■生活デザイン研究所(建築・デザイン)

 デザインされた空間 (1) −雰囲気を意識してみる−

            
 
昨年の六月頃だと思うが「ルーブル美術館二〇〇年展」を見に、わざわざ横浜まで妻と連れだって出かけた。あいにくと雨模様で時々小雨が落ちてくる中を、桜木町駅より歩いていくことになる。駅から横浜ランドマークタワー迄は屋根付きのペデストリアンデッキがあるのだが、残念なことにこの日本一の高さを誇るタワーはまだ工事中で通り抜けが出来ずに一端歩道に降ろされてしまった。外から建物を見上げると上部の方は薄い雲のような、霧のようなもので霞んでおり、上層階が絞り込まれているので一層高さを感じる。
 歩道ではオープンを間近に控えて、外構工事の真っ最中であった。歩道の石張り工事を見て、妻が立ち止まり珍しげに、石職人がゴムの付いた木槌で叩いてレベルを取っているのをジット見ていた。この石工事というものは寸法が正確で、ほとんどと云って良いほど誤差がない。建物に石が使われると、それと関係してくる部分の全てに石工事と似た精度を要求されて、それぞれの工事の関係者が神経を使っただけ、建物全体に締まりが出てくる感じがする。たとえ建物のほんのわずかの部分であっても、石工事の持つ意味は大きいと私は考えている。
 近ごろ使われている石の多くはコストの関係で、強度ぎりぎりまで薄くなり厚みを失ったぶんだけ、石の持つ質量感が伝わってこないような気がしている。これは石だけに限らないのだが建物の内部空間、つまりインテリアではこの傾向が特に強い気がしている。壁材や天井材が工業製品に占められたせいなのかどうか、素材が主張する存在感のようなものが、希薄で伝わってこないように感じる。これは残念なことに客観的にその存在を計ろうにも、質量感や存在感などを明確に計る機械などない。だからといってこれを抜きにして建築を語る訳にもいかないのである。
 この素材から受ける感じが室内の空間にも現れてくる。設計と言うか、デザインの作業というのは壁や天井の構成を考えると言うより、むしろこの内部空間を作っている気分がある。
 これらの室内空間は、チョットした照明一個で微妙にその質を変えるものである。蛍光灯から白熱電球に変えただけで、部屋の雰囲気ががらりと変わることはどなたもご存知だろう。壁紙や壁の色を変えたら、部屋の雰囲気が変化するのは想像がつくことだろう。家具やカーテンだけでも同じことが言える。またこれは、住まい方でも変化する。マンションなど同じ仕上げでも、人が住み始めると同じ感じの部屋などなくなってしまう。家具の違いはもとより、部屋の使い方でその部屋の空間の雰囲気が違ってくる。私には書籍のようにも感じることがある。大切に扱えば年と共に他の本と違ってきてますます大切になったり、粗雑に扱えばたちまちゴミのような存在にならないとも限らない。
 何時でも、何処でも、腰を下ろしたときに、しばし自分の周りの空間を意識してみては如何であろう。目の前にある物や、取り巻いている雰囲気を意識してみてはいかが。面白い発見があるかもしれない。

生活デザイン塾・主宰進藤 好美

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