生物化学工学2(平成10年度)


1.下図に示すように反応器1,2(CSTR)と反応器3(PFR)を直列に結合して,ある細胞の連続培養を行った。供給基質濃度S(kg/m3)、基質供給速度をF(m3/h)、反応器1,2,3の体積をそれぞれV(m3)、V(m3)、V(m3)、定常状態における反応器1の出口の細胞濃度、基質濃度をそれぞれX(kg/m3)、S(kg/m3)、反応器2の出口の細胞濃度、基質濃度をそれぞれX(kg/m3)、S(kg/m3)、反応器3の出口の細胞濃度、基質濃度をそれぞれX(kg/m3)、S23/font>(kg/m3)とする。
ここで、細胞の基質比消費速度ν(h-1)および比増殖速度μ(h-1)は、それぞれ次式のように表せるものとする。なお、YX/S(kg-cell/kg-substrate)は細胞の対糖収率、μmax(h-1)は比増殖速度の最大値、K(kg/m3)は基質に関する飽和定数である。この時、以下の設問に答えなさい。
ν=μ/YX/S
μ=μmaxS/(S+K)

1)上記の連続培養プロセスの滞留時間分布(RTD)を求めるために、反応器1の入口側に濃度C(kg/m3)のトレーサー物質を体積v(m3)だけパルス的に加え、反応器3での出口側でトレーサー濃度を連続的に測定した。下図の例にならい、反応器3の出口側でのトレーサー濃度の経時変化を模式的に表しなさい。(10点)


2)定常状態における反応器1の出口の細胞濃度X、基質濃度Sを、供給基質SF、基質供給速度F反応器1の体積V、細胞の対糖収率YX/S、比増殖速度の最大値μmaxおよび基質に関する飽和定数Kなどの関数として表しなさい。(10点)

3)定常状態における反応器2の出口の細胞濃度X、基質濃度Sを、反応器1の出口の細胞濃度X、基質濃度S、基質供給速度F、反応器2の体積V、細胞対糖収率YX/S、比増殖速度の最大値μmaxなどの関数として表しなさい。ただし,K<<Sであるとする。(10点)
4)定常状態における反応器3の出口の細胞濃度X、基質濃度Sを、反応器2の出口の細胞濃度X、基質濃度S、基質供給速度F、反応器3の体積V、細胞対糖収率YX/S、比増殖速度の最大値μmaxなどの関数として表しなさい。ただし,K<<Sであるとする。(10点)

2.組換え大腸菌の培養について以下の問に答えなさい。

1)細胞外にたんぱく質を分泌生産する組換え大腸菌を、増殖に最適な培養温度、溶存酸素濃度に制御しつつ連続培養し、定常状態がえられた。ところが、何らかの原因で培養系に異常が生じ、ある時点から細胞濃度が次第に増加し、ある時間経過した後に、高い細胞濃度で再び定常状態が得られた。この時、細胞濃度の増加と同時に分泌タンパク質濃度は増加し、一方、基質濃度は減少した。以下に示す原因の候補の中から、ここで観察された現象を説明するのに最も適切なものを1つ選択し、この原因によってこのような現象が起こると考える理由を述べなさい。また、その他の原因の候補が原因として不適切と判断した根拠について述べなさい。

a)供給倍地中の基質濃度がステップ的に増加した
b)培養温度がステップ的に上昇した
c)溶存酸素濃度がステップ的に減少した
d)供給倍地の供給速度がステップ的に減少した
e)供給倍地中に抗生物質(組換え大腸菌選択用薬剤)を入れ忘れた
f)雑菌汚染が生じた(20点)

2)上記と同様な組換え大腸菌連続培養において、培養系に別の異常が生じ、ある時点から細胞濃度が次第に増加し、ある時間経過した後に、高い細胞濃度で再び定常状態が得られた。この時、細胞濃度の増加にしたがって基質濃度、分泌タンパク質濃度はともに減少した。上記のa)〜e)の原因の候補(ここではf)を除くものとする)の中からここで観察された現象を説明するのに最も適切なものを1つ選択し、この原因によってこのような現象が起こると考える理由を述べなさい。また、その他の原因の候補が原因として不適切と判断した根拠について述べなさい。(20点)

3)組換え大腸菌を大量培養する際に物理的封じ込め、生物学的封じ込めの観点から考慮するべき点を列挙しなさい。(20点)