第九章 転写
転写単位はプロモーターとターミネーターの間のDNAを含む、プロモーターで転写は始まり、ターミネーターで終る。この区域の一本のDNAは相補的RNA鎖の合成のためのテンプレートとなる。このRNA−DNA雑種の領域は短く一時のものであり、DNAにそって転写の"泡"が動いていく。RNAポリメラーゼ 水酸酵素はバクテリアのRNAをし、二つの要素に分けられる。中心酵素はα2ββ'の複合体で、RNA鎖を伸ばす働きをする。シグマ要素は単一のサブユニットでプロモーターを認識するために転写開始段階で必要である。中心酵素はDNAに一般的に親和する。シグマ要素が加わると対応していないDNAに結合している中心酵素への親和性を弱め、プロモーターへの親和性を高める。RNAポリメラーゼがプロモーターをみつける割合は拡散やでたらめなDNAへの結合では説明できないほど大きい。この酵素によるDNAの直接的な交換が行われているのだろう。
バクテリアのプロモーターは、転写開始点から−35と−10を中心とする保存された二つの短い配列により特定される。ほとんどのプロモーターはこれらの部位に良く似た配列をもつ。この良く似た配列間の距離は16〜18bpである。RNAポリメラーゼはまず−35配列に"着陸"し、それから認識を−10領域を越えて広げる。この酵素は77以下のDNA塩基対をカバーする。この初期の"閉じた"二量体は−10領域から転写開始点まで伸びる12bp以下の配列が解ける事により"開いた"二量体に転化する。この−10配列における富AT塩基構造はこの解離反応に重要である。
この二量体はリボヌクレオチド前駆物質の混合により三量体に転化する。RNAポリメラーゼがプロモーターから動かずに2〜9塩基のRNA鎖を合成、放出している間、たくさんの開始の失敗サイクルがある。この段階の最後にはシグマ要素が放出され、中心酵素が50bp以下をカバーするくらいに縮む。そして中心酵素がDNAに沿って動き、RNAを合成していく。局所的にDNAの巻きが解けた領域がこの酵素と共に動く。この酵素は更に大きさを縮め、発生中の鎖が15〜20ヌクレオチドになるころには30〜40bpのみをカバーする。そして転写単位の最後までこれが続く。
プロモーターの"強さ"はRNAポリメラーゼが転写を開始する頻度によって記述される。これは−35と−10配列が理想的な共通配列とどれくらい似ているかによる。しかしまた転写開始点直下の配列にも影響される。あるプロモーターは負の超らせんにより増強される。転写により正の超らせんがRNAポリメラーゼの前に、負の超らせんが酵素の後に残される。
中心酵素は別のシグマ要素により、異なる共通配列をもつプロモーターを認識するようにできる。E.coliではそのようなシグマ要素は、ヒートショックや貧窒素環境など逆の状況で活動する。B.subtilisはE.coliと同じような特性をもつ単一の主要シグマ要素を持っている。しかしたくさんの種類の主要でないシグマ要素ももっている。胞子形成が始まった時他の一連の要素が活動する。胞子形成はシグマ要素の代替物が母細胞と胞子先駆体に発生するときに二つの流れで制御される。SPO1ファージにも似たような転写制御機構がある。
RNAのポリメラーゼ-プロモーター間の認識の幾何学は、全てのシグマ要素(s54は除く)に入っている水酸酵素に似ている。それぞれのシグマ要素は、プロモーターと、同様に−35配列、−10配列においてRNAポリメラーゼに転写を命じる。これらの部位でのシグマとDNAとの直接な作用はE.coliのσ70で行われている。シグマ単位との作用がどのように中心酵素との作用に関係しているかは分かっていない。一つのシグマが他に置換わる機構に関係するシグマ要素の使い方もまた分かっていない。
バクテリアのRNAポリメラーゼは2種類の部位で転写を終える。内包性の終結体は富GCヘアピンに続くU残基の連続を含む。それらは中心酵素単体で生体外で認識される。ロー依存終結体は生体内外の両方でロー要素を要する。それらは富C貧G残基の終結部位に先立って50〜90の一連のヌクレオチドをもつ。ロー要素は終結補助要素として必須な蛋白質であり、RNAを認識しRNAポリメラーゼが止まったところで働く。この終結活動にはATP加水分解が必要である。
Nus要素はロー依存終結体の効率を上げ、反終結要素が働くための手段を与える。NusB−S10二量体は伸長中のRNAにあるboxA配列を認識する。NusAはその後参加する。NusA要素とシグマ転写開始要素は互いに排他的に中心酵素に結合する。
反終結体はファージにより、バクテリア内部での遺伝子発現のある段階やその次の段階の過程を制御するのに使われる。ラムダ遺伝子Nは反終結蛋白(pN)をコードし、これはRNAポリメラーゼがすぐ前部の遺伝子の終わりにある終結体をすり抜けて読むのに必要である。他の反終結蛋白、pQ、はファージの感染で後に必要となる。pNとpQはRNAポリメラーゼのなかで特定の部位(それぞれnut、qut)を通過するために作用する。これらの部位はそれぞれの転写単位の異なるが似ている位置に置かれている。pNは酵素がboxB配列を通過する時にNusAを運ぶRNAポリメラーゼを認識する。pNはそしてこの複合体に結合しポリメラーゼがロー依存終結体に達したときに終結を妨害する。
第十章 オペロン
転写はトランス活性因子とシス活性部位の間の相互作用によって制御される。トランス活性要素は制御遺伝子の産物である。これはたいていは蛋白質だが、RNAのこともある。なぜならこれは細胞内で拡散するが、適切な目的遺伝子で作用するからである。DNA(もしくはRNA)中のシス活性部位とは、正常部位で認識されることで機能を持つ配列である。暗号機能は持たず、物理的に隣接する配列のみを制御する。例えばある一連の流れでの連続する酵素のように、似た機能を持つ蛋白質をコードしているバクテリアの遺伝子はクラスターとして組み込まれている。クラスターとは、一つのプロモーターを持ち、たくさんのシストロンmRNAに転写される配列のことである。このプロモーターをコントロールするということは、一連の道筋全ての表現を制御することになる。構造遺伝子やシス活性要素を含む制御単位をオペロンという。転写の開始はプロモーターの近くで起こる相互作用により制御される。RNAポリメラーゼのプロモーターでの転写開始能力は他の蛋白質により抑制されたり活性化されたりする。遺伝子が活性であるがスイッチオフでない場合は消極的コントロール下にあると言う。遺伝子が活性で特異的にスイッチがオンになている状態のときにのみ積極的コントロール下にあると言う。コントロールのタイプは、野生種と変異種の優性な関係が、重要である/抑圧が解けている(常にオン)と、誘導されていない/過度に抑圧されている(常にオフ)という二つの場合で区別される。
抑圧蛋白質はRNAポリメラーゼのプロモーターへの結合か転写の活性化を防ぐ。抑圧蛋白が目的配列のオペレーターに結合する。オペレーターは、開始部位の周りか上流にあることが多い。オペレーター配列は短く、回文配列のことが多い。抑圧蛋白は目的配列の対称性を反映して、同じものからなる複合体であることが多い。
抑圧蛋白がオペレーターに結合する能力は小さい分子により制御されている。誘導物質は抑圧物質が結合するのを防ぎ、抑制補助物質は活性化する。誘導物質や抑制補助物質が特定の部位に結合することにより、抑制物質のDNA結合部位の構造が変化する。解離した抑制蛋白と、すでに直接的にDNAに結合した抑制蛋白によりアロステリック効果が生まれる。
ラクトース経路は誘導物質により制御される。βガラクトシダーゼ誘導物質が抑制物質が開始部位に結合するのを防ぐ。lacZ遺伝子が転写、翻訳をすることによりβガラクトシダーゼ、これを代謝する酵素が生成される。トリプトファン経路は抑制物質により制御される。抑制補助物質(トリプトファンそのもの)が抑制蛋白を活性化し、抑制蛋白が開始部位に結合し、トリプトファンの生合成をする酵素をコードしている遺伝子の発現を抑える。抑制遺伝子は共通配列を持つ複数の開始部位のコピーを制御することが出来る。
開始部位の中には、ある特定の活性化蛋白が無い限りRNAポリメラーゼにより認識されない(もしくは効率の悪い認識をする)ものがある。活性蛋白はまた小さい分子により制御される。CAP活性化物質はサイクリックAMPがあると目的配列に結合できる。CAPに応答する全ての開始部位はこの目的配列のコピーを一つは持っている。CAPが目的配列に結合することでDNAが曲がる。CAPの一つのサブユニットとRNAポリメラーゼの直接的な作用は転写を活性化するのに必要である。
DNAの中の特定の目的配列に対し高い親和性を持つ蛋白質は、全てのDNAには親和性が低い。この比率は蛋白質の特異性と定義される。なぜならゲノムには特定の目的部位よりも多くの特異的でない配列(全てのDNA配列)があり、抑制蛋白やRNAポリメラーゼのようなDNA結合蛋白はDNAに"溜められて"いる。そしておそらく自由なものはほとんどない。目的配列への特異性は特定部位へよりもそうでない方に対し平衡が大きく偏っているに違いない。バクテリアの蛋白質は以下の手段で調整されている。つまり、蛋白質の量やその特異性により、"オン"の状況ではある特定の目的への認識が行われ、"オフ"の状況ではほとんど全てが目的から解離している。
遺伝子発現は転写の次の段階でも制御され得る。翻訳の段階において、蛋白質がmRNAのリボソーム結合部位に重なる領域に結合することで制御される。これはリボソームが翻訳を開始するのを防ぐ。T4のRegAは一般的な制御物質である。これは翻訳のレベルでいくつかの目的mRNAを制御する機能を持つ。翻訳を抑制するほとんどの蛋白質は他の機能に加えこの能力を持っている。特に、自然発生制御、つまりある遺伝子の産物がその遺伝子自身を含むオペロンの表現を制御する場合に翻訳が制御されることがある。
蛋白合成自身の段階で重要な配位結合因子が供給される。アミノアシルtRNAでの欠陥はリボソームでの停滞を引き起こす。これはppGppという異常なヌクレオチドの合成を導く。これはあるプロモーターで転写の開始を阻害する要素となる。これは全ての鋳型の伸長を阻害する一般的な効果も持つ。
弱化はバクテリアのオペロンを通して転写の制御のために終結を制御する機構である。これはアミノ酸の生合成をする酵素をコードするオペロンにおいて使われる。このオペロンのポリシストロンmRNAは別の二次構造を持つ配列から始まる。その内の一つは構造遺伝子の上流にある固有の終結要素を与えるヘアピンループの形を持つ。もう一つの構造はヘアピンがない。どっちの構造をとるかはこの機構の産物であるアミノ酸に対応するコドンを含む短いリーダー配列を通し翻訳の過程で制御される。そのようなアミノ酸を持つアミノアシルtRNAの存在下では、リボソームはリーダーペプチドを翻訳し、終結要素を補助する二次構造の形を取らせる。そのようなアミノアシルtRNAはがない場合は、リボソームは引き止められ、結果二時構造的には終結に必要なヘアピンの形を取れない。よってアミノアシルtRNAの供給で(逆に)アミノ酸の生合成を制御する。弱化はまたリーダーRNAに直接結合し、終結ヘアピンの形を支援したり阻害したりする制御蛋白というオペロンによっても制御される。
制御蛋白の代替物には、目的mRNAと相補的な小さいRNAも存在する。RNA二本鎖領域の形は直接的にしろそうでないにしろ、開始領域を隔離することによって翻訳を防ぐ。このような手段による機能を持つ制御RNAをアンチセンスRNAとよぶ。
第十一章 ファージ戦略
ファージは宿主バクテリアへの感染の中に細胞溶解の生命サイクルがあり、その中でたくさんのファージ分子が作られ、細胞が溶解し、ウィルスが放出される。ファージの中には溶原性で存在するものがあり、そこではファージのゲノムはバクテリアの染色体の中にまとまり、不活性状態で遺伝し、他のバクテリアの遺伝子のように休眠状態にある。細胞溶解感染は典型的に3つの段階を経る。最初の段階では宿主のRNAポリメラーゼにより少量のファージ遺伝子が転写される。これらの遺伝子は第二段階で発現する一連の遺伝子の発現を制御する制御因子となる。第二段階ではこのパターンは繰り返されある遺伝子が第三段階の遺伝子発現に必要な制御因子となる。最初の二つの段階での遺伝子はファージDNAを再生産するのに必要な酵素をコードしている。最後の段階の遺伝子はファージ分子の構造体をコードしている。とても早い遺伝子は後の段階まで発現しない。
ラムダファージでは、発現がそれぞれの制御段階によって制御されるグループによって遺伝子は組織される。即座の早い遺伝子Nは初期のプロモーターであるPRとPLからの遅れた早い遺伝子の両側のグループの転写をする反終結要素をコードしている。この遅れた早い遺伝子QはプロモーターPR’からの全ての遅い遺伝子の転写をする良く似た反終結機能を持っている。細胞溶解サイクルはcl遺伝子の発現により抑圧され、また、溶解素生成段階が維持される。cl遺伝子の産物はオペレーターORとOLに働き、それぞれプロモーターPR、PLの働きを阻害する抑圧蛋白である。溶解素生成ファージゲノムはプロモーターPRMからcl遺伝子だけを発現する。このプロモーターからの転写は内因的な正の制御を受ける。そこではORに取り付いた制御因子がPRMに取り付いたRNAポリメラーゼを活性化する。
それぞれのオペレーターは制御因子が結合する3つの部位からなる。それぞれの部位は回文構造で、左右対称な二分割部位からなる。制御因子は二量体として機能する。それぞれの片割れの結合部位は制御因子モノマーが結合する。制御因子のN末端ドメインはDNAに結合するヘリックスーターン-ヘリックス構造を持つ。ヘリックス3は認識ヘリックスであり、オペレーターの塩基対と特定の結合することを担う。ヘリックス2はヘリックス3の位置を決めるのに関与する。これはまたRNAポリメラーゼがPRMに結合するのにも関与する。C末端ドメインは二量化に必要である。感染はNC両末端間の溝によって行われる。これはDNA結合部位が二量体の機能を持つことを防ぐ。よってDNAへの親和性を減らし、溶原性の維持をできなくする。抑圧因子−オペレーター間の結合は協同的である。つまり一つの二量体が最初の部位に結合したならば二番目の二量体は近接部位により結合しやすくなる。
ヘリックス-ターン-ヘリックス構造は他のDNA結合蛋白にも使われる。その一つにラムダCroがある。これは同じオペレーターに結合するが個々のオペレーター部位により親和性が違う。これはヘリックス3の配列による。Croはオペレーターに個々に非協同的に結合し、OR3を開始する。これは溶原サイクルと通じて進歩する必要がある。これはまずORに結合しPRMからの制御因子の合成を防ぐ。そして早い遺伝子の発現が続くのを防ぐ。OLに結合する際にも効果が見られる。
制御物質の合成の構築にはプロモーターPREの利用が必須である。これはcll遺伝子の産物により活性化される。clllの産物はcllの活性が落ちるのを防ぎ安定化する。cllとclllの発現がなくなると。Croは溶原を防ぐ働きをする。自分自身以外の転写すべてが抑えられると、制御因子は溶菌サイクルを防ぐ働きを持つ。この溶原と溶菌との選択は制御因子とCroのどちらが特定の感染のなかでオペレーターに対し優位性を持つかに左右される。感染細胞のCll蛋白の安定性は結果をもっとも左右する。