橘学生会館物語・夏の特別編
「友達がいなくなった日」
夏!といえば、何を連想する?花火、かき氷、浴衣にカブトムシ。
海だ、山だ、海外だ〜〜!!なんて活動的。でも、この「生」が輝いて見えるこの時季に、
人はナゼだかくら〜〜〜い話をしたがる。そう、「怪談」。
あのお昼の人気番組「おもいッきりテレビ」でさえ、「あなたの知らない世界」なんて特集をする。
って、訳で。今回は寮で起こった、ほんとにあったこわ〜〜い?話をイッパツ。
恐い、というより、悲しい。なんだけどね。
もうすぐ夏休み。って頃だったろうか。たくさんできた友達の中に、一緒に通学していた子がいた。
名前は「みずき」(仮名)。おとなしめだったけど、話が合って、同じ選択だったので他の友達よりも
一緒にいる時間が多かった。私はみずきと友達になれてよかった。
その頃、あるきっかけである先輩と知り合いになった。学校や、寮での心構えなんかを教えてもらって、
結構頼りにしていた。今思うと変なんだけどね。(笑)その人はまだ20歳そこそこだろうに、
もう婚約者がいる、とのことだった。だからちょっと大人びてみえてた。
でも、趣味がいかん。「同人誌」作り。おたくの代名詞!!しかも、この寮は結構そういう人が多く、
私みたく、なんの知識もない奴は話が合わなかったりしたもんだ。
その先輩と一番仲良くしていたのは、みずきだった。先輩の部屋(離れの一人部屋)に行ってはよく話をしていた。
だんだん私達と話さなくなって、先輩にべったりになっていった。だけど、月一の外食は一緒に行っていた。
まだ一緒に学校にも行ってたし、そんなに気にはしてなかった。
そんなみずきが変わった。きっかけはよく思い出せないんだけど、突然変わった。
突然、自分は「エウデュリケ」だと言うのだ。「はあ?何それ」と聞くと、「妖精の名前」だと言う。
さ〜〜て、困ったぞ〜〜〜。(笑)みんなすぐに、某漫画の影響だと思った。
私は読んだことなかったから知らんが、妖精とか、神様の生まれ変わりの人間を主人公にしたもの。
それにみずきがはまってたのは知ってた。んで、あの先輩もそのテの物好きだったことも知ってた。
ああ、はまったんだな、って思った。でもその時はそんなに深くは考えなかった。
だんだん日が経つにつれて、みずきはますます「エウデュリケ」になっていった。話し方、声、
表情さえもみるみるうちに変わっていった。でも、時々は「みずき」に戻り、「ああ、戻った〜」なんて言って、
私達も「またまた〜〜」なんて笑っていた。だけど、みずきはどんどんはまっていった。
もう1つの人格?もころころ変わった。しかも、妖精から出世して、神様になっていった。
自分は「あしゅら」で、恋人は「帝釈天」だとか言う。おいおい、それは違うだろう。(笑)
その二人だと、敵同士にはなっても、恋人同志にはならんだろう!!なんてことはおかまいなしで、
帝釈天に対する思いを私に話す。かなりラブラブらしい…。
それでも、みずきはみずきだった。一緒に学校行って、ご飯も食べてた。時々変になったけど、
気にならなくなったくらい、もう慣れていた。いいや、って思った。みずきだったから。
けど。そうも言っていられなくなってきた。だんだん学校を休むようになった。
時間になって部屋に行ってもなんの応答もなく、不気味にマメ電球が光り、お香の香りがしていた。
それでも最初はムリヤリ連れて行ってた。だけど、あきらめて一人で学校に行くことが多くなった。
周りの人も、「何か変」だということに気づいていた。そりゃそうだよねえ。(笑)
で、決定的なことが起きた。
朝早くに物音で目が覚めた。ばたばたばた…と誰かが走ってる。うるさい。そしたら、聞き覚えのある声。
「みずきだ!」と跳ね起きて、廊下に出るとみずきが先輩を追いかけている。
とっつかまえて、何をしてんのかと聞くと、「あの人には悪い霊がついてるの!追い払わないと!」と答えた。
…ああ、ここまで来たか。さて、どうしようかなあ。
その時は管理人のおじさんにばれずに済み、みずきも元に戻った。私達はかなり困っていたんだが。
余談だけど、私達の前世とやらをみずきに見てもらったことがある。私は、中世の騎士だったんだと。
で、戦死したんだってさ。わはは。ちなみに、私ともう一人、通称「けたさん」(仮名)はなんと、
ビシュヌ神の5つに分かれた分身の2つなんだってさ!!こんな狭いところに、そんなもんが2つもいていいのか?
まあ、まるっきり信じてなかったけどね。でも、私とけたさんが一緒にいると、私は暑くてしょうがないのに、
けたさんはすっごい寒がっているってことがあった。それはみずきに言わせると、「プラスとマイナスの力」だそうな。
よくわかんないよね〜〜。(笑)てきと〜〜に話を合わせてた記憶があるなあ。
で、話を戻そう。追いかけっこを境に、みずきはますます変な子になってしまった。(笑)
私が「肩がこった」って言うと、「私を狙ったはずの矢が、やこの肩に当たったみたいなの。ごめんね」だと。
おいおい、なんでそうなんのさ!っていうか、矢を放った奴は誰なんだよ!
学校でも、寮でも平気で失神する。なんだか、悪い奴に襲われるんだってさ。困った人でしょ〜?
本人にとっては、ものすご〜〜く大変なことのようだったけど、私達から見たら、
本気で意識を失ってるわけではなく、そんな気がすごお〜〜〜くしてるだけなんで、
背中を叩けばすぐ起きるのだ。(これを「覚醒」と呼ぶの。byみずき)背中を叩きに行くのはどうしても
私になるわけ。しかも、「いん。よう。と〜。しゃ〜。…」と印を結ばないとイケナイとか言うのだ。
そんな恥ずかしいこと、人前でできるか〜〜〜い!!(笑)私は孔雀王かい!
キッチンでマジな顔したみずきに、印の結び方を教わった私。むなしかったな…。(-_-;)
結局、一度も「印」は結ばずにたたき起こしたのだけどね。ちゃんと起きたよ?
そろそろ手に余った頃、みずきはまた違う人になった。今度は強力な人格だった。
前はみずきに戻ることが多かったのに、そいつはなかなか動かなくて、すっかりみずきを消してしまった。
最初は「はじめまして〜〜」なんて言ってて、私も「はいはい、どうも〜」なんて言ってた。
だって、すぐ戻ると思ってたんだもん。その頃にはもう八方手を尽くしてた。
「帝釈天」だとぬかす野郎(失礼?)とも電話で対決したし、(もうやめてください、ってね。)
先輩の知り合いのとっても怪しい霊能者のところにも連れていった。みずきの親にも連絡した。
だけど、やっぱし戻らなかった。それがわかったのは、学校がえりの電車の中だった。
私はみずきじゃないけどみずきと話していた。だけど、ふっと気付いてしまったのだ。
みずきは友達だった。あたりまえのようにためぐちだった。だけど、目の前にいる人は、私に対して敬語を話す。
思いきって聞いてみた。「なんで敬語なの?」って。そしたら、「だって、知らない人ですもの…。」と答えた。
「みずきなら、普通に話すよ」と言うと、「ああ、あの人はもういません。」と、その人は答えた。
その時、私は泣いた。電車の中で、人前で初めて泣いた。ぽろぽろ涙を流した。
目の前にいる人は「どうしたんですか!?大丈夫ですか!?」と聞く。
その一言で、さらに涙がでたけど、私は「コンタクトがずれて…」と言った。
ほんとは、みずきはもういないんだな〜、もう会えないんだな〜って思うと悲しくて悲しくてしょうがなかった。
みずきなのに、みずきじゃない。あんなに仲がよかったのに、「知らない人」とか言う。なんで?
なんで、こんなことになっちゃったんだろう。ほんとに霊が乗り移ったのか?みずきはいなかったのか?
寮までの帰り道、20分間は一言も口をきかなかった。
寮に戻って、けたさんに会いに行った。おいおい泣いた。あんなになっちゃう前になんとかしてあげたかった。
冗談だと思ってた。もう戻ってこないのかな、ってけたさんに聞いた。「たぶんね」とけたさんは言った。
楽しかった思い出はどうなるんだろう。一緒に行ったレストラン、ディズニーランド。学校の行きかえり。
みんな覚えてるのにね。しかも、その本人は目の前にいるってのにね。でも別人になってしまった。
多感な時期の、思いこみ。そんなもんに、私は友達をとられてしまった。
誰に文句言えばいい?変な世界に連れていった先輩?その仲間の「帝釈天」?(笑)
やるせなくて、悔しくて、情けなくてしょうがなかった。友達の前で泣いたのも、友達のことで泣いたのも、
友達を失ったのも、初めてだった。
その後、みずきは学校に行かず、ず〜〜〜っと部屋にいた。食事も自室でとって、ほとんど姿を見せず、
部屋で変な呪文?を唱えていた。あの時に隣に住んでた人、ほんと〜〜にお気の毒様…。(-_-;)
寮でみずきを見かけても、声はかけなかった。だって、知らない人なんだもん。
顔つきも、雰囲気もまったく違うんだよ〜。ほんとに誰?って感じになった。恐いね〜〜。
後に、当時の話を当時の仲間で話した。結局、あれはなんだったんだろう、と。
「思いこみ」だろう。と結論付けた。妖精とか、生まれ変わりとか。少女時代に読んだ漫画の世界。
大人になりかけの、中途半端な時期にはまった、プチバーチャルリアリティな同人界。
それが上手すぎるくらい重なり合って、どこが現実なのか、どこが嘘なのかがわかんなくなってしまったんだと。
まあ、今では「橘の七不思議」の1つに過ぎないんだけどさ。(他に6つもあんの!?)
みずきは今なにしてんのかな。立派に仕事してるのかしら。帝釈天とケッコンしたかな。
皆様も、「伊勢神宮」か、「出雲大社」におでかけの際は探してみてね。
あやしい〜〜雰囲気の巫女さんがいないかどうか。就職したい、って言ってたからさ。
合言葉は、「エウデュリケって、知ってますか?」(笑)
以上、夏のお笑い話でした。合掌。
…こんな所までよく読んだね、暇なの?(笑)