一章 遺伝子はDNAである

二つの権威ある実験によりDNAが遺伝情報だと言うことが証明された。肺炎双球菌のバクテリアの菌株から単離されたDNAは、その菌株の特徴を他の菌株に与えることが出来るそしてDNAは親ファージから子ファージに引き継がれる唯一の要素であるということである。さらに近年、DNAは真核細胞に新しい機能を感染により譲渡し続けてきたと言う事がわかった。

DNAは反平行の二つのらせんからなっており、そのらせんの中ではヌクレオチド単位が5'→3'リン酸ジエステル結合によって繋がっている。この骨格は以下の外観を与える。つまり、AとTが相補的に、GとCが相補的にペアを作り、その中でプリン塩基とピリミジン塩基が重なっているという構造である。この鎖は分かれて、相補的塩基対を利用して半保存的複製の下で娘鎖を組み立てる。相補的塩基対はDNA二重らせんの片方の鎖を表現するRNAを転写するのにも用いられる。

DNAの一区間は蛋白質をコードしている。遺伝子暗号はDNAの配列と蛋白質の配列の間の関係を表現している。DNAの二本鎖の内の一本だけが蛋白質をコードしている。DNAの暗号配列は一連のコドンをなしており、決まった出発点から読まれる。一つのコドンは三つのヌクレオチドからなり、一つのアミノ酸を意味している。

染色体はたくさんの遺伝子を含む、連続したDNAの二本鎖から成る。それぞれの遺伝子(もしくはシストロン)は一つのRNAに転写され、それが今度は、もし遺伝子が蛋白質をコードしているなら、ポリペプチドの列に翻訳される。一つのRNAや蛋白質が一つの遺伝子の産物である場合は分子間作用と言う。相補性の分析(?)によりDNAの一続きの単位を持って一つの遺伝子と定義する。DNAの一つの場所が隣接した遺伝子の機能を規定するばあいには分子内作用という。

一つの遺伝子は多くの対立遺伝子を持つ場合がある。劣勢遺伝子は機能の欠如に起因する。無駄な対立遺伝子は絶対的な機能の欠如を持つ。優性遺伝子は機能の発現に起因する。

DNAの中のAT、GCペア塩基対の並び方が変わることで変異が起こる。暗号配列の中のAが変わることで対応する蛋白質のアミノ酸の配列が変わる。読み枠の変異は、塩基の挿入もしくは脱離により、その先に続く読み枠が変わることである。変異の起こった場所が読まれると全く新しいアミノ配列が引き起こされる。点の変異は変異の起こったコドンを表現するアミノ酸だけに変化を起こす。点の変異はその変異の逆の変異により元に戻される。塩基対の挿入はその塩基対を除くことで元に戻されるが、塩基対の脱離は元に戻せない。違う遺伝子での変異が元々の欠損を補うことで、間接的に変化を打ち消すこともある。

変異の発現率は誘発要因により上昇する。変異はホットスポットに集中する。5−メチルシトシンという修飾塩基の脱アミノ化が点の変異を起こすことがあるタイプのホットスポットの原因である。

前進突然変異は一世代当り一遺伝子座あたり10の−6乗以下の確率で起こる。復帰突然変異はもっとまれである。全ての変異が表現型に影響を与えるわけではない。

細胞の中の全ての遺伝情報がDNAによってもたらされるが、ウィルスは二重もしくは一重のDNAもしくはRNA遺伝子を持つ。ウィロイドは小さい環状RNA分子だけからなる、ウィルスの一部からなる病原体であり、保護膜を持っていない。このRNAは蛋白質をコードしておらず、存続と病原性の機構は分かっていない。スクラピーはプロテイナーゼの感染体からなることが分かった。

二章 遺伝子からゲノムまで

遺伝子とゲノムは制限酵素による断片の重複する部分を使って地図を作ることが出来る。これは最終的には一連の列にまで広げられる。切断個所は遺伝マーカーとして使われる。多形性の存在(個体間の遺伝地図の差異)は遺伝子断片を使って遺伝地図を作るのに役立つ。

全ての真核生物の遺伝子には途切れた遺伝子が存在する。この途切れた遺伝子の率は酵母で低く、より下等な真核生物では増大する。高等真核生物ではほとんどの遺伝子が途切れている。

イントロンは全ての綱の真核生物の遺伝子にある。途切れた遺伝子の構造は全ての組織で等しく、エクソンはRNAの中とDNAの組織の中とでは同じ順序で一緒に存在し、イントロンはたいてい暗号機能を持たない。イントロンはスプライシングによりRNAから取り除かれる。複数のスプライシングのパターンの表現を持つ遺伝子もある。そこでは、ある配列は時としてイントロンとして除去し、別の時にはエクソンとして残される。

同じ組織に対する遺伝子を違う種の間で比べた場合、イントロンの場所は保存されている。イントロンの順序は様々であり、無秩序だとも言えるが、エクソンの順序は良く関係のあるまま残っている。異なる種の間の孤立して関係した遺伝子でもエクソンは保存されている。

遺伝子の大きさは主にイントロンの長さによって決まる。イントロンの大きさは真核生物では最初は高等になるほど大きくなり、よって遺伝子の大きさも劇的に大きくなる。哺乳類の遺伝子の大きさはほとんどが千〜百万塩基対の間である。しかしもっと大きい遺伝子もある。知られているなかで最も長い遺伝子はジストロフィンので二百万塩基対である。

他の遺伝子とエクソンを共用する遺伝子もある。それは、その蛋白質のある構成部分を表すエクソンを加えるために使われていると思われる。そのような構成単位はたくさんの種類の蛋白質に組み込まれる。遺伝子がエクソンの融合により集まるという考え方は、イントロンは原始的な組織の遺伝子だったということを示唆している。同一遺伝子間の関係の中には、違う家系では違うイントロンが無くなっているということから、原始の遺伝子からイントロンがなくなったという説明が出来るものもある。

三章 遺伝子はいくつあるか

真核生物のゲノムを構成する列は三つのグループに分けられる。非反復性の列は独特であり、半反復性の列には、関係はあるけれども全く同一と言うわけではないコピーが少数回繰り返されたり散財していたりする。高反復性の列では短い配列が一列に並んで繰り返されている。それぞれの列の割合はゲノムによって特徴があるが、大きいゲノムでは非反復性のDNAの割合は少ないことが多い。どのクラスにおいても、複雑であると言うことは、その中に独特の列があるということである。繰り返しの頻度はその列が何回繰り返されたかを示す(?)。C値パラドックスは真核生物での潜在的な暗号と、DNAの内容の間の矛盾を示す。

構造をなす遺伝子のほとんどは非反復性のDNAにある。非反復性DNAの複雑さはゲノム全体の複雑さよりも組織の複雑さに反映されている。非反復性のDNAは最大の複雑さで二十億塩基対に達する。

遺伝子の総数はマイコプラズマや細胞内寄生生物で千以下、バクテリアで二千〜四千、酵母で六千以上、昆虫で一万二千以上、哺乳類で十万以上となる。

遺伝子はとても多様なレベルで表現される。細胞に必須な蛋白質を作る豊富な遺伝子一つには十万のmRNAがあり、十以下の比較的豊富なメッセージには千のmRNAがあり、一万以上のほとんど表現されない遺伝子には10以下のmRNAがある。異なる表現型細胞の間のmRNA数の一致は大きい。優勢なmRNAはほとんどの細胞で存在する。

全ての遺伝子が重要というわけではないらしい(変異が起きたら致命的な効果を持つ遺伝子を重要な遺伝子と定義する)。重要でない遺伝子と重要な遺伝子の数は種によって異なる。酵母では60%の遺伝子が必須らしい。D.melanogaserでは必須遺伝子は5000以下である。どのようにして必須でない遺伝子が保存されているかは分からない。選択できる利点を持っていると考えられているが、証明されていない。

メンデル敵でない遺伝は細胞質のオルガネラのDNAにより説明される。ミトコンドリアとクロロプラストは共に膜に富んだシステムで、その中である蛋白質が合成され、他の蛋白質が取り入れられている。オルガネラのゲノムはほとんどが環状DNAで、全てがRNAに対する暗号を持ち、その内のいくつかは必要とする蛋白質に対応する。

ミトコンドリアのゲノムは哺乳類のゲノムの最小の一万六千塩基対から高等植物の五百七十万塩基対までと大きさはとても幅広い。大きいゲノムは機能が多いと思われる。クロロプラストのゲノムは十二万から二十万塩基対にわたる。これらの列を成したものは似たような組織と暗号機能を持っている。ミトコンドリアもクロロプラストも内部で作られたかサイトソルから取り入れたかしたサブユニットを持つ蛋白質を数多く持つ。

哺乳類のミトコンドリアDNAは主な暗号列から一本鎖の写しに転写され、個々の産物はRNAのプロセシングにより作られる。組み替えは酵母のミトコンドリアDNAではかなり頻繁に起こる。そして、ミトコンドリアDNA同士、もしくはクロロプラストゲノム同士の再結合も見られる。ミトコンドリアとクロロプラストのゲノムにははっきりした共通点がある。

第四章 クラスターと繰り返し

ほとんどの遺伝子は家族をなしている。ここでの家族とは、それぞれのエクソンに似た配列を持つことで定義される。家族は遺伝子が重複し、その後でコピー同士が分岐していく事で進化した。あるコピーは失活変異により機能を持たない偽遺伝子となる。偽遺伝子はmRNAとなるDNAのコピーとして作られる事もある。

進化した遺伝子のセットはクラスターとして残ったり、再構成された染色体のあたらしい場所へと分散したりする。クラスター組織は過去に起こった一連の事件を推論するために使われ得る事がある。これらの事件は機能よりも配列に働き、よって活性のある遺伝子と同様に偽遺伝子も含む。

変異は置換部位(アミノ配列に影響を与える部位)よりも沈黙部位において早く起こる。置換部位での不一致率は時計として利用できる、1%の差異は百万年に相当する。よってこの時計はグループの二つの構成要因間の分岐の時を計算するのに利用できる。

一列のクラスターは転写され得る配列とそうでないスペーサーからなる単位が多数繰り返されている。rRNA遺伝子クラスターは単一のrRNA前駆物質しかコードされていない。クラスター中の活性のある遺伝子の維持は、遺伝子逆転や非相同クロスオーバーがクラスター全域に変異を起こすというメカニズムによっている。そのため進化するような状態にさらされている。

サテライトDNAにはとても短い配列の繰り返しが数多く連続している。遠心分画よりこれが偏った塩基構成を持つ事が分かる。サテライトDNAは動原体の異質染色質の中に集中している、しかしその機能は(あったとしたら)解明されていない。節足動物ではこの繰り返し単位は全て同じであり、哺乳動物では似ているだけである。そしてサテライトの量や任意に選ばれた配列の違いから進化の階層を組み立てる事が出来る。

非相同クロスオーバーはサテライトDNA組織の主要な決定因子であるとされている。クロスオーバーが固定されると言う事はクラスター全域に広がった多様性の能力を説明する。ミニサテライトはサテライトに似た性質を持つがもっと小さい。これは人の遺伝地図作りに役立つ。