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 JUSTRITEは初期には極めて奇抜な形状のランプを製造していた。HORIZONTAL TYPEと云い、下タンクの上にウヰスキーの樽を横にした様な形の水タンクを載っけている。今回は真鍮製の本体にニッケルメッキ仕上げのものを落札した。反射鏡のみクロームメッキ仕上げである。鏡はオリジナルの様だ。


 例の如く落札と云うよりは(BUY IT NOW)44ドルで買った。ポスターとカラーコピーの紙箱が付いていて、JUSTRITE No.2-810と書いてあった。箱はとてもランプを収容出来る大きさではない。製品番号も出鱈目である。紙箱とポスターさえ付ければ入札するだろう、という出品者の魂胆が見え々々である。此のシリーズは表面全体が、STREAMLINEDよりスベスベして光沢がある。ニッケルメッキのおかげで、更に光沢が増した様に思われる。
カーバイドランプの裏に付いている、ハンドライトとして使う「取っ手]は、鉄製でボロボロに錆びていた。他のサイトで調べてみても、 JUSTRITE製の多くの其れは錆びている。最初から鉄製の物を付けて販売したものと思われる。何故錆びにくい真鍮にしなかったのか? 洞窟内で鉄製品は禁忌の筈だ。他社の製品は真鍮製が多い。多分コストダウンであろう。そっちが其の気なら、こっちは真鍮棒で作り直してご覧に入れよう。 其の時、老人の心はもう少年のそれに戻っていた。
 当然メッキも必要になる。「めっき工房」という、御家庭で気軽にメッキを楽しむセットが売られている。飽和に近い状態で溶かしてある金、銀、銅、ニッケル等の電解液がそれぞれ 18mlのビニールボトルに入っている。さらに電源付きでセットで買えば1万円は超える。  原理は普通のメッキと変わらないが、メッキしたい物を大量の電解液に浸けて通電するのではない。小さなフェルト棒に電解液を染み込ませ陽極に繋ぐ、陰極はメッキしたい金属にクリップで挟み、通電する。要するにメッキしたい場所だけ擦ってメッキするのである。而もわずか数ccの液を使うだけでメッキが出来るのがミソである。使用後に大量の電解液を下水に流さずに済む、若し流せば法律に触れる。嘗てメッキの授業をした中学の教諭は、少しくらい多くとも、薄めれば問題は無いと言って、廃液を流し台に流した後、暫くの間水道の水を流しっぱなしにしていた。  ネット上に使用する乾電池は006Pと書いてあった。使用電圧は9Vとバレてしまった。少し高電圧と思った。抵抗器でも入っているのか? 普通は低電圧で長時間と記載されているので、6Vでも充分と判断した。この程度の直流充電アダプターならどの家庭でも探せば一つ位は有る。流用すればロハである。多少メッキが荒く仕上がれば電圧を下げてやり直せば良い。 脱脂液一本18ml(957円)、ニッケルメッキ液18ml(1,197円)、フェルト保液材20本(997円)を個別に購入するだけ、3151円で最低限ニッケルメッキは出来る。フエルトは、ナンバリングのインク用フエルトと大して変わらない、流用すれば此もロハに出来る。私の様にセコい人間はバラの部品を買って、決してセットは買わない。


 暫く使うとニッケル液の成分が減るので液を付け直す。今回は、将来何回かニッケルメッキをするつもりでニッケル板を購入した(写真左)。(巾3mm厚さ 0.2mm長さ100mm)で1800円もした。

フエルトにニッケル板をあて、ストローに突っ込みホットメルトで固定した。(写真左)むき出しになっている左半分のフエルト部分にニッケルメッキ液をしみ込ませて通電する。こうすれば裏のニッケル板からニッケルが溶け出すので高価な電解液の節約になる。使用後の裏側部分(写真下)はニッケルがかなり溶けているのが解る。ランプより鉄製の取っ手を外し、3mmの真鍮棒で作り直して、メッキした。錆びだらけの鉄を磨くよりズーと手間がかからない。ついでに本体の所々メッキが剥がれている部分にもメッキを塗り重ねた。見た目は格段に良くなった。JUSTRITE製品に共通する、「ずさんな銀蝋接着面」もニッケルで覆われるので目立たない。久しぶりに半日間メッキをたっぷりと堪能した。

 トレードマークとパテントの部分は再メッキしなかった。其の方が読み易い。
 

 撮影用の光源を増設し、シャッタースピード1/1250で下の写真を撮った。ニッケルの色を出し、炎の「ぶれ」は解消されたが、なにぶん、炎の暖かさが出せなくて寂しい。

 

 炎を明るく写すと、折角のニッケルメッキが真鍮製に写ってしまう。写真下は、極細から中火までの連続した写真である。この製品は弱、中、強が容易に調節出来た。



 水タンクは樽型であるので断面は円形である、反射鏡はアタッチメント無しで、其の侭ランプに取り付けられる。5時と7時の方向に溝があるが、反射鏡の裏の突起に合わせると、其の方向に発火装置を固定する事が出来る。

 写真上右は分解した写真だが、固定金具一個で鏡を固定出来る。発火装置の位置は各社各様だが、5時か7時が多い。


 写真上は他の2種の樽型JUSTRITEで、小さな反射鏡は銀蝋で直接溶接されている。右の発火装置は7時に固定されている。 故にJUSTRITEでは7時が正しい位置なのであろう。  一方写真下は後発品の STREAMLINED TYPEで、1枚の真鍮板アダプターを挟んで自由な方向に反射鏡を回転させ、固定してある発火装置の角度を変える事が出来る。点灯すれば発火装置は大きな影になる。気になる方には影の角度の選択肢が増えて、当時の新製品を購入した方はさぞ驚かれたと思う。

 ニッケルメッキ製品は、やはり樽型の中では亜流で、メッキをかけていない金色の真鍮の肌の色の物が主流である。一個くらいは主流を手元に置きたいという気持で安物を購入した。2.5インチの真鍮製の反射鏡付きを40ドルで買った。  例によって出鱈目な箱とポスターが、もれなく付いてきた。年代もので此の値段であるから、かなりデコボコがある。 以下は商品の説明である。 This is a great little lamp and  overall the brass finish is in Very Good condition  with only the typical dings on the lamp from use underground in the mines. The base also has typical wear from use & age.右後部がこんなに、ひしゃげて居て何がonly the typical dingだ!こんなキンキラで細部の解らない写真を見て購入したのは、ちと早計だった。騙ますつもりで撮った写真に、騙される方も悪い。此も授業料のうち、また一つ教えて戴いた。

 

 併し、デコボコを此の様に強調すれば、商売にはならない。



 火を点けて此のランプの良さが解った、ニッケルメッキ製の冷たさとは反対に、真鍮のランプの炎には温もりが有る。 真鍮製の反射鏡に照らされた灯は周囲の雰囲気も暖かくする。味わいもまた別格である。真鍮が真鍮らしい色に写る様に努力した。炎はボケたが、雰囲気が少しでも出せたであろうか? 洗練された形とは程遠いが、見るからにアンティークな本体と、程よく小さい反射鏡が愛嬌を増す。あばたも笑窪に見える。此の金色の酒樽は約一世紀前に作られた。様々な人々に愛されたからこそ保存され、遙々と太平洋を越えて我家へ嫁いだ。typical dings?  舅はもう悪口は云わぬ。樽型ランプから出る炎は、ほんのりと酒の香がする。……そんな気がする ?

   三十歳までは女性が暖めてくれ、そのあとは一杯の酒が、またそのあとは暖炉が暖めてくれる。(スペインの諺らしい)。
 私は「またそのあと」の世代に近い。医院兼自宅に、焼却炉は有るが暖炉は無い。だから此の真鍮製の樽型のカーバイドランプと酒の両方で暖めてもらおう。アセチレンガスの炎の火力が弱い分だけ、ほんの少しの酒の追加は許されたい。            

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