生物化学工学2(平成11年度)


1.下図に示すように通気攪拌槽と限外ろ過膜モジュールを結合したろ過培養システムを用いて大腸菌を培養した。なお、供給基質濃度はSF(kg/m3)基質供給速度ならびにろ過速度はF(m3/h)、通気攪拌槽の細胞濃度はX(kg/m3)、基質濃度はS(kg/m3)、培養液体積はV(m3)とする。また、限外ろ過膜モジュール出口の基質濃度は通気攪拌層の基質濃度と等しいものとし、限外ろ過膜モジュール中の培養液体積及び滞留時間は無視できるものとする。
ここで、大腸菌の基質比消費速度ν(h-1)および比増殖速度μ(h-1)は、それぞれ次式のように表せるものとする。なおYX/S(kg-cell/kg-substrate)は細胞の対糖収率、μmax(h-1)は比増殖速度の最大値、K(kg/m3)は基質に関する飽和定数、m(h-1)は維持定数であり、それぞれ、YX/S=0.2、μmax=1、K=0.5、m=1である。この時、以下の設問に答えなさい。
ν=μ/YX/S+m
μ=μmaxS/(S+K)

1)ろ過培養システムの培養液中の基質、細胞に関する物質収支式をν、μ,X,S,F,V,S,tを用いて濃度基準で表しなさい。(10点)

2)培養液中の基質濃度Sを2(kg/m3)に維持しつつ培養するために、基質供給速度Fをある時点(t=t、X=1(kg/m3))から時間的に変化させた。このときの細胞濃度X、基質供給速度Fの経時変化を経過時間凾狽フみの関数として表しなさい。ただし、V=10(m3)、S=12(kg/m3)とする。(20点)

3)連続培養操作(Chemostat Culture)、流加培養操作と比較して、ろ過培養操作の特徴を述べなさい。(10点)

2.乳酸菌と酵母菌について以下の事柄が知られている。
酵母はブドウ糖の消費と増殖に伴ってエタノールを生産する。乳酸菌はブドウ糖の消費と増殖に伴って乳酸を生産する。乳酸菌はエタノールによって増殖阻害をうけ死滅するが、酵母の増殖は乳酸あるいはpHの低下の影響を受けない。この時、以下の問に答えなさい。

1)酵母菌と乳酸菌を混合培養した時のこれらの菌の相互作用はどのような形式に分類されるか。基質が十分に存在する場合と、わずかしか存在しない場合についてそれぞれ答えなさい。(10点)

2)酵母菌の濃度をX、比増殖速度をμ、乳酸菌の濃度をX、比増殖速度をμで表す。乳酸菌の死滅速度がエタノール濃度Eに比例し、また、エタノールの生成が酵母菌の増殖に比例するものとし、それぞれの比例係数をK、YE/Xとする。このとき、混合培養系での酵母菌と乳酸菌に関する濃度基準の物質収支式を示しなさい。ただし、t=0においてX=X1,0およびE=0とする。(10点)

3)酵母菌濃度X、乳酸菌濃度Xをそれぞれ直交軸とする平面上に、酵母菌と乳酸菌を混合培養したときのそれぞれの濃度の変化を定性的に矢印つきの軌道として示しなさい。ただし、乳酸菌は最終的に完全に死滅するものとする。

3.遺伝子組み替え大腸菌の培養について以下の問に答えなさい。

1)アンピシリン耐性遺伝子と目的たんぱく質遺伝子を持つベクターを導入した遺伝子組み替え大腸菌を、所定量のアンピシリンを添加した新鮮培地に0.1%(V/V)の割合で植菌して回分培養した。対数増殖期の途中でIPTGを添加して組換えたんぱく質の発現を誘導したところ、組換えたんぱく質が生産されるとともに大腸菌の増殖速度が誘導前と比較して低下した。増殖速度が低下した理由について述べなさい(10点)

2)上記と同様な培養系において、組換え大腸菌の前培養を細胞濃度が最大濃度に達するまで行い、この前培養液を10%(V/V)の割合で所定量のアンピシリンを含む新鮮な倍地に植菌して回分培養を行った。このとき、対数増殖期の途中でIPTGを添加しても、大腸菌の増殖速度は誘導前と比較して顕著には低下せず、また、目的たんぱく質の生産もほとんど見られなかった。このような現象が見られた理由について述べなさい。(10点)

3)組換え大腸菌によるたんぱく質生産は主に回分培養操作で行われている。連続培養操作が用いられない理由について述べなさい。(10点)