Nostromo
「ジェーン・オースティンの次はジョゼフ・コンラッドの年に!」と息巻いたBBCが
テレビシリーズとしては破格の製作費を投じ、各国からオールスターキャストを結集
して作った壮大なドラマ。出演者の数といい、港まで造った本格的なセットといい、
確かにお金をかけたのはよーく分かる。でも、ラテン系俳優に疎い人には「各国から
結集したオールスターキャスト」の有り難みが今一つピンとこないかもしれない。
イタリア・スペイン・フランス・南米のキャストが英語のセリフに四苦八苦している
一方で、演技に専念できた英米の俳優は得をしている。
6時間に及ぶストーリーは長く、重く、暑苦しい。なんてったってコンラッドだもの。
「地獄の黙示録」の原作「ハート・オブ・ダークネス」の著者といったらお分かりか。
複雑な政治的背景に加え、いくつかのサブプロットを織り交ぜながら展開していく話に
ついていくのは結構しんどい。しかも、ラテン系キャストがそろいもそろってよく似た
悪党ヅラをしていて、話が進むにつれてあっちこっちで敵味方が変わるもんだから、
一回見ただけでは「???」の状態で終わってしまう。スペイン語やイタリア語が
頻繁に入ってくるのも辛い。で、6時間のストーリーをもう一回最初から見直すことに
なり、見る方としても相当のスタミナを要求される。でも、決して退屈な物語ではなく、
見応えは十分。特に、コリンファンにとっては、彼の「かっこいいけどヤな男」ぶりは必見!
コリンが演じるのは、イギリス人実業家チャールズ・グールド。南米の(架空の)国
コスタグアナで銀山を所有していた父は十年前、外国人排斥政策のもとに惨殺されて
いた。チャールズはその父が遺した銀山を再開すべく、妻エミリア(クリスティン・
スコット=トーマスの妹、セレナ。お姉さんに劣らず美人で上手い)と共に
コスタグアナに戻ってくる。当時の圧政者は去り、今は穏健派リビエラ大統領のもと
比較的平穏を保っているものの、まだまだ政情不安定なコスタグアナ。誰もが、銀に
よって繁栄と平和がもたらされると大いなる期待を寄せていた。チャールズも同様の
理想を持ってはいるものの、彼にとって銀とは、少年の頃から宗教すらも超える運命
のようなもの。命を懸けてでも銀山を成功させてみせると並々ならぬ執念を燃やす
チャールズに、エミリアは不安を覚える。案の定、チャールズの銀山は、多くの人間の
欲望を喚起し、平和どころかかつてのような内乱を引き起こす。なんとしても銀を守り
たい一心で奔走するチャールズ。必要とあれば賄賂を奮発し、ヨーロッパから最新式
ライフルを取り寄せて国民軍を組織、さらに盗賊まで手なずけてついに敵を撃退。
「銀を守るために」銀山があるスラコ一帯を独立共和国として宣言する。
というのがメインプロット。しかし、チャールズは主人公ではなくて、主役はイタリア人
クラウディオ・アメンドーラ演じるノストロウモ(本名はジャン・バチスタ)。
「ノストロウモ」とは「みんなの男」という意味のあだ名で、腕っぷしが強く
誰からも頼りにされる水夫頭の彼は、人からの頼まれ事はどんなことでもイヤといえない。
「さすがはノストロウモ」という言葉と葉巻一本で満足する、カッコつけたがりの
ノストロウモ。その彼でさえも、銀のために運命を狂わされ、意外な最期を遂げる
ことになる。
コリンは主役ではないけれど堂々とした存在感で貫禄勝ち、といってしまうのはファンの
ひいき目か。でも、最初は妻を愛し使命感に燃える男が、銀に執着するあまりに家庭を
顧みず、市民に平気で銃を向ける冷徹非情な政治家・実業家に変貌していくさまを、
抑制がきいた、かつ説得力のある演技力で見せるのはさすが。コリンは、チャールズが
人間性を喪失していく過程を「無表情」で見せることを心がけたそうだけど、決して
一面的な搾取の象徴にならず、悲しい過去に支えられた執念に生きる男を奥行きのある人物に
仕上げ、役者コリンの力量を見せつける。ルックスは、ダークなダーシーのイメージを
払拭したナチュラルな薄栗毛系で、「アナカン」のジャドが大人になっていたらこうなって
いたのではと思わせるような凛々しさ。汗をかいたお顔にお髭が暑苦しそうだけど、意外に
似合っているのが(アンチ髭派の私には)不思議。脚の長さを再認識できるライディング
パンツ&ロングブーツで街中を闊歩する姿もGood x 2。この作品、南米コロンビアで5ヶ月間
ものロケを敢行したそうだけど、長期ロケを嫌がるコリンがこの仕事を引き受けたのは、
「エンニオ・モリコーネ(「アンタッチャブル」「ニュー・シネマ・パラダイス」の作曲者)
の曲*をバックに、銃を携え埃にまみれて南米の街中を馬で走るファース版クリント・
イーストウッド!」という俳優としての夢の一つを実現できるチャンスだったからだそうな。
ほほう、意外にミーハー&単純。とすると、「バットマン」のオファーが来たら結構喜んで
引き受けちゃうかも。とにかく、マカロニウエスタンとはちょっと違うけど、荒廃した街を
さまよう馬上のコリンは確かにめちゃめちゃかっこいい!! 性格的にはヤな男になっていくのと
反比例するようにかっこよくなっていくから困ったもんだ、本当に。ついでに、崇拝する
アルバート・フィニーとの共演というのも、コリンにとっては魅力だったにちがいない。
(*モリコーネ作曲・指揮による「Nostromo」サウンドトラックは日本の大型CD店で
手に入ります。)
撮影が始まったのは「高慢と偏見」の放映前ながら、すでに英国ではスターとして
の地位を約束されていたコリン。その証として、現場ではアシスタントがついた!
高温多湿のコロンビアで、コリンが脱水症状にならないように水を補給するのが
主な仕事だったらしいけど、いいなあ、四六時中コリンのそばにいられるなんて。
コリン様、高温多湿の日本で撮影をすることがあったら、パーソナル・アシスタント
には是非私をご用命下さいませ。日本中どこへでも、冷蔵庫しょってお供いたしますぞ。
ちなみに、現在のファース夫人リヴィアは、プロデューサーのパーソナルアシスタント
としてロケに参加。ちゃんと、エンドクレジットに名前が出ています。
自分のアシスタントではなく、プロデューサーのアシスタントに手を出すところが
神経太いというか何というか、コリン・ファース隅に置きがたし。
もう一つ、コリンのインタビューからおもしろコメントを。「銀山の坑内でエミリ
アとのラブシーンがあるんだけど、モリコーネがこれに愛のテーマを作ったんだ。
それ以来、シルバーは僕にとって愛のテーマになった。」
リヴィアへの最初の贈り物はシルバーだったに違いない、とにらんでます、私。
お髭のコリンはこちらでとくとご鑑賞を
Role Projectも見てね
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