ラ ン テ ィ シ ェ L a n t i s c h e ラ ン テ ィ シ ェ L a n t i s c h e ラ ン テ ィ シ ェ L a n t i s c h e


Driving pleasure with Compact packaging ... MRY Report

MRY訪問・・ランティス産みの親と対面


1999年7月11日、横浜MRYにてランティス産みの親である、開発主査の浜谷氏と セダンのエクステリアデザイナーの小泉氏にお会いしお話を聞く機会に恵まれた。
わざわざ広島本社から出張していただき、ランティス開発の考え方やさまざまな開発秘話(?)など 聞かせていただいた。
ユーザ/オーナを大切にするマツダの姿勢にまず感謝。
そしてマツダ浜谷氏、小泉氏と、コーディネイトをしていただいたマツダ関連の方々、及び LOCメンバの方々に感謝いたします。

Special thanks to...

マツダ広島本社主査本部:浜谷さん
マツダ広島本社デザイン部:小泉さん
マツダ東京本社広報部:吉竹さん
マツダMRY先行商品企画室:岸田さん(大谷さん)
マツダMRY横浜総務室:永松さん、渡部さん、鈴木さん
Lantis Owner's Club:輪田さん
Lantis Owner's Club:剣持さん
Lantis Owner's Club:山内さん(山内さんの叱咤激励が無ければこの しんどい特集を公開に漕ぎ着けることはできなかった)

Pictures (C) Mazda.


[[[ MRY ]]]

浜谷氏、小泉氏とのミーティングが実現したのは、マツダの東京における中核部門といえるMRY (Mazda market Reseach and technology development center of Yokohama)である。
What's Lantis の頁でも少し紹介したが、ランティスのエクステリアデザインは デザインコンペを経た後のボディパネル共用化を図るため、複雑なプロセスを経ている。
まず、基本デザインについては、クーペがMRE(Mazda market Reseach and technology development center of Europe)が コンペに勝ち、セダンはMRY(今回お会いした小泉氏のデザインである)がデザインしている。
その後、クーペ/セダンともMRYにてデザインの仕上げが行われるが、共用のキャビン部 とセダン独自部分を小泉氏が担当している。
クーペの独自部分についてはマツダの別の方がデザイン仕上げをしているらしい。
(量産に向けた設計の最終工程あたりでは小泉氏の手を離れており、デザイナーの 意図とかなり離れた部分が出てきてしまっているようだ)
つまり、ランティスについては、クーペの基本デザイン以外はほとんどMRYの仕事と 考えて良いわけである。
クーペの基本デザインについては、元MREのアーノルド オストル氏のデザインと考えられていたが 今回、小泉氏に確認したところ、元MREのローランド シュテルマン氏(通称ローリーとのこと) の仕事であることがわかった。ローランド シュテルマン氏についても既にMREを辞めてしまって いる。残念である。



[[[ エクステリアデザイナー小泉氏とのお話 ]]]


そこに表現されているマインドというか気持ちが大事なんだ


小泉氏: 今日は、ざっくばらんにお話をしたいと思ってますので、お好きなことを聞いてください。

LOCメンバ: しょっぱなからなんなんですが、どうにもホイールアーチのスキマが多すぎると思うのですが、 デザイナーとしてはどう思ってますか?

小泉氏: あれは、もっと縮めろって言ってあったんですけどね(笑)。 ただ、広島から出荷じゃないですか。 瀬戸内海の潮の干満差ってかなりあるんで、出荷時にフェリーに載せる時のアプローチ角度とかを考えて 多めに取ってある、っていうのもあるかもしれませんねぇ・・・。 あとは、実際に設計に乗せていくときには、フォンダーに収まらなくてはいけない。これの誤差を 安全方向に考えると、どうしてもスキマが広がってしまう、というのはありますね。 トレッドを縮めてタイヤを奥に置くか、フェンダーとタイヤのスキマを広くするか・・・どちらかに なってしまいますね。
(ノートを取り出す)これは1990年だから9年前になるんですが、ほんとに開発時のその当時の資料 なんですよ。

LOCメンバ: あーほんとだ、J55Eって・・・?

小泉氏: 開発コードなんですよ。元は55Eって呼んでたんですが、最終的に66F になったんです。

LOCメンバ: セダン、クーペとも?

小泉氏: ええ、66F(ろくろくエフ)です。
これは、アスティナとファミリアを作ったときのやつなんですが、ここに55Eの手続き用連絡資料とか ありますね、、、10月にやったんですね。で、空力特性とフィージビリティ、というようなことを書いてます。
デザイン的なところを言いますとね・・・(ここでセダンのペン書きラフスケッチが現れる)

LOCメンバ: おぉーーーっ! こっちの方がかっこいいですね!

小泉氏: でしょう?ホイールアーチはこんな風に攻めたいんですよ(笑)。ホイールも大きくしてね。 こういう絵を書いて、モデル作るときの指示書とするんです。
パーティングのRとか隙間を何スキ(編注:何ミリの隙間にして・・の意)にして、とか事細かに 指示するわけですよ。これなんか6にしろって言ってますね。この当時6ミリは業界最先端だったんですよ。

LOCメンバ: はー、このチリ合わせの隙間の幅ですね?

小泉氏: そうです。こうボンネットが上からバーンと閉じられたときに、オーバーストロークがありますからね、 スキが狭すぎるとランプにあたっちゃうんですよ・・・ですからね、そういうところギリギリまで、指示は してるんですよ(笑)言い訳じゃなくて
ランプもね、こういうランプにしたいよ、ってね。 で、プロジェクター入れるんだ(編注:ロービーム)、マルチリフレクターもやりたい(編注:ハイビーム) と出すわけです。

LOCメンバ: これは部品メーカー向けに出すんですか?

小泉氏: これは、設計のほうに出します。

LOCメンバ: プロジェクターは最初から意識していたんですか?

小泉氏: そうですね。結局、厚みが足りませんからプロジェクターしか入らない・・・
で、この絵はリアコンビです。リアコンビは、赤い部分がフロントから見えちゃいけないっていう レギュレーションがありまして。

LOCメンバ: 緊急車両以外はダメなんですよね。

小泉氏: ええ、ですから見えそうなところはアンバーだろうな、と。あとダミー部分をどう処理して行くか、 なども考えます。
これはクレイですね。この下側がベニアになっていて、窓の所がシースルーになっている。
これは90年の9月ですね・・・この頃僕は最も忙しくて、、あの頃、ショーカーがあったでしょう、HRXっていう バブルみたいなショーカー。金魚鉢みたいな。あれとですね、ユーノス800ランティスと。
あと世の中に出ませんでしたけど、ユーノス1000というのがあったんですよ。

LOCメンバ: 1000?・・・アマティですか?

小泉氏: そうです。アマティですね。それをやってたんですよ。W12気筒搭載っていう。
(ここで風洞実験の写真が現れる)これは空力特性の確認です。 14インチの185で、ちょっとタイヤ細いんですが0.225(編注:CD値)ですね。 あと前面投影面積がえらく小さいですよね。普通セダンだと1.9くらいあるんですけど、 1.77しかない。 タンブルフォームがすごくついてるんですね。
何が空力的に効くか、というのをこうやってつめていくわけですね。

LOCメンバ: デザインの人が空力やるんですか?

小泉氏: そうです。風洞に行って。そこで粘土持って。タイヤディフィレクターとかあったら、ボディ一体で粘土で 作るわけですよ。 乗員、エンジン、サスペンション、オプションの取りつけまで考えてやるんですけど。
これなんかリアスポイラーに10度の角度つけてるんですが、すごいですよね、0.02(編集:リフトの値)も 向上するんです。
リフトというのは最終的にドラッグ(引っ張り抵抗)になりますから、そこを改善するとCDも良くなる。
リアエンド下なんですが、特許出したんですよ。ユーノス500ではフィンが付いてるでしょ? あれが特許出願したら三菱さんが持ってたんですよ。・・・あれはねぇ、、やられました(笑)

LOCメンバ: ランティスクーペのリアディフューザのようなものも実際に効いているんですか?

小泉氏: そうです。床下がフラットなクルマほど効きますね。
で、こいつは共用部品及びHWのチェックポイントというのをやってるんですね。 クーペとセダンの共用を徹底的にやるわけですね。

LOCメンバ: フロントランプは一体で考えていたんですね・・・実車は分割ですよね?

小泉氏: そうなんですか?僕は実際のファイナルステージ(編注:量産設計)には立ち会っていないんですよ。
こういうのは、エイミングとか組み付け手順の影響を受けて変わってしまうんですね・・・
私は一体で考えていました。
あ、これ、HBっていうのが本部長ですよ。これは川岡さんですね。あと新藤さん、今はいませんけど。 「もっと伸びやかな線に」なんて書いてありますね。

LOCメンバ: けっこう文句言われてる訳ですね(笑)

小泉氏: 「Cピラーが全体の造形にマッチしていない」・・・こういうことを色々言われて。 ・・・いっぱいあるんですよ。でも最初からイメージは固まっていましたから。
これが本部長が書いた絵なんですよ。

LOCメンバ: へぇー・・上手い!、シルビアかホンダっぽいですね。

小泉氏: こういうのを3分くらいで、さささっと書いてしまうんですよ。
まあ、めったにこういう資料は出すことは無いんですよ。でもランティスは製造を中止していますし、特別に。

LOCメンバ: 写真取っても大丈夫ですか? HPに載っちゃう予定ですけど。

小泉氏: うーん、撮っても良いネタですか・・・これかな、あ、でもこれはやばいな・・・(笑)

LOCメンバ: やめておきましょう(笑)

小泉氏: 僕はアドバンストステージしかやっていないので、マイナーチェンジとか最終的にどうなったのかは 判らないんですが・・・

LOCメンバ: けっこう悲惨ですよ。内装とかサイドミラーとか、ファミリアになっちゃいました。 セダンのホイールもこれに変わっちゃいましたし。

小泉氏: あー、これ? まったく、だれがこんな・・・

LOCメンバ: (笑)。クーペは手がけていないのですか?

小泉氏: 私はアスティナをやったというのもあって、コンセプト的にクーペをやりたかったんですが、 その一方でユーノス500も手がけていたという・・・そのあたりからセダン担当と なったんですね。

LOCメンバ: プロから見てすごいデザインて何かありますか?

小泉氏: うーん、今626(編注:カペラ)のチーフやってるんですが、やはりライバルのヨーロッパ車は たくさん試乗するんですよ。で、BMWですね。とにかくスポーティな味わいとプレステッジアスな車格感の 出し方と全体のハーモニーというかエレガントなところ、、お客さんが欲しいものは全て入っている
ミュンヘンに行ったときにミュージアムも見てきたんですけど、やはり一朝一夕にできるものではないと 感じましたね。
積み重ねと、ファンの方々とのコミュニケーション、ですかね。
ただ、ちょっと保守的ですけどね。まあ、物事には必ず2面性がありますけれどね。 整えて行くと保守的になってしまう、と。

LOCメンバ: Z3なんか、BWMらしくないというか、でもけっこう欲しいな、と思うんですが。

小泉氏: そうなんですよね。あれなんか、なんか妙な形してて変なんですが、クルマとしての魅力が ありますよね。やはり整えるだけがいいデザインでなくて、やはりそこに表現されている マインドというか気持ちが大事なんだと思いますね。



[[[ 開発主査浜谷氏及び小泉氏とのQ&A ]]]


私はKFエンジン好きなんですよ


Q:海外と国内で仕様が異なる点は?(LOCメンバ)

A:浜谷氏

海外と国内ではレギュレーション(編注:車両保安基準)が異なるんです。
特に国内ではアンバーのクリアランスランプが許されているが 海外では白でないといけない、ということがあるので 国内のターンシグナルランプはユニットまるごとアンバーと なっている訳です。

あと、リアフォグランプ。
後ろに赤いフォグランプを付ける訳ですが、雨天走行などで前車が水煙を ぶわーっと巻き上げる状況などではとても有効なので、個人的には なんとか付けたい、と思っているんですけど、国内ではなかなか理解されない。
また、有効に使える場面外、ごく普通の晴れた夜などに点灯すると 後続車がとても眩しい。
すごく眩しいんですよ。
そういう事情も、国内メーカが採用に踏み切れない理由だと思う。
(編注:日本人は月夜の晩でもフォグランプ点灯して平然としている 輩が多いですから・・・海外よりもドライバーのモラルが低い、ということを 暗に言われているようでちょっと考えさせられました)


Q:海外のカタログを見たいのだが?(LOCメンバ)

A:浜谷氏

デザインの方に用意させようとしたが、みつかりませんでした(笑)


Q:最終的に売れ行きはどうだったのか?(LOCメンバ)

A:浜谷氏

海外では最後まで非常に良く売れました。 モデル末期まで、月平均6000台コンスタントに売れていましたから、人気の高さが 伺えます。
国内ではご存知の通りです。


Q:4輪駆動は考えていなかったのか?(LOCメンバ)

A:浜谷氏

ランティス全体の生産規模からすると設定できる規模ではなかったですね。 月4000台ベース(編注:国内)ではそのようなことは考えられません。
国内でもどんどん売れて行ってお客様から要望が出てくれば あとから追加というのはあり得たと思う。


Q:ヘッドライトユニットをもう少し大きく明るくできなかったのか?(LOCメンバ)

A:浜谷氏

あれはプロジェクターランプなので非常にキレの良い、いいものです。 ただ、気持ちとしては判ります。あれは小さいですよ(笑)。
ランティスのエクステリアは「塊感」を出すのがポイントだったので、 クラウチングフォルムですね、あのライトはあれで良いと思っています。

実はあのユニットはガラスでできているんです。
通常、樹脂で作るんですが、樹脂の方がボディ先端部が軽くなるので良いの ですが、デザインの方が小さくしたいというので・・・

(小泉氏の割り込み)あ、デザインのせいにしてますね(笑)

ちょっとまずかったかな?(笑)
まあ、ユニット自体が小さいので熱が溜まって溶けてしまうんですね。 で、わざわざガラスで作っているんです。

あとランプの光量ですが、光量というのはレギュレーションで決まってまして、 その中でめいっぱい明るく作っています。
ただ、明るさっていうのは、いくら明るくしても「もっと明るい方がいい」って 言われるもので・・・
もっとも、国内のレギュレーションは少し光量が少ないかもしれませんね。


Q:耐用性能がいまいちというか、故障が多いように思うのですが。乗り方が悪いんでしょうか? (LOCメンバ)

A:浜谷氏

そのあたりは最優先してやっています。
一般論としてはちゃんとやっているとしか言えないところです。 乗り方が悪いなんて話はできません。さまざまなケースに対応した品質を キープできるようにやっています。


Q:ボディやシャシにフォーム充填材を入れていると聞いたのですが、どのような効果があるのでしょう? (LOCメンバ)

A:浜谷氏

入れてますね。
最初の頃は、柔らかいウレタンをボディ材の中に押しこんでいたのですよ。 それは遮音というか、音を押さえるためにやっています。
その素材は面と接着していないからボディ剛性にはほとんど寄与していない。
ところが、そのうちうまい材料が見つかりまして、こう、小さなカタマリを入れておきまして 乾燥路を通すと熱で膨張するんですね。 それでうまいこと密封されるのです。
その後、その材料の材質をいろいろ改良しまして、ボディ剛性にも多少効くようなものも 出てきています。
で、ランティスの頃は「充填しています」というのが少しは特徴になっていたんですが 今やもう各メーカーでごく普通なんですよ。 ですからそれをどうこう宣伝したりとかすることはないですね。
あと、その充填材を後から入れる、というのは無理です。 あくまで、製造工程の中で入れるから可能ということです。


Q:ランティスは生産中止されたが、交換パーツ類はどれくらいの期間保持されるのか?(LOCメンバ)

A:浜谷氏

生産中止後のパーツというのは需要と供給の関係なのです。
昔、R360というのがありましたが、あれのパーツはずいぶん引っ張りましたね。 ずいぶん売れましたし、ながいことお客さんが乗っていたので。 まあ、あのころは「壊れやすかった」ということもあるんでしょうね(笑)
ランティスについていえば、壊れるものもないですし、エンジンなんかも丈夫です。 ですから、オフィシャルに言っている「10年」というのが目安になると思います。


Q:KFエンジンはどうなってしまうのか?(LOCメンバ)

A:浜谷氏

私はKFエンジン好きなんですよ。
ただ、今度からフォードのV6がマツダでも使われるようになりましたから。 あれはいいエンジンで、生産規模も大きいですからね、ジャガーにも載ってますし。 KFの出番はなかなか無いです。
でも、現在はKFの組みたてラインは残ってますから作ることは作れますよ。


Q:ランティスのデザインで妥協した点は?(LOCメンバ)

A:小泉氏

やはり、デザインが最後まで実現されるというのは色々な制約があって難しい ものなんですね(笑)
ランティスに関しては、ヘッドライトとか、クーペのリアヘッダのガーニッシュとか 16インチのタイヤとか、セダンのリアコンビランプとか、 普通のクルマには付けないようなものとか、少し常識を外れたようなものとか ずいぶんとわがままを通させてもらいました

あと、内装については専門外なのですが、シートデザインとドライバーズオリエンテッドな コンソール周りなど良い作りこみをしています。
グリーンの内装についてですが、市場調査をしますと、やさしい感じのハーモニアスな インテリア、色調はグレーなどのものが好まれる傾向があります。 ただ、単なる黒っぽいものではさびしいということもあり、少し冒険をしてあのカラーを セッティングしてみた訳です。

ボディカラーですが、私見で申し訳ありませんが コンセプトを絞りこむために、あえてカラーを減らしたというのもあると思っています。

ランティスについては、セダンとクーペ、同じドアを使いながらあれだけ違うイメージを 実現できた例は、他には見ないと思いますよ。


Q:ランティスのデザイン画など見せてもらえませんか?(LOCメンバ)

A:小泉氏

今日は特別に、スケッチを持ってきましたので、後で浜谷と私がサインを入れて お渡ししようと思っています。
会場大拍手!


Q:ランティスのデザインが他メーカーのクルマに影響を与えたところはあるか?(LOCメンバ)

A:小泉氏

ボディのデザインというのは、理論的に優れたものを考えて行くと、ある程度 似たものになってしまう、というか、どこのメーカーでも同じような優れた デザインというものを目指しているものなのです。
ただ、それを生産型としてどこまでやりきるか、というのがポイントなんですね。
たぶん、ユーロッパのメーカーがあの頃ランティスを見て驚いたのは、 「もうマツダはここまでやっちゃったぜ!」ということなんだと思います。
海外のショウでランティスを出すと「これはショーモデル?」なんて 聞かれることが多かったらしくて、日本のデザイナーとして誇らしいことでしたね。

あと、セダンのフロントマスクなんですが、ボンネットのパーティングラインを上げて、ライトと グリルの間の隙間に樹脂バンパーを伸ばしてきたものを配置しています。
従来、この部分というのはボンネットから鉄板を伸ばしてくるのが常識 だったのですが、やはりどうしてもチッピング(編注:飛石で塗装が剥がれること)で 非常にみすぼらしい状態になりやすい。 これはメルセデスを観察していてわかったことなのですが。
クーペでもフェイシアが全て樹脂パーツになっていて、同様にチッピングの 影響を受けにくいように作っている。
ランティスでマツダがああいうやりかたを始めまして、いまや このやり方が世界の主流になっている、という影響はあったと思います。

あとは、当時としては大径である16インチタイヤの採用ですが、 これはスタビリティ感もしくはロードハギング感(編注:路面をしっかりと掴んだ感じ)を表現する という意味ではランティスが先駆けてやったと感じています。


Q:ランティスのデザインはどのように考えていったのか?(LOCメンバ)

A:小泉氏

ランティスはオールニューでしたので、スケッチからあまり制約はありませんでした。
やはり、カタマリ、から作っていった、と憶えています。
あとは、アスティナのユーロッパでの成功から、スタイリッシュな5ドアをやろう、と。 これがクーペの方向性だと思います。
国内では、どうしてもセダンをやりたい、というのがありました。
で、ボディの共用部分を持ちながら、いかに仕上げて行くか、というのがセダンのやり方だと思います。


Q:アフターパーツ等で外観をいじられるのは、デザイナーとしてどう感じていますか?(LOCメンバ)

A:小泉氏

アメリカや日本では、クルマの外観を自分でいじる、という文化があるんだと思います。 クルマで自己主張する。
これは、イタリアとかでは全くと言っていいくらい無い。 本当に文化の違いを感じます。
これは文化の問題だろうと思いますので、外観をいじるのに対してデザイナーがいやな思いを するか、というとあまり関係無いですね。
ランティスのようなスペシャルティ・カーは特にそうなんだと思います。
どちらかというと我々は、街の風景となるベーシック・カーのデザインについては そういう風景を決める要素である、ということから責任を感じている部分があります。


[[[ Illustrations and Clay models ]]]

Coupe

(左)コンセプトスタディ後のMREデザイン画。採用案。フロントマスクなど、かなりの違いが見うけられる。

こちらより浜谷氏と小泉氏のサイン入り1024*768サイズ画像を Downloadできます。デスクトップにどうぞ。

(右)採用案デザイン画を1/5クレイにしたもの。Exteriorの頁にて紹介しているクレイと 同じものであろう。


コンセプトスタディ後のMREデザイン画とクレイ。別案。ちょっと腰高な印象。


コンセプトスタディ後のMREデザイン画とクレイ。別案。張り出したフェンダーを切りぬくようなホイールアーチが斬新。 ただ、これでは車検を通らないような・・ということでなのか、クレイではずいぶんとおとなしくなっており 魅力半減である。


MRE 55Eの1/1クレイ。上記インタビュー中で小泉氏が55Eと言っているものである。


J55Eシースルーモデル。ガラス部をシースルーにしてより生産型のイメージを掴もうとしている。 リアバンパー両サイドのリフレクターが興味深い。
実際はほとんど量産に見える。この後取締役会の承認を経て66Fに開発コードは落ち着く。


Sedan







[[[ 所感雑感 ]]]

めったに無いマツダのランティス開発陣とお会いできた・・・会っただけでかなり満足してしまい 鋭い質問が上手く口に出てこなかったのは悔やまれる。
当時の主査の浜谷氏は"Driving pleasure with Compact packaging"こそがランティスの開発当初から 掲げてきたテーマだ、とおっしゃった。 ただ国内の販売に関しては「やはり日本には早すぎた」との話があり、このあたりは オーナーにも共通する思いだったに違いない。 シャシの仕上げ(特にリア周り)にはかなり神経を使ってくれたようである。
溢れるバイタリティの中に信念の通った、というイメージの方であった。

デザイナーの小泉氏は淡いダブルのスーツ姿の洒落者という感じだった。
若く見えるが、話に出てきただけでも、ユーノス500、ランティス、ユーノス800、ユーノス1000、626、 と手がけているベテランである。
包み隠さずに展開していただいた話はどれも興味深いものだった。
販売はともかくとして、日本ならぬ世界視点で見ても、この頃のマツダの繰り出すモデルの コンベックスとコンケーブをうまく纏いつつも軸線を外さないエクステリアデザインは出色だったのでは ないだろうか。
そしておそらくはその中心的役割を担っていたのが氏なのではないだろうか。
オペルの児玉氏を例に出すまでも無く、ワールドワイドな活躍をし独創的なモデルを出し続けて頂きたい、 と願わずにはいられない。


LOC大黒ミーティングの様子


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