Tumbledown(1987年 BBC)

以前にインタビューで「一番誇りに思う作品は」と聞かれて、コリンが挙げた2つの
作品の一つがこれ。(もう一つは、あの名作「ひと月の夏A Month in the
Country」。)どちらかというと優しく繊細なキャラクターを抑えた演技で見せる印
象が強いコリンが、珍しくマスキュリンな面を前面に押し出したパワフルな演技を見
せています。英国アカデミー賞(BAFTA)の最優秀TV男優賞に初めてノミネートされ
たのもこの作品で、間違いなくコリンの代表作。日本ではテレビ未公開で、ビデオも
ないのが誠に残念。

コリンが演じるのは、実在の退役軍人ロバート・ローレンス中尉。父も兄も軍人とい
うエリート家庭に育ち、82年にフォークランド紛争に従軍。最も熾烈な戦闘が繰り広
げられたタンブルダウンで脳の40%を吹き飛ばされるという重傷を負い、その後、再
起不能といわれながら、その強靭な精神力で奇跡の回復を遂げたロバート。しかし、
障害を負ったロバートに、軍の対応は冷たかった...

ショッキングな内容から放送当初大変な論議を呼んだそうで、BBCもあまり再放送し
たがらないという曰くつきの作品。ロバートは、命乞いをする敵兵をアドレナリンが
こみ上げるままに無残に殺傷したことに対しても後悔ないと言いきるような、根っか
らの軍人気質。傲慢不敵でプライドが高く、決して好感の持てるタイプではないのだ
けど、軍人としては非常に勇敢で優秀だったらしい。そんなロバートの人となりを綿
密にリサーチして巧みに表現したコリン。左半身不随となり、顔がゆがんで言葉もう
まくしゃべれない「障害者演技」もさすがです。でも、最もコリンらしさが光るのは
ラストシーン。軍服ではなく私服で、帰還兵の行進をひとり離れたところから見つめ
るロバートの心情を、表情一つ変えず眼だけで表現するところは演技派コリンの面目
躍如といったところ。出陣前のシーンでは、有名な赤いチューニックと黒いフカフカ
背高帽子の「オモチャの兵隊さん」(バッキンガム宮殿にいる衛兵さんですね)スタ
イルが見られます。また戦闘シーンでは、別人のようにこわい顔になることも判明
(額が立派で眉毛のないコリンが睨むと本当に怖い顔なんです)。

当初ロバートを演じることになっていたのは、「ひと月の夏」で共演したケネス・ブ
ラナ。でも、「もっと上流階級の雰囲気も持っていて、見栄えのいい役者を」という
ロバートの要望で降ろされてしまい、代わりに演じることになったのがコリンなんだ
そうな。ケンのファンの皆様、怒らないでね。これはロバートの好みなんですから。
「実際には僕は普通のグラマースクール出身で、ケンはケンブリッジを出たエリート
なのにね」と、コリン自身が苦笑するようなおもしろいエピソードです。考えてみる
と、コリンの代表作の影に日向にケンあり。今は1歩も2歩もケンにリードを許してし
まっている感があるけど、いつかまた同じ土俵でバチバチ火花を散らしあって欲しい
ものです。

監督は俊英Richard Eyre氏。この御仁、実はあの「ときめきアムステルダム」と「高
慢と偏見」をプロデュースしたSue Birtwistleのだんな様です。この夫婦は、コリン
の才能を引き出すのが本当にうまい! コリンはお二人に足を向けて寝られないで
しょうね?

最後にもう一つ。頭部の負傷のために右半分の毛を剃ってパンクなヘアスタイルにな
るシーンがあるのだけど、なぜかコリンがすると大人になったキューピーみたい。撮
影当時の雑誌の記事ではツルッパゲにしていて、これが意外にとっても似合ってまし
た。最近著しくなった頭髪の減少傾向にやきもきしている向きも多いかと思います
が、大丈夫です。きっと、エド・ハリス系のセクシー・ハゲになってくれますよ。

パナマ帽の下に悲しい瞳の光るラストシーンのコリンはこちらで拝めます:

http://members.aol.com/SHABROW/tumb.html

http://www.geocities.com/Hollywood/Cinema/1280/tumbledown.html   


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