「アーもう!ヤメヤメ!」
カラカラと乾いた音を立てて、盤上を駒が転がる。
もう何度目かのそれを呆れ顔で見つつ、散かった盤上の戦歴を几帳面に並べ直す。
「・・・言うことがあるだろう?」
険呑な視線で見られれば言うしかなくて。
「ハイハイ、負けました〜負けですよ。降参ですぅ。完敗!」
不貞腐れて横を向く。
誘われた象棋を断らなかったのは、単に閑だったからだけれど。
負け続けのこの状態が面白い筈はない。
(キッチリ憶えてるのもイヤミだよね〜・・・。)
崩したはずの盤上の戦況は、すっかり元通りになっている。
「お前の手は、相手を嵌めようとしているのがみえみえなんだ。」
徐に検討を始めたその人に、視線だけ戻す。

その声を聞いて落ち着かなくなる。
その顔を見て苛々する。
凹ましてやりたくなる。

「被将死」
「え?」
掠めるように口付ければ、やわらかな花弁のかおりが香る。
身を離せば、呆気にとられた顔に出会えて。
直に眉間に皺が寄って、堅い柘製の駒を顔面に食らったけれど、滅多にない満足感を得てしまったので。
(今日はこのくらいで勘弁してやるか。)
と、子供じみた独占欲を心の隅に追いやった。




アトガキ。みたいなの。

時代考証まるで無視。滅。
実際には七宝星に方々にこんなのんびりした時間なんかなかったでしょうなぁ。
まぁ‥‥たまにはさ‥‥幸せなカンジのふたりもいいじゃぁん‥‥。

※象棋(チャンチー)。
中国の将棋。「被将死」は王手の意。


象棋

2003.05.05
モドル