2022余所自作101『シャワーを浴びて』

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「あの……シャワーを浴びさせてください……」
 消え入りそうな声で少女はそう言った。
 花火大会は途中で雨が降り出し中止になり慌てて帰路に就く人々の中、少女の乱れ切った浴衣を丁寧に直す手間を惜しみかなり荒く浴衣を身に巻かせた状態で車まで抱きかかえて戻った。一度彼女をマンションの風呂にまで連れて行った後、駐車場の車の濡れたシートを拭きに戻った男は丁寧に革を手入れしながら息をつく。
 恥ずかしがり屋の少女の愛らしい浴衣姿に結い上げた髪、花火大会の雑踏に驚いてやや緊張している小さな顔、与えた苺飴に暫し見惚れた後、そっと唇を開いて舐めた赤い舌。大粒の苺を覆う赤い飴はどこか卑猥な…ありのまま言ってしまえば男性器の亀頭に似ており、それを丁寧に舐める少女に雑念がないと判っていても不慣れな口戯をまざまざと思い起こさせ、男は雑踏の中、劣情を憶えた。たかが苺飴だ。そう思っても少女の唇が少し動く度に、小さな口が美味しそうに先端の飴をかりりと噛む瞬間に、鮮やかな赤の飴と表層に白い果肉に残る歯形に、ぞくりと背筋が騒めく。周囲の男がちらちら盗み見てしまう清楚可憐な少女の、艶めかしい仕草を誰にも見せたくはない。たかが苺飴だ。男の傘を舐めさせる時の叶えて貰えないと知りながらの消灯の哀願、何度も躊躇う唇から零れる甘く震える吐息、逃さぬ様に押さえる後頭部から伝わる全身の微かな震え、いつまでも恥じらいを捨てきれない、拙い舌の動き。夜祭りに慣れていない幸せそうな笑みとは異なる淫靡な切なげな瞳。
 閉じ込めて何処にも出したくはない。世界中の男の視線から隠してしまいたい。
 それなのに、少女の笑みを見れるのならば例え世界の果てまででも連れ出してやりたい。
 この矛盾を、少女は知るまい。
 シートを拭き終わり、マンションの部屋に戻った男はゆっくりと浴室の扉を開ける。
 丁寧に、これから男が抱く事は当然判っているのであろう、丁寧に身体を洗っている少女はシャワーの水音で扉が開いたのに気付かない。一度だけ射精を済ませているその白い腰はまだ力がさして入らないのであろう、頼りなく時折ふらついている。白い泡に塗れた後ろ姿が悩ましい。男がまだ抱き足りていないと判っている身体だった。躾けてある。満足するまで逃さないと。泡とは異なる白い粘液が、内腿を伝っている。垂れている。男が花火大会の木陰で少女の膣奥に放った精液が。
 ぴくっと白い身体が揺れ、少女がタオルで身体を隠そうとしながら振り向き、そして全裸の男に気付き顔を真っ赤に染めて視線を逸らす。
「お帰りなさいませ……」
 新妻を連想させる気恥ずかし気な小さな声が零れる。十七歳と三十四歳。倍の年齢差の上、彼女はまだ高校生である。自分の他に男を知らない少女が、どれだけ愛しいか。浴室の中で隠れがる様に壁側に身を寄せる少女に、男は大股で近付き、そして抱き締める。湯で温まった身体に漂うボディシャンプーの匂い…男女兼用の薄い石鹸の匂いは少女の匂いに混ざると甘いものに変わる。泡で滑る身体を腕でそっと包み込み、そして頤に手を伸ばして仰のかせ、唇を重ねる。ぁ……と微かに零れる声を口内に感じながら、少女の舌を吸う。小さな舌を男の口内へと招き寄せぬろぬろと舌を絡み付かせる。それまで懸命に崩れ落ちない様に気を付けていたのであろう身体が、腕の中でくったりと力を失う。胸ばかり成長していると恥じらう妖精画を彷彿とさせる華奢な身体の細やかな重みが、堪らなく支配欲を煽る。
 ぬちゅぬちゅと舌を絡ませ続け、やがて男は少しだけ唇を離す。
「ただいま」

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