Lost
Empires (1985年 英グラナダTV 7回シリーズ)
新進演技派として注目を浴び始めたコリンが、初めて挑戦した長編ドラマ。
日本の某写真集では「失われた帝国」という邦題になっており(日本では未公開で
す、念のため)、古代の帝国を舞台にした冒険活劇かと思いきや、さにあらず。
“Empires”とは、イギリスの各地にある(あった)大型ミュージック・ホールのこ
と。第一次世界大戦終結まで庶民に愛されながら、テレビの普及とともに廃れていっ
た娯楽の殿堂ミュージック・ホールへのオマージュを込めたノスタルジックなドラマ
です。
コリンが扮するのは、母親の死をきっかけに人気マジシャンである叔父ニックの一座
に加わり、個性的な芸人らとともに各地を巡業する羽目になる青年リチャード・ハー
ンキャッスル。本来画家志望のリチャードは、そのハンサム振りと純情素朴な性格か
らアクの強い芸人集団の中でオアシス的な存在となり、特に女性からモテモテ! 当
の本人は若手歌手のナンシーに一目ぼれなんだけど、でもこの初恋がなかなかうまく
いかない。そうこうしているうちに、アル中の年上美人女優ジュリーにしっかり食わ
れてロスト・バージン。心はナンシー一筋なのに、身体はジュリーの退廃的な魅力に
はまっちゃう。こらこら。でも、初めてジュリーと結ばれた時に、自信なげに「良
かった?」と聞く表情がとっても初々しくて鼻血モノです。ジュリーの相方の嫉妬に
よって二人の関係が悲しい結末を迎えた後もいろいろな女性が絡んできて、兵隊に志
願するまでの1年間にリチャードは大人に成長していく、というのが主軸のストー
リー。
見所はなんといっても初々しいコリン! 私が見た作品の中では最も若く見え、ツ
イードのジャケットにハンチング帽を被り、剥きたてゆで卵のようにつるンとした顔
のコリンはどう見てもせいぜい10代後半。「ときめきアムステルダム」のニールに近
い、まさに”adorable”という言葉がぴったりの可愛さ! ナンシーでさえ、「ハッ
ピーな子供みたいな顔だから」と思わずキスしてしまうのも納得。ウブでまじめな田
舎青年というキャラは、当時のコリンが(本人の好みにかかわらず)得意としていた
ものですね。
また、叔父の助手としてマジックにも挑戦するところもなかなかオイシイ。インド風
のオリエンタルな衣装に派手なメイクで、自転車に乗ったまま舞台から消えるという
マジックが十八番で、つるンとした顔に厚化粧がよく似合って、まるで宝塚の男役の
ような妖艶さ。もしこの頃にドラッグ・クイーンの役をやっていたら、さぞやきれい
だったでしょうな。
また、初代ダーシーを演じた名優、故ローレンス・オリビエとの共演も見所の
一つ。オリビエの役柄は、落ち目の老コメディアン、ハリー・バラッド。幼稚園児の
スモッグみたいな衣装を身につけ、受けないネタを連発しては観客からブーイング。
絶望感から最後に自殺してしまうコメディアンを哀愁たっぷりに演じたオリビエは、
その後まもなく本当に芸能界から引退したとか。ベテラン芸人として、新人リチャー
ドに「この世界には狂った輩が多いから気をつけろよ」と諭す場面は、まるで初代
ダーシーから3代目ダーシーへのバトンタッチを見ているようです。
ミュージック・ホールや当時の世相を鮮やかに再現したこの作品は、実際に各地を
「巡業」しながら撮影に1年間もかけたとか。個性派・ベテランぞろいの共演者を率
いての長期の撮影は、若手コリンにとって「まるで終身刑に服しているような」よう
な辛い日々だったそうな。大作をきらう傾向はこの経験から来ているのかしら。
残念ながらビデオは未発売ですが、J.B. Priestleyの原作*を忠実に映像化したもの なので、興味がある方は是非ご一読を。コリンのつるつるフェイスはこちら: http://www.grin.net/~meluchie/lost_empires01.html http://colinfirthrolespage.tripod.com/lostempires.html
*Lost Empires 著者J.B. Priestley、 発行Mandarin、 ISBN 0-7493-1393-5
* UMEさん、ご指摘ありがとうございます。とても参考になりましたし、助かりました。 これからも何卒宜しくお願いいたします。 (by iruiru )
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