ずかしげに何かを言おうとしているものの言葉にならないのか、時折意味のない言葉を口にする少女の全身が小刻みに震え何度も小さく首を振り唐突に身を縮こまらせる。「許して下さい……っ」
 恥ずかしさのあまりやや大きな声を上げてしまった自分に驚いたのか一瞬呆然としてから少女は戸惑った様子で視線を彷徨わせる。
「あ……あの…あの……」
「つまり到底口に出して言えない様な行為を見た、と」
 びくっと身を強ばらせた少女の華奢な顎を更に上げさせる男の指先に、冷えた体温が伝わってくる。晩秋の夜明け前の冷え込みと、涙で濡れた感触が意識の表層をかすかに波立たせる…たかが他人事の肉欲処理で涙するのが気に入らないのか、入院患者の迂闊な健康管理が許せないのか、男には理由が判らない。
 怯えた瞳が男を見上げていた。小さな顔の中で小振りな鼻や口と対照的に黒目がちな大きな瞳と長い睫毛は華やかな印象な顔立ちになりそうなものだが、あくまでも清楚で可憐に感じるのは内気そうな表情と硝子細工を思わせる線の細さの為だろうか。
 少女を抱き締めたまま膝を曲げて顔を寄せる男に、腕の中で華奢な身体がびくっと震えた。指先に顎を引こうとするささやかな力を感じながら男は少女の頬の涙を唇で拭う。
 涙の塩分よりも至近距離で鼻孔を擽る甘い花の香りが男を堪らなく刺激する。香水は体臭によって変化するものだと判っているが、先刻の看護婦のものと同じシャンプーでありながら印象が随分と異なっているのが男には面白い。音もなく深く吸い込む空気に溶ける埋もれる様な百合の甘い香りと儚い余韻。
「舌を出せ」
「ゃ……」
 熱に浮かれてた様なかすかな震える答えに構わず瞼と頬を撫でた唇を一度離した男に、また泣き出しそうな顔をしている少女の顔が映った。
「悲しませては…いけません……」
「悲しむ様な事ではない」束縛する手合いならばとうに終わらせている関係を気にする少女に男はかすかに苛立つ。「万年筆といい覗きといい面倒な娘だ」
 腕の中で少女がはっきりと強張った。
 中庭で万年筆をそのまま返さなかった理由が判らないままだが、それに後ろめたさを覚えているのは少女の反応を見れば判る。院内での情事を見咎められ関係者に通報されては問題だが、覗かれる事に対しての羞恥心は男にはさしてなく、逆に慎み深い少女に卑猥な行為への感想を聞いてみたくすらある。
 脅して言いなりにさせる下衆な手段に呆れながら、爪先立ちで不安定な体勢の少女の足の間に靴を割り込ませ更に腰を引き寄せた。戸惑った小さな声を漏らす少女を見下ろしたままベンチに腰を下ろすと、少女がふわりと腿に跨がって座る形になる。裾の長いネグリジェは巻き込まれる形になるがゆったりとした造りで華奢な腿をきつく圧迫するまでにはならず、コートの内側に収まっている少女は向き合って腿に跨がる体勢が恥ずかしいのか懸命に身を縮込まらせている。
「ぁ……の…っ、私、重いかと……」
 単純に男に抱え込まれるのが嫌だと言えばいいものを遠回しに拒む少女に、男は顎から離した指を豊かな胸元へと滑らせる。ギプスの右腕の邪魔にならない様に半袖以下の物を選ぶ結果、完全な夏物まではいかなくとも薄い素材の物になるのであろう少女のネグリジェはかなり無防備な物だった。レースとフリルをふんだんにあしらった薄く透ける胸元のボタンを指先で外した瞬間、少女がびくっと震えた。
「覗いた罰を与える」
 男物のシャツと比べて小さく間隔も狭いボタンを上から順々に外していく男の腕の中で、少女の身体が羞恥の熱を帯びていくのが伝わってくる。裾まで続くボタンを腿の半ばまで外していく間、今にも泣き出しそうな表情のまま俯いている少女の肩が震える呼吸にあわせて上下する度に自然と解けた布の合わせの間でわずかに豊かな乳房が緩やかに揺れる。浴室では最初は同じ膝の上に乗っていても背中を向け、全裸を晒して向き合った時には目隠しをされていた少女は至近距離で男に肌を晒す事に慣れてはいないのだろう、遠い灯りだけの夜明け前の暗闇の中でも判る程悩ましい怯えと羞恥の表情で震える少女の身体からは力が抜けない。
 華奢な身体が夜風に晒されきってはよくないと片手でコートに包んでいるその内側で、少女のネグリジェが腿の半ばまで解かれ、柔肌が露わになる。多くの患者と同じくブラジャーをつけていない豊かな胸とネグリジェと同じくレースを多用しながら透けて卑猥さを醸し出すのではなく繊細で優雅な印象の下着だけしか身に着けてはいない。
「先生……」
 かすかに少女が首を振る。
「覗いて、見たのだろう?」
 男の手がゆっくりと白い布の胸元を払い、乳房を五つの指先で撫で上げる。たかがハンカチ一枚越しに洗う免罪符もなく直接撫でる乳房は絹の様に滑らかでそして男の指に吸い付いてくる様だった。びくんと少女の肢体が震え、細い眉が寄せられ小さな唇が揺れる。日焼けとは無縁そうな白い肌がかすかに淡い桃色に染まり始め、淡い鴇色の乳首はまだ硬く尖る前の柔らかな状態だった。
「ゃ……」
 かすかな、相手に聞かせる為でない震えきった声が甘く漏れ男の耳を擽る。力を込めずにいる指先で滑らかな乳房を撫で回し乳輪の縁をゆっくりと掻く男に華奢な肢体がふるふると震え、男の上で少女の腿に力が篭もっては抜けた。
「覗きは愉しめたか?」
 浅く震えて繰り返していた息を詰まらせ怯えた瞳で男を見た少女の乳房を、男はそっと下端から手で掬い上げる。男の手でも余る豊かな乳房は熟れた女の柔らかな乳房と違いぷるんと抵抗する張りが強く、軽い力でも形を歪めはするものの上質な水饅頭に似た弾力で掌と指の内側全体に吸い付いてきた。
 ゆっくりと執拗に大きく乳房を捏ねる男の指の間で、まだ触れられず和らいでいた乳首がわずかに硬さを帯びていく。晩秋の夜明け前の冷え切った空気の中、まだ愛撫とも呼べない軽い行為にびくびくと震え柔肌を火照らせる少女のぎこちない痴態が夜目にも悩ましく男の下腹部を疼かせる。
「答えはどうした」
 ただ相手を遊びで甚振る為の問いに過ぎないものの、目が合ったかと思えばすぐに瞳を逸らす少女に男の声は僅かに強いものになっていた。性の遊びでその場の支配権は常に男のものであり女には拒否権程度しか与えるつもりはない、そんな自分ながらに古臭い有り様の中で、この少女の様な頑なで曖昧な相手への態度は後で合意に持ち込ませる無理強いか面倒で捨てるかの二種類であり、気長に待つ事は趣味ではない筈だった。実際、今でも不愉快に感じてなお少女の返答に興味を示す自分に、男は些か驚く。
 至近距離で羞恥と軽い愛撫に全身を上気させる少女を腿の上に跨がらせたまま男はぐいと膝を左右に開いた。
「きゃ……っ」
 腰を載せている部分が空洞になり反射的に左手で男にしがみつきそうになった娘が、怯えた様にその手を引く。コートの上から支えられている華奢な腰は男が膝の間を空けたためにやや不安定に宙に浮き、繊細なレースで飾られたネグリジェは細い腿の半ばまで無防備にはだけ、同じく繊細な下着に包まれた下腹部が愛撫する為に手を差し込むには十分な空間が覗けていた。男の腿に伝わる少女の体温は、先刻まで冷えていたのが嘘の様に熱い。
「そうも触れるのが嫌か」
 薄く嗤う男に、一瞬少女が不思議そうな表情で男を見つめ、そして身を縮こまらせる。
「男の方に触れるのは…、その……はしたないです……」
 消え入りそうな声でようやく言葉を口にしたらしい少女の全身が男の上で更に小さく縮込まった。眠っていると勘違いをしたとはいえ、初対面で人の口元から煙草を取ろうとした大胆さとはちぐはぐなその恥入り具合に男に思わず苦笑いが浮かぶ。出会った日に指を絡めはしたがそれは男から絡め取ったのであり少女から求めたものではない…気付けば確かに少女は触れる事に臆してばかりだった。
 不安定な姿勢が心細いのか身を縮込まらせていた少女が今更ながらに乳房を隠そうとするその手を、男の手が取る。
「覗いた罰を与えると言った筈だ」
 小さな、だが子供の様な丸みのある柔らかさではなく硝子細工の様なたおやかな手をそのまま少女の下腹部へと導き、指先と手の甲で下着の上端からその内側へ潜り込ませる男に華奢な肢体が微かに震えた。指先に触れる柔毛の感触の中、細い中指を捉え指を上に重ねて更に下へゆっくりと進ませながら少女自身に下腹部を触らせる。俯く少女の長い睫毛が震え、落ち着きなく小さく首を振るその呼吸が浅く乱れた。
 重ねた指先が柔毛の感触を抜けたと感じたと同時にぬるりと滑る。
「――ぁ……!」
 びくんと跳ねる身体に切なげな声が重なった。
 手荒に扱えば簡単に破れてしまうであろう繊細なレースの下着の内側がねっとりと濡れている感触に男の口の端が歪む。そのままぬかるみの上端で手を止め、指先に軽い力を込めて少女の指でその下にある場所を間接的に捏ねさせると、怯えとは明らかに異なる震えが華奢な肢体にはしる。少女の細い指を弄る様にじっくりと押し付けて弧を描き、軽く撫で、上下させていくと、愛液が指に絡み付きぬちゅぬちゅと卑猥な水音が響き、操られながらも僅かに抵抗を感じさせた細い指から力が抜け落ちていく。
 コートの内側で露出する柔らかな肌が火照り微かに汗が滲み、淫らな熱を帯び蒸れた空気が籠もり、シャンプーとボディソープの香料だけでなく少女の汗と愛液の匂いが混ざり堪らなく甘い匂いが男の鼻腔を擽る。
 夜明け前の暗がりの中で少女の長い睫毛が震え、大粒の涙が微かな光を弾く。淫らな感覚に確かに翻弄されていてもまだ声を漏らす事に抵抗があるのか、揺れる小さな唇がきゅっと結ばれてはまた開きかけた。
 細い。腿に乗る脚も抱え込む腰も脆く儚い感触でありながら、骨張った硬さでなく柔らかな華奢さで腕の中に収まる。向き合わせる体勢に豊かな乳房が男の胸板に重なりかけ、身じろぎの度にシャツを微かに掻いてぷるんと跳ね、拙くしこる乳首のもどかしい硬さで男を無意識に撫でていく。
 執拗にクリトリスを愛撫させ困惑と哀願の視線を男へと向ける回数が減っていくに従って指に絡み付く愛液の粘度が濃くなり、少女の吐息が甘く切なげな艶を帯びる。指の動きに逆らう力は一切消え、指の更に先で粘膜の襞がくにゅくにゅと蠢く感触に、男は薄く嗤い少女の指の上から奥へと手を伸ばす。
「ぁ……」
「続けろ」
 手を引きかける少女に命じる男の中指がねっとりと愛液を満たした粘膜の谷間に沈み込む。手の甲を繊細なレースの感触が擦り、重ねていた少女の指より奥へと進めた男の人差し指と薬指に柔らかな粘膜が纏わりつく。簡単に折れてしまいそうな華奢な身体でありながら男を受け止めるには十分な量の柔らかい淫らな肉に、男の分身に血液が更に集中する。
 至近距離で可憐で小振りな唇を揺らめかせる少女は何度か首を振ろうとする仕草をしかけてはぴくぴくと身体を震わせ、そしてうなだれた。
 くちゅりと音が立ち、男の掌に少女の指が動く感触が伝わる。男の操る動きよりも遙かに弱く小さな動きだったが、それは遅々としてはいるが一度ではなく繰り返される。消えたい程の羞恥を堪えているのか小刻みに震える少女の顔は腿に乗る体勢の為に男には至近距離から備に鑑賞出来、その羞恥も身体の疼きも戸惑いも手に取る様に伝わってきた。
 ゆっくりと粘膜の谷間を指先で撫でる男に少女の腰が本能的に逃れようとしているのか微かに上下し、だがギプスに覆われた片手は逆らう為の動きを見せない。ユニットバスでは布一枚隔てていた粘膜と襞が、男の指先でくにゅくにゅと揺れる。艶を帯びた吐息に微かに音が絡み付く。微かな、高く、だが柔らかく、澄んだ、甘く、抑えた狂おしい音色。僅かに顔を動かし、細い顎に軽く歯を当てる男に白い身体がびくりと揺れる。そのまま唇を這わせ、舌で舐め上げる度に微かに仰のき身動ぎする少女の乳首が擦れる感触が増していく。
 男の指先が粘膜の谷間の上端で細い指を撫で、そしてゆっくりと下端へ伸びる。温かく濃い愛液の中、指で粘膜を掻く男の腿をひくひくと反射的に締め付ける華奢な脚が、ユニットバスでの行為を思い出したのか下端を撫で回す時には強張り全身が縮込まった。
「指を休ませるな」
 ゆっくりと粘膜の下端を指先で撫でつつ命じる男に、少女の指が怯える様にぎこちなく動くのが掌越しに伝わってくる。
 小振りな襞と柔らかな丘の終わりの僅かな手前の窪みを指先で捏ね回しながら渦の中心へと進める動きは、やがて蜜壷に指を密着させ軽い上下動をしながら穴を穿つ動きへと変わっていく。ユニットバスで膣内への指の抽挿を受け入れてはいてもまだ怖がるのか、それとも性交を目撃し挿入行為に穢らわしさを感じたのか、僅かに少女の喘ぎが硬くなった。
 それでもなお強張りながらも命令に懸命に従おうと指を動かす少女の啜り泣きを聞きながら、男は指先を蜜壷に埋めては引き戻す動きを繰り返す。愛液でぐっしょりと濡れていた下着の中で男の手の甲まで愛液に濡れており、特に指から手首までは酷く滑る程愛液にまみれ、小さな動きにさえくちょくちょとあからさまな淫音が立つ。清楚可憐な風貌と裏腹に更なる抽挿をいつまでもねだる様な底なしに濡れる淫らな蜜壷は、まだ男の味を憶えてもいないにも関わらず膣口のくねりで拙くしゃくりあげて男の指を奥へ奥へと誘う動きを繰り返していた。
 ぶるっと華奢な肢体が震え、細い腰が男の上で微かに上下する。いやと小さく零れる嗚咽は抗議と呼ぶには甘過ぎ、男の指の抽挿の緩急の変化の度に油断しては止み追い詰められては零れ、処女地の強張りそのままに少女の心が徐々に蕩けていく。
 静かだと不意に医師は感じた。
 少女の微かな喘ぎと吐息に指を動かす度に沸き立つ淫らな水音に華奢な肢体が震える衣擦れの音、遠い自動車の排気音と始発は過ぎた電車の走行音などの街の騒音、何もかもが耳に届く中、不思議な程自らの奥に奥に意識が潜り込んでいく。他人がこれ程近くにあるのに、良い酒を一人で飲んでいる時に感じる穏やかな静寂。
 びくびくと震える少女の甘い匂いが心地良く鼻をくすぐる。恐らく無意識に無駄に口にしているのであろう、先生という声掛けの細く上擦り高過ぎず柔らかな堪らなく心地よい声音。
 少女の膣内に深く挿入した指を止め、熱い膣の火照りと狭さを堪能しつつ震える肢体の乱れが僅かに治まるのを待つ。
 はぁっと悩ましい吐息が少女の唇から零れ、膝の上の白い身体が全身でかすかに上下して呼吸をしかけ、そしてたかが指一本の挿入物の存在に強張り男の中指をぎこちなく締め付けた。息を詰まらせる鼻のかかった声にならない声は甘く上擦り、堪らなく恥ずかしいのであろう清楚な顔立ちを羞恥に染めるその艶めかしさに、男は膣内の指をゆっくりと何秒もかけてぐちゅりと曲げる。
「あ……っ!」
 腕の中で華奢な肢体ががくんと揺れた。上品で繊細な寝衣ははだけきり、たおやかな肢体がぎこちなくくねり男の目の前で豊かな形よい乳房が弾む。乳首の淡い色は暗闇の中では肌の白に溶け込むが、初々しく尖る乳首は揺れる乳房の先端で可憐にその存在を主張している。まだ男の愛撫に慣れていない乳房の感度の良さとその絹のような肌質と絶妙な弾力と柔らかさは他の女を愉しんだ後でもまだ手に生々しく残っている。
 またも指を曲げてからは動きを止めた男に、しばし身悶え呼吸を落ち着かせた少女が戸惑った様な視線を男に向けかけ、そして俯いた。
 ただ嵐が過ぎるのを待つ様にひたすら堪えれば恥辱の時間をやり過ごせるとでも考えているのであろう。男の側が己の欲望を発散する為の行為ならばそれで済んでも、今、男が愉しんでいるのは少女の羞恥そのものであり、奔放な女が多い昨今において性的な交わりを恥じ尚且つ奥ゆかしさを漂わせる少女は貴重な玩具として男の目には映る。
「指が止まっているぞ」
 指の動きをいつの間にか止めている少女を注意する男に、白い肢体がぴくんと震える。小さな動きだが反射的に指を締め付ける膣肉の締め付けは目の前で揺れる乳房よりもはっきりと男に伝わってきた。
「申し訳…ありません……」
 俯いたままの少女の唇から零れる声は囁きよりも小さく、静まり返った夜明け前の屋上でなければ男の耳に届かなかったかもしれない。聞き逃すかもしれないその声量は他者への伝達としては問題があったが、その媚びを含まない羞恥と怯えに彩られた声音は男の耳に堪らなく甘く響く。
 くちゅりと音が鳴る。
 ごく小さなものだったが、少女の指がそっと前後に捏ねる動きが重なる掌に伝わり、そして熱く火照りきった柔肉が奥深くまで挿入している中指を拙く淫らに喰い絞める。がくんとはっきり肢体が跳ね、長い睫毛を伏せた清楚な顔に苦痛を堪えている様な悩ましい風情を漂わせ、身を竦ませる。
 浴室で嗅いだ甘い百合の香りが篭もった少女の火照りを帯びた空気が男の顎を撫で、まだ射精から間もない下腹部にどくりと血流が集中する。犯すには十分な勃起が膝を開いた状態のスラックスの前をぎちぎちと突き上げ、このまま少女を床に組み伏して思うまま貫いて泣き狂わせて食い散らかしたい衝動が込み上げ、凶暴な衝動と裏腹に男の目は醒めたものに変わっていく。
 ここで犯しても恐らく少女は訴えないだろう…それは覗き見の代償と諦めたものなのか流されて後悔するものかは興味はない。だが何かが男を押し止めている。ゲーム感覚に似た、だがどこか冷え切り、そして鋼の様に硬い違和感。それは医者と入院患者と言う倫理的なものではないのは今まで愉しんできた女の数で裏付けれている。ならば何なのだろう。
 醒める頭の芯と硬い勃起を撫でる様な甘く震える声が響く。
 命じられるままに、だが余りにも拙く頼りない自慰をゆっくりと小さく、途絶え途絶えに続ける少女の瞳から大粒の涙が零れ、か細い啜り泣きが夜気に溶ける。くちゅっくちゅっと沸き立つ愛液の音の度に弱く頭を振る少女の漆黒の髪が揺れ、肩先から零れた長い髪が汗ばむ乳房に貼り付き、そこから垂れた絹糸の様な髪が宙でゆらゆらと揺れていた。蒼く暗い夜の中でたおやかな肢体と繊細な容貌は妖精を思わせる華奢さで、そして豊かな乳房はそれを嗜虐の対象へと変えさせる。どこか夢の様な壊れそうな空気は静か過ぎるせいだろうか。
 静か過ぎるから、こうも少女の声が甘く聞こえるのだろうか。

Next 『STAGE-6』
改訂版1506120156

■御意見御感想御指摘等いただけますと助かります。■
評価=物語的>よかった/悪かった
   エロかった/エロくなかった
メッセージ=

表TOP 裏TOP 裏NOV BBS