2001年 5月27日

「ニコパチ」だっていいじゃない。


ポートレートで、「ニコパチ」という言葉&写真がある。
 モデルが「ニコッ」と笑った所を「パチ」と撮った写真の事で、「ちょっとカメラを知っていれば誰でも撮れる」的なニアンスも含まれている。
 だから、ポートレートを撮る上では「ニコパチ」という言葉は、あまり良い評価には使われない。
 「脱ニコパチ ポートレート宣言」なんて特集を月間のカメラ雑誌が組んだことがあるし、HARI自身も、「ニコパチが多すぎるぅ・・・」と悩み反省した事もある。
 
 だけど、「ニコパチ」の何処が悪いというのだろうか?
 「ニコパチじゃ、芸が無い」とか、「モデルから様々な表情を引き出すのが撮る側の腕」とか、色々と言われているけど、ニコパチって「良くない」のだろうか?
 (もちろん撮るポートレート全てが、「モデル違い」「背景違い」「服装違い」の同じポーズで「ニコパチ」じゃ、ダメだけど。)
 HARIはポートレート撮影の都度、考えていた。
 なにしろHARIは、優しく微笑んだ柔らかな笑顔のポートレートが好きなのだ。
 
 つい先日、そんな悩みを解決する事が出来た。
 場所は東京・ビックサイトで行われたビジネスショウの、某著名プリンタメーカーのブース。
 
 そこでは、新製品のインクジェット・カラープリンタの性能を来場者に体験して貰うべく、ステージの周りにプリンタとデジカメを用意し、撮影会を行っていた。
 モデルは、ステージ中央でポーズを取り、微笑んでいる。
 
 「よっしゃ」とばかり、HARIは「背景が良い」位置にあるデジカメをつかみ、構図・露出を決めると、モデルから目線を貰うべく片手を振り声をかける。
 それに気がついたモデルが、こちらに振り向き、ニコっと笑う。(キメの笑顔ってやつだ。)
 そこですかさずシャッターを切る。
 撮った後は、「何も知らない素人」を決め込んで、脇にいたコンパニオンのお姉さんに色々と教わって「最新プリンター」で撮った画像をプリントし、記念にもらってきた・・・。
 と書くと、HARIを知っている人は、その時のHARIの姿を容易に想像出来ると思うのだが(^^;、事実は異なる。
 
 HARIは、そのステージの人だかりの後ろから、呆然と眺めていたのだ。
 「これビジネスショウだよなぁ・・・、PCショウやカメラショウじゃ無いよなぁ・・・。」
 一人だったとはいえ、一応「お仕事モード」で来ているHARIには、信じられない光景だったのだ。
 
 HARIは、呆然とステージ上のモデルを観ているだけだった。
 そして、モデルがこちらを向いた時、HARIは愕然とした。
 モデルの表情が、怖いのだ。
 もちろん、ステージ上のモデル達が「怖い」表情をしていた訳じゃない。
 微笑んで、デジカメを構えた人達にポーズをつけている。
 だが、表情に例えようのない怖さを感じる。
 しばらく考えて、その理由に気がついた。
 感情を感じさせない、機械的な笑顔だったのだ。
 「まるで能面だな」・・・。
 HARIは呟くと、そのステージに背を向けた。
 
 その時、気がついたのだ。
 モデルが、その仕事柄習得した「誰でも撮れる職業的笑顔」。
 撮ってはいけない「ニコパチ」とは、そんな表情では無いだろうか。
 
 同じモデルであっても、相手が自分を知ってくれていれば、そんな「職業的笑顔」ではなく優しい柔らかな笑顔を(もしかしたら、自分だけに)向けてくれるに違いない。
 そんな「優しく微笑んだ柔らかな笑顔」を、「職業的笑顔」と同列に「ニコパチ写真」だとHARIは考えていたのだ。
 
 何か、自分に課していた重石が取れた気がする。
 
 よし、これからは優しく微笑んだ柔らかな「ニコパチ」を撮るのだ!
 
 これから「HARIのポートレートには、ニコパチが多いねぇ」と言われたら、こう答える事だろう。
 「でも良いでしょ、HARIのニコパチは。(^^)ゞ」



HARIの独り言 目次に戻る