2004年 4月 4日

なつのロケット
〜あるいは、何故HARIは「明日があるさ THE MOVIE」に幻滅したのか〜


 あさりよしとお氏の漫画「なつのロケット」は、「受験に全く役に立たない授業」を行なった為に更迭された先生の為に、小学生5人がメインとなってロケットにまつわる過去を持った町工場の老人とロケットを作り打ち上げる話である。
 容易に飛ばせそうな「固体ロケット」を作ろうとする少年と、あえて「液体ロケット」を飛ばそうする転校生の少年の対立(これって・・・、宇宙科学研究本部と宇宙開発事業団のパロディ?)、そして物語のラストで語られるロケットの目的。
 はっきり言って、話としては別に目新しくも無い。
 だが、この漫画のすごい所は、「少年達が打ち上げるロケットについて、極めて現実的な設定を行なっている」所にある。
 それは、物語に出てくる「液体ロケット」について、宇宙機エンジニアである野田篤司氏による設計と打ち上げ軌道シミュレーション計算を行っているのだ。
 連載が子供向けの雑誌では無く「ヤングアニマル」という青年誌だか詳細な設計を行なった訳ではない。
 そこには、作者:あさりよしとお氏や「小学生が作るロケット」を”現実的なもの”とすべく考えた野田篤司氏の、小型ロケットに対する思いを読み取ることができる。
 
 そういった意味からすれば、2002年10月に劇場公開された映画「明日があるさ THE MOVIE」とは雲泥の差がある。
 実は、HARIはこの映画を観に行こうと考えていたのだか、TVで見た1シーンがあまりにも情けなくて観る気が失せてしまった。
 それは、浜田課長が声を荒げて「博士が飛ぶ言うたら飛ぶんじゃい!」と叫ぶシーンである。
 技術的な知識が無いサラリーマンが、何の根拠も無く有人宇宙船を「飛ぶ言うたら飛ぶんじゃい!」の一言で打ち上げようとする・・・、なんて無責任なんだろう。
 
 HARIは一応、システム開発という仕事をしているのだが、根拠となる資料や裏づけも無く「納期までに出来ます、出来るといったら出来るんです。」と言って説得しようとする技術者は信用しない。
 そんな「気合」みたいなモンでシステムが完成して平均的な品質で稼働できるのなら、この世に「動かないコンピューター」がこんなにも多くある筈が無い。
 「なつのロケット」で液体燃料(!)ロケット作成を推進する小学生が、固体ロケットを飛ばそうとする少年に向って「(固体ロケットは)ノウハウの固まりで素人が手を出せる代物じゃない」と言い放ち、自分の作っている液体燃料ロケットについては「打ち上げの全ては方程式で導き出せる」と言ってのける。
 そして極めつけは、「飛ばなくなる要素を加えない限り絶対に成功する」と宣言する。
 もちろん、気が付かない「飛ばない要素」が加わっていくから、失敗は発生する。
 だが、「飛ぶ言うたら飛ぶんじゃい!」と叫ぶ浜田課長よりは「飛ばなくなる要素を加えない限り絶対に成功する」と言う小学生の方が、HARIとしては「技術者として」信頼できる。
 
 余談であるが、先日TVでこの映画を放送した際、「ロケット打ち上げ」シーンからラスト迄見る事が出来た。
 そこでHARIは「博士が飛ぶ言うたら飛ぶんじゃい!」というシーンよりも恐ろしい場面を目にする羽目に陥った。
 HARIが観たシーンに限って言えば、このプロジェクトは「ロケットを打ち上げる事」が目的だったのだ!
 (弾道軌道とはいえ、有人の宇宙船であるのに!。)
 ロケットの打上成功を喜ぶ面々、そこには誰も「浜田課長が地球に無事帰還する」事を気にしていない。
 それどころか、「何処に着水(着陸?)」するかも検討されていない。
 (当然、カプセルも「着陸」か「着水」かで構造は変わってくる。)
 だが、「なつのロケット」は、その最終目的を見事に達成したのである。
 
 「ロケットに思い入れがある」作者が作った作品と、「ロケットを道具として使った」脚本家の作品の違いが、ここまで作品の出来を左右するものなのだ。
 
 本当にロケットに興味があるのなら、「なつのロケット」(白泉社)は、一読に値するお勧めの本である。
 
 余談であるが・・・、「あとがき」によればあさりよしとお氏や野田篤司氏は「それが有人であっても、弾道軌道を描くロケットは本当のロケット」じゃないとの事。
 こう書くと、「なつのロケット」が「どんなロケット」か、もうお分かりでしょ。(^^;
 



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