第五章 メッセンジャーRNA

DNAによってもたらされた遺伝情報は二段階を経て表現される。DNAからmRNAへの転写、mRNAから蛋白質への翻訳である。メッセンジャーRNAはDNAの一つの鎖から転写し、この(暗号でない)鎖と相補的であり、もう片方の(暗号の)鎖と同じである。mRNAのは入れ悦あ5'→3'のトリプレットコドンにより、蛋白質のアミノ酸配列に関係し、N末端からC末端に向かう。

暗号の意味を通訳する媒体はトランスファーRNAである。これは、密集したL字型の三次元構造を持つものである。tRNAの片方の端はコドンに相補的なアンチコドンを持っており、反対の端は目的のコドンに対応する具体的なアミノ酸に共有結合的に結合する。アミノ酸を運ぶtRNAをアミノアシルtRNAと呼ぶ。

リボソームは、アミノアシルtRNAがmRNAの対応するコドンに結合するような場を提供する。リボソームの小さいサブユニットはmRNAと結合している。大きいサブユニットは作りかけのポリペプチドを運ぶ。リボソームは5'域の開始部位から3'域の終着部位まで動く。そしてコドンに対応した適当なアミノアシルtRNAが、アミノ酸を下ろし、よって伸びつつあるポリペプチド鎖は一つのコドンが横切るたびに一つの残基分だけ伸びる。

翻訳の場は組織や組織体によって特定ではない。一つのところから来た一つのmRNAは他のところから来たリボソームやtRNAにより翻訳され得る。あるmRNAが翻訳される回数はリボソームとmRNAの開始部位との親和性や安定性に関係する。個々、もしくは集団ののmRNAの翻訳が特別に妨害される事がある。これは翻訳制御と呼ばれる。

典型的なmRNAは暗号領域に加え翻訳されない5'の頭と3'の尾を持っている。バクテリアのmRNAはたいてい多シストロン的であるが、その間には翻訳されない領域がある。それぞれのシストロンは特定な開始部位で始まり、特定の終結部位で終るような暗号領域で表現される。リボソームのサブユニットは開始部位で結合し、その暗号領域の終結部位で解離する。

成長しているE.coliバクテリアは二万以下のリボソームと二十万以下のtRNAを持っており、そのtRNAはほとんどがアミノアシルtRNAである。そして1500以下のmRNAがあり、それぞれ600の異なるメッセンジャーを持ち2,3の複製体を作っている。

多くのリボソームが一つのmRNAを同時に翻訳する、そこでポリリボソーム(ポリソームとも呼ばれる)を形成する。バクテリアのポリソームは大きく、大体何十ものリボソームが一つのmRNAに付いている。真核生物のポリソームは小さく、10以下のリボソームが付いている。それぞれのmRNAはある一つの暗号配列しか運ばない。

真核生物のmRNAは翻訳のため細胞質に運ばれる前に必ず核でプロセシングを受ける。メチル化されたキャップが5'末端に付けられる。これは元々の末端に5'−5'結合が加えられたヌクレオチドで、更に後でメチルグループが加えられる。ほとんどの真核生物のmRNAは200以下のポリA塩基配列が3'末端に転写の後に核内で加えられる。しかしポリA-mRNAはポリA+mRNAと同じ機構で翻訳及び解体される。真核生物のmRNAはリボヌクレオプロテイン分子の形で存在する。ある場合にはmRNPは転写されずにため込まれている。バクテリアのmRNAはとても半減期が短く、数分しかない。5'末端は下流域が転写されている途中で翻訳が開始されることがある。エンドヌクレアーゼが解離部位を切断するところから解離が始まる。その後リボソームが5'−3'方向に続き、その後エキソヌクレアーゼが切られた3'から5'に向けて解離する事により断片をヌクレオチドにする。バクテリアのmRNAでは個々の配列は解離を促進したり遅らせたりする。

酵母のmRNAはいくつもの方法で解離する。ポリA配列の解離は決まった一連の方法による。つまり、ポリA結合タンパクがなくなる事によりポリAが3'末端から外され、メチルキャップが5'末端から外され、そしてmRNAが5’末端から解離していく。

真核生物のmRNAはたいてい数時間安定している。これは解離開始の配列がたくさんある。その方法が調整されている例がいくつか知られている。

第六章 タンパク合成

リボソームはほとんどの質量をrRNAによっているリボヌクレオプロテイン分子である。どのリボソームも似た形をしているが、バクテリアの(70S)だけが細かい点で特徴がある。小さい(30S)サブユニットはかぼちゃ型をしており、三分の二の質量を持つ「本体」が「頭部」と裂け目により分かれている。大きい(50S)サブユニットはもっと丸く、はっきりした「足」が右にあり、「中央突起」がある。全ての蛋白質はほぼ小さいサブユニット内にある。

それぞれのサブユニットは単一の大きなrRNAを持ち、16Sと23Sは原核生物の、18Sと28Sは真核生物の細胞質にある。小さいrRNAも存在し、最も有名な5SrRNAは大きいサブユニットにある。大きいrRNAは多数の塩基対を持ち、ほとんどが短く、一本鎖の輪をもつ、完全に対を成していない二本鎖の幹がある。配列を比べ、生物の種類によりrRNAに保存されている二次構造を調べればrRNAの保存されている特徴を同定する事が出来る。16SrRNAは4つのはっきり分かれたドメインを持つ。3つの大きなドメインは小さいサブユニットに入っている。真核生物の18SrRNAはおまけのドメインである。30Sサブユニットの片方の端は多く、もしくは完全にrRNAからなる。

それぞれのサブユニットは活性部位を持ち、蛋白質が合成されている、リボソームの翻訳ドメインに集中している。蛋白質は出口ドメインを通ってリボソームから離れる。そこでメンブレンと結合する。このなかの重要な活性部位はPとAサイト群、Eサイト、EFTuとEF-G結合サイト、ペプチジルトランスフェラーゼ、mRNA結合サイトである。これらのサイトの機能のためのリボソーム蛋白質は同定されているが、三次元のリボソームの構造という観点からはまだこれらのサイトの場所は確定していない。リボソームの構造は蛋白合成の段階によって変わる。重要なrRNAの特定の場所の結合性の違いは見つかっている。

重要なrRNAはこれらのサイトに置かれている部位を含む。もっとも重要なのはmRNA結合サイトとPサイトで、30Sサブユニットに置かれている。rRNAの3'末端部位は特に重要らしい。リボソームサイトの中のrRNAの機能への関わりはmRNA結合サイトでもっともよく研究されている。16SrRNAの変異は初期反応に影響する。リボソームRNAはある抗生物質や蛋白合成を阻害するほかの物質のターゲットとなる。23SrRNAはペプチジルトランスフェラーゼの重要な触媒活性を持っていると考えられている。

mRNAのコドンはアミノアシルtRNAにより認識されるアミノアシルtRNAはコドンに相補的なアンチコドンを持っていて、コドンに対応するアミノ酸を運んでいる。特別な開始tRNA(原核生物ではfMet-tRNAf、真核生物ではMet-tRNAi)はAUGのコドンを認識する。AUGは全ての暗号配列を始めるのに使われる。原核生物では、GUGも使われる。UAA,UAG、UGAのコドンだけが終結(無意味な)コドンであり、アミノアシルtRNAによって認識されない。

リボソームは蛋白合成から解放され、大小のサブユニットへの解離平衡状態にある自由リボソーム溜めに行く。小さいサブユニットはmRNAに結合し、その後大きいサブユニットと会合し、完全なリボソームとして蛋白合成を受け持つ。原核生物の開始部位の認識はrRNAの3'末端配列が、mRNAのAUGかGUGコドンの上流にあるShine-Dalgarno配列に結合することから始まる。真核生物のmRNAの認識は5'キャップの結合から始まる。そして小さいサブユニットは開始部位に移りAUGコドンを探す。そして適当なAUGコドン(いつも最初に見付けたものとは限らない)を認識し、大きいサブユニットがそれに加わる。

リボソームは二つのアミノアシルtRNAを同時に持っている。PサイトはポリペプチジルtRNAで占められている。ポリペプチジルtRNAはこれまで合成されたポリペプチド鎖を持っている。一方A部位は、次に鎖に加えられるアミノ酸を運ぶアミノアシルtRNAが入る。P部位のポリペプチド鎖はA部位のアミノアシルtRNAに移され、そこでリボソームはmRNAに沿って一コドンだけずれる。リボソームの機能の内、このずれと他の段階はGTPの加水分解を必要とする。

蛋白合成は高価な過程である。ATPは様々な段階でエネルギーを供給する。tRNAがアミノ酸を付ける段階、mRNAの解離などである。バクテリアが早く育つ際には合成されたATP分子の内実に90%がアミノ酸から蛋白質を合成するのに消費されると見積もられている!

蛋白合成のそれぞれの段階にはおまけの機能が必要である。それらはリボソームとの周期的な結合と解離が特徴である。IF要素が原核生物の開始に関係している。IF3は30SがmRNAに結合するのに必要で、30Sを自由な形に維持する役割を持つ。IF2はfMet-tRNAfが30Sサブユニットに結合するのに必要で、他のアミノアシルtRNAが開始反応を起こすのを防ぐ役割を持つ。開始tRNAが開始コンプレックスを形成した後にGTPが加水分解される。開始要素は大きいサブユニットが開始コンプレックスに結合するために放出される。

原核生物のEF要素は伸長反応に関与している。EF-TuがアミノアシルtRNAを70Sリボソームに結合させる。EF-Tuが解離するときにGTPが加水分解される。そしてEF-Tuの活性体を再生産するためにEF-Tsが必要である。EF-Gは場所移動のために必要である。EF-TuとEF-G要素はどちらかだけがリボソームに結合する。そのためそれぞれの段階が終るまで次の段階が始まらない。RF要素は終結反応に必要である。真核生物の蛋白合成は大体原核生物の過程と似ている。しかしもっと複雑な付加要素が関係している。

第七章 遺伝暗号の使用

mRNAの暗号配列は遺伝子中の5'→3'方向にトリプレットで読まれるが、これは蛋白質中のN末端→C末端に対応する。64個のトリプレットの内、61個はアミノ酸に対応し、3個は終結シグナルとして使われる。類似コドンとは、たいていはコドンの三番目の塩基が変化するが、その変化が起きても同じアミノ酸に対応するコドンの事である。この三番目の塩基の変異に加え、似たコドンが似たアミノ酸を表すため、変異の影響が最小限に抑えられている。遺伝暗号は普遍的であり、進化のかなり初期に構築されたに違いない。ミトコンドリアの進化の過程で少し変化があった。核ゲノムでの変化はほとんどない。

多くのtRNAは特定のコドンに反応する。tRNAが様々なコドンにそれぞれのアミノ酸を対応させるのはそれぞれの生物で異なる。コドン-アンチコドンの認識はアンチコドンの一番目(コドンの三番目)にゆらぎが存在する。そのためtRNAの中には複数のコドンを認識するものがある。全てのtRNAは、その構造において目的塩基を認識する酵素により導入された修飾塩基を持っている。コドン-アンチコドンの結合はアンチコドン自身と隣接塩基の並び、特にアンチコドンの3'側の変化に影響される。コドン-アンチコドンのゆらぎにより、脊椎動物のミトコンドリアでは、普通31個のtRNAが最小のところ、22個のtRNAで全てのコドンを認識できるという利点がある。これはミトコンドリアの暗号の変化によりさらに利点が強まる。

それぞれのアミノ酸は特定のアミノアシルシンセターゼで認識される。これはアミノ酸をコードする全てのtRNAをも認識する。アミノアシルtRNAシンセターゼはアミノアシルtRNAの完成品を吟味し、間違って結合したアミノアシルtRNAを加水分解するために、読みを妨げる機能を有する。

アミノアシルtRNAシンセターゼは多様だが、触媒作用のドメインの構造により二つの大きなグループに分けられる。それぞれのグループのシンセターゼはtRNAと横から結合し、原則的にアクセプター幹とアンチコドンの幹のループと相互作用をする。この二つのタイプのシンセターゼはtRNAと逆側から結合する。アクセプター幹とアンチコドン部位にある、特定の認識を行うのに重要なものはtRNAによって異なる。

変異のためtRNAは異なるコドンを読む。この変異でもっとも良くあるのはアンチコドン自身の変異である。この特異性の変化はtRNAが蛋白質をコードしている遺伝子の中の変異を抑圧する効果を持つ。終結コドンを認識するtRNAは意味の無い抑制遺伝子を提供する。これはコドンに対応するアミノ酸を意味の無い抑制遺伝子に変える。UAGとUGAの抑制遺伝子はUAAのコドンよりも効率的である。なぜならUAAはもっとも普通の終結コドンであるからである。しかし全ての抑制遺伝子の効率は目的遺伝子個々の配列に依存する。

+1の読み枠ずれは4塩基の"コドン"を読む異常なtRNAによって引き起こされる。+1か−1の読み枠ずれは、mRNAの滑った配列によって引き起こされる。この滑った配列のためペプチジルtRNAは元々のコドンから滑り、もうひとつペアを作ることが出来るアンチコドン配列に重なる。この読み枠ずれはリボソームが遅れる事に起因するものもある。mRNA配列により規定される読み枠ずれは自然界の遺伝子の発現のため必要である。

第八章 蛋白質の局在性

蛋白合成は全て細胞質内で"自由な"リボソームの中で開始する。特定のシグナルが無ければ、蛋白質は合成が終った時に細胞質に放出される。翻訳後転移体によりミトコンドリアやクロロプラストに移送された蛋白質はその蛋白質をオルガネラの外膜に向けるために、N末端リーダー配列がある。そして蛋白質は二重の膜を通ってマトリックスに入る。転座にはATPと内膜を通るポテンシャルがいる。N末端リーダーはオルガネラの中でプロテアーゼにより裂け目ができる。両膜内や膜間に存在する蛋白質はシグナルを持っている。(これはリーダーの最初の部分が取り除かれるとN末端になる。)そしてそのシグナルはマトリックスの外に出され適当な場所に行くためのものか、転移体にとどまり全ての蛋白質がマトリックス内に入るのを待つためのものかである。ミトコンドリアマトリックス内のHsp70やHsp60による折り畳みの制御はこの過程における重要な特徴である。バクテリアから外に出されるために必要なものにも蛋白質の配座制御に強く依存している。

隠された蛋白のN末端領域は発生期の蛋白質とリボソームが小胞体の膜に取り付くためのシグナル配列を持っている。翻訳と同時の転移を引き起こす転移体により蛋白質は膜を通る間に転移を起こす。この過程は、シグナル配列がSRP(リボヌクレオ蛋白分子の一つ、翻訳を止める。)により認識されて始まる。SRPが小胞体の膜の受容体に結合し、シグナル配列を同じ膜内のSec61/TRAM受容体に移す。合成は再開され、蛋白質は膜内で、合成と同時に転位が起こる。しかしこの過程にはエネルギー上の関係を持たない。膜内でこのチャンネルは親水性の環境を与え、ほとんどはSec61からなる。

隠された蛋白質は膜を完全に通過し、小胞体の内腔に入る。タイプ1の完全な膜蛋白には、N末端シグナル配列は裂け目を生じ、その後アンカー配列により転移体が膜を通って止まる。この蛋白質はN末端を遠い側、C末端をサイトソル側に出して膜になじむ。タイプ2の蛋白は裂けられるN末端シグナルを持っていないが、代わりに結合したシグナルアンカー配列を持つ。これは、膜に入って詰め込まれ、結果C末端が遠い側に、N末端がサイトソルに残る。シグナルアンカーの方向付けは、より静電荷を持っているアンカーが細胞質に置かれる"正が中"ルールにより規定される。蛋白質は膜と結びつく領域をたくさんもっている。それらの間には膜のどちらかにはみ出すループがある。たくさんの断片を挿入する機構は分かっていない。

バクテリアは真核生物に似た膜転位の構造を持つ。しかし転位は翻訳後におこる事が多い。SecY/Eは転位酵素を与える、そしてSecAがこのチャンネルと会合し、基質蛋白の挿入と進行を引き起こす。SecBは蛋白をこのチャンネルに導く付き添いである。

核孔複合体は核膜に詰め込まれた重い構造であり、核に入る蛋白質、核から出るRNAの全ての輸送に関係する。核孔複合体は異質であろうと構築される。それぞれの核孔複合体は直径10nm以下チャンネルであるの中心孔を持つ。付加的なチャンネルは周辺を取り囲んでいる。この中心のチャンネルは20nmまで開き、より大きい物質を通す。そのうちいくつかは合わせるため配座の変化を受ける必要がある。

核に活動的に輸送された蛋白質は特定のNLS配列を必要とする。これは短いが、基本構造以外に共通の特徴を持たない。核への導入は2段階の過程がある。一つはATP依存の転位によるドッキングである。ドッキング反応は輸入複合体により引き起こされる。これは、基質蛋白に結合するサブユニットや核孔にある核孔蛋白に結合するサブユニットを個々に持つ。転位の方向はRanにより制御される。サイトソル中のRan-GDPは輸出複合体を不安定化する。核内のRan-GTPは輸入複合体を不安定化する。このため基質の排出が核外膜の正しい側に放出される。

核から出た蛋白質は特定のNES配列を持つ。これはロイシン残基のパターンを共通にもつ。これらは核孔蛋白に結合する。核孔蛋白にはRNAを核外に放出するのに必要なものもある。

蛋白のおおざっぱな分解、そしてある特定のプロセシングに重要なシステムはプロテアソームである。これはいくつかのプロテアーゼ活性部位を含む大きな複合体である。これはイソペプチド結合を会してユビキチンと共役している基質蛋白に作用し、ポリユビキチン鎖を形成する。