8月30日(水)三億円事件

「初恋」 中原みすず著

たまたま借りたホンにちょいとハマってしまいました。
「私は『府中三億円強奪事件』の実行犯だと思う。だと思う、というのは、私にもその意思があった
かどうか定かではないからだ」
という衝撃的なまえがきで始まります。
「三億円事件」!!あのモンタージュ写真は今でも目に焼きついています。
あの事件の犯人は18歳の女子高生だったのです。ホンに出てくるみすずちゃんが、当時東大生
だった岸くんから頼まれて実行した事件。
60年代の新宿のジャズ喫茶を舞台にしたこの話は、大学紛争、70年安保といったあたりの世代
が登場人物です。

※ネットで検索すると、実にいろいろなことがわかってきました。
 いろいろ調べたことを、自分のためにちょっと残しておきたくなり、日記に書き留めることにしました。
 ですので、みなさんも、ホンを読むか、もしくは映画を見てから、これからの内容をご覧になった方が
 より楽しめると思います。念のため。

実は今までにもこの三億円事件について扱った小説(書籍?)はいろいろ出ているのだそうですが
著者である中原みすずさん自身が、同じ内容について、城真琴というペンネームで「褐色のブルース」
というタイトルで過去にホンを出していることもわかりました。加筆・修正して「初恋」となったそうです。
さらに、その前に「真犯人」というタイトルで、別の人がこの三億円事件のことを告白するホンを書いて
います。真実を伝える書籍を2人が書いてるというのがどうも腑に落ちなかったのですが、そのあたり
のこともどうやら裏事情があることがわかりました。
ただしネット上のことですから、みすずさんご本人のコメントとして紹介されていても真偽のほどはわか
りません。でも私はご本人の可能性が高いと信じているので紹介します。

★書籍について
1999年初版 「真犯人」--「三億円事件」31年目の真実 風間薫著 出版社:徳間書店
      ・・・amazonでの検索結果
      ・・・あのモンタージュ写真が表紙になったホン。それなりに話題となりました。
        ただし、内容については叩かれていますなぁ。
        http://asteriskwars.jugem.jp/?eid=59
        

2000年初版 「褐色のブルース」 城真琴著 出版社:文園社
      ・・・amazonでの検索結果
      ・・・これが今回の「初恋」のベースになっているといわれています。
        なぜ「真犯人」の出た翌年、「褐色のブルース」を出したのか...
        このあたりのことは、以下のブログで紹介されている中原みすずさん本人からのメールで
        明らかになります。(5つ目のコメントに紹介されています)
        http://flatkotori.blog12.fc2.com/blog-entry-405.html
        みすずさんはその後お店をやっていたそうですが、彼女が書きためていたワープロを、
        たまたま店に泊まった客が読んでしまい、大手の出版社に売り込んで先に「真犯人」と
        いうホンを出してしまったのですね。
        そしてみすずさんはペンネーム城真琴で、仲間のためにも真実を書こうと「褐色のブル
        ース」を書いたようです。

2002年初版 「初恋」 中原みすず著 出版社:リトルモア
      ・・・amazonでの検索結果
      ・・・このホンを読んで宮崎あおいちゃんが、みすず役を切望し、映画化となったそうです。
        「私は『府中三億円強奪事件』の実行犯だと思う」という衝撃的なまえがきから始まる
        この小説(手記?)には、事件の詳細だけでなく、誰もが経験するであろう青春時代の
        甘く切ない想いや、あの時代の虚無感、孤独、夢、そして挫折など、若者たちの人生について
        のいろいろな思いがいっぱい詰まっています。
        「褐色のブルース」 の翌年、なぜ中原みすずの名で別の出版社から「初恋」を出したのか。
        そのあたりの事情は、上記で紹介したメールのほかにも、こんなコメントを見つけました。
        ブログではなく、5つ目のコメントに先の出版社(文園社)に電話した方のコメントがあります。
        http://blue1981.blog16.fc2.com/blog-entry-9.html

これから
      ・・・このホンを読んで、登場人物だちがその後、どうなったのか、気になることがいっぱいありました。
        ネット検索していたら、みすずさん本人と思しき人(ハンドル名:みすず)のコメントを見つけました。
        この「初恋」の登場人物たちについて、”「新宿アウトローOOO」みたいなタイトルで、別の角度から
        書いてみたいなあって思っています。”
        とあります。この書き込みがご本人ならば、是非とも書いていただきたい。
        http://chloebooks.jugem.jp/?eid=189


★登場人物&舞台
      東大生で、みすずに「三億円事件」を実行させた「岸」。
        ホンに書かれている事件の事前準備の様子などから、実に頭のいい青年だったことが伺えます。
        彼は大物政治家の息子。でもお妾さんの子だったと書かれています。
        他の登場人物は、みな下の名前なのに、彼だけが名字で書かれていることから、当時の政治家
        岸氏との関係は?
        と勘ぐりたくなりますが、真相は闇です。
        しかし、「三億円事件」の真相は、お金が目的ではなかったんだね。
        権力への挑戦だったのか...父親あてにお金を戻したのにモミ消されてしまったんだねぇ。
        う〜ん、やはり謎が多い事件であることに変わりはないか。
        インドで行方不明となっていますが、どこかで生きてくれていればいいなぁ。
        みすずさんと再会できたらいいのにね。

      独特の雰囲気を持っていたと紹介されている「亮」。
        彼は映画監督を目指すも体を壊し、母親の実家に引っ込み、地元で若者たちのための
        ライブハウスを作り、若者たちを応援していたと紹介されています。
        この「亮」は、「一力干城」(いちりき たてき)氏がモデルだそうです。
        一力氏のことを紹介している記事を見つけました。彼の写真も出ていますが、雰囲気があって
        魅力的な人だったんだなぁ。
        http://www.yoyokaku.com/riki.htm
        この記事にあるように、一力氏は1990年46歳で亡くなってしまいます。
        「初恋」でも、主人公みすずは、飛行機に乗って「亮」のお葬式へ行ったと書かれています。
        「みすず」と「亮」の関係は....内緒。ホンを読んでくださいね。

タケシ    当時、ジャズ喫茶「B」に出入りしていた仲間に小説家志望の「タケシ」が登場します。
        ホンでは、後にタケシは、芥川賞作家となったと書かれています。
        このタケシは、作家「中上健次」だそうです。「初恋」の帯に、中上氏の長女で、作家の中上紀
        がコメントを寄せています。
        ・・・中上健次の検索結果
        上記の「亮」こと、一力干城氏が亡くなったときに中上氏が彼に贈った詩が残されています。
        http://www.yoyokaku.com/riki-byoubu.htm
        「初恋」の中でも、「タケシ」が「亮」に贈った詩として紹介されています。
        しかし、中上氏自身も、一力氏の亡くなった2年後の1992年に46歳の若さで亡くなっています。
        まるで後を追うようだね。

ジャズ喫茶「B」、「風月堂」
        この「初恋」の舞台となるのが、ジャズ喫茶「B」と「風月堂」。
        当時、新宿にはジャズ喫茶がたくさんあったそうです。
        ジャズ喫茶「B」は、ジャズ・ビレッジというお店だったようです。
        ホンで、みすずと岸が合う「風月堂」という喫茶店も実在のお店だったそうです。
        現在では両方ともなくなっているそうですが、このあたりのことについては、以下のサイトで
        紹介されています。
        http://www.tokyo-kurenaidan.com/nakagami-shinjyuku.htm
        別の「ジャズバンガード」というジャズ喫茶では、当時、北野武や永山則夫がバイトをしていた
        そうです。

★青春の思い
        「初恋」には、ところどころに短歌が記されています。
        のどぼとけ 切って恋の血 見せようか ひとりがっての 君の背中に
        主人公みすずの「岸」への恋心。この歌を読んでドキっとしました。胸がキュンとなる。
        切なくって涙が出てきます。
        そうだよね。誰にでもある、こうした青春時代の思い。世間をあんなに騒がせた「三億円事件」
        の背景に、こんな思いがあったなんて....
        そしてインドからのハガキを最後に行方のわからない「岸」を待ち続けるみすず。胸が痛い。

        映画のパンフレットに高山文彦氏がこんなことを書いています。
        若い時期、人はみな不良であってほしいと映画を観ながら思った。
        (中略)
        みすずは「不良とは優しさのことではないかしら」と太宰治の一節を思い浮かべ、涙をこぼす。
        傷口から流れ出る鮮血を見るようだ。血はあたたかい。

        60年代。その頃の新宿。高度成長期を迎える混沌とした時代だったのだろうか。
        ジャズ喫茶に入り浸り、カツアゲしたり、学生運動したり...「初恋」に登場する人物は、当時
        いわゆる「不良」と呼ばれるグループであったのだろうけれど、なんとも心惹かれる時代であり、
        魅力的な人たちだ。

★映画
        映画「初恋」のオフィシャルサイトです。
        映画としてのデキには賛否両論あるようですが、みすず役の「宮崎あおい」ちゃんは絶賛され
        いますね。見に行かなくちゃと思ったら、東京地区の公開は既に終わってしまってるみたい。
        DVDはレンタルされているようなので、TUTAYAかな。
       
調べてわかったことを長々、書きました。
まあ、これだけコーフンしたってことだわね。
映画を見て、「真犯人」も読もうと思っている私です。