遊撃警艦パトベセル~こちら首都圏上空青空署~(May-Be SOFT)
新米警際官の赤島殉作(変更不可)は配属先である青空署へとやってくるが、それらしい建物もそれらしい迎えの人間も見当たらない。不思議に思った彼の視界が不意に暗くなる。ついで拡声器で増幅された聞き覚えのない少女の声。その対象がどうやら自分であるらしいと気付いた殉作は次の瞬間、驚愕する。声の主を運んできたもの、彼の配属先は空飛ぶ交藩、遊撃警艦パトベセルだったのである。
おなじみあかざ氏&箒星氏コンビの新作はエンターテイメント性の高いちょっとヤバめな題材のアドベンチャー。購入動機は原画買いですが、そろそろチーム買いとなってきたような気がしています。
ジャンルはパッケージによると美少女ポリスとドタバタ戦艦AVG。システム的にはいつものやつで特別に変わったところはありません。
足回りは標準クラス。メッセージスキップは既読未読を判別してくれますが速度はそれほど速くありません。ただし、2周目以降は共通シナリオを選択式で丸ごと飛ばすことが可能です。
バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが戻れる量はほどほどです。ロード直後にも使用可能ですが、シーンスキップを使った場合には機能しません。
シナリオは何よりもネタ重視。自前のものも含めてパロディネタが作品全体を横行しています。古くは「ヤマト」から新しくは「ハルヒ」までとても幅広いネタのチョイスを行っています。もしかしたら100%楽しめるのは40歳以上かもしれません。エロゲー新入生では少しツライかも。20代半ば以降であれば十分、楽しめると思います。前々作「モノごころ、モノむすめ。」、前作「メイドさんと大きな剣」をプレイしているとより楽しめるでしょう。
シナリオの基本がパロディですから普段はギャグテイスト中心になります。しかし、後半になるとシリアスに移行するため感触が変わりやすいです。ギャグだからこそ流せるものが、シリアスになってしまうことで目につくようになってしまう可能性があります。シリアス時にも突っ込まずにいられるかどうか、これが本作の分水嶺です。
惹かれあう過程はネタとして昇華してしまうほどいい加減。主人公とヒロインは全員が初対面なのですが、その時点ですでに見えない好感度ゲージは8割を越えている印象です。自己紹介を済ませると9割越えという按配。主人公の方もセクハラには積極的ですが、恋愛となるとてんで坊やなのでお話になりません。期待してはいけない要素です。
Hシーンはメインが4~6回でサブが2回。素材数において歴然たる差があるのでガッカリしないためには事前の調査が必要です。ハーレムは一応は用意されていますが、取りあえず作りました的な内容なので過剰な期待は禁物です。
CGは作品の世界観をしっかりと打ち出せています。雰囲気作りはこの開発チームでかつてないほどに高いレベルで構築できているのではないかと。SF要素の素材が光ります。
テックアーツ系ブランド特有のアニメーションは本作でも健在。これまではHシーンのみでしたが通常のイベントシーンでも使われるようになりました。予想以上に、もしかしたらHシーンよりも効果的かもしれません。シュールな使い方もなかなか面白いです。しかし、肝心のHシーンの方は激しくなり過ぎて、まるで地震のように見えるものも。
一方で局部サポートウインドウはアニメのみでイベントCGの演出としてはなくなりました。個人的にはとても残念です。
立ちCGはポーズ変化は少なく、表情で勝負する構成。気になるのは表情こそ異なるものの、冷や汗やハートマークなどが全キャラ共通であること。画一的な記号というのはあまりイメージが良くないように思います。
音楽は作品の傾向ゆえ真面目な曲はとても少ないです。楽しげな曲のイメージばかりが残りやすいかと。もうちょっといかにもな格好つけたテーマ曲みたいなのがあっても良かったかもしれません。
ボイスは女性キャラのみフルボイス。予算の関係かサブヒロインの3人は全てメインヒロインの声優が一人二役をこなしています。演技の幅がどうこうではなく、本作のように全員集合しやすい作品ではなるべく異なる声優を起用して欲しいところ。
演技としては問題ないどころか、作品を引っ張るほど力のこもった仕事をしています。かなり聞き応えあり。
まとめ。ネタこそ全てな作品。ネタの前には全て飾りである、そんな潔い開き直りが感じられます。肩の力を抜いて楽しめる、そんな作品です。
お気に入り:桃本みつな、七瀬ヒカリ
評点:75
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、七瀬ヒカリ
まぁ、ポジションの勝利というべきでしょうか。本人のキャラが多少、薄かったとしても全く問題がないほどに立ち位置がしっかりとしています。快楽主義で傍若無人なところがヒカリの九分九厘を構成しているように思います。
しかし、それだけに、それだからこそ個別シナリオの展開はおかしい。いきなり常識的な態度をとるヒカリなんて青空署の署長とは思えません。ニセモノ疑惑が出ても不思議ではないくらい妙でしたよ。少なくとも、ヒカリシナリオだけは無茶苦茶なままで解決する必要があったと思います。いかにギャグとはいえ普段はスレスレどころか完全に犯罪者集団なんですよ、なのにシリアスになったからって正義の味方のようになるのは無理があります。というか、あまりにもらしくありません。
青空署の署長というのは固有名詞ならぬ固有キャラだと思うので仕方ありませんが、やはり帽子とマントを脱いでしまうと誰であるかいきなりわかりにくくなります。可能な限り脱がせないようするべきだったと思いますがあんまり配慮されていないんですよねぇ。マントなんてひとつもないのでは。極端な話、私服Hはいらないと思いますよ。ギャップが欲しいならお風呂とかにすればいい訳で。ちょっともったいないかな、と。
2、端深空
色々な要望に対する結果としてのロリキャラだとは思いますが、乳に思い入れのあるあかざ氏からするとやはりもったいない気がしてなりませんね。まぁ、慣れ次第かとは思いますけど、ミヤスリサ氏と同じように魅力的な胸を描ける原画家にわざわざ貧乳を描かせるのは個人的にはどうかと思います。おーじ氏が貧乳ばかり描くのと同じですよ。
シナリオはテレビシリーズに対する映画版といった雰囲気。全員をうまく使ってまとまっているのはこのシナリオだと思います。ま、シリアス時の突っ込みどころはやっぱりとても多い訳ですが。
3、黛玲於奈
意外と特色が出ていないキャラ。色々な設定を持っていながらさくっと青空署に染まってしまっているので、あまり機能していないのはちょっともったいないかも。話数型の構成であれば玲於奈が青空署に馴染むエピソードをしっかりと入れられたかもしれませんが。
融通の効かないキャラとして突出している印象です。シンプルにそこだけを焦点に絞ってシナリオを構成したのでわりと地味っぽい内容に。堅実といってもいいかもしれません。しかし、それでも市民の敵である青空署の人間に説教はものすごく似合わない。言われたくもない感じ。
みなみおねいさんの熱演が全てといっても過言ではないかも。ノリツッコミ部は必聴ものかもしれません。
4、篠原伊月
なんとなく便利なキャラという雰囲気があります。実際にそれほど活用されているわけでもないと思うのですが。ああ、ジェクト操縦に関してはそうでもないか。
その体型ゆえかHシーンはギャグ担当という側面があります。性格的にも担いやすいですわな。
シナリオはインパクトに欠けるように思います。特に玲於奈シナリオの後にやると似通っている分だけ余計に苦しくなるかと。
5、怪盗ロール
キャラそのものの出色の出来にびびりました。「モノごころ、モノむすめ。」より100倍は輝いています。知らなければむしろこちらがデビュー作ではないかというくらいに生き生きと動いているかと。間違いなく「パトベセル」に必要不可欠の存在です。
馬鹿なだけでなく意外と格好良いところも持っているというのが密かなポイント。決める時はそれがシリアスであれ、ギャグであれ、しっかりと決めてくれます。もう登場を思いついた時点で勝ちは決まっていたでしょう。お見事。
ロールと巻子の間で揺れる女心があるのもいい感じです。同一人物だからこそ互いの立場で譲れないものがある。両方とも好きになってくれないと困るんですよ。でも、負けられないけど、って感じで。
6、桃本みつな
絶対、信じて疑っていなかったデスヨ。容姿からしてもまさかサブとはねぇ。信じられない思いでいっぱいでした。キャラ的にはみつなのために買ったようなものでしたから。
立ちCGの制服の前合わせがすごいことに。伊月みたいな格好よりもこちらの方がエロいと思います。というか、影になっていてよくわかりませんが、もしかして隙間からネクタイが見えているんでしょうか?
常識人であるから署長と空にいつもいじられて、市民からの苦情を一手に引き受けるポジションが素敵です。コミケ会場ではサブであることをネタにされる憐れっぷりを披露してくれます。
ファンディスクのないMay-Be SOFTでは永遠に報われる日は来ない気がしますが(ロールみたいなリベンジは無理だろうし)精一杯の声援を贈りたいところ。
空シナリオのみつなはとても格好良かったです。まさかこんな見せ場があるとは思いもしなかっただけに嬉しかったですわ。出番も多いし、サブキャラの中では恵まれてますね。あくまでサブとしては。
7、駿河葉澄
えーと、もうちょっと活躍してもいいんじゃないかなー、とメガネが好きではない自分でも思います。伏せている設定に何の意味もないのが悲しい。
8、野々宮柚子
空がいる分だけ圧倒的に不利。普段、ロリキャラのいないこのチームではそれだけで被っている気さえしてきてしまいます。
9、東十四郎
声がないのが切ない。渋い声の演技をぜひとも聞きたかった。本作のようなエンターテイメント性の高いゲームの時には男性キャラのボイスも考慮して欲しいです。