フランスの国籍法と移民法の再改正の動き 2
E. 移民法案
1. 入国
ビザ
- 発給や拒否について理由は不要(現行法のまま)。但し、フランス人の配偶者・21歳未満の子・直系の扶養家族、家族呼び寄せの対象者、労働許可証取得者・学術関係者などへの発給拒否には理由が必要。
(下院で可決。学術関係者については、11月20日の下院法制委員会により追加。)
宿泊先証明書
- 制度を廃止、宿泊先確認書に代える。
(下院で賛成86票、反対35票で可決。ビザ取得のための宿泊先証明書制度は1982年に政令により創設。ドゥブレ法は、地元市長の権限を拡大するとともに、対象の外国人の出国報告を宿泊先のフランス人に対して義務づけようとしたが、インテリを中心とした世論の猛反対に遭ったため、より公正な判断の期待される知事に権限を移し、外国人本人が出国時に証明書を返還する規定に代えた。ヴェイユ報告は、出国管理を廃止することと市長へ権限を戻すことを提言、8月21日の閣僚会議では反対されたが代替案もなく、内相あずかりとなった。当初は内務省は維持を、雇用・連帯省(ドロール前EC委員長の娘のオーブリー氏が大臣)は廃止を主張していたが、それが前者は「コントロールに役立たない手続き」の廃止、後者はビザ審査の厳格化へのおそれから維持に、主張を転じた。内務省の第一案は全面廃止して単なる宿泊先確認書に代えるというもので、ヴェイユ報告を踏襲した第二案も準備した。第二案では、発行が拒絶された場合または30日以内に回答のない場合は、申請者は知事の判断を仰ぐことができると規定していた。9月3日の閣僚会議で首相が制度維持(内務省の第二案)を決定、但し内相に修正案提出の余地を残した。11月18日の社会党下院議員集会、次いで11月20日の下院法制委員会で廃止を決議。)
2. 滞在
学術関係者向けの一時的滞在許可証
- 有効期間は1年間。
(下院で可決。配偶者の滞在につき、内務省は「実際の共同生活」を条件とすることを求めたが却下された。野党の反対により配偶者の滞在許可証は下院で採択されず。)
芸術・文化関係者向けの一時的滞在許可証
- 有効期間は1年間。契約の存在が条件。
(下院で可決。共産党議員による修正案。)
外国年金受給者向けの一時的滞在許可証
- 有効期間は10年間。就労権はなし。健康保険の利用は「重大な疾患」に限定。
(下院で可決。)
EU・EEE加盟国民向け滞在許可証
- 有効期間は10年間、最初の更新時に恒久的滞在許可証に切り替え。
(下院で可決。下院法制委員会による修正。下院で可決。)
家族向け一時的滞在許可証
- 有効期間は1年間。0歳未満で入国した子供、15年を超える長期居住者、フランス人の配偶者、フランス国籍をもつ子の親が対象。就労権はあるが毎年更新が必要。フランス人の配偶者に対する1年間の待機期間を廃止、但し、合法的な滞在が現行法通り条件とされる。
(下院で可決。欧州人権協定に則った新たな居住資格を設けて一部の不法滞在者を合法化するための措置。なお、ヴェイユ報告では配偶者の待機期間を2年に延長することを提言していた。)
重病人向けの一時的滞在許可証
家族呼び寄せ
- 呼び寄せ対象者の収入と住居の確保という基本条件は現行法通り維持。但し、従来は収入が法定最低賃金を下回る場合は拒絶、上回る場合は考慮としていたのを、上回る場合は許可、下回る場合は考慮と原則を変更。また住居の条件から「フランス人並」という表現を削除、申請時ではなく家族の到着時に確保すればよいとした。待機期間は2年間から1年間に短縮。不法な呼び寄せによる滞在許可証の取消規定は削除。呼び寄せは1回限りというパスクァ法の規定は維持。離婚に際して裁判所の許可を得て引きとった子も、元の配偶者が同意すれば呼び寄せ可能とする。呼び寄せ対象者は3年間の合法的な滞在により長期滞在許可証を自動的に取得。
(下院で可決。ヴェイユ報告は条件緩和を提言、8月21日の閣僚会議で未決、内相あずかりとなっていた。長期滞在許可証の自動取得については、11月18日の社会党下院議員集会、次いで11月20日の下院法制委員会により追加。待機期間の短縮は下院法制委員会により追加。)
長期滞在許可証への切替条件
- 治安上の問題がないことが条件。
(雇用・連帯大臣は緩和を求めたが、首相は内相に賛成。)
- 「合法的な入国」を条件から削除。但し、一時的滞在許可証の取得には必要。
(下院で可決。パスクァ法によって合法的な入国と滞在が条件とされていた。)
- 必要な居住年数15年から10年に短縮。
(下院で可決。)
- フランス人の配偶者には2年間の待機期間。
救済機関
- ドゥブレ法によって廃止された救済委員会の復活。但し答申は行政機関を拘束しない。構成員には、行政裁判官と司法裁判官のみならず、大学教授と家族手当支給機関代表が加えられる。
(下院で可決。パスクァ法によって諮問委員会に格下げされ、ドゥブレ法によって廃止された救済委員会を復活させることを、シュラメク総理府局長ととオーブリー雇用・連帯大臣が9月3日の閣僚会議で提案したが、救済を云々する前に手続きそのものの改善をというシュヴェーヌマン内相の反対で却下された。11月18日の社会党下院議員集会、次いで11月20日の下院法制委員会で復活を決議。)
3. 政治亡命者の受け入れ拡大
- 政府による迫害を受けている者というジュネーヴ協定に規定される亡命者の他に、a) 憲法前文で規定する「自由のために迫害された亡命者」および b) 「生命の危険」か 「非人間的・屈辱的な扱い」のおそれのある者という2つの分類を新設。前者は外務省、後者は内務省が取り扱う。就労権はあるが毎年更新が必要。
(下院で可決。シェンゲンおよびダブリン両協定を受けたパスクァ法の、協定国を経由してきた者の亡命申請を却下できるという規定は変わらず。ヴェイユ報告では、亡命の権利は憲法(1946年憲法前文)上の権利とうたい、コンセイユ・デタの判例によって否認されていた、政府以外から迫害された者の亡命につき、内相の裁量権を提言。ジュネーヴ協定だけでは、反政府過激派には亡命が認められるのに、過激派のテロにさらされる一般市民には亡命が認められない、などの矛盾が背景。主導権について内務省と外務省が対立、外務省は同省下の「難民・無国籍者保護局」が亡命申請を一括して受理することを主張していた。)
4. 不法入国・滞在者の取締り
強制送還に先立つ行政勾留
- 現行の10日間を12日間に延長。最初の48時間(現行24時間)については知事の決定、次の5日間(現行6日間)については裁判所の許可、最後の5日間(現行3日間)については、身元確認のできるパスポートをもたず執行妨害を行う外国人について緊急を要する場合にのみ、裁判所の許可にもとづいて勾留。また、ドゥブレ法で導入された、裁判所の保釈決定に対する検察の異議申立権を削除。当事者による異議申立の期間を1日間から2日間に延長。
(下院で可決。ヴェイユ報告では15日間への延長を提言、8月21日の閣僚会議で異論が残っていた。首相の懸念は憲法院判断が必要となること。パスクァ法による7日間から10日間への延長につき、当初の法案が憲法院により例外的な場合を除いては個人の自由を侵害するものと判断されたため、政府は延長期間について件の例外を条件とした修正法案を国会に通した。なお、原案の14日間への延長でも欧州諸国の中では最短。ドイツは6ヵ月、イギリスやスウェーデンやオランダは無期限。結局、最終法案では、コンセイユ・デタの勧告を受けて12日間とした。11月18日の社会党下院議員集会、次いで11月20日の下院法制委員会で勾留者の人権に配慮した措置を加えることを決議。)
犯罪者への入国禁止措置
- 外国人犯罪者に対し、刑罰に加え、(合法的滞在者でも)入国禁止にし得るというパスクァ法の二重罰規定を維持、但し、犯罪の重大性を鑑みた「特段の理由」という現行規定に加え、当事者の家族の状況を考慮することも裁判所には求められる。
(下院で可決。パスクァ法による知事の権限は廃止、裁判所のみの権限とする。)
犯罪者の隔離措置
- 司法拘禁
(ヴェイユ報告が提言した、禁錮1年以上の犯罪を犯した不法滞在者を、出所後も他の不法滞在者とは別の収容センターに1ヵ月にわたり司法拘禁するという措置について、8月21日の閣僚会議では却下されたが、内相は「代替案を見つけるまでの経過措置」として原案に盛りこんだ。法務省は「三重罰」となることに反対を唱えていた。9月3日の閣僚会議では、司法拘禁は行わず、「重大な犯罪を犯した者」につき、当局が県庁に、国籍・収監地・刑の内容・出所日を連絡することを決定。11月20日の下院法制委員会で、司法拘禁条項の復活を決議。)
犯罪者の保釈
(ヴェイユ報告は、刑期の半分が過ぎる前に保釈して国外追放とすることも可能とするよう提言したが、法相は反対、首相も「国外追放は刑罰とはならない」と判断。)
幇助
- 不法入国・滞在の組織的な幇助は厳しく罰するが、家族レベル・市民団体の場合の罰は廃止。
(下院で可決。市民団体については下院法制委員会が罰則免除することを提案、内相は反対していた。)
5. その他
- 福祉の受益権の一部を合法滞在者に拡大。
(下院で可決。)
- (ヴェイユ報告は、不法就労の防止のための措置として、a) 外国人の就労には滞在許可証に加えてパスポートを必要とすること、b) 不法就労者の多い産業分野への合法的滞在者の就労を促進すること、を提言していたが、これらの措置が盛り込まれたのかは新聞報道からは不明。)
- (不法移民の帰国を促進とするための出身国への開発援助の改善を併せて検討。)